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鉄塔の祈り【創作】

    財布野紐ゆるみ

    かつてその町には、人々でにぎわうテーマパークがあった。
    そしてそのテーマパークには、中央に大きな鉄塔を構えていた。
    ずっしりと、誇るように、その姿を見せつけていた。
    ──そう、あのときまでは。

    現在の鉄塔は、その原型こそとどめているものの、中央部分は吹き飛び跡形もない。

    鉄塔の上下を行き来する、階段もはしごも、もう残っていなかった。

    あの日も、いつもと同じように鉄塔の上部にはたくさんの客の姿があった。
    上部にいる人々は、あの瞬間から、取り残されて地上の世界とは隔絶されてしまったのだ。

    激しい閃光と、遅れて届く爆音。そして衝撃波……。
    何が起こったのか、鉄塔の上にいた者たちには知るすべもなかった。

    泣く者もいただろう。怒鳴る者もいただろう。祈る者もいたかもしれない。
    しかしその頃、地上の人々も、鉄塔のことを気にかけている場合ではなかった。自分たちの身の振り方を考えるので精いっぱいだった。

    ──それから、1か月の時がたっていた。

    まだまだ町には人の生活の気配が戻りそうにもない。
    しかし、周辺地域からの支援で、最低限の食料・物資は確保できつつある状況となっていた。

    そのころから。
    鉄塔から歌声が聞こえてくるようになった。

    美しい、歌声だった。
    歌っているのは女性だろうか。
    それとも子供?

    いずれにせよ、この荒廃した風景に似つかわしくない、清らかな旋律が塔上部から降り注いでいた。
    それは祈るように、訴えかけるようにも聞こえた。
    そして、私はここにいるという叫びにも似た、悲痛な響きを含んでいるようだった。

    1か月もの長い間。

    鉄塔内上部に残った、数少ない設備。
    そして、わずかな食料。

    残された者たちで、どういうやりとりがあったのだろう。
    鉄塔の下にいる者たちには、想像を働かせるよりなかった。

    この町にそびえたつその黒鉄は、もはや
    かつての栄華を象徴する遺物となっている。

    地上の情報が入ってこない恐怖と、
    誰かが助けにくるかもしれない、という微かな希望の中。

    ──澄んだ歌声は、確かにそこに響きわたっていた。


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