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黒子たちの舞台【せりふ三題噺 / いちごオレスポーツ黒子】

    財布野紐ゆるみ

    体育館の舞台袖は、うす暗い。すき間から、ステージの光がこぼれている。
    その明るさが、こちらの埃をきらきらと照らしていた。

    「──やばい、あと二十分。」

    書記担当のテツが泣きそうな声で言った。

    「しっ! 声出しちゃダメよ。あんたは声が大きいんだから。」

    会計担当のリエが注意する。

    「わかってるけどさぁ。合唱部なんだからしょうがないだろ。」

    がさがさ……くしゃっ。

    「うーん、やっぱ音を立てずに、急いで作るのはちょっと無理があるな。時間もないし。」

    雑務担当のサトルが冷静に言った。

    音羽小学校生徒会の演劇で、彼ら三人は裏方を任されていた。演劇「きょうりゅうのたまご」の小道具として必要な、たまごを新聞紙で延々製作するのが使命だ。

    舞台上では、主役たちのセリフ合わせが続いている。うるさくして邪魔をすることは許されない。しかし、音を立てないようにしても、新聞の繊維は容赦なく鳴る。

    その声にかぶらぬよう、三人は呼吸の音まで小さくした。

    「書記って、もっとペンを使う仕事じゃなかった? こんなことばっかりやらされてるぞ。」

    「会計もいっしょよ、お金をさわることなんてないし。これなら生徒会じゃなくて、運動系のクラブで何かスポーツをやっていればよかったわ。」

    「きみたち、文句を言わずに手を動かしたまえ。」

    サトルが偉そうに口を挟んだ。

    「あのね。」

    あきれ顔でリエが言う。

    「頭数が揃わないからって、生徒会に入るよう誘ったのはサトルでしょ。」

    「そうだぞ。」

    テツも同調した。

    「ぼくは、入ってほしいと頼んだだけだよ。それに報酬として、ふたりにはいちごオレとコーヒー牛乳を支払っているはずだ。」

    そして再び、声を出せない三人の黒子たちは、無言のまま手を動かしはじめる。

    そのとき、舞台の上から、ピアノのイントロが聞こえた。

    ──劇中歌のリハだ。

    気づいたサトルが、テツに耳打ちした。

    「ねえ、合唱部。劇のテーマ曲、何度も聞いたから覚えてるよね? 歌が始まったら大声で歌って。」

    「ええ、やだよ。なんだい急に。」

    いやがるテツ。リエも、はっとしてサトルにあわせた。

    「わたしからもお願い。……あんただけじゃなくて、みんなで歌うわよ。」

    サトルは、にやりと笑った。

    「ええ? なんで?」

    テツは眉をひそめる。
    間もなく、歌が始まる。

    「いいから! わたしが頼んでんのよ。他に理由が必要?」

    リエが言い切る。テツは、大きく息を吸った。そして、伴奏に合わせて声を出す。

    「♪たまごのなかで まってるよ──……」
    新聞紙を丸める手も、リズムを刻む。

    「♪むかしむかーしの せかいから──……」
    リエとサトルも大声でテツに続き、新聞紙作業を続ける。

    三人は、歌声を合わせた。

    「あんたも、歌いながら作んなさい。」

    リエが小声で叫ぶ。ようやくテツがふたりの意図に気付き、急いで作業にかかる。

    舞台でも、演者たちはこの歌を歌う。しかし、新聞紙のがさがさ音をかき消すためには、袖でもかなりの声をあげる必要があった。

    歌が終わるまでの間に、新聞紙は次々と丸められ、テープで留められる。急ピッチで、たまごはできあがっていった。

    歌の間、手を止める者はいない。

    歌が終わるころには、段ボールいっぱいの「きょうりゅうのたまご」が並んでいた。

    「……あー、つかれた。」

    喉をおさえて言うリエの言葉に、サトルが続く。

    「あれだけ声を出したら、新聞紙の音は舞台まで聞こえなかっただろうな。ふたりとも、ありがとう。」

    「……裏方も、悪くないね。」

    テツがつぶやいた。

    その声が、ちょっとだけ誇らしげで、ちょっとだけ笑っている。

    ステージの光の当たらない場所で、声を出す。
    その瞬間だけは、まるで袖が舞台になっていたような気がした。


    ※以下の企画に参加させていただきました。


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