American Love Story #12 ー トパンガの隠れ家
Joshは居候先がなくなり、しばらく車の中で生活することになった。
彼のことを心配する友達は多く、何人もの男友達が「うちに来ないか」と声をかけてくれた。私もHenryに相談した。どうせ断られるだろうと思っていたが、彼はあっさり、
“Josh can stay if it’s a short term.”
と言ってくれた。
でもJoshは、かたくなに車の中で過ごすと言った。私は勝手に、そういう生活が彼の物書きとしての人生に何か良い影響を与えるのかもしれない、と思った。
けれど実際には、車の中での生活は彼を少しずつ消耗させていた。睡眠不足で、目の下にはクマができ、いつもより機嫌の悪い日が続いた。
そんなある日、Joshがドライブに行こうと言って、トパンガキャニオンに連れて行ってくれた。
私はトパンガに行ったことがなかった。サンタモニカからFreeway10を抜け、PCHに入り、マリブ方面へ向かう。この海沿いの景色が私は大好きだった。しばらく走ると、Topanga Canyon Boulevard という信号が見えてくる。そこを右に曲がると、景色は一気に変わった。
くねくねと続く急な山道。まるで箱根の山道みたいだった。何度も何度もカーブを曲がっていくうちに、海の気配は消え、あたりは壮大な山の景色に変わっていった。サンタモニカからほんの少し車を走らせただけなのに、まるで別の世界だった。
山に入って最初に見える小さなマーケットを左に入ると、Grand View という名の道があった。そこをさらに上へ上へと登っていく。細い山道を10分ほどくねくねと上がったところで、Joshは車をUターンさせた。
そこには、大きな山を一望できる家があった。
Joshは、LAに引っ越してから去年までずっとその家に住んでいたのだと言った。一目ぼれして借りた家だったらしい。けれど仕事を失ってしまい、今は他の人に sublet しているのだという。
その日は住人がいなかった。Joshは「鍵が開いているから、ちょっと中を見せるよ」と言って、私を案内してくれた。
正直、私は非常に居心地が悪かった。他人の家に忍び込むのは犯罪だ。
でも彼はそんなことにはお構いなしに、キッチンやリビング、本物のfireplace、地下のベッドルーム、そして屋根裏のソファールームまで見せてくれた。屋根裏は窓が大きく、山が一望でき、天窓まであるから夜には月や星も見える、夢みたいな空間だった。
家具はどれもセンスがよかった。ミッドセンチュリーの家具、真っ白な大きなソファー、Vintageのピンクのシングルソファー、たくさんの植木。大きなバルコニーには、南フランスかギリシャにありそうなタイルのテーブルと椅子が置かれていた。遠くには鷹が飛び、空気は驚くほど澄んでいた。聞こえるのは鳥の声だけだった。
まるで誰にも知られていない隠れ家みたいだった。しかも、置いてあるものすべてが美しくて、Joshがメルローズアベニューで少しずつ集めたのだろうと思わせる、一点ものの家具ばかりだった。
Joshは、この山奥でたくさんの物語を書いたのだと言った。そして、いつか絶対にこの家に戻ることが目標なのだと。
彼は、言った。
“Once I get a job, I want to live with you. Do you want to move in?”
move in という言葉に、私はひどく心が躍った。
こんな隠れ家で、二人で好きなものに囲まれて暮らす生活を想像した瞬間、その非現実的な未来に、私は強くときめいてしまった。