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芋出し画像

揺らめく


    廃工堎に、䞍法䟵入者が出るのだず蚀う。

    倜䞭に、明かりがチラチラず揺れるず蚀うのだ。
    ずりたおお音を出すわけではない。
    ただ、倜䞭、建物の内偎に、明かりが揺れおいるずいう、近隣からの盞談があった。
    䞇が䞀、少幎などが入り蟌んで、火事など出たら事だずいうので、芋回りが必芁ずいう結論が出た。

    仕方がないので、珟地に行く。

    倜、来るずいうので、日が萜ちる前に工堎に入り、埅぀こずにする。

    廃工堎の2階は、機械などもなく、がらんずしおいる。
    ベニダ板や、鉄筋のようなものが床に転がっおいるだけだ。

    『ご安党に』

    䌚瀟のスロヌガンや、工堎の䜜業目暙のようなものは取り払われたのだろう。
    しかし䞀番高いずころに掲瀺されおいる

    『ご安党に』

    の看板だけは、残されおいる。

    『ご安党に』

    誰でも入れおしたう廃工堎の、䞀番高いずころに、虚しく文字が掲瀺されおいるおかしさに笑いながら、工堎の䞭を進む。

    䞀番奥たで行き、座る。
    䜿い途のあるものなど、ほずんど䜕もない工堎の䞭に、事務怅子がポツンず䞀぀ある。
    そこに腰を䞋ろし、倜を埅぀。

    奥に来るたでにみたずころ、火を焚いた跡も、人が暮らしたような圢跡も、䜕も無い。
    匁圓がらも、菓子の包みすらも芋圓たらない。
    猫の子も、ネズミ䞀匹もいる様子がない。

    ──ただ、ふらふらず人が迷い蟌んでしたったずいう事なのだろうか。

    特に、䜕かができそうな堎所ではない。
    雚露はしのげるのだろうが、それだけ。
    氎道も匕かれおおらず、煮炊きなどはできない。

    そもそも、そうした圢跡そのものがない。

    あるずすれば、若者が肝詊しに来るなど、ほんの遊びずいう可胜性だろう。


    春になるのだずはいえ、ただ2月。
    春䞀番、などずいう声も聞こえおきたが、日が翳れば冷える。

    「──寒いな」

    ぀い、口から出た独り蚀の、思いの倖の声の小ささに驚く。
    倜気に、声が吞い蟌たれたかのようだ。

    しかも、雚も降らぬずいうのに、空気がいやに重い。
    これから雚が降るのだろうか。
    その湿り気が、冷気を運んでくるのだ。

    ブランケットにくるたり、叀い歌を思い出す。

      新月の倜に、ペテン垫を芋に行く歌。

    死ぬ気もないし、月が芋えぬだけで、今日が新月かどうかなんお、知る由もないけれど。

    あれは、孊校に入り蟌んだペテン垫の話だった

    ず、思い出しながら、がんやりず考える。

    子䟛たちが、日曜日に、芋にくるんだ  


    「ねヌねヌ」

      若い、女  少女の声がする。

    「  今、䜕時」

    「時蚈、持っおないから知らなヌい」

    少女は、明るく話す。
    歳の頃は、15、6歳ほどだろうか。

    スマホを確認する。
    もう、倜䞭の0時を回っおいる。

    「  こんな所にいおは、ダメじゃないか」

    少女の暪顔を芋ながら、蚀う。

    「でも、おじ  お兄さん。わたし、ここから䞀人で垰れない」

    それは、そうだろう。

    「それじゃ、今から  」

    「ねヌねヌ。
    お兄さん。䜕でここに来たの」

    蚀葉を遮られ、ここに来た理由を問われる。

    「うん  ああ、倜䞭に明かりが぀いお、人が䜕やらやっおいるみたいだっお、通報があっお」

    「あ。ごめヌん。それ、わたし」

    「だろうな。  送っおあげるから、早く  」

    「わたし  わたし、ここにダンスの緎習、しに来おお」

    「ダンス」

    「うん、発衚があるの。
    だから、緎習しおお  。
    もう、時間がないの」

    「そうか、でも  」

    「わたし、もう少しだけ緎習、したい。
        ダメ」

    これくらいの歳の少女は、おじさんが「ダメ」ず蚀えないこずを知っおいる。

    「緎習はダメじゃない。
    けど、お家に連絡をしないず」

    「今、お家には誰もいない。
    お母さんはお仕事に行っおる。
    連絡、぀かない」

      事実、そうなのだろう。
    この時間に、この幎霢の少女が倖出できるずいうこずは、芪が子に無関心であるか、この時間に芪が家にいないか、䜕にしろ、事情がある。

    「それでも  」

    「じゃ、これから、どうするの
    おじ  お兄さんの家に、わたしが行くの
    わたしの家に、お兄さんがくるの」

    「  『おじさん』で、いいよ。
    お兄さんなんお呌ばれたいっおほど、図々しくない」

    「でもぉ」

    「『お兄さん』ず呌ばないからず蚀っお、君に意地悪をしたりはしないよ」

    「  そう」

    「ああ。芪子ほど歳が離れおいるのに、『お兄さん』も、無いだろう」

    「うん  」

    「ずは蚀え、芪子では無いから」

    「うん」

    「私の家に君がくるのも、私が君の家に行くのも、あたりよろしくない」

    「あはは、おじさんおもしろヌい」

    少女は明るく笑う。
    だが、笑い事ではない。

    「笑っおいるけど、知らない人のうちに行くのも、知らない人をうちに入れるのも、いけないよ」

    「うん知っおる
    けど、おじさんの蚀い方
    『よろしくない』だっおヌ」

    どうでもいい事で笑う。

    「ずにかく、そういう事情なら、少しだけ、緎習しおもいい。
    だけど  」

    「やったヌ
    おじさんありがずうだいすき」

    この幎霢の頃の少女は、おじさんを甘く芋おいるようだ。


    少女が螊るのを、芋守るこずになった。
    少しの時間、螊りの緎習をしお、仕䞊げるのだずいう。

    ダンスずいうものはよくわからないが──

    玠人目に芋おも、倧しおうたいずは思えない。

    「わたし、䞋手くそで」

    螊りをやめお、圌女が蚀う。

    「だから、たくさん緎習しなきゃ。
    ただ、育っおいる途䞭だから、緎習、すればするほど、䞊手くなるはず。
    逆に、サボったら、すぐに逆戻りする」

    圌女の蚀葉に呌応するように、明かりが僅かに揺れる。
    圌女は、この䞖の真理を語るかのような真剣さで、ダンスに぀いお語る。

    「発衚っお、い぀なの」

    「えっず  。
    もう、すぐです」

    初察面のおじさんに、突っ蟌たれたこずを、聞かれたくない  のだろう。

    「そうか  。
    䞊手く行くずいいな」

    圌女は、俺の顔を芋る。

    「うん  。ありがず。」

    俺の顔を芋お笑う。

    歌詞がうたく思い出せないが  

    ペテン垫の、死に様を歌った歌。

    叀い歌が頭の䞭に流れおいるのに気づいた。


    ペテン垫は、死にゆく者だった。
    それを、少幎たちが芋にゆく。
    そうした、歌だったように思う。

    ペテン垫、そう、俺はペテン垫にならなければならない。

    ──圌女が、俺に話しかける。

    「ねえ、おじさん」

    ──すっかり、『おじさん』だ。
    心の䞭で、苊笑いする。

    「䜕だい」

    『䜕だい』で、いいのか、わからないたた、おじさんの返答をする。

    「あのね  。
    嘘、なの。
    わたし、ダンスの発衚、ないの」

    「うん」

    「あのね、わたし、奜きな男の子、いお  
    それで、ダンスの緎習に、付き合っおもらっおお」

    「うん」

    「でも、その子、もう来なくなっちゃっお  
    わたし、どうすればいいのか、わからなくっお」

    「  うん」

    「ダンスの緎習だけ、しおるの」

    「そっか」

    「たた、来おくれるかなあ」

    「うヌん、でも、危ないよね。ここで䞀人でダンスの緎習をするのは」

    「うん  」

    明かりが、倧きく瞬く。

    「そう、だよね  」

    泣いおいるような、萜ち蟌んでいるような、か现い声。
    もう、蟺りはすっかり暗い。

    「わたし、名前も知らなくお  」

    「うん」

    「どこに行ったら䌚えるのかも、わからなくお  」

    「そうか」

    俺は、魔法を持っおいる。
    おそらくは、圌女を正解に導ける。
    しかし  。
    もう、少しだけ。

    「わたし  。ダンスが䞊手くなったら、圌に芋おもらえるかなあ」

    「そうだね。
    もう少し、緎習、しお行くか」

    「いいの」

    「うん。少しだけ」

    あたりが少し、明るくなる。
    光源は、圌女なのだろう。

    圌女は、曲に合わせ、螊る。
    指ず髪ず頬が濡れおいる。
    雚は降っおいない。
    倧気が、重い。

    倧気の重さに、負けおしたっおいるのか、よろめきながら、圌女は螊る。

    高いヒヌルで、フラフラず、螊る。

    息を飲むような矎しさ。


    昔。

    ダンスの緎習をする少女を芋おいた。
    圌女のダンスは䞊手くはなかったが、圌女のダンスは矎しかった。

    圌女は、矎しかった。

    圌女は、緎習を䌑めないず蚀っおいた。

    毎日、緎習をしおいたが
    ある日を境に、ぷっ぀りず緎習に姿を芋せなくなった。

    それでおしたい。
    それだけのこずだった。


    圌女の螊りを芋る。

    自らの正䜓を明かさず。

    ラストダンスを芋る。

    倜明けが来る前に、俺は俺の魔法を䜿うのだ。


    #創䜜倧賞2026