
首末ノ儀について
(提供:歴史研究家)
ある歴史研究家を名乗る人物から、奇妙な資料が送られてきた。
地方民俗を長年調査している方で、江戸時代から現在まで続くとされる儀式
「首末ノ儀」について研究しているという。
今回紹介するのは、その過程で発見された
明治初期の女性「八重」の手記の一部である。
■ 首末ノ儀とは
この地域では、古くから厄除けの儀式が行われている。
その内容は、異様ともいえるものだった。
・人形の頭部を切り離す
・その頭部に目隠しをする
・胴体の前に並べる
・頭を失った胴体に、猿や犬の頭部を取り付ける
それらを、村の境界に置く。
表向きには「厄災を外へ追い出す」ためのものとされている。
現在では、すべて作り物で行われていると記録されている。
■ 八重の手記
以下は、手記を現代語に整理したもの。
明日の夜、首末の支度があると母が言った。
私はまだ見てはいけない年だと言われていたが、
今回は手伝うように言われた。
人形の頭に布をかける役目だという。
目を見てはいけない。
見ると、夜に来るから。
倉から出された人形は、思っていたより重かった。
母は、古いからだと言った。
髪は本物のようで、触れると冷たかった。
村の男たちが人形の首を切った。
刃が入ると、音がした。
木ではない音。
私は布をかけた。
そのとき、顔が少し動いた気がした。
誰にも言わなかった。
胴には猿の頭をつけた。
口が開いていて、歯が見えていた。
誰も、それを見ようとしなかった。
帰るとき、布の下から声がした。
小さく
「まだ」
と。
■ 不明な一文
手記の最後には、意味不明の記述がある。
首は末に置く。
末はまだ来ていない。
■ 人形だったのか
記録上、この儀式は「人形」で行われている。
しかし手記の描写は、それと一致しない。
・異様な重さ
・髪の質感
・切断時の音
どれも木製とは思えない。
■ 現在
この儀式は、形を変えながら現在も続いている。
ただし、
・人形は既製品
・頭部は作り物
とされている。
にもかかわらず、
ひとつだけ変わらない決まりがある。
「目隠しをすること」
理由は、
「昔からそうだから」
■ 作者より
「目を見てはいけない」
この種の禁忌は、民俗の中に数多く存在します。
多くの場合、それは「穢れ」や「恐れ」を避けるための象徴的な行為と解釈されます。
ですが、この手記に限って言えば、少し意味が違うように感じられました。
目隠しは、向こうから見えないようにするためではなく、
こちらが“見てしまうこと”を防ぐためのものではないか。
もしそうだとすると、この儀式は「追い出す」ためのものではなく、“まだ来ていない何か”と、すでに接触している状態を保ち続けるための手順だった可能性があります。
首末ノ儀。
首は末に置かれる。
そしてその末は、いまもなお到達していない。
にもかかわらず、そこに置かれたものだけは、先に存在している。
この話のような「条件が揃ったときに成立する怪異」をカクヨムにて連載しています。
・名前を呼ぶだけで成立するもの
・人数が揃うことで完成するもの
・見た時点で関わってしまうもの
違和感を覚えた方は、続きも読まない方がいいかもしれません。
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