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【JKに読んでほしい教科書】☆るなこ30歳(慶大卒、放送局勤務、一人っ子)


    ▷20年前の宿題

    (初老の男性によるモノローグ)

    あれから20年近くになるでしょうか。80代の裕福な紳士から、何度も熱心に相談されたことがあります。

    「一人暮らしの女性が幸せに人生を送る(終える)仕組みを作りたい」というのが、彼の思いでした。

    彼自身は、親から受け継いだ多額の資産と不動産を保有していました。気ままに海外で暮らしたり、お気に入りの店でおいしいものを食べたり、不自由はまったくなさそうでした。

    生涯独身で、子どもはなく、弟が一人いるとのことでした。

    当時は、老紳士の相談が「子どもなし」「資産あり」「幸せな老後」のよくある話に聞こえましたが、彼は自分のためではなく本気で「同じ立場の女性のために」仕組みを作りたかったのだと、後になって気づきました。

    当時の私には、その言葉の真意が理解できませんでした。


    このことを思い出させてくれたのは、私が経営している小さな会社に学生アルバイトとして入ってきた、るなこさんでした。

    彼女は知り合いの紹介で、家族のプライベートなことも気さくに話してくれました。その中で私が一番魅かれたのは、お祖父さん - お父さん - るなこさんが、「団塊世代」「団塊ジュニア」「Z世代」ときれいに繋がっていたことです。

    偶然にもこの組み合わせは、私が興味を持っている『戦後の価値観の変化』の世代モデルとぴったりだったのです。

    そして、るなこさんとの出会いがきっかけとなり、私は老紳士の相談をもう一度考えるようになりました。


    <戦後の世代継承>

    るなこさんのZ世代は「団塊ジュニアの子どもたち」です。そしてお父さんの団塊ジュニアは「団塊世代の子どもたち」になります。

    団塊世代:1947-49年生まれ、270万人(年間出生数)
    団塊ジュニア:1971-74年、200万人
    Z世代:1997-2012年頃、110万人
    *Z世代の子どもたち:2025-2040年頃、70万人

    世代区分にはいくつかの見方がありますが、ここでは世相をよく反映していて対象人口も多い層をフォーカスしてみました。



    ▷お祖父さん、お父さんの価値観

    るなこさんはその後、慶應大学を卒業して、今は有名な放送局に勤務しています。今年で30歳になったそうです。最初の配属が地方で今もそのまま。上昇志向が強い子なので、キャリアのことが気になっているかもしれません。

    先日、会社に遊びに来てくれた際に、ふと老紳士のことが思い出されました。そして、るなこさんに「家族の価値観」について聞いてみたくなりました。

    【私】お祖父さんのこと、覚えてる?

    【るなこ】うん。私にはやさしかったけど、怖そうな人だった。お父さんはずっと「勉強しろ、いい学校へ行って、いい会社に入れ」って言われてたみたい。

    【私】昔の人だからそうだろうね。団塊世代の人たちは大体「女の子は結婚して家庭を持つのが幸せ」みたいな考え方だよね。お祖父さんもだけどお祖母さんもだよ。あの世代の人は男も女も同じ方向を向いてたね。「男が社会で成功することが家族の幸せだった」時代ってことかな。

    【るなこ】お父さんは、お祖父ちゃんの期待に応えたと思うよ。お祖父ちゃんは東大で、お父さんは一橋。お父さんが就職した時は就職氷河期だったらしいけど、大丈夫だったとか言ってた。

    【私】るなちゃんのお父さんは商社だったよね。ロサンゼルスに駐在してたとか聞いたけど。

    【るなこ】うん。私が小学4年から中学2年まで家族で行ってた。すごく楽しかった。アメリカ人は日本人とは考え方や価値観が違うからね。「そんなのアリ?」みたいなのが毎日起こってた。

    【私】その頃のアメリカは、どん底から立ち上がって、羽ばたくようにデジタル社会に変容する節目だったんだよ。お父さんも大変だったと思うよ。


    <リーマンショックとSNS市民文化>

    るなこさんが住んでいた頃のアメリカ(2006-2011年頃)は、2008年のリーマンショックで、激しい景気後退と雇用の悪化に見舞われました。2009年にオバマ政権が誕生し「改革」(Change)を掲げ、これに重なるようにYouTube、Facebook、Twitterというソーシャルメディアが台頭。アメリカは一気にデジタル社会に突入していきます。

    <失われた30年>

    日本は1990年前半にバブルが弾けて以降、様々な施策が打たれものの、新陳代謝よりも既成権益を守る姿勢が強く、結果として30余年の間、国民の生活は浮上することなく、アジアの国に抜かれていきます。

    <団塊世代と団塊ジュニア>

    団塊世代の成功モデル「頑張れば必ず報われる」「教育が社会的成功をもたらし、それが家族形成にもつながる」は、そのまま団塊ジュニアに引き継がれました。しかし彼らは、難しい経済環境の中で自信を失い、確かな手応えもないままに次の世代に伝えるものを失っていきます。



    ▷ お母さんから学んだこと

    【私】るなこさんはお母さんとは仲がいいの?

    【るなこ】はい。お母さんの家は軍人の家系だったんで、お祖父ちゃんやお父さんの考え方なんかもよく分かってたみたい。でも、アメリカに行ってからかな、すごく変わったの。「るなこは好きに生きていいよ」「目の前にやりたいことがあるっていうのが一番大事なんだよ」ってよく言うようになった。

    【私】それって、アメリカ人や向こうのライフスタイルに影響されたから?

    【るなこ】かもしれないけど、私は「母親の中に、もともとそういった価値観があったんじゃないかな」って思ってる。自分ではそうなりたかったのに、できなかったのかもね。


    <女性の社会進出>

    高度成長期の頃から女性が職場で働くことは珍しくありませんでした。ただ多くの場合、事務補助であったり工場のライン作業でした。そして昭和の時代はまだ「専業主婦」も多くいました。1985年の「男女雇用機会均等法」あたりから、総合職として採用されるケースも増えてきましたが、採用や昇格面で本格的になっていくのは「女性活躍推進法」(2015年)からです。

    <アメリカの働く女性>

    アメリカでは女性の就業が当たり前になっていて「働く女性」は社会の構図に組み込まれています。企業のトップとして活躍する女性経営者も多く誕生しています。それを支える基盤として、労働環境やキャリア形成(教育)だけでなく、夫婦間の協力(夫の家事・育児)といった習慣も根付いています。

    <マイノリティへの配慮>

    アメリカは以前から、人種をはじめとする様々な差別に対し明確な姿勢を打ち出していましたが、るなこさんがいた頃にはLGBTへの理解もかなり浸透していました。


    ▷一人が好き

    【私】るなこさんはお祖父ちゃんからも、お父さんからも、お母さんからもいろいろなことを学べたね。家族一人ひとりの経験知が高いから、学校で習わない大事なこともたくさん教えてもらえて羨ましいよ。

    【るなこ】うん。私ってずいぶん恵まれてるよね。もし地方に生まれてそこだけで暮らして来たら、全然違う考え方になっていたと思う。地方は地方で幸せなこともあるかもしれないけれど。

    【私】お母さんは、羽ばたきたくても羽ばたけなかったんだろうね。るなこさんにはそのことを伝えたかったのかも。

    【るなこ】それは「アルアル」ですね。お母さんも東京で育ったから、多すぎるくらいの情報に囲まれて、周りには自由に生きている友だちもいたと思う。学生時代の友だちや家族って、昔からの価値観のままだったり、新しい考え方してたり、いろいろですよね。

    【私】るなこさんは、自分のことどう思ってるの?

    【るなこ】私ですか?自分はほかの子と違うかもしれない。みんなはグループを作りたがるんだよね。でも私は一人が好き。友だちも好きだしたくさんいるんだけど、自分のことが一番好き。

    【私】そうなんだ。るなこさんの年代は「デジタルやインターネットが当たり前」の環境で育った人たちだね。世の中的にはこう見られているらしいよ。

    〇 自分らしさにこだわる
    〇「好ききらい」や「価値観」がはっきりしている
    〇 失敗やリスクに対して敏感(リスク回避型が多い)
    〇 見切りが早い(リセット特性)
    〇 タイパとコスパで判断しがち
    〇 他者評価を気にする

    【るなこ】ちょっと違うとこもあるけど、大体当たってますね。私たちの世代って、MBTIみたいなカテゴライズ診断で盛り上がったりするんですけど、内心は、多面的な人間をあえて言語化して理解しようとするようなのって好きじゃないんです。「タイパとコスパ重視」ってのも、大人が勝手につけたキャッチですよね。



    <感情資本主義>

    Z世代に見られる特性は、彼ら自身が生み出したものもありますが「少し上の大人」からも大きな影響を受けています。特にソーシャルメディア界隈で共感、応援、思いやりなどという「感情」が広く共有されるようになると、それ自体が商品化されたりサービスになっていきます(LINEスタンプ、投げ銭、推し活など)。

    <自分が好き>

    Z世代では、昔からの分かりやすいコミュニケーション以外に、スマホやSNSを通した「水面下のコミュニケーション」が重要な役割を持つようになります。この二階建てのコミュニケーションは、深読みや猜疑心、不信感といったネガティブな心理を生み出す原因にもなっています。その結果「自分を一番理解してくれるのは自分」という自己愛的な方向に向かう子も増えています。



    ▷おひとりさま

    【私】実は昔ね。ある人から「一人暮らしの女性が幸せに人生を送れる社会」について聞かれたことがあるんだよ。未だに答えはないんだけど、そういうのってどう思う?

    【るなこ】その質問って超ストレートですね。私に聞いてどうするんですか。まだ30歳ですよ。あらゆる選択ができるんですよ。でも、面白そうだから「もしも」で答えますね。

    【私】気を悪くしたらごめんね。るなこさんは他の人とはちょっと違う感じなんで、フツーじゃないような見方をしてるかもと思って。

    【るなこ】いいですよ。全然平気。たぶんですけど「日本社会が多様性を受け入れるようになってきた」っていうのが、一番の大元じゃないでしょうか。

    お父さんの世代は、団塊世代の圧が強くて、その一方で社会環境は逆風で、結局圧し潰されちゃった人が多かった。これ、私の個人的な見方です。

    世の中は、台風が去った後の川のように静かに流れている。でも前と違って、社会や生活の多様性を受け入れてくれる空気がポツンと生まれていた。

    社長がさっき挙げた「Z世代の特性」も実は前からあったんだけど、慣習的な価値観で蓋をされたり、端に追いやられたりして、見えていなかった。それが社会や人の心が寛容になったことで見えるようになってきた。

    こんな感じだと思うんです。


    <これからの生き方>

    【私】なるほど。多様性はもともとあった。それが隠れていただけだ、と。寛容になったというより、過去の成功モデルが役立たないことに気づいたのかもね。

    【るなこ】一人で生きる女性も同じなんです。どのくらいかは分からないけど、昔からそう願う人はいた。でも考えの狭い社会が、結婚だとか、子どもだとか、家庭が大事だとか、既成の枠にはめて自由な選択を許さなかった。

    今、世界が大きく変わるとき、カゴの中の鳥たちも一斉に羽ばたこうとしている。今まで慣習や他人の目で縛ってきたものがあれば、縄を緩めてあげたらいい。鳥だって、自分にできることとそうでないことは分かっているはずです。自分の判断で「今を生きる」道を探すと思う。

    親はもっと子どもを信じて、シニアはもっと若者を信じてあげてほしい。

    制度や政策で勝手に方向を決めるのではなく、選択は個人に任せる。その選択肢を増やしてセーフティガードをつけてあげることが、社会に必要な仕組みだと思います。その分、一人ひとりがもっと強くならないといけないんだけど。



    ▷ 愛の行き先

    【私】るなこさんにこんなこと聞くのもアレだけど、最近の若い人も恋愛とかするよね。

    【るなこ】社長、そういうのはハラスメントになっちゃうんですよ。今は。若い人だって恋愛くらいしますよ。社長は「若い世代は人間関係ばかり気にして、傷つけられないように人と距離を置くから、好きになることも減ってきた」とか考えているんですか?

    【私】ハラスメントになっちゃうのか。昔でもデリケートな質問ではあったけどね。まあ、教えてくれるのならありがたいけど、全然見えないんだよね。最近の人の愛がどこにあるのかが。喜怒哀楽とかは見えやすいけど。

    【るなこ】そんなのは分からなくていいんですよ。本人たちの問題なんだから。でも同じ世代の人同士は分かっていると思う。私って放送局勤めてるんで、そういう話って得意なんですよ。すっごく面白いこと教えましょうか?


    <SNSとコロナ禍>

    恋愛事情でよく出てくるのが、ソーシャルメディアとコロナ禍の影響です。一人の時間が増える、休校、オンライン授業、リモートワーク。こうしたものが「恋愛は微妙な空気や体の触れ合いから生まれる」と考える人たちから見ると、「大きな障害」として映ります。マッチングアプリがそれに代わるものになるのか。今はうさん臭さと紙一重です。

    <るなこの愛>

    (モノローグ)
    「昔の愛」の多くは、異性に向かい、子に向かい、家庭に向かっていました。しかし「Z世代の愛」はもっと多様です。自分に向かう。推しに向かう。ペットに向かう。子を持たない大人は甥や姪に向かう。

    「昔の愛」から見ると「Z世代の愛」は希薄に感じます。その裏側に責任がないように思えるからです。「Z世代の愛」から見ると「昔の愛」は社会の暗黙知の臭いがします。「そういうものだ」という、押しつけに近い道筋と価値観が用意されているからです。

    こう考えていくと、そうしたものの背景に『家族』という大きな存在が浮かび上がってきます。

    家族は、世代を越えて価値観を継承し、子どもたちの選択を暗黙的に定め、そして人生の最後に戻る場所と思われてきました。

    日本においては家族という存在が生活の中心でもありましたが、もしかすると、これが変わりつつあるのではないでしょうか。

    深いところにはまだたどり着けていませんが、るなこは「Z世代の愛は家族との関係とともに変化している」と感じています。そして、裕福な紳士の願いは「愛と家族の行方」にその答えがあるような気がします。



    ▷ エピローグ


    ここでは、登場人物がそれぞれの「時代の価値観を運んでいる人」になっています。

    団塊世代は、「頑張れば報われる」と信じ、それをやり抜きました。

    その子どもである団塊ジュニアは、同じ教えを守りましたが、環境の変化に対応しきれないままに、自信を失ってしまいました。

    Z世代は、親の揺らぐ価値観の下で育てられました。一見すると緩やかな環境で甘やかされているようですが、実は逆です。自らが感じ、考え、決めたことを実行することを求められています。

    親から「好きなように生きなさい。応援しているよ」と言われたとき、何をやったらいいのか。自由であるからこそ、しっかりした自分を持っていないと前に進めません。

    『価値観の継承』は、団塊ジュニアが大きなターニングポイントになりました。そして『おひとりさま』は、消去法的な選択ではなく、一つの標準的な選択肢になりつつあります。

    「世の中にはもっとたくさんの選択肢がある」。るなこさんのお母さんにはそのことが見えていました。ただ親というものは子どもに自分の安心を求めてしまうものです。子どもの苦労や失敗は見たくありません。

    みなさんがこれから選ぶ人生は、時代の価値観の延長線上にあります。 その地図を渡したくて、この教科書を書きました。

    「自分の夢を大切にしたい」。るなこさんは今、そう思っています。

    みなさんならどう考えますか?



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    ミント塾noteは、AI社会に向かう子どもたちと、そのまわりの大人たちを観察した、甘口辛口のエッセイ集です。 『しなやかに生きる』ためのヒントを、暮らし・教育・大学・AI・働き方・社会の変化の中から探していきます。