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ふたつのグラス【創作】

    財布野紐ゆるみ

    働き始めて2年目。
    電車に揺られ、オフィスに座り、いつもと同じように夕方になる。
    帰ってくると、冷蔵庫の音と、時計の針の音。
    肩は凝るし、今日あった嫌なことも思い出すけど、まあ悪くない生活だ。

    それが毎日。
    でも、それがいい。誰にも触れられない場所で、ちゃんと生きている。

    小さい頃から、赤い髪の女の人が、ときどき部屋に現れる。
    一人暮らしを始めてからも、同じだった。
    名前はないけど、なんとなく「海外の人」だと思っている。
    ……英語を話すわけでもないのに。

    彼女は私と同じように歳を取る。
    中学生のときは大学生みたいだった。今は多分、26歳ぐらい。
    何も言わずにそこに座って、カーテン越しの光をじっと見ていることもある。テレビはたぶん、恋愛ドラマが好きなんじゃないかと思う。

    ある日、職場の人に食事に誘われた。
    別に、嫌だったわけじゃない。
    親切にしてくれるし、先輩だけど話しやすいし。

    でも、断った。

    なんとなく、誰かと食事をするという流れが、自分のリズムと合わなかった。

    帰宅して、ふとグラスを二つ出した。
    無意識だったと思う。
    冷蔵庫の奥にあった白ワインを注ぐ。彼女は相変わらず何も言わない。
    けど、どこか嬉しそうに笑った気がした。
    私も、笑った気がした。


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