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勇者インフレ時代〜俺だけ最弱のダンジョンコアに人外転生〜第30話

    第30話 帰るまで
     
     帰る。

     それだけだった。

     レイユが先を拾う。
     四足型試作二号が荷を背負って進む。
     ランがトレントコアを抱える。
     ライムが横につく。
     ラックが後ろを見る。

     誰も跳ねない。

     倒木帯は、静かだった。

     さっきまで五人いた場所に、もう人の形はない。

     血は土に混ざった。
     肉は消えた。
     骨も残らなかった。

     食えない物だけが、四足型試作二号の背にある。

     鉤棒。
     斧。
     短剣。
     笛。
     腰袋。
     金具。
     割れた防具片。
     三枚の村勇者札。

     かつ。
     かつ。

     四足型の足音が、少し重い。

     ライムは、膜に包まれた丸石を抱えていた。

     傭兵の頭をへこませた石。

     血は見えない。

     土も見えない。

     だが、あの石だ。

     ライムは、それを離さない。

     ランの中で、トレントコアが震えている。

     黒い肥粒を混ぜた湿った土。
     苔。
     膜。
     ランの粘液。

     その奥で、緑と薄茶の核が小さく震える。

     弱い。

     だが、まだある。

     レイユが何度も後ろを拾った。

     追ってくる足音はない。

     ラックは、それでも後ろを見ている。

     赤牙紋が、外へ向いたまま戻らない。

     ラック、帰るよ。

     倒木帯を抜ける。

     湿った腐葉土が浅くなる。
     根の匂いが薄くなる。
     見覚えのある小石が増える。

     俺の穴が近い。

     入口の気配が戻ってきた。

     虎バサミ床。
     胃袋風船。
     入口偽装。
     入口影溜まり。

     戻ってきた。

     入口の外に、影が立っている。

     デヴィアン・ペルヴェール。

     変態。
     ヴァンパイア。
     留守番。

     まだいた。

    「おかえり」

     ラックの赤牙紋が、デヴィアンへ向く。

    「入ってないよ。入口だけ」

     デヴィアンは、境目の外で両手を上げた。

     ラックは、褒美だと言わんばかりに、デヴィアンの太腿の裏へ黒い触手を叩き込んだ。

    「いったぁい♡」

     帰ってほしい。

     だが、入口は荒れていない。

     素材庫も動いていない。
     寝床も乱れていない。
     変な飾りも増えていない。

     少なくとも、感覚の届く範囲では。

     四足型試作二号が、入口を越えた。

     かつ。

     背の荷が小さく鳴る。

     外ではぼやけていた金具の音が、穴の中でははっきり響いた。

     次にレイユ。

     陽花紋が内側で震える。

     レイユが帰ってきた。

     次にライム。

     丸石を抱えたまま、境目を越える。

     ぷる。

     小さく揺れた。

     俺の最初の仲魔が、帰ってきた。

     次にラン。

     トレントコアを抱えたまま、入口の前で止まる。

     外の核。
     別のダンジョンの核。
     まだ、この穴のものではない。

     ランの膜の中で、細い根が震えた。

     入れ。

     ランが、境目を越えた。

     その瞬間、感覚が濃くなる。

     ラン。
     膜。
     苔。
     湿った土。
     黒い肥粒。
     そして、トレントコア。

    『外来核反応:侵入』
    『対象:トレントコア』
    『状態:衰弱』
    『敵対反応:低』
    『迷宮接続:未成立』

     表示が浮かぶ。

     ランは、入口の内側で止まった。

     まだ奥へは進まない。

     最後にラックが戻る。

     黒い体が、入口影溜まりへ滑り込む。

     赤牙紋は、まだ外を向いていた。

     四匹が帰ってきた。

     四足型試作二号も戻った。

     トレントコアも、この穴の中にある。

     デヴィアンが、境目の外で笑った気配がした。

    「全員、帰ったね」

     それ俺の役。

     俺は入口偽装を締める。

     外の風が細くなる。
     倒木帯の湿りが遠ざかる。
     デヴィアンの気配だけが、外に残る。

     まだ終わっていない。

     置き場所も決めていない。
     根を下ろせるかも分からない。
     外がどう動くかも分からない。

     だが、帰ってきた。

     俺たちは、ダンジョンに帰ってきた。

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