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灯台と剣【創作】

    財布野紐ゆるみ

    「灯台守なんて、光を点けるだけだろう?」
    エリオットは岸辺で腕を組み、石造りの灯台を見上げながら口を開いた。
    その誇り高き騎士の鎧は、月光を弾き輝いていた。

    階段に腰を下ろしていたルカは、油染みのついた上着の裾で潮風を払うと、目を細めて応える。
    「ただ照らすだけじゃない。波や風を読み、命の航路を描く。
     ──そっちの剣こそ、壊すためだけの野蛮な道具じゃないか。」

    ふたりの視線がぶつかり、しばし沈黙が流れた。

    代々灯台守の家に生まれ、伝統を重んじるルカ。
    そして、若くして野心を胸に小隊長となったエリオット。
    長い付き合いの悪友同士でも、年月をかけても分かり合えないものがあった。

    ──そのとき、遠く沖で火柱が立ち上るのが見えた。
    夜を裂くように燃える炎。港の北で、船が赤い炎の狼煙を上げている。

    「……同胞の船が追われてる。」
    ルカが立ち上がる。

    「行くぞ!」
    エリオットは即座に振り返り、後方の騎士たちへ号令を飛ばした。

    だが、その背にルカが声をかけた。
    「待ってくれ。──考えがある。」

    * * *

    闇の中、小艇を囲む賊船。その前に立ち塞がるエリオットたち。
    船から距離を測るように、盾を構え、剣を抜く。

    そして。

    鋼と鋼がぶつかる音、砕ける波しぶき、緊迫した息づかい。

    ──その上空では、灯台の光が瞬き始めた。

    ルカは遮光板を操り、光を三度強く放つと、すぐに再び暗闇へ沈める。
    エリオットは彼の言葉を思い出す。

    『右に流れる潮を使え』

    エリオットは叫んだ。
    「潮に乗れ! 舵を右だ!」
    夜の海では、叫び声は水面を伝ってよく響いた。

    仲間の船が波に押されて動き出す。敵の囲みが緩む。

    さらにルカは、光を一瞬完全に遮った。
    闇が訪れ、敵船の動きが一瞬鈍る。
    その間隙を突いて、エリオットたちは前線を押し上げた。

    「今だ、抜けろ!」

    その隙に、エリオットたちは波打ち際の防衛線を広げ、仲間の船が安全な水路へと逃れる道を切り開いた。

    * * *

    戦いが終わり、静かな波が砂を撫でていた。
    夜明けの兆しが東の空を淡く染め、海風は血と鉄の匂いを吹き払っていく。

    灯台のふもとで、泥と血にまみれたエリオットが荒い呼吸を整える。その傍らに、いつの間にかルカが降りてきていた。

    「エリオット、うまくやったな。」
    ルカが口を開いた。
    「……見誤っていた。剣は、壊すためのものじゃない。守るためにもある。」

    エリオットは少し驚いたように彼を見て、それから頷いた。
    「そうさ、ルカ。──そして灯台守も、ただ光を照らすだけじゃない。お前の判断と技術がなければ、誰も戻れなかった。」

    二人は、互いをまっすぐに見た。戦いの夜を越え、そこには争いではなく、確かな信頼が残っていた。

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