
【不思議な話】胎内記憶
あの時のことは、今でも鮮やかに思い出すことができる。
それは、どこまでも深く、温かな静寂の中にいた時の記憶だ。
周りは濃い暗闇に包まれていて、音さえも遠く、柔らかな膜を通した残響のように響いている……そんな場所。私はそこで、じっと「その時」を待っていた。
意識は驚くほどはっきりとしていて、自分がこれからどこへ向かおうとしているのか、直感的に悟っていた。
ふとした瞬間、心の湖に波紋が広がるように、一つの確信が芽生えた。
「ああ、私はもうすぐ生まれるんだ」と。
けれど、それは単なる期待や喜びだけではなかった。
暗闇の中で、私は未来の自分を予見するように、ふとこう思った。
「きっと、これから大変な人生を生きていくんだろうな」
それは諦めというより、これから始まる長い旅路への「覚悟」に近かったのかもしれない。険しい道が待っていると分かっていながら、それでもなお、私は自分の足で一歩を踏み出すことを選んだのだ。
その決意が固まった、まさにその瞬間だった。
視界の先、重い幕が振り落とされたかのように、まばゆいばかりの**「光」**が差し込んできた。
暗闇に慣れていた目を射抜く、強くて、圧倒的な白。
次の瞬間、私はもう、あの静かな場所にはいなかった。
産声とともに、この騒がしくも鮮やかな世界へと解き放たれたのだ。
あの時感じた「大変な人生」という予感。
もしかしたら、その予感があったからこそ、私はどんな荒波の中でも、心のどこかで冷静な自分を保ち続けてこられたのかもしれない。