
窓の向こうで、
窓の向こうでは、誰かが笑っていた。
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大事な人を失って、ずいぶん経った。
自分はその人を守るために
力を尽くしたつもりだった。
けれど、それが本当にその人のためだったのか、
今ではわからない。
取り返しのつかないことをした。
そんな思いだけが残った。
悲しい日が続いた。
終わりは見えなかった。
朝は来る。けれど、
それを綺麗だと思えた日がいつだったのか、もう思い出せなかった。
ある夜、
もう立ち上がれないと思った。
渇きった顔を枕に押しつけて、
このまま息が止まればいいのにと願った。
そのときだった。
外から、
大きな笑い声が聞こえた。
驚いて、顔を上げた。
窓の外を見ると、
網戸は閉まっていた。
タバコで焼けた小さな穴が二つあって、
その隙間から男の後ろ姿がちょうど見えた。
街灯の下を歩きながら、
誰かと電話をしている。
顔は見えない。
後ろ姿だけ。
ただ、楽しそうな声が
夜に響いていた。
もう通り過ぎているはずなのに、
しばらく消えなかった。
それを聞いたとき、
私は泣いていた。
さっきまで
自分の世界は、すでに真っ暗だったのに
もう何も見たくないと願っていた。
でも今、
私の世界に笑い声がある。
網戸の向こうに、
幸せそうな世界が見える。
夜風が、
どこか別の場所の匂いを運んできた。
もし今日が、
私にとって最低の日でも。
世界のどこかで、
誰かにとって最高の日だったのなら。
私はこの日を、
恨めるんだろうか。
それから、
世界の色が少し変わった。
バス停の端の雑草が
鮮やかに見えた。
態度の悪い人を見ても、
寂しいのかもしれない、悲しいのかもしれない。
そう、思うようになった。
それでも憂鬱な日は来る。
そんなある日、
「今日、私誕生日なの」と
笑いながら話す人を見かけた。
私は、おめでとうと言って、
その場を離れた。
足取りが軽かった。
世界のどこかに
サンタクロースがいるかもしれない。
知らない森のどこかで
ユニコーンが散歩しているかもしれない。
私はすべてを知らない。
だから救われた。
私は、ないと言い切らなくてもよくなった。
だから優しくなれた。
私が見ていた現実。
世界のどこかにある現実。
その両方を合わせて、
私は世界を選んだ。
——ひとつだけでは、いられないだろうけど。