
今日は絵本が届くから
今日は絵本が届くから、早く帰ろうね。
おととい注文しておいた絵本は、もともと保育園でのお気に入りで、ある日のお迎えのときに、園の本棚から引っ張り出して私のところへ見せにきた。
電車が走るときのフレーズが彼のなかでとってもお気に入りのようで、家でもしょっちゅう口ずさんでいる。
息子の月齢だと、正直そろそろ卒業が近そうな気もしたけれど、あまりにも毎日口ずさむものだから、これはよっぽど好きなんだと思って思い切って注文したのだった。
昨日発送通知が来て、今日の会社のお昼休みには、ポストに投函済みとなっていた。
届いた届いた。今日は急いで帰るんだ。
あの絵本を見せたら、どんな顔するだろう。
大好きなものを見つけたときの「あ!」が聞けるかしら。
お気に入りのフレーズ、一緒に読んでくれるかな。
息子とふたりで絵本を読むときの、膝に乗ってくるむっちりした重さも、たまに振り返ってくるおひさまみたいな笑顔も、気になった絵を指差すふっくりしたおてても、私の中の「母親」の部分を潤してくれる。
同じ本を何十回も、うんざりするくらい読んでも、毎回律儀に全力で楽しんでくれる。
仕事がなかなか終わらなかった日、必要以上に怒ってしまった日、絵本の時間が少しだけ、罪悪感の穴埋めをしてくれる気がしている。
まだ聞き取り困難な彼の発語の中に、絵本の一節らしき言葉があったりすると、合言葉みたいでちょっと得意な気持ちになる。何度も何度も一緒に読んだ私だけが分かる、特別の言葉。
最近は絵本の引用がなかなか巧みになってきて、ちゃんとシチュエーションにあった絵本の一節を口ずさんでいるので感心する。
ここのところ何かを拒否するときに言ってくる「いーの、いーなーの」は、『おさじさん』(※)のうさぎのぼうやの「いいの いらないの」だし、おもらしをすれば、『ノンタンおしっこしーしー』(※)のノンタンと同じように「しっぱい しっぱい」と言っている。
この前何かで注意したときに「おやおや」と返されたのは何なんだかちょっとよく分からないが、総じて自分に都合が良さそうな言葉をうまいこと拾ってくる。
絵本には、私自身が子供の頃から積み上げてきた絶大な信頼がある。
絵本を開けば、食べ物はぜんぶ夢のようにおいしそうで、動物たちはみんなお友達で、空も地面も明るくて温かかった。絵本の中には必ずお気に入りのページがあって、最後は絶対に幸せに終わる。絵本の時間は、喜びと安心が保証された時間なのだった。
だから、つい調子よくほいほいと絵本を買ってきてしまう。夫に若干引かれつつ、本屋さんに行くたびに何かしら迎え入れている。
そこそこの冊数が家にあるけれど、どの本にもちゃんと、息子のお気に入りポイントがある。今我が家のポストで、息子の帰りを待ってくれているあの本も、彼の気持ちを満たす瞬間が必ずあるのだろう。
さぁ、定時だ。今日は早く、早く、早く帰ろうね。
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※『おさじさん』松谷みよ子 ぶん、東光寺啓 え、童心社
※『ノンタンおしっこしーしー』キヨノサチコ 作・絵、偕成社