
未踏の道㊵|終章 道は、歩いたあとにできる
空には、道がない。
それでも鳥は、
季節が来ると空を渡っていく。
誰かが線を引いたわけでもなく、
標識があるわけでもない。
それでも鳥は、
目に見えない道を知っているかのように、
次の場所へ向かっていく。
人の生きる道も、
きっとそれに似ている。
最初から、
道が見えているわけではない。
どちらへ進めばよいのか。
何を選べばよいのか。
どこへ辿り着くのか。
本当のところ、
誰にも分からない。
だから人は迷う。
選択に悩み、
同じことを繰り返し、
時に立ち止まり、
自分の弱さと向き合う。
正しさを求めても、
その正しさが人を傷つけることがある。
上を目指しても、
その先に孤独が待っていることがある。
信頼を守ろうとしても、
小さな誤魔化しが、
静かに自分の基準を曇らせることがある。
苦しみを乗り越えたつもりでも、
ただ消化しただけで、
まだ昇華されていないものが、
形を変えて現れることもある。
だが――
それでも人は歩いていく。
なぜなら、
歩き続ける中でしか、
見えないものがあるからだ。
選択とは、
正しい道を当てることではない。
選んだ道を、
自分のものとして引き受けることである。
成長とは、
誰かより高い場所へ行くことではない。
今日から明日へと、
昨日の自分を、
少しずつ超えていくことである。
チョモランマとは、
遠くにある山ではない。
自分の中にある、
まだ辿り着いていない境地である。
カルマとは、
変えられない運命ではない。
気づかぬ限り繰り返され、
気づいた瞬間から書き換えられていく、
自分の内側にある流れである。
品性とは、
人に見せるための飾りではない。
誰も見ていない場所で、
自分の基準を守り続ける静かな力である。
そして昇華とは、
起きた出来事を美しく語ることではない。
その出来事の中に意味を見出し、
次の選択へ変えていくことである。
嫌な過去も。
辛い過去も。
昇華された時、
それは「忘れたい記憶」ではなく、
自分を深くしてくれた“思い出”へと変わっていく。
この道に、完成はない。
辿り着いたと思えば、
また新しい問いが現れる。
越えたと思えば、
また別の山が見えてくる。
書き換えたと思えば、
また新たな繰り返しが始まる。
それはまるで、
万華鏡の模様が、
光の角度によって静かに姿を変えていくようでもある。
同じ欠片でできているのに、
見え方は、二度と同じにならない。
それでも――
それは後退ではない。
問いを重ねるたびに、
人は少しずつ、
自分自身を深めているのである。
未踏の道とは、
誰も歩いたことのない特別な道ではない。
それは、
自分自身がまだ歩いていない道である。
誰かが通った道は、
安心できるように見える。
だが――
同じ道を歩いたとしても、
同じ場所へ辿り着けるとは限らない。
時代も違う。
環境も違う。
背負っているものも違う。
見えている景色も、
抱えている苦しみも、
人それぞれ異なっている。
だから結局、
人は自分の足で、
自分の道を歩くしかないのである。
迷ってもいい。
立ち止まってもいい。
間違えてもいい。
外れてもいい。
ただ――
問いを手放してはいけない。
自分は何を選ぶのか。
何を繰り返しているのか。
何を守りたいのか。
何を昇華していくのか。
その問いを持ち続ける限り、
人はまだ、道の途中にいる。
そして道とは、
最初から用意されているものではない。
歩いたあとに、
初めてそこへ現れるものである。
振り返った時、
迷いも、苦しみも、選択も、沈黙も、
すべてが一つへ繋がっていたことに気づく。
その時、人はようやく知るのかもしれない。
未踏の道とは、
どこか遠くにある道ではなかった。
今日、自分が選び、
今日、自分が歩き出す、
その一歩の中にあったのだと。
空には、道がない。
それでも鳥は、
季節が来ると空を渡っていく。
人もまた、
見えない道を、
手探りで進んでいく。
誰も答えを知らない。
だからこそ――
歩く意味がある。
それが、
未踏の道である。
* * *
ー旅の終わりにー
最後まで『未踏の道』をお読みいただき、ありがとうございました。
この物語の中で語られてきた出来事や問いは、
特別な誰かの人生ではありません。
私自身が迷い、
立ち止まり、
選び直してきた道でもあり、
同時に、
誰もが人生のどこかで出会う問いでもあります。
本書を通して、
皆さまにも一緒に『未踏の道』を歩いていただけたなら幸いです。
正しさに悩み、
選択に迷い、
成長を願い、
過去と向き合いながら、
自分だけの答えを探す旅です。
もし、この中の一つでも、
ご自身の人生と重なる問いがあったなら。
もし、この中の一節でも、
次の一歩を考えるきっかけになったなら。
それ以上に嬉しいことはありません。
人生に完成はありません。
だからこそ、
私たちは今日も問い続けます。
迷いながら。
立ち止まりながら。
それでも前を向きながら。
この『未踏の道』での旅が、
皆さま自身の人生を歩む上で、
小さな灯火となれば幸いです。
心より感謝を込めて。
Kei
「未到の道」はこちらから
未到の道①|序章 空には、道がない