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来なかった夜のサンタ【三題噺】

    財布野紐ゆるみ

    あなたは、誰なの? どうしてここに?

    サンタクロースだよ。見ればわかるだろう。わしに「来てほしい」と願っただろう?

    別に、願ってないわよ。

    昔は、来てほしかったはずだ。

    小さい頃はそうだったかも。それで、今さら、プレゼントを渡しに来たってわけ?

    子どものころ願ったプレゼントを、今もらってもしようがない、そんな顔をしているな。わしは、物を与えに来たわけではないんだよ。

    何かくれるわけでもないのに、勝手に人の夢の中に出てきたんだ。

    まあ、聞きなさい。話を聞かずに突っ走るのは、お前さんの昔からの悪い癖だよ。わしは、見に来たんだ。子どものころに信じられなかったサンタという役割を、お前さんが今どう思っているかをな。

    ……そんなこと聞かれても、あの頃と変わりないわ。サンタはいてもいいと思うけど、実際いないし、いなくても別に困らないわ。

    むう……。しかしわしは、ここにおるでな。

    いてもいいけど、いなくてもいいってこと。さっさと、他の子どもたちに夢でも何でも配ってきたらどうなの。ここは、もういいからさ。

    子どもにプレゼントを配る役目のサンタは、別におる。わしは「来なかった夜」のほうを引き受けとる。お前さんは、なぜ、サンタを信じられなかった?

    ……サンタは、私にとってのサンタは、お父さんよ。小さいころに死んだもん。もういない。

    しかし、そのあと新しいお父さんが現れたではないか? そのときも、サンタを信じようとはしなかったな。

    あれは……お父さんじゃないわ。お母さんのパートナーというだけで、私にとっては、別に。

    いつも気にかけてくれておるし、優しいのではないのか?

    うるさいわね。せっかくのクリスマスに、説教なんていらないわよ。あんたに何がわかるのよ。

    わかるさ、わかるとも。いいかい。人はな、何かを信じるか、壊すか、演じるか──だいたいそのみっつで生きとる。

    ……。

    休日にいつも人の多い場所に出かけるのも、ひとりのときにたらふく食べて腹を満たすのも。寂しさを埋めるためだってことを、わしはわかっとる。

    ……くだらないこと、よく知ってるわね。

    サンタの役目をする者がどこにもいない。だから、わしはやってきた。「区切り」をつけるためにだ。

    いったい、何に?

    お前さんの心、とでも言おうかな。まず、サンタはいる。信じる信じないという話でなく、目の前におるだろ。そして、サンタを演じてくれる者も、お前さんにはいるはずだ。

    ……お前さん、お前さんって。私にだってちゃんと名前が……。

    名前はわかっとるよ。でも、わしはその名前を呼ぶ「役割」ではないでな。あえて呼んどらんだけだ。

    あんたは、誰なのよ……。

    サンタだというのに。ま、もし目が覚めて覚えていても、簡単には信じないだろうな。でも、なぜこんな夢を見ていたんだろう、と考えてみてくれれば、わしも来た意味がある。そろそろ、時計の針が0時を差す。お別れだよ、お前さん。

    ちょっと待ってよ。まだ話は……。

    * * *

    ぱち、と境界の夜が明けて、目が開く。

    時計の鳴る音がする。夢の中の、サンタの顔はよく見えなかった。

    キッチンのテーブルには、中華料理店の冷たくなった紙袋。油の匂いが、まだ少し残っている。注文したか、記憶は曖昧だ。レシートには、23:58の時刻が印字されていた。

    スマホには一件の通知。母のパートナーからだった。普段は、ただ既読無視するだけ。
    スマホをきゅっと握りしめる。

    枕元に、プレゼントがあるわけでもない。

    サンタなんて、いないのに。

    誰かがサンタを信じて待つ姿なんて、見たこともない。けれど、サンタなんていないと吹聴する子どもも、当時周りにはいなかった。

    サンタを信じる人。否定する人。演じる人。
    子どものころはどれでもなかった。

    私はもう一度、スマホの画面を開き、息を吸った。
    寝起きに、こんなに頭がすっきりしているのも珍しい。

    返信欄に、短い言葉を消しては、並べる。

    「メリークリスマス」

    それだけ打って、送信した。



    ※以下の企画に参加させていただきました。

    《今週の三題噺》
    1.サンタクロース
    2.時計の針
    3.中華料理店

    ヤスシ さまの記事より引用


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