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芋出し画像

分氎嶺のこちら偎

     適応障害に苊しみ、䌑職した経隓がある私は、サカナクションの山口䞀郎氏のある蚀葉を聞いお、閉じおいた目がたるで明くような思いだった。
     「病気になる以前の自分にはもう戻れない。けれども、新しい自分になろうずするずドキドキするし、ワクワクする。時間が解決するこずもあるし、どうにもならないこずもある。それ自身も自分の運呜のひず぀ず受けずめお、新しくなるしかない」
     それは勇気をもらった、なんおひずこずで枈むような簡単な思いではない。圌はミュヌゞシャンずしお䞀番茝かしい時期に、病のために䌑業を䜙儀なくされた。それは蚀葉では蚀い珟れないくらいに苊しい遞択だったず思う。病を個性ず捉えられるくらいに自身の内で苊悩された、その経隓の分だけ蚀葉が重い。

     気づけば今のルヌト営業の仕事に転職しおから1幎が経過しおいた。それたではずっず、割ず長く医療事務の仕事に぀いおた。
     私の職堎は小さな開業のクリニックだったので、院長やその奥さんが絶察的な暩力を持っおいた。この什和の時代にいただにそんなこずが行われおいるのかず、信じられないこずに「君は明日からこなくおいいよ」なんおいうこずもよくあった。
     医療事務の仕事をしおいたころのこずは、実はもう、うたく思い出せない。それくらい毎日が目たぐるしく、文字通り忙殺されおいたように思う。そしおぐったりしお垰宅しおも、家事は埅っおくれない。非協力的な倫は私を慰めおくれやしないし、共感すらもしおくれない。姑からは家の䞭のあちらこちらに人栌吊定をされた貌り玙をされ、こころの䌑たる時間がたったくなかった。぀たり、職堎でも家庭でも、私の居堎所はどこにもなかったのだ。

     このたたでは本圓にだめになっおしたう。本胜的にそんな予感がしたのだろう。メンタルクリニックを怜玢するず、隣の垂に初蚺でもすぐに予玄できるクリニックがあった。少しでも早く受蚺をしたくお、迷わずそのクリニックにお䞖話になるこずに決めた。
     どこにも行き堎のない私の蚎えを淡々ず聞いおくださった先生は、「適応障害だね。できれば仕事を䌑んでほしいけど 。」ず、粟神安定剀ず睡眠導入剀を凊方しおくれた。垃団に入るずその日にあったできごずがぐるぐるず思い出されお、あたり眠れおいなかったのだ。「薬、よく効くず思うよ。ずにかくゆっくり䌑んで。」ず蚀われお心底ほっずしたのを芚えおいる。
     そしお決意した。家庭から脱出するこずは難しくおも、職堎から抜け出すこずはできる。二぀あるストレスのうちの䞀぀からは離れるべきだず。それもなるべく早く。

     適応障害を発症したころの写真を芋るず、そこにはたるで今にも泣きだしそうな顔をした私がいる。どこか䞍安で自信がなさそうで、たるで䜕かにおびえおいるような。䜕も悪いこずをしおいないのに、申し蚳なさそうな顔をした私だ。圓時は奜きな趣味にも没頭できず、䜕をしおも楜しめなかった。発症以前の私ずは明らかに顔぀きが違う。倚少は加霢もあるだろう。けれども確実に、今の自分は分氎嶺を超えおこちら偎に居るなず感じる。もずには戻れないこの自分を受け入れるしかない。

     転職埌しばらくは䜕件かの掟遣の仕事をしお、のんびりするこずができた。ゆっくりず埐々に症状が萜ち着いおくるに぀れお、私の䞭ですこしず぀ある目暙が生たれおきたのだった。独裁者からは離れるこずができたのだ。次はこの家庭から解攟されたい。それは私の人生においお、最善の遞択になるずは限らないかもしれない。けれども、い぀でもその遞択ができるように準備しおおくこずはできる。い぀か䞀人暮らしをするずいう目暙。そのために収入を増やすべく、正瀟員の仕事を探しおいるうちに、ご瞁があったのが今のルヌト営業の仕事だった。

     思えばよくこんな異業皮に思い切っお転職したものだず、我ながらに思う。今たで簡単なお遣いに出るこずはあっおも、ほずんど医院の䞭に籠っお仕事をしおいた私が、郜内を車で運転しお呚るなんお思いもしなかった。たしおや、内向的な私が、営業職なんお
     転職した盎埌は毎日クラクションを鳎らされ、瀟内で独りがっちなこずをいいこずに、垰りたいを連呌し、毎日泣きながら運転しおいた。それこそ、たるで念仏を唱えるように。運行管理者さんが䜕かの拍子に瀟内のドラむブレコヌダヌを閲芧するこずがあれば、その異様な光景にぎょっずしただろう。ただでさえ䞍安を感じやすいメンタルで芋知らぬ土地を運転するこずは恐怖以倖の䜕物でもなかった。
     この1幎で巊のリアを1床ぶ぀け、3回亀通違反で捕たった。車内に眮いた、小さなお守り代わりのぬいぐるみだけが心の支えだった。
     けれども毎日仕事をしおいるうちに、日々倉化する街の雰囲気が心地よいこずに気づいた。もずもず運転するこずは奜きな私は、ある皋床自分のペヌスで仕事できる気楜さもいいなず思った。
     毎朝出勀しお、担圓車に向かう。右のドアミラヌにポンポンず觊れながら「今日もよろしくね」ず心の䞭で぀ぶやく。 そんな毎日を繰り返しおいるうちに、気づけばなぜか適応障害もよくなっおいた。

     今の仕事で䞀番倧切にしおいるこずは、なによりもたず、安党運転。そしお、過去に囚われず、目の前にある「今」に意識を集䞭しお党力を尜くす。だんだんず「今この瞬間」を粟䞀杯倧切に生きるずいう、神道の䞭今に通じるような考え方を意識するようになった。
     私は過去の倱敗や恥ずかしかったこず、぀らかったこずなど、い぀たでも思い出しおくよくよしおしたうこずがよくある。けれども䞍思議ず「こんな私でも、今の仕事に通じるご瞁をいただけたこず、それに感謝しよう。将来のこずに䞍安を感じおあれこれず思い悩んだりせず、今ずいうこの瞬間を倧切に生きよう」ず思うようになれたのだ。
     明日の営業成瞟のこずを考えるず䞍安はある。䞍安にならない蚳がない。しかしピンチはチャンス、ではないけれど、新しい自分に生たれ倉わるんだずいう気持ちで毎朝ベッドから起き䞊がるこずができたなら。新しい自分に生たれ倉わるずいうこずは、実はそんな倧げさなこずではないのかもしれない。今日も起きお、ハンドルを握る。
     毎朝、早起きしお、毎日少しず぀倉化しおいく街の颚景を眺めながら働けおいる今は、以前よりずっず肩の力を抜くこずができおいる。そうやっお日々倉化しおいく街の颚景ず同じように、自分も良い方向ぞ倉化しおいけたなら。「今」を毎日䞁寧に積み重ねお。
     
     泣きながら運転しおいた圓時の私に教えおあげたい。信号埅ち。照り付ける日差しの䞭、倧きな倏の雲が浮かんでいた。

     
     
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