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世界を描くあなたへ【創作】

    財布野紐ゆるみ

    体育館の壇上から見下ろすと、広がるのは一面の顔、顔、顔。

    先生方、保護者、そして生徒たち。──あたりまえのように三年間を共に過ごした「みんな」が、今は別れを惜しむ眼差しでこちらを見上げている。

    ──でも、私の言葉は、あの子にだけ向けられている。

    「私たちは今日、ここを卒業します。」

    マイクを通して少し硬く響く声。

    頭の中には、夜遅くまで机に向かい、誰も寝静まった時間に小さな明かりの下で描き続ける妹の姿が浮かぶ。

    ある夜、親があの子のサークル活動に口を出して叱ったことがあった。でも、私には、妹の才能が、意気込みが、ただの趣味や遊びだとは思えない。

    確かに、私のほうが成績はほんの少しは上だったかもしれない。
    でも、双子として比較されることも多い中で、彼女が真剣に描く姿は、誰よりも尊い努力として映っていた。

    「アニメーターになる」──その一言で、親をどれだけ困らせたか。

    将来性がどうとか、収入がどうとか、現実を並べ立てて反対されても、あの子は決して筆を置かなかった。

    私は息を吸い、マイクの前で告げる。

    「ここから先は、簡単な道ばかりではありません。」

    ほんの一瞬、会場が静まりかえった気がした。でも、続ける。

    「けれども、挑戦しなければ見えない景色があります。」

    あの子の未来は、まだ輪郭もおぼろげで、親としては心配しかないだろう。

    でも、姉としてはわかっている。あの夜更けの線の一本一本が、どれほど強い願いから生まれたものなのか。小さな背中にどれだけの覚悟を背負っているのかを。

    だから、今日ここで伝えたかった。

    「泣いてもいい。迷ってもいい。でも、踏み出すその勇気だけは、どうか忘れないで。」

    目の端に映る妹は、涙をこらえながら、まっすぐこちらを見上げていた。

    ──届いた。胸の奥にじんわりとあたたかいものが広がる。少し息をついたとき、私の肩の力も、ふっと抜けていった。

    卒業式の空気が、泣いてもいいんだよ、と背中を押してくれている。
    私もまた、この瞬間、姉として妹を送り出す覚悟を、そっと自分の中で固めた。

    「みんな、ありがとう。」

    最後にそう言って頭を下げたとき、心の中ではただ一人に向けて、こう続けていた。

    ──さあ、一歩前へ。自分の手で、世界を描いていくあなたへ。

    会場のざわめきのずっと向こうまで。
    あの子の未来が広がっているのを感じながら。


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