心理職が起業するときに必要な「3つの人格」——起業家・管理者・職人
心理職として独立したり、自分で講座やカウンセリングを始めたりすると、思いがけないことが起こります。
心理の仕事をしたくて起業したはずなのに、気づけば一日の大半を、
メールの返信、申込管理、SNSの更新、ホームページの修正、請求書、資料づくり……
に使っている。
そして夜になって、「今日、私、何してたんだろう?」となる。
私自身、心理職として仕事をしながら事業を運営するようになって7年、この問題には何度もぶつかってきました。
そんな私に「なるほど」と思わせてくれたのが、マイケル・E・ガーバーの『はじめの一歩を踏み出そう』でした。
ガーバーは、事業をする人の中には3つの人格がいると言います。
「起業家」「管理者」「職人」です。
「起業家」「管理者」「職人」の詳細(書籍よりまとめ)
① 起業家 ―「こんなことできたら面白くない?」
未来を見る人格。ビジョンを描き、新しい可能性を発見し、変化を起こす役割。
「こんなサービスを作ったら?」「この領域に展開できるんじゃない?」「3年後にはこういう組織にしたい」と考えるのがこの人。
強みは創造性・構想力・変化を起こす力。一方、強すぎると「あれもやろう!これもやろう!」となって、現場が「誰がやるんじゃい」となる。😂 ガーバーは起業家を、未来に生きる「visionary / dreamer」として描いている。
自分の体験:特に開業初期。このノリが強くて、「やることもっと減らせない?」「思いつくのはいいけど、やるのは大変だよ」等アドバイスを頂きましたとさ・・・
② 管理者 ―「で、それ、どうやって回すの?」
起業家が描いた夢を、現実に回る仕組みに変える人格。
スケジュールを決める、業務フローを作る、役割分担する、マニュアル化する、数字を見る、進捗管理する、人に任せる――こういう仕事。
つまり、
起業家「こんな会社にしたい!」
↓
管理者「じゃあ、この仕組みが必要ですね」
となる。
管理者は秩序・計画・予測可能性を求めるので、起業家が散らかしたものを片づける役でもある。逆に強すぎると、変化を嫌って「今のやり方でいいじゃない」となりやすい。
自分の体験:私には管理者の要素が薄いのです(残念)この役割の強化を他のスタッフや、コンサルの先生にサポートしてもらってる感じです。ここを意識的に強化していくことが必要!
③ 職人 ―「話はいいから、仕事させてくれ」
これがガーバーの議論で特に重要。
職人は実際に価値を提供する専門家。
パン屋ならパンを焼く人。美容院なら髪を切る人。カウンセリング事業ならカウンセリングする人。研修会社なら研修する人。
職人は「ちゃんとした仕事をしたい」「自分でやった方が早い」「任せるより私がやった方が質が高い」と考えやすいそう。
そしてガーバーが問題視するのが、
「専門家として優秀」=「事業経営もうまくできる」
という思い込み(ギクリ)
専門的な仕事ができることと、その専門的な仕事を提供する“事業”を作れることは別物だ、というのが本書の大きな主張(ギクリ)
心理職は「職人」になりやすい
まず「職人」。
心理師でいえば、カウンセリングをする、講座をする、アセスメントをする、資料を作る、といった実務を担う部分です。
私たちは長い時間をかけて、ここを訓練してきました。
大学院で勉強して、資格を取って、研修に行って、スーパービジョンを受ける。
そして一つ資格を取ったら、
「まだ足りないかもしれない」
と、また勉強する。
私もかなりやりましたし、心理職の方は勉強家の方が多いのです。研鑽をしっかり積んでいます!
臨床心理士、公認心理師として働きながら、マインドフルネスや依存症、セルフ・コンパッションなどを学び、トレーニングを受けてきました。ちょっと起業したての頃はトレーニングを受けすぎたくらいです・・・
もちろん、その一つ一つは今の仕事につながっています。(ヨガトレーニングはあんまりいきなかったけど・・)
でも心理職の世界にいると、ときどき、
「もっと勉強すれば、もっと仕事がうまくいく」
と思ってしまうところがあります(ドキリ)
新しい資格を取る。
新しい技法を習う。
さらに研修を受ける。
講座の資料をもっとよくする。
そして気づくと、
職人としてのレベルアップにはものすごく熱心なのに、事業についてや経営はほとんど勉強していない。
私自身にも、思い当たるところがあります(汗)
いい心理職と、いい経営者は別だった
起業してからも、私は普通に「職人」を続けていました。全然疑いもせずに・・・
講座をする。
スライドを作る。
文章を書く。
問い合わせに答える。
告知をする。
申込を確認する。
アンケートをまとめる。
何かあれば、
「まあ、私がやった方が早いか」
となる。これ、なんとか頑張ればできちゃうのです。
一人である程度できるからこそ、やってしまう。
でも仕事が増えてくると、だんだんおかしなことになります。
仕事が増えた。
なのに、全然、楽にならない(笑)。
むしろ仕事が増えるほど、自分が忙しくなる。
そして顧問に言われました。「実際に手を動かしてくれる人を探して!」「経営のサポートが必要だよ!」と。
ここで私は、ガーバーの言っていることが少し分かった気がしました。
専門家として仕事ができることと、その専門的な仕事を提供する「事業」を作れることは、別の能力なのです。
そして、スタッフを募集し、チームを作り、経営のコンサルを月1〜2で受けるようになりました。これがありがたく・・・(涙)なんとか事業を続けられているわけです。
「起業家」の私は、けっこう元気
二つ目は「起業家」。
起業家は未来を見る人です。
「こんな支援があったらいい」
「こういう講座を作ったら面白そう」
「このプログラムを企業向けにもできるかもしれない」
こちらについては、私はあまり困っていませんというか、
というより、むしろアイデアは多動に湧きすぎる(笑)。
何かを見たり、人と話したりすると、
「あ、それ講座にできそう」
「こういう企画おもしろそう」
「このテーマで記事書ける」
と、すぐ思いつく。ひらめく。そして起業家の私が新しい仕事を作り、職人の私がそれを全部引き受ける。
これを繰り返したら、当然忙しくなります。
最近は、起業家に必要なのは「思いつく力」だけではなく、
思いついても、やらない力。ストップをかける力。
なのかもしれないと思っています(汗)。最近は、チームメンバーに相談したりと、即決はしないようになりました。
一番育てる必要があった「管理者」
そして三つ目が「管理者」です。私が一番苦手なやつ。
管理者は、起業家が考えたものを、実際に回る仕組みにする人。
たとえば講座なら、
いつ募集するのか。
申込後に何を送るのか。
教材をどこに置くのか。
問い合わせにはどう対応するのか。
アンケートをどう取るのか。
次のプログラムにどうつなげるのか。
こうしたものを整理し、毎回ゼロから考えなくてもいいようにする。
私はここを、もっと育てる必要があるのだと思います(汗)。
心理職はどうしても、
「いいサービスを提供すること」
に情熱を注ぐ傾向が強いように思います。
でも、「いいものが無理なく回り続ける仕組みを作ること」には、案外時間を使っていないのかもしれません。
私自身、最近は仕事をするとき、「これ、次回もまた私がやるの?」と考えるようになりました。
毎回書いているメールならテンプレートにできないか。
毎回一から作っている資料なら基本形を作れないか。
私でなくてもできる仕事なら、誰かにお願いできないか。
そして、新しい企画を始める前に、
「今あるものをしっかりちゃんと回す方が先じゃない?」
と、一度考える。あるいは、そうアドバイスしてもらう・・
地味です。
新しい資格を取るより、ずっと地味(笑)。
でも事業を続けるには、たぶんこちらの方が重要なのだと思います。
「私が働く」から「仕組みが働く」へ
ガーバーの考え方で、私が特に大事だと思うのが、
事業の中で働くだけではなく、事業そのものに働きかける
という発想です。
目の前の人にいい支援をする。それは心理職として、もちろん大切です。
でも起業したなら、ときどき心理の椅子から立ち上がって、
「この仕事を、私が疲弊しなくても続けられる形にするにはどうしたらいい?」
と考える必要がある・・ということです。
これは、単なる効率化ではないと思っています。支援する人が燃え尽きてしまったら、どんなにいいプログラムでも続きません。しかもわたしは燃え尽きたことがあるのであまり人のこと言えません(汗)
だから仕組みを作ることもまた、長く支援を届けるための仕事なのです。
今の私は、ときどき自分の中の3人に聞いてみるようにしています。
起業家の私には、
「私は、この仕事を通して何を作りたい?」
管理者の私には、
「これ、毎回私がやらなくても回る?」
そして職人の私には、
「本当に私にしかできない仕事は何?」
心理職として起業するということは、専門家であることをやめて、経営者になることではありません。(人によっては経営に専念される方もいるかもしれません)
専門家として大切にしてきたものを、無理なく、長く、必要な人に届けていくために、
「起業家」「管理者」「職人」という3人の自分を育てていく。
そして私の場合はどうやら、
働きすぎる職人には少し休んでもらい、元気すぎる起業家には少し落ち着いてもらい、管理者にもう少し前に出てもらう。
そんな時期に来ているようです。
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