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洞穴と小鳥【創作】

    財布野紐ゆるみ

    山の天気は気まぐれだ。晴れていた空が急に曇り、雷が鳴り、雨が斜めに降りつけてきた。

    小さな小鳥は羽を濡らしながら、必死に羽ばたき、山の中腹にある洞穴に逃げ込んだ。洞穴は冷たく暗かったが、雨をしのげるだけでもありがたかった。

    * * *

    しかし、安心したのも束の間、重たい足音が近づいてきた。

    旅人だ。
    背を丸め、外套を濡らしながら、洞穴の中へと滑り込んでくる。

    小鳥の心臓は早鐘を打つ。人間──それは大きくて、乱暴で、時に命を奪う生き物。狭い空間では逃げ場もない。

    旅人は小鳥に気づいた。互いに目が合った一瞬、小鳥は身をすくめる。
    羽をたたんで、岩陰にじっと縮こまった。

    だが、旅人は何も言わず、洞穴の隅に腰を下ろすと、濡れた外套を少し広げ、ぽとりとパンのかけらを落とした。

    小鳥は動けなかった。ただ、旅人の様子をじっと見ていた。

    男は火打ち石でカチ、カチと火を起こし、小さな灯りをともした。
    火は音もなく揺れ、微かな温もりが、じんわりと冷えた洞穴に広がっていく。

    「寒いだろう。」

    旅人が低い声でつぶやいた。誰に向けた言葉かわからなかったが、その声は不思議と優しかった。

    小鳥は恐る恐る、一歩、また一歩とパンくずに近づき、ついばむ。
    旅人はただ目を細め、手を伸ばすことはなかった。

    沈黙の中。
    時折、火のはぜる音だけが洞穴の中に響いていた。

    * * *

    しばらくして雨はやみ、森に靄が立ちこめた。小鳥は羽をふるわせ、洞穴の入り口へ向かう。旅人も立ち上がり、背中の荷を整える。

    小鳥は最後に一度、旅人を振り返った。旅人もまた、小鳥を見つめた。

    何も言わずに、ただ、ひとつ頷いた。
    それは言葉のいらない挨拶だった。

    小鳥は空へ。旅人は山道へ。
    それぞれの旅路へ戻っていく。

    小鳥は思った。

    ──あれは、本当に人間だったのかな。
    似てはいるけれど、どこか違う生き物だったのかもしれない。
    嵐とともに現れて、火とともに去った...…。不思議な生き物。

    空の彼方、雲の切れ間から、一筋の光が差していた。

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