
【小説】第一章|セカイの世界|〜ようこそ死希総合センターへ。〜1/3
あらすじ
物語は総合病院から始まる。一枚のポスターを目にした女性は怒りと共に覚悟が決まった。
と言うのもポスターには
「死希総合センター開設。死をご希望の方は当センターまで」
と書かれていたからだ。実は最近“死”を考えていた女性は導かれるように掲示されていた通りの方法でその場所へ行く事にした。
現れたドアの中へ入ると30代ぐらいの男性が迎えてくれ、“セカイ”と名乗った。女性の事は“ノゾム様”と呼び“希望”を叶えると言う。
半信半疑ではあったが現状から解放されたい気持ちから受付をしたがそれは99日後だと言われる。
この間に起こる数々の変化が女性の運命を左右していく。
死希総合センターとは…セカイは一体何者なのか…何が目的なのか。そしてこの女性の“希望”は本当に叶えられるのか……
新たな“世界”の物語がここから始まろうとしている。
ご挨拶
死希総合センターでセンター長をしております、闇内セカイと申します。
文字通り“死を希望する”方を受け付けております。
人間には様々な感情があります。悩みも多いでしょう。もしくは自分ではなく他の誰かに対して…なんて事も有り得るでしょう。いかなる内容でも構いません。
当センターへのアクセス方法は死を望まれる方のみ知る事が出来ます。
当方はあらゆる場所へ宣伝、掲示等しておりますが…出会えた方はラッキーですね。
さぁ、あなたの世界を変えるのはあなた自身……
第一話:天
『あの…すみません…
死を……希望したいのですが………』
✴︎
天
_____________.。☽
ここはとある総合病院の中。
通院中の私はふと掲示板のポスターに目が止まった。
“死希総合センター 開設”
〜死をご希望の方は当センターまで〜
病院にこんなポスターを貼るなんてどんな神経しているんだ。
生きる為に病院に来るのに死を希望?馬鹿げている!
治療するな、死を選べと?病人に対してどんな配慮だ!
隣にいた老夫婦も掲示板を見ている。
『ここにこんなポスター貼ってどう思います!?』
つい怒りのままに話しかけてしまった。
老夫婦は
「ん?お〜ミニコンサートですか〜病院で音楽を聴けるなんて気分転換になってよろしいですね〜」
「お父さん、この日ちょうど診察があるんで行ってみましょうか」
「そうだね。お姉さん、どうも教えてくれてありがとね」
そう言って老夫婦は楽しそうに話しながら立ち去っていった。
いやいやこのポスターの事を言ったのに。と思い掲示板を見てみると
“今週金曜日 午後2時から 1階でミニコンサート開催!”
確かに貼っていたはずなのに…
見間違いか?
いや、
もう……色々と疲れてきているのだろう…
今日も診察だった。あのポスターを見た日から二週間経った。
今日は本当に最悪だった。検査の結果も良くなっていない。こんなに治療を続けているのに検査ばかりで体力もメンタルも奪われる。
『薬もちゃんと飲んでる、食事にも気をつけてる、自分でやれる事はやってるのに何でこんなに良くならないんですか?検査をやっても何も変わらないしもうどうすれば良いんですか!?』
主治医に感情的になってしまった。
主治医はこう言った。
「そんなに検査が嫌なら辞めますか?良いですよ、こちらは。薬飲んで治ったら医者いりませんからねー。まぁ50歳ぐらいにもなったら誰でも病気しますしもっと若い方でももっと重症な人もいますからね。運が悪かったとでも思った方が早いんじゃないんですか?でも50歳まで生きられたんだから良かった事にしましょうよ!ポジティブに考えましょうよ!」
絶句した。
違う。そんな言葉を求めてるんじゃない。そんな事は分かってる。私は誰かと比較されないとダメなのか?私の苦しみは大した事ないのか。
診察室から飛び出した。
もう無理だ…希望がない。どうせ終わるんだ。もう…どうでも良い!
気がつくと二週間前に見た掲示板の前にいた。
“死希総合センター 開設”
〜死をご希望の方は当センターまで〜
やっぱりあった。
このまま行こう。これも何かの縁かもしれない。
ポスターには行き方が書いてある。
『非常階段で4.4階まで…?
5階に上がる一段手前で4秒止まる…?』
馬鹿げてる。全てが馬鹿げている。
まぁ…死ぬ前にはちょうど良いのかも。何が起こってもどうせ死ぬんだから。
ポスター通りに行ってみる事にした。
『5階に着く一段手前で4秒立ち止まる…』
特に何も変わらないではないか。やっぱり馬鹿げてる。
階段なんて何年振りだろうか…ゆっくり上がって来たはずなのに息切れしてる。
『馬鹿げてる…』
5階からエレベーターで帰ろうと、最後の一段を上がると目の前に曇りガラスの自動ドアが現れた。
『あれ?エレベーターは非常階段の扉の外にあるはずなのに…』
あ、そうか。この扉の向こうにエレベーターホールか?
…いや待てよ。もしかしてこれが…?
看板らしきものも何もないけど…
でももしかしたら……
自動ドアのボタンを押してみた
「こんにちは。どうぞお入り下さい」
『あの…すみません…
死を……希望したいのですが………』
「お越し頂きありがとうございます。お部屋準備致しますね。少々お待ちください」
そう言って席から立った男性は右側の部屋の中へ入っていった。
30代ぐらいの背の高い男性、黒髪で色白、スーツを着ていて清楚な感じがした。
周りを見渡してみると先程声を掛けてくれた男性の後方にはパソコンが一台。その右側と左側には女性が仕事をしている。
かなり広い場所で人数の割には机が多い。
机の数程他にも人がいるのだろうか、ここから見える限り2人の距離は机5、6個分ぐらいだろうか、1人あたり何個机を使っているのだろうか。
そこまでして忙しそうには見えないし、私以外に患者らしき人もいない。左右の女性の後ろの壁は一面棚になっていて、棚の中はファイルがきちんと整頓されている。
ふと左側に座ってる女性を見てみるとパソコンの画面の縁に小鳥が止まっている。白くて小さな小鳥だが周りには鳥かごの様なものは置いていない。
ぬいぐるみなのか?
いや、動いている。女性から餌を貰っている。ここで飼われているのかたまたま飛んで来た鳥なのか…
初めてあのポスターを見て以来考える事が多くなった。
医師から病気を伝えられ治療を始めて1年とちょっと。特に体調が良くなる事もなく薬のせいか食欲も体力も気力も落ちて来た。
このまま苦しい治療をしながら生きていく事に意味なんてあるのだろうか…
勤めていた会社に病気の事を伝えると退職を選ぶように言われた。無理に仕事を続けるよりかは治療に専念してほしいと言われたが物は言いよう。病院代もかかるし仕事は辞めたくなかった。でも若い派遣を雇った方が仕事的にも会社的にも都合が良いと言われた。そこまでハッキリと言わなくても私だって人並みに傷付くんだ。
これからお金もかかるのに仕事は失い病気だけが残った。楽しみすら消えてしまった。死んでしまった方が楽ではないのか。
ただこの国では安楽死は認められていない。治療を辞めれば死ぬかもしれないが少しの望みを期待している。
いや、期待じゃない。これだけ辛い思いをしているのだから報われても良いのではないか。
でもこんな事を考えるぐらいなら死んだ方がましなのか…
私が死んでも夫には愛犬がいる。きっと大丈夫だろう。
考えていたら右側に座っていた女性が私の横にいた。
「すみません、お待たせしておりまして」
全く気配もなかったので驚いた。
話しかけて来た女性もスーツを着ていて肌が白くとても目が大きな可愛らしい女性だった。
『あ、いえ…』
「よろしければ後ろに自販機があります。お金は不要ですのでお好きな物を選んで頂いてあちらのお部屋へどうぞ」
話し方も丁寧で笑顔がとても可愛くここの職場は接客を凄く丁寧に研修しているのだろうと思った。
後ろを振り返ってみると自動販売機が1台あった。
受付から入った時は見えなかったのかカップタイプの物やペットボトル、缶やビン、お菓子、軽食のようなパンやおにぎりもある。今時の自販機はこんなに品揃えがあるのかと思った。
お金は不要と言われたがよく見てみると確かに全てのボタンが光っている。
商品があり過ぎて結局ペットボトルのミネラルウォーターを選んでしまった。
そうしているとドアから先程の男性が中に入る様案内してくれた。
無意識に机と椅子が置いてある殺風景な部屋と思い込んでいたが、中に入ってみると驚きのあまり立ち止まり、周りを見渡してしまった。
部屋に入ろうとした瞬間は真っ白な部屋だと思ったが一歩足を踏み入れたら、壁紙が草原になり花が咲いている風景に変わった。鳥も飛んでいるし犬は走り回りヤギや牛も動いたり牧草を食べていて穏やかな雰囲気だ。
何かの映像でも映しているのかと天井を見てみたが特に変わった道具も付いていない。
きっと壁がテレビの様になっているのだろうと思った。
足元を見てみると雲の上にいるかのようでただ白い床ではなく奥行きがあって雲の隙間から青い空のような青色が見える。
山の頂上にでもいるような感じだ。
目の前にはふかふかなソファーが2列向かい合わさっている。
少し物が置けそうな小さなテーブルもある。想像していた部屋とはだいぶ違ったのでまずは何から話して良いのか分からなくなった。
小さなテーブルには湯気の立っているお茶が置かれている。
「よろしければどうぞ」
背の高い男性はにこやかに言った。
『あ、どうも…』
ソファーに座り手を伸ばそうとしたら自分の手にはペットボトルの水があった。
ふと我に返った。
そうだ。さっき自販機で水を選んだんだった。あまりにも見慣れない風景を見過ぎて頭が追いつかない。
そんな時
「だーかーらー出されたら飲まないとってなるしー初めての場所で飲み物出されたら怖くて飲めないって言ってるでしょ!」
さっき自販機を案内してくれた女性だ。
背の高い男性に言っている。
同年代のように見える。仲良しそうだな。
「あ、そっか。でもこの前買ったお茶ですんごい美味しいんだけどな…」
「すみません、ノゾム様。お気になさらずにそちらテーブルの上に置いたままで大丈夫ですので。それでは私は失礼致します。」
そう言って女性は部屋の外へ出ていった。
目の前ではちょっと悲しそうな顔をした男性が書類を整えている。
『せっかくなので頂きます。』
久々に言葉を発した気がした。
「…毒など入っておりませんので」
飲もうとした手が止まった。
入り口に入る前の自分に戻ったような気がした。
そうだ。私は死にたいと思ってここに来たんだった。確かにこのお茶に毒でも入っていたら私は死ぬんだ………死ねる……死んでしまう…
今はなんだか穏やかな気分なのにこのまま死ぬのか…
持っていた湯呑みをテーブルに戻した。
あんなに死にたいと思っていたのに…この人が毒を入れるような人にも見えないのに…
冗談でも初対面に言うだろうか…
いや、ここは…
気持ちがだんだんぐちゃぐちゃになってきた。
「冗談ですよ。近くのお茶屋さんで購入した玄米茶です。
お茶って色々種類あるんですね。僕は今玄米茶にハマってて。でもケーキを食べる時は麦茶なんですよね。あ、喋り過ぎました。
まぁ確かに初めて来た場所で死を決意されてる所に飲み物を出されたら疑ってしまいますよね。大変失礼致しました、ノゾム様。」
『あ、あの…ノゾム様って…?』
「あ、まだ説明も何もしてませんでしたね。お茶の話ばっかりで…笑」
ずっと微笑みながら話す男性はイケメンで惚れ惚れするぐらいだった。
「死希科では死を望む方が来られますので、“望む”からノゾム様とお呼びしております。」
『あ、なるほど…』
だんだん“死”と言う言葉を聞いて自分がここに来た理由が思い出されて来た。
「そして私が死希総合センターのセンター長をしております、音内セカイと申します。通称名は死希科。ノゾム様を最期までサポートさせて頂きます。」
『あ…よろしくお願いします…』
セカイ「それでは書類をお渡し致します」
A4の用紙数枚を受け取った。
1枚目“ノゾム様の情報”
2枚目“死望動機”
3枚目“期限までにやること”
4枚目“遺言”
セカイ「予備を含み10枚程お渡ししております。ノゾム様の情報をお書き下さい。
そして一週間後、書き終えた状態で再度お持ち下さい。それから今後の説明等をさせて頂きます。」
『今日はこれだけ…?』
セカイ「そうですね。お時間取らせてしまいました。本日はこれでお帰り頂いて大丈夫でございます。」
いやいや、死にたい人が来ているのに一週間後にまた来い?普通今日明日ぐらいとか何かもっと聞いてくるとか…
セカイ「あ、何かご質問等ございますか?」
にこやかに話しかけてくる。
色々聞きたい事も不思議な事も山程ある。でもどれから話して良いのか分からない。それぐらい混乱してしまっている。
セカイ「もしかして……思っていたのと違いましたか?」
『え?』
セカイ「例えば……なぜ一週間後にまた来るのかとかそもそもこの場所が何なのか…でしょうか」
またにこやかに話す彼を見て自分の心を読まれているのかと思った。
『色々あるんですが頭が追いついてなくて…あまりにも現実離れした場所と言うか…そもそも病院に死希科なんて普通じゃないと言うか…』
セカイ「普通…でございますか……。確かにそうですよね。まぁ簡単に説明しますと、一週間後と申しましたのは、お渡しした書類にもあるように最期の日まで悔いのない様に過ごす為に今一度考えて頂きたいからです。こちらもノゾム様の事が分からないままではサポート出来かねますので。」
『もし私が明日にでも死にたいと言ったら?』
セカイ「じゃあここには来られてませんよね?」
今までのにこやかな表情が変わった。
セカイ「ノゾム様の事はまだ今の段階で分かりかねますが、恐らくかなり迷われたり悩んだりされてきましたよね?希望通りにならない苦しみや病院にこんな場所を作るなんてと怒りもありましたでしょう。それでも来てみようと思われた。軽い気持ちで“死にたい”とは思っていないでしょう。旦那様やワンちゃんの事もありますし。自分ではどうすれば良いか分からないから半信半疑でも何かにすがりたい。と言う所からポスターを見て、来て頂いたんですよね?」
涙が溢れた。
自分の気持ちを分かってくれて嬉しい気持ちとまるでここに来るまでを知られていたかのような驚きが入り混じっていた。主治医でさえも分かってくれなかったのに…
セカイ「私どもはノゾム様のご意志であれば受付させて頂きます。でもこちらから薦める事も致しません。選択は全てノゾム様自身です。一週間後に気持ちが変わっても構いません。今のままやっぱりと言う事であればそれはそれで精一杯サポート致します。」
『はい…』
セカイ「お渡しした書類を元に後一週間もう少し具体的に考えて頂けますでしょうか?」
少し今までモヤモヤしていた気持ちが落ち着いてきた気がした。
『はい。』
セカイ「それではまた一週間後によろしくお願い致します。」
死希科から出ると目の前は病院の外だった。
4.4階だったはずなのに…いやそもそも病院の中にいたんだが…
もう全てが不思議過ぎて訳が分からない。
でも一つだけ、確実に分かる事は私の手にはペットボトルの水があると言う事だ。

天