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虹色の石【創作】

    財布野紐ゆるみ

    山の奥の奥深く、誰も踏み入れない苔むした洞窟の奥に、その石は静かに横たわっていた。

    ──「虹色の石」の伝説。

    それに触れ、願いをささやけば、どのような望みも叶う。
    多くの者がその石を探したが、心から求めなければその姿は人には見せないという。

    村人はこの石の伝説を長年の間、祈りとともに語り継いできた。

    * * *

    さてここに、ひとりの探検家──いや、正確には盗賊が、石を求めて、山に分け入っていた。

    男は名もなく、顔に深い傷を負った醜悪な容貌のため、幼い頃から人々に疎まれた。
    力を得ようと盗みを重ね、財を奪い、命さえ奪った。
    裏切りと血のみで道を切り開いてきた彼に、もはや逃げ帰る道はない。

    追手に捕まれば処刑は免れない。
    そんな男が最後にすがったのが、この「虹色の石」の伝説だった。

    何日も山道をさまよい、岩を削り、危険な谷を越え、ついにその光景にたどり着いた。

    石は七色に輝き、触れるだけで微かに温かい。光の輪が周囲の岩肌に反射して、世界そのものが揺らめいているかのようだった。

    「これが……虹色の石か。」

    盗賊は、己の醜い顔を思った。追手にばれたら命はない。
    願いが叶うのなら、望みはこれしかない──。

    「……どうか、俺のこの顔を変えてくれ。」

    石の光が一瞬まばゆく強まり、盗賊の体を柔らかく包んだ。胸の奥で何かが弾けるような感覚が走る。

    興奮と恐怖が入り混じる感覚とともに、盗賊はついさっき通り過ぎた、鏡のように澄んだ泉に向かい歩を進めた。

    そして、顔を映した。
    期待と不安が一瞬、彼の胸を打つ。

    ……何も、変わっていない。

    長年見慣れた、自分の顔が映っているだけだった。

    そのとき、狼狽した盗賊は足を滑らせ、泉に転げ落ちてしまう。

    水は冷たく、もがく腕のまわりに泡が立つ。
    意識が途絶える前に、必死で水面を掴もうとする。
    しかしその手は何も触れることはできない。

    必死にあげていたその水しぶきも、しばらくすると次第に小さくなる。彼の最後のひとかきは水面にすら届かず、暗い水底にその体は沈んでいった。

    * * *

    やがて洞窟には、再び静寂が戻った。
    あれから、どれくらいの時間が経っていただろうか。

    泉の水面には、名もなき盗賊の亡骸が浮かんでいた。

    目は飛び出し、頬は水膨れで変形している。
    その顔からは、もはや誰であったかを判別することはできなかった。

    ただ、石の光だけが微かに揺れ、七色の輪郭を残して静かに灯っていた。

    七色の輝きは、洞窟の奥でいまも静かに脈打っている。
    次にここへ辿り着く者がいるかどうかは分からない。

    ただ石だけが、変わらずに待ち続けていた。


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