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十人分の予約【創作】

    財布野紐ゆるみ

    今日は休み。天気は晴れ。寝起きもついでに絶好調。

    ブランクがあるから、いきなりフルタイムでの勤務は厳しいと思って、週三でのパートにしたけど。……なかなかうまくやれてんじゃん、私。

    洗濯機を回して、伸びをする。

    しばらくスマホは裏返しにしておく。その間も、未読メールは積まれていくだろう。でも、休みの日は基本的に見ないようにしていた。

    はあ~、今日予定の懇親会。お店見つかって本当によかった。県外から偉い先生が来るっていうんで急いで探したけど……そんなに候補がないし、近辺詳しくないからどうしようかと思っちゃった。

    私は出勤日じゃないし、下っ端だから行かないけど、みんな楽しんでくれるといいな。

    * * *

    ひとりは思った。
    せっかく地方来たし、魚かな。

    もうひとりは思った。
    一日長かった~。みんな会議好きすぎだろ。二次会は勘弁!

    さらに別のひとりは思った。
    名刺交換の流れとかあるか? 名刺持ってくんの忘れたけど。

    またまた別のひとり。
    地酒の飲み放題コースとかついてるとうれしいんだけどな……。

    それぞれの小さな期待。主催に案内されるがまま、後ろをついていく人々。

    懇親会の会場は、駅からすぐ近くだった。

    * * *

    よしよし、あの新人の子もちゃんとやってくれてるな。共有カレンダーにきちんと予定が入っている。それも絵文字つきで。

    懇親会。

    店名は「はらたま」、予約時間は「十九時」、予約人数は「十人」と書かれている。ご丁寧に、予約者の名前や現地までの乗換案内も入っていた。

    抜け漏れチェック完了。

    方向音痴だから迷うのを心配していたが、まあ、ややこしいルートじゃないから大丈夫そうだな。

    ……そういえば、予約番号は書いてなかったな。

    一瞬、頭をよぎる。でももう移動中だ。

    そして自分を説得する。いや、そこまでは普通確認しない。到着時間がずれそうとあれば店に電話するけど、ちょうどいい時分に着けそうだ。

    * * *

    「えっ!? どういうことですか。」

    その声を受けて、男はPCをちらと見ながら。ああ、またこれか。と思った。ため息が漏れそうになるのを、なんとかこらえる。

    書いてるんだよなあ……。ちゃんと。

    赤字。太字。自動メールは二通送付済み。なのに、来店して揉める人は後を絶たない。サイトにも、店頭にも。「予約確認の返信必須」。そう書かれていた。

    「予約自体はありましたよ。」

    これまでに何度したかわからない説明を、今宵も繰り返した。

    「ですが、メールの返信確認が取れませんでしたので……。」

    そうなると、自動キャンセル。予約は「はじめから」なかったことにされてしまう。

    十人分の、重い沈黙が落ちる。この時期、外を吹く風は冷たくない。だからこそ、この先を思うとその生ぬるい風がこたえた。

    「今から急に、は入れないですよね……?」
    「見ての通り、ほぼ満席状態なんで、十人はとても。すみませんが……。」

    * * *

    包丁を拭きながら、手持ち無沙汰な感をごまかしていた。夕方から、何度繰り返しただろう。

    また向こう、満席かよ。

    SNSだよなあ結局。絶対うちの刺身のほうがいいと思うんだけどな。自信ある。十人いれば十人、「こっちの方がうまい」って言わせる自信が。

    ぼやくのはよくないって、わかってんだけどな。

    冷蔵庫を開け、仕込み見直す。在庫。仕入れ。浮かぶのは売上の数字と、経費分のマイナス。

    わかってんだけど……。

    「どっと、団体で一組くらい来ねえかな。」

    気づけば、こぼしていた。その直後。遠くからがやがやとした声が聞こえてくる。

    焦った声。足音。

    「すみません!!」

    扉がやや乱暴に開かれる。

    「予約してないんですが、今から十名……入れますか?」

    暖簾が揺れ、外の空気が冷房の効いた店内へ流れ込んだ。


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