
オタクにヒーローは似合わない第12話『リベンジホワイトベアー』
⬜ 夜明け前のビル街
夜明け前のビル街に、白い霧が流れていた。
雨上がりの路面には、ネオンの色がにじんでいる。
青、ピンク、黄色。眠らない街の光だけが、まだ静かに残っていた。
その大通りの中央で、テレビタコ人間は浮かれていた。
腹部のケースを揺らしながら、にこにこ顔のモニターを弾ませている。
足元には、白い泡と散らばったディスク。
「お宝♡ お宝♡」
ふざけた声が、夜の街に響く。

その時だった。
霧の向こうから、重い足音が近づいてきた。
ガシン。
ガシャン。
ガシン。
ガシャン。
テレビタコ人間の顔が、すっと普通顔に変わる。
白い霧の奥から現れたのは、白い装甲をまとった結衣だった。

⬜ ホワイトベアー
結衣は、ゆっくりと歩いていた。
猫型スーツの上に重ねられた白い外装。
大きな腕部アーマー。
脚部の補助フレーム。
胸元を守る厚い装甲。
ホワイトベアー。
重い。
けれど、その重さが、今は心強かった。
昨日までの結衣なら、真正面から近づくことはできなかった。
避けて、回り込んで、隙を探すしかなかった。
でも、今は違う。
受け止めるための装備がある。
押し返すための力がある。
怖さは、まだ消えていない。
背中の痛みも、完全には消えていない。
それでも、足は止まらなかった。
「……もう一度」
結衣は小さく息を吐いた。
「今度は、止める」

⬜ 襲いかかる触手
テレビタコ人間のモニターが、またにこにこ顔に戻った。
まるで、結衣をまだ甘く見ているようだった。
太い右触手が、ゆっくりと持ち上がる。
そして、夜明け前の空気を裂いた。
ブンッ!!
触手が、大きく横へしなる。

前回なら、避けるしかなかった。
当たれば、叩き落とされるだけだった。
でも――
結衣は逃げなかった。
両足を開き、腰を落とす。
白い腕部アーマーを前に出す。
触手が、重い音を立ててぶつかった。
ガッシ!!
結衣はその太い触手を、両腕と身体で受け止めた。
装甲がきしむ。
足元の路面が割れる。
水しぶきが、横へ弾ける。
それでも、結衣は倒れなかった。

テレビタコ人間の顔が、普通顔へ変わる。
「……つかまえた」
結衣は、低くつぶやいた。
⬜ 引き寄せる
結衣は触手をつかんだまま、ぐっと後ろへ体重をかけた。
ホワイトベアーの脚部フレームが作動する。
足裏の補助機構が、濡れた路面を噛む。
ギギギ、と鈍い音がした。
テレビタコ人間の巨体が、少しだけ前へ傾く。
モニターが困り顔に変わる。
結衣は、さらに引いた。
グッ。
巨体が、ずるりと引き寄せられる。
触手が暴れる。
腹部のケースが揺れる。
足元の泡がはじける。
それでも、結衣は離さなかった。
「今度は……」
結衣は歯を食いしばる。
「こっちの番」

⬜ 振り回す
結衣は触手を強く握り直した。
両足を大きく開き、身体の軸を沈める。
ホワイトベアーの補助フレームが、低く唸った。
ブンッ!!
テレビタコ人間の身体が浮く。
「あれ――?」
そんな顔をしたまま、巨体が弧を描く。
結衣は止まらない。
ブンッ!!
さらに大きく回す。
触手がしなり、雨粒が飛び散る。
テレビタコ人間の身体が、夜明け前のビル街を横切る。
重い。
とてつもなく重い。
でも、回せる。
今の自分なら。
ホワイトベアーなら。

⬜ ビルへ
結衣は最後に、身体を大きくひねった。
狙いは、近くのビルの一階部分。
「行けっ!」
触手を手放す。
テレビタコ人間の巨体が、白い霧を裂いて飛んだ。

次の瞬間。
ドゴォン!!
ビルの一階部分へ、テレビタコ人間が叩きつけられた。
コンクリートが砕ける。
ガラスが散る。
瓦礫が中へ崩れ落ちる。
低く重い音が、街に響いた。

テレビタコ人間は、瓦礫の中でしばらく動かなかった。
モニターには、困り顔が浮かんでいる。
怒りではない。
凶悪な表情でもない。
ただ、困っている。
その顔が、妙にシュールだった。
結衣は、ゆっくりと歩き出す。
瓦礫の向こうへ。
まだ終わっていない戦いの先へ。

テレビタコ人間の顔が、さらに引きつった。
結衣は足を止めなかった。
⬜ 前蹴り
「まだ動くなら……」
テレビタコ人間が体を起こそうとした瞬間、結衣は右足を引いた。
前蹴り。
ドゴーン!!!
胸元へ入った一撃が、テレビタコ人間の身体をさらに奥へ吹き飛ばした。
鈍く、重く、しかし大きな音が響く。
テレビタコ人間は、瓦礫のさらに奥へめり込んだ。

⬜ 終わらせる
瓦礫の奥で、テレビタコ人間のモニターが点滅していた。
表示が切り替わり、少しずつ乱れていく。
それでも、触手はまだわずかに動いている。
結衣はゆっくり近づいた。
今度は迷わなかった。

止めるために来た。
救うために来た。
CDロム化された人々を救い出すために。

第12話『リベンジ ホワイトベアー』了
⬜ 別添設定資料



