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休み、気ままに、ひとり旅【創作】

    財布野紐ゆるみ

    切符を片手に電車へ乗り込む。隣の席には誰もいない。
    そのことが、こんなにも胸を軽くするなんて、前は思いもしなかった。

    友達と行く旅行は、にぎやかで楽しい。
    写真を撮って、笑って、わいわい話して。
    帰りには、お土産物を一緒に選んで...…。

    だけど私は、少しだけ配慮しすぎる性格らしい。

    「どこ行きたい?」と聞かれれば、「どこでもいいよ」と答えてしまう。

    本当は食べたいものがあっても、口に出せずに話が流れる。
    美味しいものを半分こするときも、少しでも大きさが違えば、大きい方を相手に譲ってしまう。

    気を使うのが癖になっていて、いつのまにか心が疲れてしまう。

    でも、ひとりだと、そんな遠慮はいらない。

    気まぐれで途中下車して、川沿いを散歩するのもいい。頬をなでる風を、きらきら揺れる水面を、ただ眺めていられる。

    小さな喫茶店を見つけて、知らないおじいさんが焼いたケーキを食べるのもいい。人が少ない、静かで懐かしい匂いのする空間でゆっくりできる。

    地図を片手に迷い込んで、路地裏で猫に出会うのも。全部私だけの時間。
    自由って、こんなに心地いいんだ。

    * * *

    この日は、タクシーを使って、観光地である滝の前にきていた。

    大迫力で落ちてゆく水と、どうどうという激しい音。
    しぶきに見入る至高の時間を体感していた。

    ──写真を撮りたいな。

    少し離れて、滝に対してスマホを向ける。
    細かいアングルを調整していると、声をかけられた。

    「よかったら、滝をバックに1枚撮りましょうか?」

    この旅ではじめて誰かに話しかけられ、少し戸惑う。
    私よりほんの少し年齢が上とおぼしき、お姉さんだった。

    「急にごめんね。ひとりだから、私も撮ってもらいたくて。」

    そういうことならと、私たちはお互いのスマホで、滝と一緒にうつる自分の姿の写真を撮りあった。

    カメラアプリでシャッターをきるとき。お相手の笑顔を前に、少し指が震えたのは、滝のしぶきのせいだったろうか。

    その後、私たちは特に何もなくお礼を言ってさよならした。
    たしかに、ひとりでは「自分の写真」を撮るのは難しい。

    ふと、友達と旅行に行ったときの、笑い合う声が耳の奥でよみがえる。
    滝の方を何度か振り返りながら、私はその場を後にした。

    * * *

    帰りの新幹線で、私はご当地の駅弁を食べながら考えていた。

    ──やっぱり、どちらもいいんだ。

    ひとりで気楽に歩く旅も、誰かと肩を並べる旅も。
    自分だけで楽しめる自由な空間も、誰かと道中の出来事を分かち合う瞬間も。

    最終日の今日、友人ひとりひとりに別々のお土産を選ぶのに時間がかかって、行きたい場所をひとつ逃してしまったけれど。

    「また次は、みんなと来ようかな。きれいな景色も、ひとりで見るのは少しもったいないみたい。」

    窓の外の景色を眺めながら、私は心地よい疲れとともにゆっくりと目を閉じる。風の匂いや滝の音が、まだ胸の奥で静かに揺れていた。


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