沖縄一人旅#1 自意識過剰なお一人様の沖縄旅
今度の夏は沖縄に行き、ダイビングをしようと計画していた。専攻医になると休みが取りにくくなることは目に見えているので僕は焦っていた。沖縄に一緒に行ってくれる友人を探したが見つからなかった。どうやら社会人というのは忙しいらしい。僕は一人分の飛行機のチケットと、体験ダイビングの「お一人様歓迎プラン」を予約した。正直に言うと、一人で沖縄に行くことを僕は恥ずかしいと思っている。「夏休みはどこに行くの?」と聞かれるたびに、「友達と沖縄に行きます」と堂々と嘘をついた。一人で沖縄へ行くことが知られたら…考えただけでも恐ろしい。そんな自意識過剰なお一人様が、沖縄を満喫しようと奮闘する3日間を記録しようと思う。
初日
僕は初めて一人で空港に来た。飛行機には何度も乗ったことがあるが、一人で来る空港はなんだか新鮮だった。飛行機が離陸する時の重力を全身で受け、僕は旅が始まった事を実感した。沖縄に着くと、まずはレンタカーショップに向かった。道中でのんびりスタバに寄ってから向かったせいで、受付番号が最終となり、1時間以上待つことになった。待合室ではカップルや家族で来ている客に、おひとり様を蔑むような目でみられている気がしたので、店の外で待機した。外は暑くて汗が止まらなかった。スタバでホットコーヒーを注文した自分を恨んだ。沖縄一人旅、最悪のスタートだ。僕はレンタカーを借りると、すぐ近くのお店で沖縄そばを食べた。30分並んだ割にそこまでの感動はなかった。友達や彼女と来たら、もっと美味しく感じるのだろう。16時からホバーボードとフライボードの体験を予約していた。正直、何なのかよく分かっていないが、勢いだけで予約した。集合場所の海岸へ行くと、日に焼けた肌に足のタトゥーが印象的な女性スタッフが、熱そうな岩の上に座っていた。「〇〇さん?」と聞かれたので、そうですと言った。僕は「マリンスポーツ初心者です」という空気を全身から漂わせていたが、彼女はまったく気にする様子もなく、淡々と案内した。「じゃあそっち行って。サンダルこれ。」いかにもギャルっぽい雰囲気だった。僕はサンダルを履き替えて、海へと向かった。海は澄んではいなかった。沖縄の海はどこも透明で澄んでいるものだと思っていた。男性のインストラクターが僕のところへ来て、簡単なレクチャーをした。ホバーボードは、水圧ジェットで進むボードに立って乗るスポーツ。フライボードは、アイアンマンの足だけ版みたいなものだ。どちらも最初は全くバランスが取れなかったが、3回ほどでなんとなくコツは掴めてきた。あとは恐怖心との戦いなのだが、恐怖心の壁が僕にはどうしても越えられなかった。高い位置から落下し、キンタマを水面に強打した。痛みで恐怖心はさらに増した。僕は大人になって、怖いものを知りすぎてしまった。どんな落ち方をしても絶対に大丈夫という安心感があれば、僕だってすぐに上手く飛べるようになるのに。高校時代のスポーツテストの順位は下から数えた方が早かったのだが、運動神経に関しては妙なプライドがあった。運動音痴と言われるとムキになって反発してしまう。インストラクターに「初めてにしては上手いじゃないっすか」と褒められた時は、お世辞とは分かっていても嬉しかった。「まあ、バランス感覚はいい方なんで!」と自信満々に答えた。あまり口コミがよくなかったお店だったので不安はあったが、体験自体はとても楽しかった。最近マーベル作品にハマっているので、擬似アイアンマン体験ができたのも良かった。でももう一度やることはないと思う。だってキンタマが痛くなるから。
夜は沖縄のジャングルを歩いて回るツアーに参加した。当日予約だったのだが、すんなり予約できた。90分くらいかけて殆ど道の整備されていない本物のジャングルを練り歩くというものだ。今回も『人生経験』という意識高い系の人が大好きな言葉を思い浮かべながら、勢いで予約した。集合場所に行って受付を済ますと、僕は隅の方にあるベンチに腰掛けて携帯を眺めていた。参加者は家族連れの6人組と大学生と思われる女子2人組と僕だけのようだった。一人が際立つ。インストラクターの女性はとても愛想良く振る舞っており、一人客の僕にも積極的に話しかけてくれた。明るい女の子に優しくされると、すぐに好きになってしまうのが陰キャの性である。参加者が集められ、あらゆる危険についての説明を受け、免責同意書を記入した。崖のすぐ近くを歩くし、道が整備されていないので足場も悪い。ハブなどの毒蛇に遭遇する可能性もある。僕は無邪気に騒ぐ小学生くらいの子どもたちの声を聞きながら、「プロが案内しているんだから大丈夫だ」と何度も自分に言い聞かせていた。ツアー中はインストラクターが、珍しい生き物や植物の説明をしてくれた。大学生の女子二人組は、トカゲや蛾を見つけて「カワイイ!」とはしゃいでいた。とんでもない価値観だ。僕はちっちゃなコオロギが皮膚に触れただけで、「うわ、キモ!」と叫んでしまった。これは虫が嫌いな人が参加するツアーではない。思わずキモ!と言ってしまった時は流石に反省した。虫が平気なフリをしなければ。勇敢な大学生の女子二人組は、足場の悪い道も後ろを置き去りにしてスタスタと進んでいった。虫に怯えながら、足を踏み外さないように慎重に丁寧に歩いていた僕は、なんとも情けない気持ちになった。ツアーが終わると、僕はインストラクターにお礼を言い、そそくさとホテルに帰った。体験にはとても満足した。退屈な日常に必要なのは、危険を伴うような刺激的な体験だなとしみじみと感じた。ただ、今回のツアーで『危険』を感じていたのは、僕だけみたいだ。
