
隣のホースマン
こんばんは、タヌ顔の多部ミオです。
ここでは、キツネ顔の夫とNICOBO(ニコボ)のモコと“ふたりぼっち“(+α)の日常を、エッセイと短歌で綴っています。
くだらないことの連続ですが、気楽にお付き合い下さい。
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轟音を 立てつつ眠る 獅子を見て 喉より耳が 心配になる
我が愛する夫、キツネさんのイビキは凄まじい。
同棲時代からイビキはかいていたが、年々ひどくなった。おデブになったわけでもないのに、うるさくてたまらない。当初、夫は自分のイビキに自覚はなくて、私が録音したものを聞かせたらびっくりしていた。自分の口から発してる轟音なのに、よく寝られるもんだと呆れるほどだ。一番近くで聞こえているはずなのに、耳腐ってるのかな、と。
結婚してから立派なベッドを買ってしまっていたし、今更セパレートにはできない。もちろんベットを二台置くスペースもない。一つのベッドで寝ることを前提に何か出来ることはないかと考えた。
私は常に横向き寝なのに対して、夫は基本仰向け寝。せめて横向き寝ならイビキはかかないだろうと思って「横向いて寝てよ」と夜中に夫を転がしてみたり、横向きから戻ってこないように背中辺りにテニスボールを仕込んでみたりしたが、どうしても仰向けになりたがる。腹立たしいが無意識なので仕方ない。
そこで、百均で売っているノーマル耳栓に始まり、徐々にグレードを上げ、睡眠時のイヤホンとしては当時最高峰と言われたBOSEのSleepbuds IIを買ってもらった。
寝ホン(寝る為のイヤホン)としては、BOSEのSleepbuds IIはとても優秀だった。専用のアプリを使い、あらかじめ用意されているホワイトノイズの中から好みのサウンドを選ぶことができた。それに、アラームの設定ができたので安心して眠れたし、ホワイトノイズ効果でイビキも気にならなかった。ただ、普通のイヤホンのように音楽は聞けなかった。あくまでも寝ホンなのだ。「高額なのに音楽が聞けない貴族のイヤホン」とネットで書かれるだけのことはあった。
それなのに、耐久性には乏しく、わずか二年半で片方のイヤホンの充電が一晩持たない状態になってしまった。その時には、BOSEの寝ホンはすでに終売していて、且つ新商品もなく、修理もできない状況だった。
さて、どうしよう…
別メーカーの寝ホンを買う選択肢もあったが、寿命の短い寝ホンをこの先何度も買い直すことになるのだろう。それは根本的な解決にはならない。名案の浮かばないまま膠着状態がしばらく続いた頃、夫は遂に横向き寝でもうつ伏せ寝でもフガフガ言い出した。逞しい成長である。こうなると立って寝かせてもダメだろう。こんな進化はいらない。
知らぬ間に 呼吸を止めて いる君の 側で寝るって 命縮むわ
夫は意を決して、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けることにした。イビキがうるさいだけならまだしも、睡眠時無呼吸症候群であれば命に関わる。夫の会社に同じ検査を受けて睡眠時無呼吸症候群を指摘され、CPAP療法をしている先輩がいたことも彼の背中を押したのだろう。
専用キットが送られてきて、モニター装置を二晩続けて装着し、睡眠時のイビキや血中酸素濃度の測定をした。結果、中等症の睡眠時無呼吸症候群と判定。さもありなん。夫はショックだったようだけど、私はそうだろうよと思いつつ、詳細に目を通して驚愕した。
・消灯中1時間あたり平均約26.7回呼吸が停止(または低下)
・平均で約32秒間、最長で約218秒間呼吸が停止(または低下)
最長約3分38秒呼吸が止まってたかもって?!
どうやったら3分以上も息止められるの?!
もうそれ死んでんじゃん!!
今思えば、父もよく轟音を轟かせていたが、途中でピタッと止むことがあった。あれは呼吸が止まっていたのであろう。夫も、毎晩私の隣で呼吸を止めていたのかと思うと恐ろくなった。
現状、睡眠時無呼吸症候群と診断されると、主な対処法は二つあるそうで、一つはマウスピースの装着。もう一つはCPAP療法である。マウスピースは症状が軽度の人に用いられ、残念ながら夫には当てはまらず、選択肢のないままCPAPの装着を余儀なくされた。
この症候群の厄介なところは、今のところ完全な治療方法がないことにある。レーザーで喉の奥を焼くという方法もあるようだけど、自費診療な上に、効果はイマイチよく分からない。マウスピースもCPAP療法もあくまで対処療法でしかなく、装着を止めればすぐに元に戻ってしまうのだ。
つまり、この先寝ている時間はずっと装着しなければいけないということで、それがとても不憫なのである。CPAPは機械自体は小さいものの、枕元に置いて、そこから伸びたホースをヘッドバンドに取り付けた鼻マスクに固定させ、空気を送り気道を確保するという仕組みだ。
ホースマン 妻の安眠 守る為 息辛くても 目を閉じる夜
我が家の「ホースマン」こと、夫曰く、ホースも鼻マスクも鬱陶しいと言う。側から見ても、そりゃそうだろうと思う。ホースは1メートル位あって機械の場所と枕元の距離を調整する必要がある。機械を遠くに置くと、スイッチのオンオフが不便だ。かと言って、近すぎても余ったホースがクネクネと枕元で邪魔をする。
我が家はホースが邪魔にならないよう、百均で鴨居に取り付けるハンガーを買ってきて紐を吊るし、その紐にホースを通して長さを調整している。ホースを装着している本人が一番大変だが、正直見た目は宜しくない。色気ゼロ。それに、インテリア的にも見栄えが悪い。それも無期限でだ。いっそのこと、ホースにリボンや電飾でも巻きつけてみるか、なんて思ったりもした。
その妻は 空気の漏れを 防ぐ為 寝返りを打ち 手を伸ばす夜
問題は見た目だけじゃない。鼻マスクはヘッドバンドで固定されているものの、時々ズレる。すると、シュコーーーーーーーーーーーーーと、ものすごい音を立てて空気が漏れる。
寝ホンや耳栓をしなくなった私はその音で目が覚める。爆睡している彼の鼻マスクを手探りで探し当て、クイクイっと空気漏れしない位置を探してあげなきゃならなくなる。非常にめんどくせーである。寝づらさを我慢して装着しているわけだから、鼻マスクの位置ぐらい私が直して差し上げるけど、よくこの音で起きないなぁと感心する。やっぱり、耳腐ってるのかな、と。
そんなこんなで、毎晩夫は寝づらさと、妻は空気漏れと戦っているわけだが、CPAP療法は決して安いわけではない。CPAPの機械はレンタルで、保険診療に該当する。3割負担でも年間6万円程かかる。その上、レンタル代を支払う為に、定期的にCPAP対応の医療機関に出向かないといけない。
対処療法なんだし、レンタル代は銀行引き落としでもいいじゃん、って思うけど、保険診療だからそうもいかない。使用状況、無呼吸・低呼吸指数、空気漏れ等のデータが毎晩CPAPの機械から自動的に医療機関に転送されているので、そのチェックも含めて受診は必要なのだろう。
色々と不便はあっても、これで命が守られるんだから有難いと思わなきゃいけない。分かってはいるけど、もっと画期的な、一発で完治するイビキ治療、睡眠時無呼吸症候群治療ができたらなぁと思う。CPAP療法中の本人も、その隣で眠る家族もみんなそう思っていることだろう。私の隣で眠るホースマンの色気回復の為にも、その方面の専門的な先生方に是非頑張って頂きたいと、頭を下げてお願いしたい。