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Photo bykensakuamano

バイリンガル

    実家の祖父は、クロスワードパズルを毎週やっていた。

    毎週日曜日に新聞の一面に印刷されてくるのだが、朝食が終わり、毎朝9時の髭剃りが終わると、祖父は自分で丁寧に削った鉛筆と小さくなった消しゴムを出し、新聞を広げ始める。
    前週の時事問題などが話題になっている、結構難しい問題なのだが、祖父にとって難しいのは問題ではなく単語だった。

    祖父は、方言の中で生きてきた人間であった。
    地方に生まれ、標準語を話す人が周りにいない環境で言葉を身につけ、それは若くして体が不自由になるまで働いた仕事環境でも同様だった。
    祖父にとって標準語は、テレビか若い頃の独学、若い時に祖母と出かけた先の言葉でしかなかった。
    東北人なので「キ」と「チ」、「イ」と「エ」の使い分けが特に難しいらしく、パズルの回答が合わなくなってくると私に新聞が回ってくる。
    「血液型」が「ケツイキガタ」になっており、訛っていると思ったのか「地球儀」が「キキュウギ」になっている。
    本人は大真面目なだけに、テレビを見ているのに難しいんだなあと思ったものだった。

    時がたち、私は地元の病院に就職した。
    同期は県内各地や隣県からやってきた子たちばかりで、集合研修の方言の授業でも、それほど困っているようには見えなかった。
    単語が難しいようで、ごく近所に実家がある私に聞いてきてくれる同期もいたが、「キ」と「チ」、「イ」と「エ」の話をすると理解してくれたようで、私は安心していた。
    ところが、集合研修が終わり実際に高齢者に話しかけられると、何を言われているのかわからなくなってしまうのである。
    代わりに聞いたが、何を言っているのかよく聞かないとわからない。
    本人に確認した上で8割程度は標準語で同期に伝達できたものの、相手は祖父より上の世代。祖父よりも訛りがきつく、実家のあたりでは使っていない単語を話す方も多かった。
    祖父はテレビと新聞で勉強していた方だったのだ、と今更のように思い、これからの職業人生活に気を引き締めた時であった。

     
     
    平成3年生まれ昭和育ち。のんびりした田舎在住。

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