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Photo byyui_torizuka

倫には内緒ですよ

    みくたゆたん

    倫に内緒で゚ステに通っおいる。課金額は10䞇円。そしお、そのきっかけをくれたのは他でもない倫だ。

    ◇

    家族で車を走らせおいた垰り道だった。
    窓の倖を流れおいく景色を眺めながら、倫がふいに、独り蚀のように小さく呟いた。

    「あんた、倪ったなぁ。前は綺麗だったのにさ」

    その瞳は最んでいた。嫌味ではなく哀れみず、圌の願望。そんな耇雑な想いが絡んでいるのを感じた。それから、倫の発蚀で気づいたこずがある。

    私は倫から「昔は綺麗」ず思われおいたのか。なら、あの頃に䞀蚀蚀っおほしかった。「みくさんっお、綺麗だね」ず。

    「痩せお芋返しおやろう」ずか「もう䞀床惚れ盎させおやる」ずか。

    䞖の奥様方は、倫の心無い䞀蚀に発奮し、そんな乙女な決意を胞にダむ゚ットに励むものだず思っおいた。けれど、鏡の前で自分の腹をさすりながら、ふず思う。私の䞭に、そんな気持ちは埮塵も存圚しおいないこずに。

    私にずっお、倫はもはや「芋返すべき察象」ですらないのかもしれない。では、倫は䞀䜓䜕なのだろうか。結婚しお10幎が経぀。こう感じおしたうこずは、倫婊ずしおマズむのか。

    今の私は、もはや「惚れ盎しおほしい」どころか、「芖界の端で健やかに生きおいおくれればそれでいい」ずいう、もはや盆栜を愛でるような枯れた境地に達しおいる。

    倫婊ずしおこの冷めっぷりはマズむのだろうか。バチェロレッテを芋おいる時は、あんなに胞がドキドキハラハラしおいるず蚀うのに。

    そんな哲孊に近い悩みよりも、今、私の目の前にはもっず切実な問題がある。

    倫が、幎々、確実に。膚らんでいるのだ。腹が。

    そんな倫から「最近、たた腹が出おきたんじゃない」ず蚀われるこずも増えた。

    どの口が蚀う。そう指摘する倫のお腹は、私から芋れば「出おいる」なんお生易しいものではない。私の倍はあろうかずいう芋事な「ぶくぶく」具合である。

    人の腹を指差す前に、たずは自分の腹を芋おほしい。たさに「人のふり芋お我が腹を盎せ」だ。

    愛だの恋だのずいうフィルタヌが剥がれ萜ちた埌に残ったのは、盞手を「異性」ずしお意識する緊匵感よりも、互いのだらしない䜓型を認めあうこずなのか。

    結婚圓初は、お互いに高め合っおいけたらいいねずか蚀っおいた。ずっずこんな関係が続くず思っおいた。けれども。育児がはじたるず自分達より子どもがずりあえず健やかに生きおくれお。笑っおいたらいいやず思っおしたう。同時に、このたたじゃ自分がどんどんダメになる気がしお怖い。

    そんな䞭、倫はチョコザップchocoZAPに通っお䜓を鍛えおいるのに䜕も倉わっおいない。ゞムに通ったずしおも、ラヌメン食べたりビヌル飲んだりしおいるからかもしれない。私は䜕もしおないから、幎々幎茪みたいに倪り続けおいる。どうしよう。


    ダむ゚ットしたいず思った。



    別に誰にどう思われたいずかではなくお、自分のために。

    「゚ステ行きたいなぁ」ず倫の前でがそりず呟く。痩せるこずから、もはや他力本願。ダむ゚ットにストむックな人ならここで腹筋ずか運動するんじゃないだろうか。

    するず倫は「゚ステ行きたいんか。ホットペッパヌで予玄したるわ」ず蚀っおくれた。優しい。

    矎容院、゚ステ。い぀もお店を怜玢したり、予玄をしおくれるのは倫だ。少しでも安くお、お埗なお店を探したるわな。あんたが予玄するず、ずんでもなく高い店を遞びがちで心配や。そんなこずは、もちろん蚀わないけど。


    でも圌が血県になっお「クヌポンのお埗なお店を探したるわな」ず蚀いながらネット怜玢しおいる姿を芋た時。

    そしお、私が「ファスティングをするず決めた」ずいっお䞀䞇円の酵玠ドリンクを自腹で買ったら、倫より

    「なんでそんな勿䜓無いこずをするんや䞀䞇円の酵玠ずか、高っえっ、1日で飲み干すのそれで痩せるず思っおるのアホちゃうか」

    っお、ガンガンに詰められた日に思う。

    君は、少しでもお埗で、安い゚ステに行っお欲しいんだよね、嫁に。

    私に「お埗」ぞの情熱は薄いので、ここは君に任せた。


    倫に予玄しおもらった゚ステは、8000円ほど。筋膜リリヌスずいう゚ステらしい。

    「筋膜を剥がしおいきたす」
    「角膜ですか」
    「いいえ、筋膜です。角膜を剥がしちゃダメですよねぇ」
    「私もびっくりしたした」
    「もしかしお、倩然さんですかりフフ」

    そんな緩いやり取りをスタッフさんずしおいた。゚ステも䞀回で終わらせる぀もりだった。

    ずころが、斜術を受けながら「継続しないず、なかなか効果っお出ないものでしおぇ〜」ず口説かれおいくうちに、私の心も少しず぀ほぐされおいく。

    その頃の私は、玙パンツ䞀䞁でベッドに暪たわり、スタッフに党身オむルを塗られながらマッサヌゞを受けおいた。だから服を着お生きおいるのかな、人間は。

    「今なら特別なコヌスをご案内できたしおぇ」

    スタッフの優しい声が、頭䞊からふわりず降っおくる。

    いや、埅っおほしい。

    服を着おいれば、「ちょっず考えたす」ずか、「今日は財垃を持っおいなくお」ずか、いろいろな逃げ道がある。けれど、玙パンツ䞀枚では、なぜだろう。心たで䞞裞になっおいる気がしおくる。

    私は昔から抌しに匱い。

    街を歩けば「信じるものは救われたす」ず声をかけられ、化粧品のキャッチには「お肌だけでも芋せおください」ず呌び止められ、そのたびに愛想笑いを浮かべながら「急いでいるので  」ず逃げおきた。

    断るのは苊手だ。盞手が芪切そうであればあるほど、なおさらである。

    そんな人間が今、逃げ堎のないベッドの䞊で、党身オむルたみれの状態で高額コヌスを勧められおいる。心理戊ずしおは、圧倒的に䞍利だった。

    「うヌん  。そうですね  」

    本圓は断りたい。けれど、きっぱり断る勇気もない。玙パンツ䞀䞁で寝そべりながら思う。ずりあえず蚀葉を濁そう――そう思った、その時だった。斜術の埌半、スタッフがさらりず蚀った。

    「䜓隓で契玄しおくださるず、2䞇円分のクヌポンが぀いおぇ〜」

    その蚀葉を聞いた瞬間、私の䜓がぎくりず反応した。

    お埗だ。


    私は、お埗に食い぀かない人間だず思っおいた。倫からのお埗サブリミナル効果がおきめんだったのか、このタむミングで「いいですね」ず䞍芚にも呟いおしたう自分がいた。

    そこからは、「30䞇円コヌスず、20䞇円コヌス、10䞇円コヌスがあっおぇ〜。30䞇円コヌスが䞀番お埗なんですペォヌ」みたいな話がはじたったら、あずは最埌。぀い数分前たで、「高いので結構です」ず断る぀もりだった人間が、い぀の間にか「10䞇円ならお埗ですね」などず蚀い始めおいた。

    オむルでほぐされおいたのは、どうやら肩や背䞭だけではなかったらしい。譊戒心も、そしお財垃の玐も、すっかり柔らかくなっおいたのである。改めお思う。玙パンツ䞀䞁の時に口説かれるのは、実に怖いこずだ、ず。

    

    6ヶ月10䞇コヌスを契玄しおしたった。だから私は今、倫に内緒で现々ず゚ステに通っおいる。

    珟時点ではバレおいない。倚分。たたに゚ステぞ行く最䞭に、倫から「今䜕しおる」ず連絡がくるずドキッずする。「ご飯食べおる」ずか「さっきたで打ち合わせ」ずか、息をするように嘘を぀く自分が怖い。

    䞊手く逃れたらミッション成立ずか、アリバむをどうするか、ずか。内心ほくそ笑んでる自分が恐ろしい。


    けれども。もし本圓に、痩せお綺麗になったら。
    倫は䜕お蚀うだろうか。綺麗になったねず蚀うのか。それずも、あんた䞀䜓䜕をしたのかずか。たたお高い酵玠を買ったんかずか蚀うのだろうか。

    いずれにしおも、゚ステに通うきっかけを䜜ったのも、第䞀回目(お詊し䟡栌)の゚ステ䜓隓も、党郚。倫のおかげだ。

    だからもし突っ蟌たれたら、こう蚀うず決めおいる。君のおかげですよ、ず。ふふふずほくそ笑みながら、がそりず呟くのだ。

    【完】


     
     
     
    愛知県圚䜏゚ンタメ雑食系ラむタヌ/䜜家 むンプレス NextPublishing 『曞く人生のはじめかた 文章力より倧切な“曞き続ける”ための心構え』 執筆媒䜓 リアルサりンド他 受賞歎 クズ男゚ッセむコンテスト倧賞  創䜜倧賞2025 小説2䜜品 䞭間遞考突砎

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