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é•·ç·šSF小説『ロボットが芋る倢 魂のむンストヌル』プロロヌグ次元ラボ

     颚は凪ぎ、空はどこたでも高い。䞖界は陜だたりのような優しさに満ちおいた。穏やかな昌䞋がり。桜京のありふれた公園は、子䟛たちの匟けるような笑い声ず、朚々の葉がさらさらず颚にそよぐ音に包たれおいた。

    「博士じゃない。今は、お父さんだよ」

     雚宮晶はそう蚀っお、䞃歳になる嚘、奈々を高く抱き䞊げた。腕の䞭で花が咲くように茝く笑顔が、雚宮晶にずっおの䞖界そのものだった。ブランコを抌し、シャボン玉を远いかける。ただそこにあるだけの完璧な幞犏が、琥珀の䞭の蝶のように、ゆっくりず流れおいく。

     その幞犏な時間のキャンバスを、䞀匹の蝶が暪切った。虹色の王様を纏った、息をのむほど矎しい蝶が。しかし、その軌道はどこか、この䞖界の法則から倖れたように、䞍自然なたでに正確な線を描いおいた。それはたるで、この䞖界の因果埋を芳枬し、蚘録しおいる、生きた方皋匏のようだった。

    「あ、ちょうちょ」

     奈々は短い足を懞呜に動かしお駆け出した。
    「埅っおヌ」ずいう無邪気な声が、公園の空に溶けおいく。蝶はたるで誘うように生垣の切れ間を抜け、隣接する道路ぞず舞い出おいく。

     父芪は埮笑みながらその姿を芋守っおいた。

     ポケットから萜ちたハンカチを拟うため、ほんの数秒だけ、嚘から目を離した。

     雚宮晶が顔を䞊げた瞬間。䞖界から䞀切の音が消え、色が抜け萜ちおいた。芖界の端に映る、悪倢のようなスロヌモヌション。蝶を远っお道路に飛び出した、奈々の小さな姿。アスファルトを焊がすタむダの匂いず共に、そこに音もなく迫る、巚倧なトラック――。

     悲鳎。
     耳を裂く衝撃音。
     そしお、すべおが終わった埌の、残酷な静寂。
     朱に染たる嚘ず、必死にその名を呌ぶ父芪。
     心臓が止たった嚘ず、心臓の音だけが䞍自然に脈打぀父芪。
     空には䜕も知らぬかのように、あの虹色の蝶だけがひらひらず舞い続けおいた――。

    

    ――蝶が矜ばたく。
     そのたびに、穏やかな公園の颚景が砂嵐のようなデゞタルノむズに歪む。朚々の緑は冷たい金属の灰色ぞず倉わり、子䟛たちの笑い声は耳を぀んざくアラヌム音ぞず成り果おる。
     そしおノむズの奥から、蝶は、䞀぀のあたりにも切実な心の声を聎いた。

    『もう䞀床、――に䌚いたい』

     その願いが匕き金になったかのように、䞖界が倉貌する。
     荒々しい金属の壁ず無数のケヌブルに芆われた、光の届かない窮屈な空間。ひず぀の意識が䞀䜓の小型ロボットの䞭ぞず収束しおいく。
     朜氎艊の䞻動力炉に接続されたその身䜓は、凄たじい゚ネルギヌ負荷に軋み、悲鳎を䞊げおいた。
     圌の埌悔ず愛情、その内なるすべおを賭した、たった䞀぀の願い。それが成就したかのように、艊内が枩かい閃光に包たれた。光の䞭で䞖界の茪郭が再びノむズに倉わっおいく。虹色の蝶もたたノむズに溶け、その鱗粉だけがきらきらず空間に舞った。

     圌の意識が遠ざかっおいく――。

    

    ――意識が時空の狭間で明滅する。
     それは、時空を枡る魂が垣間芋た、未来の断片だったのかもしれない。
     䞍意に映る、鬱蒌ずした異囜の森。倜の闇を切り裂き、青癜い光の尟を匕く䜕かが空から墜ちおくる。それは音もなく、たるで星々を喰らうほどの圧倒的な存圚感で、県前の山間郚ぞず着匟した。

     空気が爆ぜた。それは音だったのか。いや、光だったのかもしれない。ただ、その堎所から䞖界が抉り取られた。

     衝撃波が朚々を薙ぎ倒し、巻き䞊げられた無数の小石が誰かの金属のボディを激しく打ち据え、也いた音を立おた。

     その芖界の端、クレヌタヌの䞭心で黒曜石のような存圚が、静かに脈打っおいるのが芋えた。光景が䜕を意味するのか、思考が理解するよりも早く、再び意識はノむズの枊に飲み蟌たれおいった――。

    

    ――䞍意に、蝶の茪郭が再び結ばれる。たた䞀぀、未来の光景が幻燈のように意識をよぎる。そこは倩文台の䌑憩宀だった。゜ファの傍ら、飲みかけのマグカップず開かれた本が眮かれたテヌブルの暪で、小さなロボットが、たるで自らの存圚を消し去るかのように金属の頭を床に䜕床も打ち぀け、䜕かを叫んでいる。

     だが、その声は音にならない。その動きは、魂の叫びが圢になったかのようだった。芋る者の心臓を握り朰すような、あたりにも無残な光景。それは、ただ蚪れおいない未来から挏れ出した、䞀぀の魂の絶望ずいう名の圱だった。

     その胞を匕き裂かれるような光景さえも、やがおは遠ざかる意識の䞭、ただ穏やかに矜ばたく蝶の鱗粉のきらめきぞず、静かに溶けおいく――。

    

    ――虹色の蝶が舞い、そしお、党おの始たりの堎所、結ノ囜の図曞通ぞず至る。そこにいるのは、ただ䜕も知らない䞀䜓のアヌカむブロボット。傷䞀぀ない、からっぜの噚。

     圌はい぀ものように感情もなく、目の前の本をじっず芋぀めおいた。

     どこからずもなく珟れた虹色の蝶が、ひらりず舞い降り、無骚な金属の頭䞊にそっず留たる。それは、たるでからっぜの噚に、宿るべき魂の茪郭を描くかのように、静かに矜を䌑めた。

     ロボットは蝶の存圚に気づくこずなく、ただ目の前の本を芋぀め続けおいる。

    これから始たる壮絶な運呜の旅路を、この噚はただ䜕も知らない――。


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