お母さんの隠し事 夫のひと言 第三章 手帳に刻む毒と涙
だが、飲み込んだ言葉は消えてなくなるわけではない。
私の身体のどこか、誰にも見えない秘密の場所に、毒として溜まっていくのだ。
私はソファーのクッションの裏から、一冊の小さな鍵付き手帳を取り出した。
誰にも見せてはいけない、私の「デスノート」……いや、夫婦の記念手帳だ。
そこには、和也に言われて飲み込んできた無神経な言葉たちが、日付とともにギッシリと書き連ねられている。
『「一日中家にいて何やってたの?」――〇月〇日、熱を出した娘を看病して家事が押した日』
『「またそんな服買って」――〇月〇日、自分の服を後回しにして子供の服を買った日』
『「お前ってホント要領悪いよな」――〇月〇日、PTAと仕事と家事でパンクしそうだった日』
ペンを握り締め、今日の出来事を叩きつけるように書き込む。
黒いインクが紙に染み込んでいく。
「……何やってんだろ、私」
ポツリと漏れた独り言とともに、涙がポロポロと手帳の上にこぼれ落ちた。
夫を責め立てたいわけじゃない。離婚したいわけでもない。
ただ、「いつも頑張ってるね」「ありがとう」の一言が欲しいだけなのに。
どうして一番理解してほしいパートナーから、一番傷つく言葉を投げかけられなければならないのだろう。
「お母さん」だからって、何を言われても傷つかない頑丈な心を持っているわけじゃないのに。
暗い部屋の中で、私は声を押し殺して泣いた。

