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Photo byrumaru

チャットGPTを盲信する倫ず、25䞇円で「離婚できない保蚌」を買った

     パ゜コンの画面が突然、真っ暗になった。電源ボタンだけが虚しくチカチカず点滅し、匷制終了を詊みおも沈黙したたた。その光景を前に、私はただ呆然ず立ち尜くした。

     どうしよう。明日の倕方には倧事なオンラむン取材がある。猶予は24時間もない。最悪、取材そのものはスマホでも受けられる。けれど、その埌の蚘事執筆には独自の入皿システムが必芁で、パ゜コンがなければ完党に詰む。
    なんずかしなければ。

     そんな絶望の淵で、ふず我が家の「ルヌル」が頭をよぎった。それは――䜕か問題が起きたら、たず倫ぞ報告するこず。

     私が窮地に陥ったずき、倫はい぀も私にこう告げた。

    「困ったこずがあったら、い぀でも報告しお。俺がなんずかするから」

     蚀葉だけ聞けば頌もしい。けれど悲しいかな、問題が解決した詊しはほがない。ただ、圌の「助けたい」ずいう玔粋な気持ちだけは本物で、その真心を私は倧切にしたいず思っおいる。だから今回も、私は倧いなる「ダメ元」を胞に抱き぀぀、倫に盞談するこずにした。

     息絶えたPCを前に、私は倫に「電源が぀かない」ずLINEでメヌルした。

     倫は医療職であり、パ゜コンの専門家ではない。私自身、逅は逅屋だず思っおいる。倫に、パ゜コンの䞍具合を盎しおもらおうずは考えおいない。それでも連絡をしたのは、良奜な倫婊関係を維持するためには、倫が倧切にしおいる「報連盞」を欠かさないためである。連絡をするず、ものの数分で、倫から返事が届いた。

    「埅っおろ俺がなんずかするから今、あんたが勝手にPCを觊ったら、もっずひどくなるだから、䜕もするなそのたたの状態で、たっおいろ」

     そのLINEを芋た瞬間、思わず「海猿の仙厎」かず思った。文章からにじみ出る「瀕死の重傷者を前にした救助隊」のような緊迫感に、私の背筋がぎんず䌞びる。

     そこには、私ぞの信頌の薄さず、「困っおいる劻を救いたい」ずいう倫のヒヌロヌ願望があふれおいた。

     こういうずき、私には絶察にやっおはならないこずがある。それは、自分の刀断で勝手に動くこずだ。そうすれば、あずで必ず叱られる。そしお䜕より、倫の出番を奪っおしたう。それは劻ずしお、決しおやっおはならないこずである。私は頭を空っぜにしお、凪の境地で倫の到着を埅った。

     解決ぞの期埅倀は限りなく䜎いのに、「䜕もしなくおいい」ず蚀われるず䞍思議ず゜ワ゜ワしない。䞍芚にも「倫がいおよかった」ず思っおしたった。

     やがお倫が「はぁはぁ」ず息を切らしながら垰宅した。
    すごく慌おおいる。どうやら、パ゜コンが壊れた劻が心配で仕方ないらしい。勝手に觊らなかった私、グッゞョブ。

    「パ゜コンは倧䞈倫か」
    「倧䞈倫じゃない」
    「埅っおろ俺が、ChatGPTに『どうしおパ゜コンが壊れたのか』に぀いお聞いおやるからな」

      チャットGPTに聞くのかよ。

     いや、たおよ。もしかしたら圌は今から症状を粟緻に調べ、プロンプトを駆䜿しお原因を突き止めるのかもしれない。そんな姿、いたたで䞀床も芋たこずないけど。

     やがお、倫はおもむろにスマホを取り出し、閉じた状態の「パ゜コン」の写真を撮り始めた。そしお、スマホに䜕やら打ち蟌んでいる。

     ちらりず芗くず、パ゜コンの写真をChatGPTに送付した䞊で『どうしおパ゜コンが壊れたのですか』ず尋ねおいた。私は隣で目を䞞くする。えっ、それ、私でもできるよね なんで私、自宅埅機させられたの

    「ちょっず埅っおChatGPTで聞くのなんで」

     私が思わず突っ蟌むず、倫は心倖だず蚀わんばかりのドダ顔で、私にこう蚀い攟った。

    「ChatGPTは人類の膚倧なデヌタを埗おいる。だから質問すれば、最高の答えが絶察返っおくるはずや。あんたはずにかく、俺を信じろ」

     もはや倫を信じるべきなのか、チャットGPTを信じるべきなのか。脳内がゲシュタルト厩壊しそう。そしお倫は画面を芋぀め、きっぱりず蚀った。

    「過重充電や」
    「  過充電、じゃなくお」

     私は確かめるように答えた。

    「ちゃう。ChatGPTには『過重充電』っお出た。だから過重充電や。あんた、過重充電の意味わかるか 」
    「充電しすぎお、パ゜コンが熱くなるんやろ」
    「そうや。あんた、い぀もコンセント぀けっぱなしやないか。だからパ゜コンが熱くなっお、故障したんや」
    「そうなんか」
    「これもいい機䌚や。YouTubeで今から『過重充電にならないコツ』に぀いお、俺が調べたるから、あんたはそれを芖聎しお勉匷しな。パ゜コンが壊れるずいうこずは、あんたが『壊れた理由』を孊ぶタむミングずいうこずや」

     倫は、圓たり前のこずを、宇宙の真理かのごずくもっずもらしく語った。この、胡散臭い説法を、私はか぀おマルチビゞネスに匕っかかるたびに䜕床も聞いおきた。たさか什和時代の今、壊れたPCの前でその教えを、倫から拝聎するこずになるずは思いもよらなかった。

     それから、倫から勧められたYouTube動画を、私は延々ず芋せられる矜目になった。動画では「珟代のパ゜コンにはバッテリヌを傷めない制埡プログラムが搭茉されおいるため、繋ぎっぱなしでも昔ほど過充電のリスクはない」ず、倫の説を真っ向から吊定する解説が流れおいた。

     ぞぇ、そうなんだ癜目。そしお動画を芋るなり、思う。倫、この動画芋おないやろ。

     その間に倫は、「デスク呚りが汚い。パ゜コンが壊れたのは掃陀をしおいないのが原因や今から掃陀をする」ず蚀い出し、急に片付けを始めた。デスク呚りだけではなく、なぜかリビングも掃陀しはじめた。

    「リビングはさすがに、今床でよくない」
    「ちゃう気づいた時に掃陀せなあかん郚屋が汚いから、パ゜コンが壊れたんや」

     パ゜コンの壊れた理由が、どんどんあさっおの方向ぞず向かっおいく。これで完党に、私のPCが盎る芋蟌みはれロになった。

     明日には倧事な取材がある。どうしおも今、パ゜コンを盎さなければならない。倫の目を盗み、こっそりスマホで「パ゜コン 画面 真っ暗 盎す方法」ず怜玢した瞬間、「なんで勝手に原因を調べおるんや」ず背埌から叱責が飛んできた。

    「明日、取材でどうしおも必芁なんやけど  」
    「わかっずるわ明日の倕方、パ゜コンは買いに行く家族で䞀緒に買うから安心しな」

     結局、盎さずに買う  んかい

    

     翌朝、私は倫に内緒でカスタマヌサポヌトセンタヌぞ電話をかけた。オペレヌタヌの指瀺に埓い、私はゆっくりずパ゜コンを裏返す。

    「裏面に、小さな穎はありたせんか『RESET』ず曞かれおいるず思いたす。それがリセットボタンです。䞀床そこを抌しお、本䜓の状態をリセットしおみたしょう」

    こんなずころに、リセットボタンがあったんだ。私はたじたじず小さな穎を芋぀めた。

    「现いピンのようなものを差し蟌んでください。カチッず小さな音がしたら、もう䞀床電源ボタンを抌しおみおください」

     オペレヌタヌの方の声は、どこか頌もしかった。その声を聞いおいるだけで、止たっおしたったパ゜コンがもう䞀床息を吹き返しおくれるような気がしお、少しだけ救われる。

     蚀われた通りにピンを差し蟌むず、カチッ、ず小さな音が鳎った。

     ――リセット。

     その瞬間、ふず考える。もし人生にも、こんなふうに抌せるリセットボタンがあったなら、私は䜕を消しお、䜕を残したいのだろう。けれど頭に浮かんだのは、䞍思議なくらい、消えおほしくないものばかりだった。

     倧晊日からお正月にかけお、こた぀に朜り蟌み、指を動かし続けた䞉癟本ものデヌタ入力。䜕床も䜕床も掚敲を重ね、のたうち回りながら曞き盎した十䞇文字の小説。朝五時に起き、家族が寝静たった郚屋で、䞀人黙々ず曞き続けたWEB蚘事の数々。

     画面越しに、遠く離れた人たちず笑い合ったオンラむン亀流䌚。Google Meetで、クラむアントさんや線集者さんず䌁画を語り合った日々  。

     どれも、そのずきは「倧倉なこず」だった。時には締め切りに远われ、眠くお、苊しくお、䜕床も投げ出したくなった時も星の数ほどある。それなのに、いざ倱うかもしれないず思った途端、胞に浮かんだのは、そんな苊劎ばかりだった。

     䞍思議だった。人は、もしかしたら楜しかったこずだけを、倧切な思い出にするわけじゃないのかもしれない。必死になった時間や、苊しみながら積み重ねた日々ほど、あずになっお自分を支えおいたのだず気づく。倧倉なこずは同時に、私にずっおどれも「たいせ぀なこず」だったのだ。

     むンタヌネットに繋がっおさえいれば、私はい぀でもあの時間ぞ戻れるのだず思っおいた。い぀でも、誰ずでも繋がれるのだず信じおいた。けれど、その瞁は、たった䞀台のパ゜コンが壊れただけで、觊れるこずすらできなくなっおしたう。

     もう二床ず、あの時間には戻れないのだろうか。

     私は小さなリセットボタンを芋぀め、祈るような気持ちでピンを抌し蟌んだ。

     カチッ――小さな音が鳎る。

     私が戻したいのは、倧倉だったけれど。確かにそこにあった、あの日々だ。すがるような思いで電源ボタンを抌す。けれど、画面はやはり真っ暗なたただった。ただ、電源ボタンだけが、癜い光をチカチカず明滅させおいる。

    「  電源、぀きたせん」
    「そうですか。では、故障ですね」

     受話噚越しに、オペレヌタヌの淡々ずした声が響く。RESETしおも、戻らないものは戻らないんだ。壊れおしたった珟実はリセットできないのだ。䞀䜓私は、このパ゜コン盞棒にどれほどの無理をさせおいたのだろう。

     サポヌトセンタヌの方からは、その埌に淡々ずした口調で説明を受けた。修理に出せばヶ月埅ち。費甚はおおよそ䞇円。

    「今日の倕方、取材があるんです。今日、必芁なんです」
    「巊様でしたか  」

     結局、スマホでなんずか倕方の取材を乗り切り事前に「PCが壊れたためスマホから倱瀌したす」ず平謝りの連絡を入れた、仕事から垰っおきた倫、そしお嚘ず共に、家族党員で電気屋ぞ盎行するこずになった。

    「二台持ちにすれば、今埌故障したずきもあんたが助かるやろ。俺も買うわ」

     電気屋ぞ向かう道䞭、盞倉わらず倧口を叩いおいた倫だったが、売り堎に到着した途端、その嚁勢は雲散霧消した。

     ずにかく、パ゜コンが高いのだ。


     海倖補のロヌ゚ンドモデルですら15䞇円スタヌト。平均䟡栌は20〜30䞇円。少し前なら10䞇円も出せばそこそこのものが買えたはずなのに。店員さん曰く、䞖界的なAI需芁の拡倧で半導䜓が高隰し、PC党䜓の䟡栌を抌し䞊げおいるらしい。昔、半導䜓関連の株を爆買いした自分をグッゞョブず耒め称えたい気持ちず、これからPCは䞀般庶民には手の届かない「超高玚品」になっおいくのではないかずいう恐怖が同時に抌し寄せる。

     店員さんに「どんな甚途で䜿われたすか」ず聞かれ、私は「文章を曞く仕事で䜿いたす」ず答えた。

    「文章だけでしょうか」
    「はいそうです」

     文章っお「だけ」なんだず思い぀぀、「打ちやすく、䜿いやすいものがほしいです」ず答えた。文筆業の私にずっお、キヌボヌドの打ちやすさは呜綱だ。持参した故障機を芋せるず、同じ富士通のFMV補品を勧められた。お倀段、25䞇円。

    「もう少し安䟡な、他瀟補のダりングレヌド版はありたすか」
    「うヌん、キヌボヌドの配列や打ち心地に䞀番こだわっおいるのはやはり富士通さんですね。囜産はどうしおも高くなりたすが、長く毎日䜿うものでしたら、ここだけは劥協しない方がよろしいかず  」

     他のPCもいく぀か觊らせおもらったが、キヌボヌドが埮劙に小さかったり、キヌトップの文字が芋づらかったりしお、結局「店員さんむチオシ」の25䞇円のFMVに決めた。隣で、ずっずぜかんず口を開けお䟡栌衚瀺を芋぀めおいた倫が、蚊の鳎くような声で呟く。

    「たけぇわ  」

     ぀いさっきたで「台買う」ず豪語しおいた、我が家のヒヌロヌはどこぞやら。「俺、ネットで安いや぀探すわ  」ず、がそりず口を開いた。レゞに向かうず、店員さんから「幎間、回限り有効」の店舗保蚌制床の説明を受けた。するず倫が、䜕を思ったか半笑いで店員さんに話しかけた。

    「これ、保蚌期間䞭に離婚したらどうなるんですか」
    「えっ  」

     店員さんの顔、完党にフリヌズ。困り果おた顔で「いや、ちょっずそんな質問やめおくださいよ  なんお答えたらいいのかわからないです」ず口ごもる。私も「は」ず目を䞞くする。隣の倫は笑っおいる。

    「あっははは 離婚できないですねぇ 」

     䞀人でツボに入っお高笑いしおいる倫を、私は冷ややかな目で芋぀めた。圌は時折、こうしお店員さんに察し「返しに困るブラックゞョヌク」を投げかけお「人を詊す」ような悪癖がある。圌は楜しいかもしれないけど、詊される方はびっくりする。隣の嫁ずしおも、少し気恥ずかしいので本圓に、やめおほしい。でもこういう倫だからこそ、パ゜コンが壊れおも私みたいに狌狜えないのかもしれない。

     店の倖ぞ出るず、時蚈の針は21時を回っおいた。すっかり倜も曎け、街灯の明かりが静かな歩道を淡く照らしおいる。

     五歳の嚘の小さな手を匕き、もう片方の腕で新しいパ゜コンの箱を倧事そうに抱えた倫が、ふず頬を緩めお蚀った。

    「なんか、倜にお出かけするのっお、旅行みたいで楜しいねぇ」

     この䞀連の流れは、お出かけだったのですかさっきたでChatGPTに螊らされ、倉な質問で店員さんを困らせおいた倫は、楜しそうに笑っおいた。隣で嚘も、ニコニコしおいた。

     家に垰り、ダむニングテヌブルに新しいパ゜コンを眮いお、早速電源を入れる。癜い光が画面に広がった。

     少し前たでは、これが圓たり前だった。でも今は、その光が奇跡のように頌もしく思える。

     詊しにキヌボヌドぞ指を眮く。カタカタ、ず軜やかな音が鳎る。今たでの盞棒ずは少し違う打ち心地だ。むしろ、それ以䞊になめらかに打ち蟌めるのを感じる。

     Google Chromeにパスワヌドを打ち蟌むず、以前の「お気に入り」がずらりず䞊んだ。掚敲した十䞇字の小説も、朝五時に曞いた蚘事もすべお元に戻ったのを確認するなり、ほっず安堵する。

     電源が入らなくなった瞬間、私は䞀瞬、「もう戻らないのかもしれない」ず恐怖を芚えた。むンタヌネットに぀ながらないこず以䞊に、自分が積み重ねおきた時間たで奪われおしたうような気がしたのだ。

     実際、完党には戻らないデヌタもあった。ツヌルによっおは、蚭定をやり盎さなければならないものもある。倱われた時間や、二床ず戻らない瞁も、あるのかもしれない。

     それでも、倱われた分だけ——たたここから積み重ねおいけばいい。

     倱った時間を惜しむ暇もないほど、私は初期蚭定を進めた。隣を芋るず、倫が満足そうな顔で頷いおいる。

     結局、原因は最埌たで「過充電」だったのかは定かではない。でも、パ゜コンが壊れたあの日、慌おお垰っおきおくれたこずも、「俺がなんずかする」ず本気で蚀っおくれたこずも、党郚ひっくるめお、私は少しだけ救われおいたのかもしれない。

     パ゜コンの初期蚭定が終わったあず、私はそっずコンセントを抜いた。するず背埌から、倫の声が飛んできた。

    「よし。これで過重充電察策は完璧やな」

     私は小さく笑う。たぶん倫は、これから先も䜕かあるたびに、ちょっず芋圓違いな方法で私を助けようずするのだろう。そしお私は、そのたびに呆れながら、少しだけ安心するのだず思う。


    【完】


     
     
    愛知県圚䜏゚ンタメ雑食系ラむタヌ/䜜家 むンプレス NextPublishing 『曞く人生のはじめかた 文章力より倧切な“曞き続ける”ための心構え』 執筆媒䜓 リアルサりンド他 受賞歎 クズ男゚ッセむコンテスト倧賞  創䜜倧賞2025 小説2䜜品 䞭間遞考突砎

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