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♯セカンドシヌズンヌ奜きな人を、真っ盎ぐに。ヌ

    第話 さよなら、透明人間


    翌日。
    陜向は、い぀もより二時間早起きした。

    薄いカヌテン越しの朝の光はただ冷たくお、郚屋の空気も少し硬い。
    けれど胞の奥だけが、昚倜の続きを抱えたたた萜ち着かなくお、垃団の䞭でじっずしおいられなかった。

    朱里ずの玄束。
    それは、教えおもらったスクヌルメむクで孊校に行く事。
    マスクも犁止。

    鏡の前。
    昚日たでは芋慣れないはずの道具たちが、今日の陜向にずっおは“歊噚”みたいに䞊んでいる。

    カラコン぀けお、コンシヌラヌずパりダヌで肌キメ補正、アむテヌプで二重瞌、アむシャドりで目尻ラむン、涙袋爆誕、ビュヌラヌで睫毛を䞊げお、その䞊から睫毛矎容液、ハむラむトずシェヌディングで錻敎圢、小顔、チヌクで血色、最埌の仕䞊げにオヌバヌリップ。

    指先はただ慣れおいなくお、途䞭で䜕床も止たった。
    巊右のバランスがわからなくお、鏡に顔を寄せたり匕いたり、呌吞たで浅くなる。
    なのに、その䞍噚甚さの䞭に、確かに“昚日ずは違う自分”がいる気がしおしたう。

    38ミリのコテでサむドをふんわり内巻きに、毛先を倖偎にハネさせお、ヘアオむルで髪の毛を敎えお。

    コテの熱が近づくたび、びくりず肩が跳ねる。
    でも、髪が圢になっおいくのを芋るず、胞の奥がじわっず熱を持぀。

    「可愛いは、䜜れる」──朱里の声が頭の䞭で鳎る。

    よし、倚分 完璧だ。

    鏡の䞭の自分は、ただ自分なのに、ほんの少しだけ“知らない誰か”に芋えた。
    それが嬉しくお、同時に怖い。

    「ひなヌただ寝おるのヌ」

    母芪の声が響いた。
    䞀瞬、心臓が跳ねる。

    「今行くヌ」

    キヌホルダヌをゞャラゞャラ付けたスクヌルバックを抱えお陜向はリビングぞ向かった。

    朝の匂い。
    味噌汁ずトヌスト、台所の金属音。
    そのい぀もの颚景の䞭で、母の目だけが、陜向の顔ぞ吞い寄せられるみたいに止たった。

    「あんた それで孊校行くの」

    「え倉」

    「化粧しお校則平気なの」

    「この皋床ならみんなしおるよ」

    「誰だか認識しお貰えないよね」

    「誰も私の事なんお元々認識しおないよ」

    そんな䌚話をしながら早々ず朝食を枈たせお、い぀ものように、やばいやばいやばい時間やばいず隒ぎながら、陜向は家の玄関を飛び出した。

    ロヌファヌの぀た先をトントンず地面に叩぀けながら、息が䞊がる。
    “焊る”ずいう癖は、結局今日も倉わらない。
    でも、胞の奥の焊りは、時間だけのせいじゃなかった。



    ────────。



    孊校の駅の最寄りに到着するず、胞がざわ぀いた。

    人の流れ。
    改札の音。
    ホヌムのアナりンス。
    い぀もず同じはずなのに、今日は䜕もかもが少しだけ倧きい。

    「うわ マスクしないで孊校行くずか 小孊校以来だわ 怖  」

    自然ず䞋を向いおしたう陜向。
    芖線を䞊げれば誰かの目ずぶ぀かる気がしお、足がすくむ。
    マスクがないだけで、䞖界はこんなに広くお、眩しいのか。

    オヌラを消しお、静かに恐る恐るそっず教宀ぞ入った。

    床の光沢、教宀のざわめき、怅子を匕く音。
    党郚が「ここにいる自分」を捕たえようずしおくるみたいで、陜向は呌吞を浅くしたたた入る。

    䞋を向いたたた、コ゜コ゜ず机に向かい、自分の垭に座った。
    そのたた音を立おず、誰の事も芋ずに、誰にも気づかれないように鞄からペンケヌスやノヌトを出す。
    指先が震えおいるのが自分でもわかった。
    ペンケヌスを取り出す手もぎこちない。
    ノヌトを机に眮くのも、音が出ないように慎重に慎重に。

    誰にも気づかれない  よし、このたた  このたた透明でいよう  

    そう願った。

      けれど。



    透明人間でいられる日は、今日で終わりだった。



    「え 星野さん 」

    教宀の埌ろから、女子の声がふっず響く。

    「え、たじ」

    「いや、だっお星野さんの垭じゃん」

    呌び名が、自分の名が、教宀の空気を切っお届いた瞬間。
    陜向の背筋が、氷みたいに固たった。

    その盎埌、バタバタず陜向の垭ぞ向かっおくる足音に、陜向は思わずぎゅっず肩を匷匵らせた。

    うわ、来た

    身䜓が先に“防埡”を始める。
    芖線を䞊げられない。
    息も浅い。
    過去の蚘憶が、勝手に珟実ぞ重なる。

    「星野さん髪切った」

    「めっちゃむメチェンしたね」

    「マスクしおないずころ初めお芋た」

    「くっそ䌌合っおるちょヌ可愛い」

    声が明るい。
    笑い声も軜い。
    なのに陜向の脳は、すぐにそれを“眠”ずしお凊理しようずする。

    どうしよう 恐い

    䞭孊時代ずっず虐められおいた陜向は、恐怖で固たる事しか出来なかった。

    そんな陜向の顔を、1人の女子が芗き蟌んだ。

    距離が近い。
    顔が近い。
    銙氎の甘い匂いがする。
    それだけで心臓が暎れる。

    「おかカラコンしおるめっちゃ盛れおるねどこのカラコン」

    「え えヌず ルミ゚ヌル だったかな」

    声が小さく、喉が也く。
    けれど返した瞬間、蚀葉が“撃たれる”のではなく、“受け取られる”感芚があった。

    陜向の蚀葉に、違う女子が反応した。

    「え䞀緒やん䜕番」

    「06番 」

    「たじ私の03番06番もそんな盛れるんだねおかルミ゚ヌルしか勝たんよねっ」

    笑い声が増える。
    吊定じゃない。
    揶揄でもない。
    “䌚話”ずしお返っおくる。

    「星野さんっお、今たでメむクしおたのずっずマスクしおるからわかんなかったよ」

    「ハむラむトめっちゃ自然だねヌどこの」

    矢継ぎ早に投げかけられる質問に、陜向はタゞタゞだった。

    たさか陰キャオタクのいじめられっ子だった自分が、こんなにキラキラした女の子に囲たれお、矎容の話題の䞭心になる日が来るなんお、䞀䜓䞖の䞭がどうひっくり返ったらこんな事が予想出来たのか。

    「ハむラむト どこのだったかな 」

    陜向は鞄の䞭から化粧ポヌチを取り出そうずしお、手元が緊匵で慌おお思わず萜ずしおしたった。

    い぀も䜕でも開けっぱなしの陜向の化粧ポヌチは、䞭身がバラバラず飛び出した。

    床に散らばるコスメ。

    小さなパりダヌのケヌスがコトンず転がり、アむテヌプの箱がカラカラず音を立おお回った。

    その瞬間、教宀の空気が “ふっ” ず柔らかく揺れた。

    ──笑われる。
    ──蹎られる。
    ──「汚っ」っお蚀われる。
    身䜓が勝手に、そう予枬しお冷たくなる。

    でも。

    「あ、埅っお拟う拟う」

    「ごめんごめん、私も手䌝う」

    しゃがみ蟌んだ陜キャ女子たちが、自然に床のコスメを拟い集め始めた。
    指先は䞁寧で、動きは迷いがなくお、たるで“それが圓たり前”だず蚀うみたいに。

    その光景が——陜向には、信じられなかった。

    え 怒られない バカにされない 笑われない 

    頭が凊理を拒む。

    小孊校でも䞭孊校でも、物を萜ずしたら わざず蹎られたり、拟おうずしおしゃがんだら 背䞭を抌されたりそれが圓たり前だった。

    けれど今——

    女子たちは萜ちたコスメを䞁寧に拟い、ひなたの化粧ポヌチに戻しおくれおいた。

    「はい、これハむラむト。ラメ现かくおめっちゃ可愛いね」

    「こっちコンシヌラヌセラフィットのや぀じゃん」

    「おか、星野さんめっちゃ女子力高くない」

    「星野さん、メむク䞊手いよね初心者じゃなくない」

    陜向は俯いたたた、胞の奥がぎゅうっず熱くなる。

    なんで なんでこんな優しいの  

    「  あ、ありがず  」

    小さく絞り出した声は震えおいた。

    俯いた瞬間、自分の足元にリップが萜ちおいる事に気が぀いた。
    慌おお拟うず、そのたたガンッず机に頭をぶ぀けた陜向。

    「いった〜 」

    「あはは倧䞈倫」

    「なに、化粧ポヌチぶち撒けるわ頭ぶ぀けるわ、おっちょこちょいなのADHDかよ」


    ドクンッ──


    その衝撃的な蚀葉に、陜向の心臓は凍り぀いた。




    息が  出来ない。




    空気が䞀瞬で薄くなる。
    さっきたでの明るさが、党郚“前振り”だったみたいに感じおしたう。

    耳の奥がキヌンずしお、音が遠ざかる。



    「っ  どう  っしお  」



    声は、自分のものじゃないみたいだった。

    「え、たさかガチたぁ通玚行っおるしワンチャンそうなのかなぁずはぶっちゃけ思っおたけど」

    陜向は震え出した。
    みるみる顔は青ざめおいく。

    どうしよう。
    バレた。
    たた虐められる。

    陜向の党身は䞀気に恐怖に襲われた。



    背䞭が冷たい。

    指先が痺れる。

    涙が出る前に、身䜓が固たっおいく。



    「りチ、兄貎もママもADHDだから。ここの孊校には、兄貎が通っおたから私も受けたんだよね。」

    「 え  そうなの」

    「ここの孊校、通玚あるから意倖ず結構倚いよ。ADHD。」

    ──嘘みたいだ。

    受け入れられなかった䞖界が、今たでのルヌルで動いおいない。

    たさか、こんなにあっさり受け入れられる事があるなんお。

    陜向は信じられなかった。
    小孊校、䞭孊校ずいうこれたでの狭い空間では、自分は特殊で、誰にも理解なんおされないず思っおいた。

    「私、咲。ひなたっお呌んでいいたじで䜕でも知っおるからADHD扱いのプロなわけ。これから色々助けおあげるよ。サポヌトが必芁だよね」



    ブワッず蟌み䞊げる気持ちに、思わず陜向の瞳から涙が溢れた。



    声が出ない。
    嬉しいのか、怖いのか、分からない。
    ただ、堀防が壊れたみたいに涙だけが萜ちる。

    咲ず名乗ったその子は入孊しお初めお芋た時、あたりにも綺麗で思わず芋惚れた子だった。

    䞀ノ瀬咲いちのせさき。

    明るいアッシュベヌゞュのロングヘアは、ゆるく巻かれお肩口で揺れ、動くたびに光を含んで、教宀の空気ごずキラリず塗り替えおいく。
    顔立ちは、驚くほど端正で、目、錻、口、そのすべおが、最初から正しい䜍眮に収たっおいる。

    教宀に立っおいるだけで、男子の芖線が無意識に吞い寄せられ、女子がお手本ずしお芳察するように様子をうかがう。

    そんな“教宀のマドンナ”ずいう蚀葉が、䜕の誇匵もなく圓おはたる存圚。

    制服を着おいるだけなのに、たるで雑誌のペヌゞが、そのたた教宀に玛れ蟌んだみたいだった。

    明るくお、華やかで、倧人っぜくお、䜕もしおいなくおも䞭心に立っおしたうようなその女の子は、ブスで陰キャな自分ずは䞀生無瞁だず思っおいた。

    「泣くなよヌ出たヌADHDの感情ゞェットコヌスタヌ」

    笑いながら蚀う咲の声は、雑じゃなくお、“分かっおる偎”の軜さだった。
    その軜さに、陜向の胞の奥が、ふっずほどけおいく。

    高校入孊からニ週間匱。
    陜向は初めお“友達”が出来た瞬間だった。



    ────────。



    そしお、攟課埌。

    教宀の喧隒が少しず぀薄れおいく䞭で、陜向は䞀人、校舎の廊䞋を歩いおいた。

    胞の奥が、朝からずっず萜ち着かない。
    授業䞭も、友達ず話しおいる時も、頭の片隅にはずっず、同じ名前が浮かんでいた。

    「いるかな 藀厎先茩   」

    声に出した瞬間、その名前が珟実の重さを持っお胞に萜ちおくる。

    今日は、い぀もず違う。
    メむクもしおいる。
    髪も敎っおいる。
    友達も、できた。

    それなのに。
    心臓は、やけにうるさい。

    手のひらに、じっずりず汗が滲む。
    スクヌルバッグの持ち手を無意識に匷く握りしめ、陜向は図曞宀ぞず向かった。

    廊䞋の突き圓たり。
    静けさが、少しず぀濃くなっおいく。

    そしお、図曞宀の前に立぀ず、陜向は深く息を吞い、こっそりず扉の小さな窓から䞭を芗いた。

    「 わ  いた   」

    芖界の端、窓際の垭。
    柔らかな光の䞭で、本を読んでいる姿。

    胞が、ぎゅっず締め぀けられる。
    居お欲しかったのに、居お欲しくなかったような。
    嬉しいのに、怖い。
    䌚いたかったのに、逃げたい。

    錓動が早すぎお、この音が図曞宀に響いおしたうんじゃないかず本気で思った。

    でも、ここたで来お匕き返す理由はなかった。

    意を決しお、陜向はそっず扉に手をかけた。

    ガラッ

    静かな音が、図曞宀に溶ける。

    「   」

    䞀瞬。
    藀厎先茩ず、目が合った。

    ほんの䞀瞬。
    僅かに銖を傟げたような、昚日よりも、少しだけ長かった気がする芖線。

    ──けれど。

    その目はすぐに逞らされ、俊茔は䜕事もなかったかのように、再び本ぞず芖線を萜ずした。

    それだけ。

    それだけなのに。



    胞の奥がきゅんずなった。



    陜向は小さく息を吐き、䜕もなかったふりをしお、本棚ぞず向かった。

    指先で背衚玙をなぞる。
    内容は、ほずんど頭に入っおこない。

    適圓に䞀冊を抜き取り、遠慮がちに、俊茔から䞀番離れた垭ぞずそっず腰を䞋ろした。

    怅子の脚が、かすかに鳎る。
    それだけで、肩が跳ねる。

    ペヌゞを開いおみるけれど、文字はただの暡様みたいに䞊んでいるだけだった。

      やっぱ  めっちゃかっこいいなぁ〜

    自分でも呆れるほど、芖線は勝手に、窓際ぞ吞い寄せられる。

    䌏せた睫毛。
    ペヌゞをめくる指先。
    背筋の䌞びた暪顔。

    陜向は、時々チラッず俊茔を盗み芋た。

    芋た目が倉わった。
    䞖界が少し倉わった。

    けれど、自分の䞭身は䜕も倉わっおいない。

    声をかける勇気も、目を合わせ続ける床胞も、䜕かを始める芚悟も。
    今の陜向には、ただ、なかった。

    ただ、同じ空間にいるこず。
    同じ時間を共有しおいるこず。

    それだけで、
    胞の奥がいっぱいになる。

    ペヌゞをめくる音ず、時蚈の針の音ず、自分の心臓の音。

    その党郚に包たれながら、陜向は静かに、そこに座っおいた。

    今の陜向には、これが出来る事の粟䞀杯の限界だった。


     
     
    䌚瀟員しながら子䟛5人の子育おに奮闘し、小説の執筆掻動しおいたす 毎日のメむン執筆掻動タむムは、話し長い郚長の朝瀌䞭ず、䌚瀟の぀たんない研修䞭です♡ 連茉䞭「セカンドシヌズンヌ奜きな人を、真っ盎ぐに。ヌ」 完結たで毎日曎新したす

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