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「入れなかった䞖界ぞ」

    ホラヌ映画の登堎人物は、倧䜓決たっおいる。

    䟋えば、人気者だけど性栌の悪い女の子。その取り巻き。䜓栌に恵たれた、あたり物を考えない男。正矩感の匷い人気者のリヌダヌ。それに憧れお混ざりたがる者。そしお、その他。

    僕はその他だった。

    だから、あの日も特に䜕も考えずに぀いおいった。

    今思えば、誰もそれがお決たりだなんお思っおいなかった。

    若かった。

    それだけだった。

    でも、その前に。

    皆、生きおいた。

    

    孊校のミスコンの開催が近く、䞀郚の女子がピリピリしおいたある日の攟課埌。

    「ちょっずあんた達」

    アデルが僕らを呌び止めた。

    玙袋を抱えおいる。

    嫌な予感しかしなかった。

    「䜕だよ」

    サむモンが蚀う。

    「䜕だよじゃないわよ」

    アデルは呆れた顔をした。

    「私の隣に立぀んだったら、この芋男子ども、ちゃんずおしゃれしなさいよね」

    玙袋を抌し付けられる。

    䞭には服が入っおいた。

    䞀人分じゃない。

    党員分だった。

    サむズも違う。

    色もそれぞれ違う。

    「暇だったの」

    「うるさい」

    少しだけ耳が赀かった。

    埌ろではナンシヌが笑うのを堪えおいた。

    「さあ、行くわよ」

    その時だけ劙に楜しそうだった。

    僕の服だけサむズは合わなかった。

    圌女は頭を傟げお、

    「おかしいわ」

    ず呟いおいた。

    圌女のせいじゃなかった。

    

    裏庭でナンシヌを芋かけた。

    䞉人のチアガヌルに囲たれ、オドオドしおいる。

    圌女だっおチアガヌルだ。

    チアリヌダヌはアデル。

    「矀れを率いるセクシヌな女豹なの。」

    本人はそう蚀っおいた。

    僕には、新品のバヌビヌ人圢を買っおも、真っ先に前髪を切っおしたう子。

    そんなふうに芋えた。

    圓のアデルは芋圓たらなかった。

    遠くお䌚話は聞こえない。

    それでも、高圧的なのは分かった。

    ナンシヌはきっず怯えるだけだず思った。

    次の瞬間、持っおいたスポヌツドリンクを䞉人にぶちたけた。

    「もう䞀床蚀っおみなさい」

    ここたで聞こえた。

    䞉人は逃げるように去っおいった。

    残ったナンシヌは、その堎にしゃがみ蟌んだ。

    誰もいない䞭庭。

    䞞たった小さな背䞭を芋おいるず、

    リスが草原を走っおいる。

    そんな、意味の分からない景色が浮かんだ。

    い぀の間にか近づいおいた僕に気付き、ナンシヌは慌おお目元を拭いた。

    泣いおいたんだろう。

    「倉なずころ芋られちゃった。恥ずかしい。」

    少し笑っお、

    「䜕でもないの。ただ、ちょっず頭に来ちゃっお。」

    ず蚀った。

    僕は拭くものを探した。

    芋぀からなかった。

    「そう。じゃあ、䜕でもない。ちょっずの事なら、そんなに気にならないね、お互い。」

    ナンシヌはきょずんずしお、

    すぐに倧きな声で笑った。

    空になったスポヌツドリンクを僕に抌し付ける。

    笑い声も意倖だったけど、

    力も匷かった。

    そのあず圌女は少しず぀話した。

    もうすぐ匕っ越すこず。

    アデルが心配なこず。

    怒った理由。

    話のほずんどはアデルだった。

    手の掛かる効でもいるみたいだ。

    䞀通り話し終えたあず、ナンシヌは蚀った。

    「私、貎方を探した事があるの。でも誰も貎方を知らないっお。芋぀からなかった。」

    い぀の間にか䞭庭には人が増えおいた。

    それでも僕は誰ずも目が合わない。

    「アデルの隣にいるず悪目立ちするから。誰にも知られおないっお、ちょっず矚たしい。」

    颚に揺れるスカヌトず、

    珍しく䌞びた背筋。

    皆が圌女を芋る理由は、

    アデルだけじゃない気がした。

    

    別の日。

    サむモンは恵たれた䜓栌を䜿わないず気が枈たないのか、その日も隒ぎを起こした。

    気に入らない。

    それだけで人を殎ったらしい。

    自販機の前で猶ゞュヌスを飲みながら、

    「俺さ。」

    ずサむモンが蚀った。

    「銬鹿だから分かんねえんだよ。」

    䞀口飲む。

    「楜しけりゃいいず思っおるし。」

    たた飲む。

    「俺、かっこいいしな。」

    本気だった。

    その時。

    檻の䞭で、退屈そうに腕だけ振っおいたゎリラを思い出した。

    芋おいる人が笑うたび、たた腕を振る。

    そんなゎリラだった。

    僕は少し笑った。

    「笑うなよ。」

    「いや。」

    「マゞなんだっお。」

    急に真面目な顔になる。

    「お前さ。」

    少し黙っお、

    「䜕考えおるか、分かんねえんだよなぁ。」

    その時、サむモンが拳を握り盎した。

    初めお、真正面から向き合った気がした。

    「圓たるかな。」

    気づくず、僕の口から奜奇心が溢れた。

    サむモンは吹き出した。

    「お前、銬鹿だろ。」

    少し笑っお、

    「でも本圓は頭いいだろ。」

    握っおいた拳を解く。

    ひらひらず振る手を芋ながら、僕は黙っおいた。

    「だから、ここにいろよ。」

    意味は分からなかった。

    今も分からない。

    でも、

    あい぀は本気だった。

    

    ある日、怒った顔のりィリアムを廊䞋で芋かけた。

    お気に入りのボヌルで遊んでいお、それが友達に圓たった。
    ボヌルは悪くないのに。
    泣きながら、そのボヌルを朰しおしたう子を思い出した。

    圌は昔から正しかった。

    昌䌑み。

    攟送郚の生埒が孊校の問題を暎露した。

    内容はかなり残酷だった。

    りィリアムは攟送郚の郚長を捕たえた。

    「だからっお、勝手に広めおいい理由にはならない。」

    昌時の廊䞋に、りィリアムの声だけが響く。

    結果、攟送郚の生埒は孀立した。

    あずになっお蚌拠が出たが、

    教垫は゜レを知っおいた。

    でも、動かなかった。

    誰も、動かなかった。

    攟送郚の生埒を陀いお。

    そういうこずだった。


    ある日の攟課埌。

    䞀人で座るりィリアムを芋぀けた。

    僕は隣に立った。

    しばらくしお、

    「  黙っおれば良かったのかな。」

    珍しく匱い声だった。

    䜕のこずなのか聞くたでもなく、

    「分かったなら、それでいいんじゃないかな。」

    僕は普通の事を蚀った。

    りィリアムは黙った。

    それから少しだけ安心した顔をしお、

    「こんな姿、人に芋せるなんお考えられないのに。」

    ず蚀った。

    あれが䞀番、友達に近かった気がする。


    

    よく芋かける男子生埒がいた。

    少し倪っおいお、いじめられっ子みたいな芋た目だった。

    でも、金持ちだから䟿利だ。

    仲間ずいう名の財垃。

    そう話しおいるのをトむレで聞いた。

    本圓の名前が゚ズラだず知ったのは、ずっず埌だった。

    ある日、サむモンが蚀った。

    「お前ん家、金持ちなんだろ」

    ゚ズラは少し嬉しそうに頷いた。

    「䜕か面癜いずこ知らねえの」

    知っおいる堎所を次々話し始める。

    聞いおいるず、

    自分がどれだけ䟿利か有益か説明しおいお、
    リビングの぀けっぱなしのTVから通販番組が流れおいるかず思った。

    「お前がいたら、もう金芁らずだな。」

    話を聞いたサむモンが笑う。

    そこぞりィリアムが来た。

    経緯を聞くなり、サむモンの頭を軜く叩く。

    それから゚ズラの方を向いお蚀った。

    「君がお金を払う必芁はないだろ。」

    普通の事だった。

    でも゚ズラは驚いおいた。

    口を぀ぐんで、

    少し膚らんだ頬のたた芋䞊げおくる。

    ハムスタヌを思い出した。

    逌を取られるず思っおいたら、

    巣箱ごず枡されたみたいな顔だった。

    たぶん、初めおだった。

    その日から゚ズラは、

    金も、

    堎所も、

    時間も、

    惜したなくなった。

    ある日、゚ズラは蚀った。

    「俺、君のこず知らなかった。」

    「君みたいな人が、䜕でりィリアム達ず䞀緒にいるのかも。」

    少し考えお、

    「でもさ。」

    「君っお、空っぜのクロヌれットみたいだ。」

    独り蚀みたいだった。

    僕も、

    そうかもな。

    ず思った。

    

    「マゞでやばいっお。」

    ゚ズラがスマホを掲げた。

    その頃には、自然ず六人で集たるようになっおいた。

    同じくらい、

    良くない空気も増えおいた。

    「うちの芪の土地なんだけどさ。」

    画面には叀びた掋通が映っおいた。

    山奥。

    森の䞭。

    窓は割れ、

    屋根も厩れおいる。

    「絶察面癜いじゃん。」

    アデルが蚀う。

    「泊たれるの」

    ナンシヌが聞く。

    「䜙裕。」

    ゚ズラは笑った。

    「鍵くすねたし。」

    叀い鍵束を取り出す。

    皆が笑った。

    僕も笑った。

    別に面癜くなかった。

    でも、

    笑った方が楜だった。

    そうしお僕達は通ぞ向かった。

    

    山道を䞉時間。

    着いた頃には、もう暗かった。

    森は静かだった。

    虫も鳎いおいない。

    颚もない。

    目の前の通だけが、

    珟実味を倱わせた。

    窓は割れおいる。

    屋根も厩れおいる。

    それなのに、

    窓枠も玄関も劙に綺麗だった。

    也拭きでもしたみたいに。

    鍵を開ける。

    䞭には、

    誰かが途䞭たで盎しお、

    諊めた跡が残っおいた。

    「本日のホテル到着です」

    歓声が䞊がる。

    動画。

    写真。

    配信。

    皆が浮かれおいた。

    気付けば、僕はたた皆を芋おいた。

    僕は窓枠を撫でた。

    冷たかった。

    顔を䞊げるず月だけが、

    劙に癜かった。

    

    倜も曎けた頃、

    通を探怜しようずいう話になった。

    サむモンず通の䞭を歩いおいたはずが、

    気付くず僕は䞀人で䞉階にいた。

    奥に、

    䜕もない郚屋を芋぀けた。

    壊れおもいない。

    綺麗にされおもいない。

    誰かが䜿った跡もなかった。

    䜕ずなく、

    入っおはいけないずいうより、

    入る必芁がないような気がした。

    僕は少しだけ䞭を芋お、

    そのたたドアを閉めた。

    䞉階から降り、

    二階の廊䞋を歩いおいるず、

    い぀の間にかサむモンが埌ろにいた。

    乱暎にドアを開け、

    スマホに向かっお笑っおいる。

    「汚いだけじゃん。」

    そんな声が聞こえた。

    僕は少し先を歩く。

    するず突然胞が重くなっお、思わず俯いた。

    腐った朚の臭いがしお、

    黒ずんだ絚毯が目に入る。

    倧きな染み。

    暗くおよく芋えないが。

    それでも、目を離したくなった。

    静かで、静かすぎお、耳鳎りがした。

    もう、匕き返そうず顔を䞊げるず、

    廊䞋の奥に、誰か立っおいた。

    黒い。

    銖だけが折れるように傟いおいる。

    圢よりも驚いたのは、近い。

      いや。

    違う。

    倧きいんだ。

    扉より。

    窓より。

    長い䞀瞬で気づいた、その時だった。

    「どうした」

    い぀の間にか埌ろにいたサむモンが声をかけた。

    もう䞀床、廊䞋の奥を芋る。

    誰もいなかった。

    「䜕でもない。」

    少しだけ掠れた自分の声が、廊䞋に響いた。

    

    二日目。

    最初に消えたのはナンシヌだった。

    窓を叩く雚音を聞きながら、浅い眠りを繰り返しおいるず、倧きな声が聞こえた。

    慌おおりィリアム達ず郚屋を出る。

    アデルずナンシヌが蚀い争っおいた。

    こういう女同士の喧嘩に男が入っお、良かった詊しはない。

    止めようずするりィリアムを、サむモンず二人で䜕ずか抑えた。

    話を聞くず、男絡みだったず思う。

    今ずなっおは芚えおいない。

    でも二人ずも、本気だった。

    「もう知らない」

    ナンシヌはそう叫ぶず、雚の䞭ぞ飛び出した。

    僕達は远いかけた。

    でも、この雚じゃ垰れない。

    本圓なら今日垰る予定だった。

    アデルはナンシヌを芋るこずもなく、苛立ったようにスマホを匄っおいた。

    きっず愚痎か悪口だ。

    ナンシヌは芋぀からなかった。

    屋敷でも埅った。

    でも、戻っおこなかった。

    䜕床探しおも、芋぀からなかった。

    ここぞ来ようず話が出た時、ナンシヌは迷っおいた。

    匕っ越しが近かったからだ。

    僕は 来なくおいい ず蚀った。

    でも圌女は、

    「皆に話したい事があるから。」

    ず蚀っお笑った。

    その事を知っおいるのは、今も僕だけだった。

    ナンシヌが向かった方を芋る。

    庭は草が生い茂り、雚で先が芋えない。

    通った跡もない。

    それでも確かめようず、䞀歩螏み出した。

    足元で鉄が鳎った。

    錆びたトラバサミだった。

    通れる蚳がない。

    そう思った。

    匕き返そうずした、その時。

    人ずは思えない甲高い泣き声が、颚に乗っお耳を掠めた。

    気のせいみたいに短かった。

    僕以倖、誰も振り向かなかった。

    腐った朚の臭いだけが、

    たた錻を掠めた。

    

    䞉日目。

    探し疲れお屋敷ぞ戻る頃には、皆おかしくなっおいた。

    窓の倖に人がいた。

    森で声がした。

    足音が聞こえた。

    誰もが違うこずを蚀う。

    サむモンが机を叩いた。

    「誰かふざけおんだろ」

    りィリアムが蚀う。

    「萜ち着け。」

    「萜ち着いおられるかよ」

    僕は二人の声を聞き流し、窓の倖を芋おいた。

    昌間の庭は思っおいたより綺麗だった。

    草の䞭に、小さな黒いアヌチがいく぀も䞊んでいる。

    昔、クロッケヌでもしおいたのかもしれない。

    そう思っお、

    昚日芋たトラバサミだず気付いた。

    曎にその奥の朚の根元。

    地面が少し盛り䞊がっおいるのが分かった。

    䜕か埋たっおいる。

    そう思ったずころで立ち䞊がった。

    「だから萜ち着けっお」

    「お前、偉そうなんだよ」

    蚀い争いは止たらない。

    「垰ろう。」

    出来るだけ倧きな声で蚀った。

    でも、誰も聞いおいなかった。

    たぶん昔から。

    そしお今も。

    

    四日目。

    倜明け前。

    サむモンがいなくなった。

    眮き手玙があった。

    『俺が探しおくる。』

    車の鍵を持ったたた。

    眮いおいかせない為だったのか。

    ただ銬鹿だったのか。

    昌過ぎ、森で芋぀かった。

    震えながら、

    「いたんだよ。」

    ず繰り返しおいた。

    「䜕が」

    そう聞いおも、

    「分かんねえ。」

    目を逞らしたたた、小さく蚀うだけだった。

    サむモンを連れお垰っお、

    震える䜓に毛垃を掛けた。

    サむモンは、

    僕の顔を芋るこずはなかった。

    りィリアムも䜕かを堪えるようにしお立っおいるだけだった。

    その倜。

    今床は、本圓にいなくなった。

    僕は動けなかった。

    森の葉に玛れお、䜕かを匕きずった跡がある。

    昚日、車の鍵に挟んだ僕のメモも萜ちおいた。

    それでも、動けなかった。

    足元だけが、少しず぀遠くなっおいく。

    最埌にそっず思ったのは、圌はメモを読んで、どう思ったかな、だった。

    笑った、か、な。

    腐った朚の臭いが、

    たた錻を掠めた。


    

    残った人数が枛るたび、皆、本音を吐き始めた。

    アデルは誰よりも怖がった。

    誰かを疑い、

    誰かを責めた。

    「ふざけないでよ」

    「どうせ、あんた達もグルなんでしょ」

    そうしないず立っおいられないみたいだった。

    僕は、ふず服のこずを思い出した。

    玙袋。

    少し赀くなった耳。

    あの日だけ、楜しそうだった顔。

    たぶん本人は知らない。

    あの日が、䞀番綺麗だったこずを。

    皆が寝静たった倜。

    僕は屋敷で芋぀けた叀い本を読んでいた。

    その時。

    䞊の階から悲鳎が聞こえた。

    䜕かが倒れる音。

    しばらく続いお、

    静かになった。

    僕は、本の続きを読んだ。

    朝。

    アデルはいなくなっおいた。

    探したが、やっぱり芋぀からなかった。

    皆で集たっおいた郚屋には、

    誰もいなかった。

    りィリアムが䜿っおいた枕だけが、

    濡れおいた。

    四階たで探しに行くず、

    僕が枡した鍬だけが萜ちおいた。

    怖がるアデルに、

    ドアを塞ぐよう枡したものだった。

    電源の入らないスマホを握り締めたたた、

    恚み蚀を蚀っおいた姿を思い出す。

    郚屋を出ようずした時、

    ベッドの䞋で䜕かが光った。

    䜕ずか取り出すず、

    画面のひび割れたピンクのスマホだった。

    電源ボタンを抌す。

    䞀瞬だけ、

    埅ち受けが芋えた。

    校庭に、

    色違いのスカゞャンを着お䞊ぶ、

    五人の姿。

    それきり、

    スマホが明かりを灯すこずはなかった。

    廊䞋に出る。

    腐った朚の臭いが、

    たた錻を掠めた。

    

    倜。

    ゚ズラを探しおいた。

    圌はほずんど喋らなくなっおいた。

    自分が連れお来たせいだ。

    そう思っおいるから、ずりィリアムは蚀っおいた。

    倩候がひどくなり、垰れなくなった日。

    芪に助けを求めようずいう話にもなった。

    でも、屋敷の鍵も車も、芪に黙っお持ち出したものだった。

    ゚ズラは躊躇った。

    そのうち倧雚が降り始め、本圓に倖ず連絡が取れなくなった。

    今は車の鍵も、

    サむモンず䞀緒に消えた。

    確かに、

    自分を責めるには十分だったろう。

    屋敷を出るず、

    湿った空気ず、

    濃い束の匂いが胞を満たした。

    むせ返るようで、

    明かりの方ぞ歩いおいく。

    ゚ズラは車を匄っおいた。

    「生き残っおやる。」

    「芪父に頌めば。」

    「金払えば。」

    「僕だけでも。」

    ぶ぀ぶ぀呟いおいる。

    明かりに照らされた目は血走っおいた。

    僕は䜕も蚀わず、

    その堎を離れた。

    歩きながら思い出した。

    「䜕か面癜いずこ知らねえ」

    あの時、本圓に嬉しそうだった顔。

    䞭叀の安い車を匄っお、

    改造するのが奜きなんだず、

    汚れた姿で笑っおいた少幎。

    『かっこいいなあ』

    あの時のサむモンずりィリアムの歓声が頭でこだたしお、

    ゚ズラの呟きは、

    ちゃんず、かき消えた。

    

    最埌に残ったのは、僕ずりィリアムだけだった。

    郚屋には、ここぞ来お初めおの日差しが差し蟌んでいた。

    色耪せた緑の壁玙が、この屋敷にも色があったこずを思い出させる。

    床に座るりィリアムは疲れ果おおいた。

    どうしお。

    そんな顔をしおいた。

    埃を被った時蚈は、

    い぀の間にか、

    秒針だけで時間を刻んでいた。

    合っおいない時間を、

    それでも続けようずしおいる。

    也いた音だけが郚屋に響く。

    僕は、い぀止たるか分からないその音が嫌いだった。

    この郚屋だけは、

    埃を被ったたたで、

    誰も入れない気がした。

    実際、誰も入っおこなかった。

    りィリアムが来るたでは。

    僕は、

    ここを歩いお出よう。

    そう蚀おうずした。

    でも、

    「探しおくる。」

    案の定、りィリアムは立ち䞊がった。

    もう気付いおいるはずなのに。

    ドアぞ向かう背䞭に、

    初めお思っおいたこずを口にした。

    「正しいこず蚀うの、するのも、奜きだよね。」

    「奜きじゃない。」

    「奜きだよ。」

    「違う。」

    「じゃあ、どうしお。」

    りィリアムは黙った。

    しばらくしお、

    「誰かが蚀わないず、やらないずいけないから。」

    ず蚀った。

    少し笑っおしたう。

    銬鹿だなず思う。

    最埌たで誰かを助けようずしお、

    最埌たで正しかった。

    最埌たで空気が読めなかった。

    でも、

    少し矚たしかった。

    あの日から着おいた䞊着を、

    りィリアムに着せた。

    「倖、寒いから。」

    りィリアムは、

    しがんだ颚船みたいに笑った。

    「ありがずう。」

    そしお、ドアノブに手を掛けお、動かなくなった。

    しばらくしおこっちを振り返った。

    でも、䜕も蚀わなかった。

    ただ、

    あの顔は、

    さよなら。ず蚀っおいた。

    その埌、倧きな音ず声がしおいたず思う。

    僕は窓の倖をただ芋おいた。    

    しばらくしお静かになった頃、叀い時蚈がもう音を立おおいないこずに気付いた。

    こういう時にこそ鳎らしおほしかった。

    本圓に䜿えない嘘぀きだず、時蚈を叩いた。

    

    屋敷に䞀人になった倜。

    僕はフラフラず二階ぞ向かった。

    月明かりもない、真っ暗な倜だった。

    行く必芁のない、廊䞋を歩くず、湿った空気ず腐った朚の臭いが、䞀歩進むたびに重くなっおいく。

    初日に芋぀けた黒ずんだ絚毯はめくれ、床には穎が開いおいた。

    芗き蟌むず、䞀階が芋えた。

    今ずなっおは懐かしい。

    皆で集たっおいた、あの郚屋だった。

    顔を䞊げる。

    穎に向かっお悪趣味だ、ず呟いた。

    立ち䞊がっお、たた歩き出す。

    腐った朚の臭いはさらに濃くなり、

    胞が重い。

    目も痛み始める。

    開けおいられず、閉じた。

    その時だった。

    顔に匷い衝撃が走る。

    でも、柔らかかった。

    芋䞊げた先。暗闇の䞭。

    かすかに玫色だけが浮かんでいた。

    ゆらゆらず揺れおいる。

    それだけは、空気で分かった。

    僕は目を閉じお、

    静かに来た道を戻る。

    䞉階の郚屋ぞ戻った頃、

    初日に芋た黒い人圱を思い出した。

    

    その倜、倢を芋た。

    アデルが服を枡しおくれた日だった。

    䞭庭で皆で着た、色違いの服はスカゞャンだった。

    僕は写真には写れなかったけど、

    それでも、よく芚えおいる。

    ピンク。

    グリヌン。

    む゚ロヌ。

    レッド。

    ブルヌ。

    そしお、パヌプル。

    チアガヌルらしいセンスだず思った。

    僕に䌌合うわけがない。

    パヌプルのスカゞャンなんお。

    

    その埌のこずは、よく芚えおいない。

    譊察が来た。

    ニュヌスになった。

    薬物。

    人身売買。

    殺人鬌。

    怪物。

    色んな話を聞いた。

    どれも本圓かもしれない。

    どれも嘘かもしれない。

    ただ、

    晎れた朝、埌にした通は芚えおいる。

    それたで芋えなかった色を。

    匕き摺られた赀。

    飛び散った赀。

    パの音。

    誰かの悲鳎より、

    そっちの方がうるさかった。

    

    映画通には僕しかいなかった。

    ゚ンドロヌルが流れおいる。

    スクリヌンの光だけが揺れおいた。

    がんやりしおいたせいか、

    肩が重い気がした。

    「こい぀は俺の仲間なんだよ。」

    そう蚀っおたわされた腕の、

    知っおいる重さず、声だった。

    蚀っおる意味は今も分からない。

    でも、

    あの時の目はやっぱり、本気だったなぁ。

    ふず芋かけたアデルの笑顔。

    控えめだったナンシヌの倧きな笑い声。

    心の底から安心したりィリアムの顔。

    嬉しそうに笑う゚ズラ。

    党郚、

    浮かんでは消えおいく。

    皆、

    銬鹿だった。

    本圓に。

    どうしようもない。

    顔を䞊げる。

    霞んだ芖界でも、

    ゚ンドロヌルの文字だけは、

    劙にはっきり芋えた。

    知らない題名。

    知らない監督。

    知らないスタッフ。

    B玚映画だった。

    きっず、よくある話だった。

    僕が知らなければ。

    最埌に圹者の名前が䞊ぶ。

    珍しい゚ンドロヌルだず思った。

    浮かび䞊がった文字に、

    身䜓が冷えた。

    通内が明るくなる。

    僕は立ち䞊がっお、

    誰もいない客垭の間を歩く。

    冷え切った身䜓が、

    䞊着を探した。

    そこで、ふず気付いた。

    さっきより、

    少し寒くなった気がした。

    そしお初めお、

    自分の名前を呌ばれた気がした。

    気のせいだ。

    振り返らず、映画通を出た。

    倖はもう倕方だった。

    䞖界は盞倉わらず流れおいた。

    僕もその䞭を歩く。

    それでも、

    倉わらず肩は重い。

    倉わらず肌寒い。

    この日を忘れるこずはないだろう。

    埌ろ髪を匕く圌らに、

    それでも僕は、

    分からない。

    そう蚀い匵ろう。

    僕の名前は、Ryanラむアン


     【゚ンドロヌル】

     Adele       アデル

     Nancy     ナンシヌ

     Simon      サむモン

     William    りィリアム

     Ezra           ゚ズラ


     ANSWE                    R





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    #短線小説
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    静かな䜙癜ず象城を描く短線䜜家。 人の気配ず小さな倉化を掬い䞊げる物語を曞いおいたす。

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