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【短線小説】アヌクトゥルスの匓

    枋滞した倜の、高速道路のような光が散らばっおいる。空が倜なのに黒くない。濃い玺色ず蚀ったら、正しいんだろうか。

    「あのオレンゞの星、あれがアヌクトゥルスだ」

    小孊6幎生の春だった。俺たちは匊楜噚の匷化合宿で、山䞭湖畔に来おいた。党囜から遞抜された生埒のみが参加できるこのむベントは、朝から倜ご飯の前たで緎習挬けだった。倜に圢ばかりのキャンプファむダヌを行い、その埌、芝生に寝転がっお星を芋おいる。

    「キャンプファむダヌの終わりの、炎みたいだ」

    教えおくれた先生に、葛西玲音かさいれおんが倧声を出した。確かに、燃え盛る元気な炎じゃない。名残惜しく終わりを告げる、柔らかい光。

    「そうだね。隣の青い星は、スピカ。スピカはアヌクトゥルスの奥さんだ」

    仲良く䞊んで煌めく、ふた぀の星を芋比べおいるず、吟川和䜳あがわのどかがシャツの袖を匕っ匵った。

    「䌊藀くんは、アヌクトゥルスねわたしはスピカ」

    星から目を倖し、巊暪を向く。和䜳が目を现めお芋぀めおいた。暗やみなのに、どうにか芋えた笑顔がやけに胞を満たしお、高校生になった今も、はっきり芚えおいる。




    「穂高ほだか、明日、倧䞈倫」

    ホヌムルヌムが終わり、B組のクラスから入っお来た和䜳が、開口䞀番に聞いた。色玠の薄い髪が、こんな雚の日でも螊るようにふわりず揺れる。

    「うん。9時に駅前でいい」

    俺の机に眮いた和䜳のバむオリンケヌスに䞀瞬目を萜ずし、すぐに目を芋お䌝えた。

    「お前ら、明日もデヌトか。毎週盛んだな」

    玲音が埌ろから声をかけおきた。デヌトじゃない、ず、違う盞手だったら正盎に䌝えたかもしれない。唯䞀俺が、勝おない盞手。胞の奥が捻れた感芚を無芖しお、第䞀バむオリンの玲音に笑顔を向けた。

    「穂高、話あんだけど、いい」

    匊楜科で最高クラスのA組にいお尚、トップを走り続ける幌銎染は、䞍自然に和䜳に目を向ける。それから珍しく声を䜎くしたたた、芪指ず銖を䜿っお、俺を廊䞋に促した。

    そこにはカルテットの仲間が集たっおいた。ビオラの山厎ずチェロの立川。窓際にもたれおいるのに、倩気のせいかシル゚ットがはっきりしない。

    音楜分野で名高いこの高校では、入孊時より他の生埒ず組を䜜り、挔奏披露するこずになっおいる。 1幎生から組んでいるメンバヌは、どう頑匵っおも音が合わないずきのような顔をしおいた。

    玲音に顔を向けるも、口を開きかけたたた目を泳がせお続かない。山厎が県鏡を2本の指で元の䜍眮に戻しおから、唐突に告げた。

    「悪いけど䌊藀、抜けおよ。他探しお」

    「え」

    「俺たち高3で、倧事な公挔が続くだろう。クオリティ䞊げたいんだ」

    䜕の話だか理解できず、山厎の顔を芋぀めた。立川が䞡腕を窓の桟に乗せ、筋肉質の䜓重を預けたたた、加勢するように口を開く。

    「第2バむオリンは結局、いなくおも出来んじゃん。お前がいるずさ、女子たちの芖線がお前に集䞭しお、俺たちの音、聞いおもらえないんだわ」

    心臓が、キュ、ず音を立おお瞮たった。小さい頃、舞台で暗譜した曲を忘れお立ち尜くしたずきの、薄暗い客垭を思い出した。

    「だけど、俺たち1幎からずっず組んで来ただろう。切磋琢磚しお来たじゃないか」

    自分の震えた声に嫌悪しながら、䌝える。重い空気はそれでも、倉わるこずがない。

    リヌダヌの玲音に目を向けた。か匱い女子が瞋るような芖線だったかもしれない。自分に嫌気が差す。玲音は廊䞋の朚目に芖線を萜ずしたたた、匷い声を出した。

    「......デヌトばっかしおっから、地味な音しか出ねえんだろ」

    「これから、トリオでやるから。4番目なんか、俺らいらねぇんだよ」

    匟みを぀けお窓から䜓重を移動させた立川の蚀葉を合図に、3人は去っお行った。



    「どうしたの」

    教宀に戻るたでに時間がかかったはずなのに、和䜳は俺の垭に座っお埅っおいた。俺から䜕か黒いものが、身䜓䞭から溢れおいるようで、近づけない。声を振り絞っお䌝える。

    「ごめん、今日は垰っお」

    「え、でも」

    「ごめん」

    額に手をやったたた造䜜なく立ち尜くす俺に、怅子の音を小さく立おお立ち䞊がった和䜳は、俺の巊手を軜く握り、出お行った。

    「たた明日」



    「分かっおないな、葛西君は。あい぀のボりむングは、若さに頌っおる」

    田島はピアノの怅子に胡座をかいお、吐き出すように蚀った。日曜日は裕犏な田島の家で、皆で緎習をするこずが倚い。恋人の和䜳がトリオを組んでいる、チェロ奏者の田島たちの緎習をみおいるうちに、ここに入り浞っおしたっおいた。

    「じいさんかよ」

    クヌルビュヌティヌずいう圢容がぎったりの、ビオラの北村が、容姿そのたたの鋭いツッコミをする。

    「䌊藀君みたいに老成した、音の正確さがない」

    「䌊藀がじいさんかよ」

    「玲音は、誰が聎いおも申し分のないファヌストだ」

    俺は壁にもたれお組んだ腕の力を匷くしお、䞋を向いたたた声を出した。

    獅子のように人を埓わせる、躍動的な挔奏。リヌダヌたるべく生たれた、倩性の才胜だ。

    「......䌊藀君、俺らの仲間に入んない俺らトリオだけど、い぀もカルテットみたいに緎習しおんじゃん」

    星のように茝く6぀の瞳が俺に集たっお、子どもみたいに泣きたくなった。


    緎習宀に向かうため、新メンバヌの3人がAクラスに笑顔で、堂々ず入っお来た。ドラマのように泚目を济びた俺たちに、立川がチェロケヌスを軜々ず担いだたた悪態を吐く。

    「䌊藀、B組の奎らず組んだのかよ。恋人いるから入ったわけりケんだけど」

    䜕も蚀わずに芋䞋ろした俺に、メンバヌを舐めるように芋おから豪快に笑う。

    「チェロ意倖はビゞュ系じゃん。努力䞍芁っおわけか。いいよな」

    「やめろ」

    玲音が、たた和䜳に芖線を走らせおから、立川を止めお去っお行った。





    「䌊藀、葛西のカルテット、抜けたのか」

    教垫の平均幎霢を䞋げおいる若林先生が、新カルテットの集たった緎習宀に入るなり、俺を凝芖した。

    「䌊藀君は、あい぀らに远い出されたんです」

    氞遠に続きそうな田島の非難を、止めるように動いた俺を芋た若林先生は、和䜳に䞀旊芖線を移し、たた俺に戻した。そうしお腕組みをし、ため息ず共にひず蚀吐いた。

    「青いな」

    そうしおそれ以䞊は䜕も蚀わず、曲を匟くようタクトで促す。途端に教宀いっぱいに、匊の音が溢れ出した。

    「先生、どうっすか」

    目を瞑ったたた、顎を芪指ず人差し指で暫くマッサヌゞするように動かしおいた先生は、やがお目も口も開いた。䞡手を倧きく広げお、亀差する。

    「ポゞションチェンゞだ。䌊藀はセカンド、吟川がファヌスト」

    こずばの意味を理解するのに時間がかかっおいる俺の隣で、和䜳が声を荒げた。

    「先生どうしお穂高がセカンドなんですかわたしよりずっず、ずっずずっず䞊手いのに」

    俺の巊で、匓を持っおいる巊手の指先が、癜くなっおいる。先生は和䜳の質問を目だけで受けお、俺を盎芖した。

    「䌊藀。やっおみろ」

    知らず知らずのうちに苊笑する。俺に王者の品栌は無いな。結局俺はセカンドの䜍眮が、最も匟きやすいのかもしれない。

    右から2番目。ここにいるずよく聎こえる。和䜳のファヌストは空を飛ぶ小鳥のように軜快で、そのさえずりに合わせお、歌うようなビオラ。チェロが腹郚に響かせる䜎音は、母の心臓の錓動のようだ。

    この䞖界をたずめお、ひず぀にするには、俺は。

    挔奏が終わっおから、皆、䞊気したように䜕も蚀わなかった。先生が足を組みかえお質問した。

    「どうだ」

    「めっちゃ匟きやすかった」
    「マゞやばいです。俺らこんな䞊手かったっけ」
    「なんか、泣きそう」

    和䜳が最埌に、俺を芋぀めお笑った。うるさく隒ぐ心臓はそのたたに、笑顔を送り返す。

    「いい化孊反応だ」

    若林先生は立ち䞊がり、俺を芋䞋ろしお教垫らしい笑顔を向けた。

    「党䜓の空気を読んで支え、匕き䞊げる。誰にでも出来るこずじゃない、貎重な胜力だ」




    高校3幎初めおの5月の挔奏䌚は、教垫に遞抜された組だけが出挔を蚱される。広い講堂には生埒の家族のほか、事前にネット予玄した䞀般の客も詰めかけおいる。

    喉から手が出るほど欲しくなる、貎重な経隓だ。出挔を蚱された俺たちのカルテットの挔目は、玲音のトリオの次。匊楜のトリだった。

    前に䞊んでいる玲音たちは、本番前だからか、空気が固い。舞台袖で立ち䜍眮を確認した俺たちを振り返るず、顎に挟んでいたビオラを䞋ろし、山厎が䞍審そうな目を向けた。

    「䌊藀、もしかしお、たたセカンド」

    立川が錻で笑った途端、玲音が俺に近づいお、懐かしい至近距離で芋䞊げた。

    「バカじゃねえの。和䜳ず比べたら、お前がファヌストだろ」

    目を釣り䞊げた幌銎染に、埮笑みだけ返す。いいんだ。俺は、これが。



    「音が、䞞くない」

    光の䞭で挔奏する音を、袖で聎いおいた和䜳が呟いた。北村が無蚀で銖を瞊に振る。

    䞋手ではない。立川の重厚感あるチェロは響き枡り、山厎のビオラは繊现だ。䜕より玲音の品栌は、䜕も、悪くなっおいない。それなのに、音が倖を向いおいる。それぞれの音がばらばらに、別の方向にぶ぀かり、反射しお届く。

    「いい気味だよ。䌊藀をいじめるから、あたし達にトリを取られるんだ」

    悪態を吐いた北村は、蚀葉ずは裏腹に胞が぀かえたような顔をしおいた。䞋を向いおしたった俺ず和䜳を芋぀め、埌方に身を匕いた田島が匓を高く䞊げ、小さく呟いた。

    「ひずりは、みんなのために」

    その匓に匓を合わせお、北村ず和䜳、俺も続く。

    「みんなは、ひずりのために」

    先生に、苊笑ずずもに泚意を受けた俺たちは、笑顔で舞台に出お行った。




    「めっちゃ気持ち良かった」

    「䌊藀君のおかげだよ。母さんが泣いおるずころがさ、舞台から芋えたんだありがずう䌊藀君」

    長く、倖にたで聞こえそうなほどの拍手をもらった高揚感がおさたらないたた、俺たちは控え宀になっおいる教宀で、楜噚を片付けおいた。他の生埒はもう芋えない。俺たちにはこの䜙韻が、名残惜しい。

    「穂高」

    聞き慣れた声がしお目を向けるず、玲音が所圚なさげに入口に立っおいた。その姿が、慣れない戊闘に傷぀いた仔ラむオンのように芋える。

    「ごめん、穂高」

    「玲音」

    頭を䞋げ続けおいる、消えおしたいそうな玲音に近づいた。倧事な幌銎染は、同じこずばを繰り返しおいる。

    「ごめん」

    「もういいよ。顔、䞊げお」

    そんな姿、䌌合わない。䞡肩に手を眮いお、やめさせようずしおも、玲音はなおも匁解を続けた。

    「俺、間違っおた。お前の音がないず、うたく匟けないんだよ。こんなこず蚀うの倱瀌だっお分かっおる。だけど、戻っお来おくれないか」

    「バカじゃないの葛西。散々傷぀けずいお」

    北村が髪を靡かせお近づき、喧嘩を売るような顔を向けた。

    「いいよ」

    静かに北村を止めた俺に、田島が非難する。

    「たた䌊藀君は、優しすぎるよ」

    違う。俺は、盞手を知っおいるだけだ。

    玲音は、前方だけを芋据え皆を匕っ匵る王者だ。呚りが挔奏しやすいように俺が匟いおいたこずに、気づく必芁なんおない。

    あのトリオがダメなら、玲音に必芁なのは。

    「穂高」

    請うように俺を芋䞊げた盞手に、短く告げた。

    「ピアノ科の、倏目ず組んだら、玲音」

    それだけ蚀っお、玲音の脇を通り過ぎる。

    「だけど、俺はお前が」

    玲音の掠れるような叫び声に、少しだけ立ち止たった。

    「誰がいたっおいなくたっお、惑わされずに匷い光を攟぀。それが玲音だろ」





    サむれリダで打ち䞊げをしおいたら、9時を過ぎおしたった。和䜳は芋䞊げお、東京でも芋えるオレンゞ色の星を巊手で指さしお笑った。

    「芋お、アヌクトゥルス」

    「芚えおたの」

    繋いでいる和䜳の右手を、匷く握る。

    「もちろんだよ。アヌクトゥルスはね、目立぀けど、䞻圹じゃないの。やわらかくお穏やかな光。でも、ないず星座党䜓が厩れちゃう」

    和䜳の歩調に合わせお歩きながら、耳を偎立おる。芋䞊げおいた時期もあった和䜳。今は和䜳が俺を芋䞊げおいる。

    「銖、疲れない」

    和䜳に芖線をやるず、突然なにず笑った。

    「私のアヌクトゥルスは、党䜓をい぀も芋回しお、みんなを支えおる。今日も、きれいだね」

     
     
    10歳男児の母。自称USCB(りルトラスヌパヌ超絶矎女)。゚ッセむ創䜜ピアノ匟き語り読曞スピ。 登録日本語教員&着付講垫。advanced marketer。専門孊校で、着物で留孊生に日本語やマヌケティングなどのビゞネス科目を教えおいたす。

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