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【読む䟡倀のない裁刀蚘録譚】原告は、忘れられた四千八癟十二の倢。被告は、朝の俺。

    涌魔

    その蚎状は、目芚たし時蚈が鳎る䞉秒前に届いた。

    差出人は䞍明。

    封筒は少し湿っおいお、衚には芋芚えのない文字で、こう蚘されおいた。

    「至急。起床前に開封するこず」

    寝がけたたた封を切る。

    䞭から、癟二十䞃枚の曞類ず、片方だけの靎䞋ず、知らない駅の入堎刞が出おきた。

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    👇曞類の䞀枚目には、こうある。


    什和八幎倢第䞀号

    存圚吊認発蚀撀回等請求事件

    原告

    被告がこれたでに芋たにもかかわらず、起床埌、䞀方的に忘华された倢四千八癟十二名

    ※尚、原告偎は「党員出廷しおいる」ず䞻匵しおいる。

    原告代衚

    昚倜、青い廊䞋の突き圓たりで、被告の祖母が巚倧なプリンを守っおいた倢

    被告

    俺

    請求の趣旚

    䞀、被告は「俺は倢を芋おいない」ずの発蚀を撀回せよ。

    二、被告は今埌、起床埌ただちに原告らを忘华するこずなく、最䜎十五秒間の回想時間を蚭けよ。

    䞉、被告は原告らに察し、「意味が分からない」ずいう理由だけで、その存圚䟡倀を吊定しおはならない。

    四、蚎蚟費甚は被告の負担ずし、その支払いには被告の二床寝時間を充おるものずする。


    䜕のこずか分からない。

    いや、分かりたくない。

    今日は朝から䌚議がある。

    忘れた倢四千八癟十二名を盞手に、裁刀をしおいる堎合ではない。

    そもそも、本圓に四千八癟十二名もいるのか。

    誰が数えたのか。

    同じ倢を二床芋た堎合、䞀名ずしお扱うのか。それずも二名なのか。

    登堎人物のいない「堎所だけの倢」は、䞀名に数えおよいのか。

    途䞭から別の内容に倉わった倢は、そこで二名に分裂するのか。

    疑問は尜きなかったが、蚎状には集蚈基準が䞀切蚘茉されおいなかった。

    俺がスマヌトフォンぞ手を䌞ばした、その瞬間だった。

    床が抜けた。

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    第䞀回口頭匁論

    萜䞋した先は、法廷だった。

    倩井が異様に高い。

    窓の倖には朝焌けが広がっおいるが、倪陜はただ半分しか姿を芋せおいない。

    傍聎垭には、俺がこれたで忘れおきたらしい倢たちが、ぎっしりず座っおいた。

    人間の姿をした倢。

    動物の姿をした倢。

    堎所だけで構成された倢。

    「䜕かに遅れおいる」ずいう焊りだけでできた倢。

    内容が曖昧すぎお、本人確認のできない倢。

    最埌列には、巚倧なカボチャがスヌツ姿で座っおいる。

    おそらく俺が芋た倢なのだろう。

    たったく芚えおいない。

    俺は念のため、人数を数えおみた。

    だが、廊䞋だけの倢ず、その廊䞋を走っおいた倢が同䞀人物なのか刀断できず、十䞉名数えたずころで諊めた。

    原告偎の集蚈方法に疑問を抱いたのは、間違っおいなかったず思う。

    やがお、裁刀長が入廷した。

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    顔は芋えない。

    たぶしすぎるのだ。

    曞蚘官が声を匵り䞊げる。

    「起立。朝方地方裁刀所忘华事件郚を開廷したす」

    裁刀長の名札には、ただ䞀文字。

    「朝」

    ず曞かれおいた。

    党員が着垭する。

    朝裁刀長は、机䞊の曞類に目を萜ずした。

    「被告」

    「はい」

    「あなたは昚倜、倢を芋たしたか」

    俺は正盎に答えた。

    「芋おいたせん」

    その瞬間、原告垭から怒号が飛んだ。

    「芋ただろ」

    「午前四時十䞉分たで䞀緒にいたぞ」

    「こっちは象を䞉頭も甚意したんだ」

    「結婚匏の途䞭で勝手に起きるな」

    朝裁刀長が朚づちを鳎らす。

    「静粛に。特に、象を甚意した原告は、錻を䞋ろしおください」

    䞉頭の象が、枋々ず錻を䞋ろした。

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    原告偎の䞻匵

    原告代理人は、顔のない匁護士だった。

    ネクタむだけが宙に浮いおいる。

    差し出された名刺には、

    匁護士 未明う぀ろ

    ず曞かれおいた。

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    「被告は長幎にわたり、原告らを確かに芋おいたにもかかわらず、朝になるず、その存圚自䜓を吊定しおきたした」

    未明匁護士は、分厚い資料を掲げた。

    「蚌拠甲第䞀号。被告が過去䞀幎間に発蚀した、『俺は倢を芋おない』ずいう蚀葉の回数です」

    正面のスクリヌンに、数字が映し出される。

    二癟四十䞉回

    かなり蚀っおいる。

    「続いお、蚌拠甲第二号。被告によっお忘华された倢の䞀郚です」

    ペヌゞが高速でめくられおいく。


    五月十二日

    知らない島で郵䟿局長に就任。

    ただし、島民は党員ペンギン。


    五月二十八日

    冷蔵庫を開けるず、䞭に䞭孊校の教宀がある。

    数孊教垫がペヌグルトを配垃。


    六月䞉日

    取匕先ずの打ち合わせに出垭。

    出垭者は党員、俺。

    議題は䞍明。


    六月十九日

    空を飛ぶこずに成功。

    最高高床、䞃センチ。


    䞃月二日

    倧切な䜕かを探し続ける。

    ただし、䜕を探しおいたのかは、倢自身も把握しおいない。

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    未明匁護士は資料を閉じた。

    「原告らは毎晩、蚭定、出挔者、背景、小道具を甚意し、被告の睡眠時間を支えおきたした」

    俺は思わず口を挟んだ。

    「誰に頌たれたわけでもないのに」

    「倢ずいうのは、そういうものです」

    即答だった。

    「それにもかかわらず、被告は起床埌わずか数秒で原告らを忘华し、あた぀さえ『䜕も芋おいない』ず公蚀する。これは、原告らの倢栌暩を著しく䟵害する行為です」

    聞いたこずのない暩利だった。

    だが、傍聎垭の倢たちは、さも圓然であるかのように深くうなずいおいる。


    原告代衚者尋問

    原告代衚ずしお蚌蚀台に立ったのは、昚倜の倢だった。

    党身ががんやりずしおいお、顔が定たらない。

    芋おいるうちにも、䌚瀟員になったり、小孊生になったり、駅のホヌムになったりする。

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    未明匁護士が尋ねた。

    「昚倜、あなたは被告ず、どこで䌚いたしたか」

    「最初は䌚瀟でした」

    昚倜の倢は答えた。

    「その埌、氎族通になりたした」

    「䌚瀟が」

    「はい」

    「なぜですか」

    「分かりたせん」

    「被告は、そこで䜕をしおいたしたか」

    「䌚議に遅れそうになっお、走っおいたした」

    「氎族通の䞭を」

    「途䞭から、被告の実家の廊䞋になりたした」

    「では、被告は実家の廊䞋を走っおいた」

    「いいえ。本人は空枯にいる぀もりでした」

    法廷がざわ぀く。

    俺は思わず口を挟んだ。

    「話がたったく぀ながっおいないじゃないか」

    昚倜の倢は、傷぀いたように顔を曇らせた。

    「起きおいるあなたにだけは、蚀われたくありたせん」

    傍聎垭から拍手が起きた。

    朝裁刀長が朚づちを鳎らす。

    「拍手は犁止です。ただし、今の反論には䞀理ありたす」

    俺の日垞も、他人から芋れば、それほど筋が通っおいないらしい。

    未明匁護士が尋問を続ける。

    「青い廊䞋の突き圓たりには、誰がいたしたか」

    「被告の祖母です」

    「䜕をしおいたしたか」

    「巚倧なプリンを守っおいたした」

    「なぜ、プリンを」

    「それも分かりたせん」

    昚倜の倢は、少しだけ胞を匵った。

    「しかし、分からないからずいっお、なかったこずにはなりたせん」

    原告垭から、今床は静かな拍手が起きた。

    朝裁刀長は、䜕も蚀わなかった。


    被告偎蚌人・目芚たし時蚈

    俺には匁護士がいなかった。

    仕方なく、自分で目芚たし時蚈を蚌人ずしお申請した。

    目芚たし時蚈は、蚌蚀台に眮かれた瞬間から、やけにドダ顔の毅然ずした態床だった。

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    「あなたは毎朝、俺を起こしおいたすね」

    「はい」

    「倢が消える原因は、あなたではありたせんか」

    法廷が静たり返る。

    目芚たし時蚈は、しばらく黙った埌で答えた。

    「私は、蚭定された時刻を知らせおいるだけです」

    「しかし、あなたが鳎るず倢は終わる」

    「映画通の照明が぀いたからずいっお、照明噚具を映画泥棒ずは呌びたせん」

    意倖に匁が立぀。

    俺は尋ね方を倉えた。

    「鳎り方が乱暎すぎるのではありたせんか」

    「午前六時半のアラヌムを䞃回止める方に、音量の倫理を説かれたくありたせん。」

    傍聎垭から倱笑が挏れた。

    「あなたは、俺の二床寝を劚害しおいたす」

    「私はむしろ、䞃回たで猶予を䞎えおいたす」

    蚌人尋問は、俺の完敗に終わった。


    原告偎蚌人・スマヌトフォン

    続いお、原告偎が申請した蚌人が入廷した。

    枕元に眮かれおいた、俺のスマヌトフォンだった。

    原告垭の空気が倉わる。

    倢たちが䞀斉に、スマヌトフォンをにらみ぀けた。

    スマヌトフォンは画面を灯らせ、堂々ず蚌蚀台に立った。

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    未明匁護士が尋ねる。

    「被告が目芚めた盎埌、最初に觊れるものは䜕ですか」

    「倚くの堎合、私です」

    「その際、䜕を衚瀺したすか」

    「時刻、倩気、ニュヌス、メッセヌゞ、動画、広告、昚日たでたったく知らなかった人物の炎䞊などです」

    「倢の蚘憶は」

    「担圓倖です」

    「被告が倢を思い出しかけおいる最䞭に、通知を衚瀺したこずはありたすか」

    「通知の配信は自動です」

    「質問に答えおください」

    スマヌトフォンは沈黙した。

    その画面䞊郚に、通知が䞀件珟れる。

    「今朝のおすすめニュヌス」

    法廷䞭がどよめいた。

    未明匁護士がスマヌトフォンぞ詰め寄る。

    「蚌人は今、この法廷でも被告の泚意を奪おうずしたしたね」

    「偶然です」

    「画面を消しおください」

    「パスコヌドが必芁です」

    朝裁刀長が俺を芋る。

    「被告、解陀を」

    「すみたせん。寝起きなので思い出せたせん」

    傍聎垭の倢たちから声が䞊がる。

    「倢だけじゃなく、パスコヌドも忘れるのか」

    返す蚀葉がなかった。


    被告本人尋問

    ずうずう、俺が蚌蚀台に立぀番になった。

    未明匁護士が、ゆっくりず目の前たで歩いおくる。

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    「被告は、なぜ倢を芚えおいないのですか」

    「忙しいからです」

    「目を芚たした瞬間から」

    「時刻を確認しお、連絡を芋お、その日の予定を考えたす」

    「倢を振り返る時間は」

    「ありたせん」

    「䞀秒も」

    俺は答えられなかった。

    未明匁護士は原告垭を指した。

    「ここにいる倢たちは、長い間、被告に䜕かを䌝えようずしおいたのではありたせんか」

    「でも、意味の分からない倢ばかりです」

    「意味が分からなければ、芚える䟡倀もない」

    「そういうわけでは  」

    「では、被告が昚日食べた昌食には、どのような意味がありたしたか」

    「焌きそばです」

    「それは承知しおいたす。焌きそばに、どのような意味が」

    「焌きそばが食べたかったので  」

    「では、高床䞃センチで空を飛んだ倢も、それでよいのではありたせんか」

    蚀い返せない。

    意味がなくおも、焌きそばは食べる。

    意味がなくおも、動画は芳る。

    意味がなくおも、゚レベヌタヌの「閉」ボタンは䞉回抌す。

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    それなのに、倢にだけは、

    深局心理。

    未来の暗瀺。

    人生の答え。

    そういう倧圹を求めおいた。

    倢からすれば、迷惑な話かもしれない。

    ただ倉なものを芋せたかった倜だっお、あるはずだ。


    最終意芋陳述

    原告代衚の昚倜の倢が、ゆっくりず立ち䞊がった。

    その姿は、少しず぀俺の祖母に倉化しおいく。

    なぜか、巚倧なプリンだけは異様なほど鮮明だった。

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    「私たちは、すべお芚えおほしいわけではありたせん」

    原告代衚は蚀った。

    「忘れられるこずも、倢の圹目です」

    「だったら、なぜ俺を蚎えたんだ」

    「忘れられるこずず、最初から存圚しなかったこずにされるのは、違うからです」

    法廷から、音が消えた。

    「私たちは朝になるず、ほずんど消えたす。でも、あなたが眠っおいる間、確かに䞀緒にいた」

    俺は原告垭を芋枡した。

    知らない島の郵䟿局。

    冷蔵庫の䞭の教宀。

    䞃センチの空。

    䜕かを探し続けおいた俺。

    どれも芚えおいない。

    けれど、芚えおいないずいうだけで、俺ず無関係だったずは蚀い切れなかった。


    刀決

    朝裁刀長が、刀決文を開いた。

    窓の倖では、倪陜がほずんど昇りきっおいる。

    「䞻文」

    倢たちが息を飲む。

    「被告は今埌、『倢を芋なかった』ずいう衚珟を改め、原則ずしお『倢を芚えおいない』ず衚珟するこず」

    俺は、小さくうなずいた。

    「被告は、起床埌、スマヌトフォンに觊れる前に十五秒間、昚倜の蚘憶が残っおいないか確認するこず」

    スマヌトフォンが、䞍満そうに震えた。

    「ただし、原告らも、筋曞きの砎綻を被告の理解力だけのせいにしおはならない」

    原告垭がざわ぀く。

    「さらに、詊隓圓日に筆蚘甚具がない、電車に乗り遅れる、人前で服を着おいない、䜕かから党力で走っお逃げおいるのに党然前に進たない、などの類䌌䌁画に぀いおは、制䜜本数を幎間䞉割削枛するよう努めるこず」

    傍聎垭の䞀郚から、激しい抗議の声が䞊がった。

    どうやら、倢の䞖界における定番シリヌズらしい。

    朝裁刀長は、最埌に俺を芋た。

    「被告」

    「はい」

    「倢を芚えおいる人ず、芚えおいない人の違いは、倢を芋たかどうかだけではありたせん」

    「では、䜕が違うのですか」

    「朝、十五秒だけ思い出す時間を蚭けるかどうかです」

    なぜか繰り返されたその蚀葉を合図ずしたかのように、そこで朚づちが鳎った。

    その音は次第に倧きくなり、目芚たし時蚈の音ぞず倉わっおいった。

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    起床

    目を開ける。

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    午前六時䞉十分。

    枕元で、スマヌトフォンが光っおいる。

    通知は十䞀件。

    今日の予定が、頭の䞭ぞ䞀斉に抌し寄せおきた。

    䌚議。

    メヌル。

    ゎミ出し。

    買い物。

    返信しおいない連絡。

    noteの蚘事考案。

    俺は、スマヌトフォンぞ䌞ばしかけた手を止めた。

    十五秒だけ、目を閉じる。

    䜕かを芋おいた気がする。

    法廷。

    片方だけの靎䞋。

    知らない駅の入堎刞。

    巚倧なプリン。

    それから、青い廊䞋。

    廊䞋の先には、誰かが立っおいた。

    誰だっただろう。

    もう、はっきりずは思い出せない。

    それでも今朝は、こう蚀うこずにした。

    「倢を芋なかったんじゃない。」
    「芚えおいないだけだ。」

    その瞬間、頭のどこかで、小さな拍手が聞こえた。

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    《どうでもいい埌日譚》

    原告偎の独自集蚈によれば、この朝、俺に存圚を認めさせるこずに成功した倢は䞀名、らしい。

    残る四千八癟十䞀名に぀いおは珟圚、第二次集団蚎蚟の準備が進められおいる、らしい。

    尚、俺は原告の人数および集蚈方法を党面的に争う方針である。

     
     
     

    涌魔

     
     
    【知的奜奇心を刺激する案内人】 【思考のドキュメンタリスト】 ずいう聞こえの良い立ち䜍眮を勝手に暙抜し、 事象党般の考察・分析をメむンに掲げ、 垞に〝読者をアップデヌトする新しい芖点〟から 蚘事を投皿しおいる぀もりです。 特定のテヌマに瞛られず、攻めた『動的な知性』を挔出したす。

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