
人生の特等席 〜自分を一番にする旅 ④〜
レストランの椅子に座り、メニューを開く。
相変わらず、右側に並ぶ数字が真っ先に目に飛び込んでくる。
これまでずっと、この価格こそが私の「正解」だった。
けれど、今日はその数字から、ゆっくりと視線を移してみる。
これまで素通りしてきた、メニューの左側。
そこに並ぶ料理の名前を、ひとつずつ、確かめるように見つめていく。
「何が食べたい?」
心に聞いてみるけれど、返ってくるのは相変わらず小さく、消え入りそうな声だ。
「本当にこれでいいの?」
「安い方にしなくていいの?」
迷いがないわけではない。
ただ、納得して選ぶ安さと、諦めて選ぶ安さ。
その違いを、今の私は知っている。
変わりたいと願っても、突然、世界がバラ色に変わるわけではない。
今この瞬間も、反射的に「損をしない正解」を選ぼうとする自分が、隣で私を試している。
コンビニの棚でラテを選んだり、震える声で「NO」を口にしたり。
そんな小さな練習を繰り返すなかで、私はようやく、
「いま、どうしたい?」という問いを自分に向けられるようになった。
一番好きなものが何かなんて、すぐにはわからなくてもいい。
左側の言葉をなぞりながら、心がほんの少しでも動くほうを探す。
その試行錯誤の時間が、私を私にしていく。
少しだけ時間をかけて、注文を終える。
選んだのは、一番安いものでも、一番目立つものでもない。
「今の私が、食べてみたい」と思ったものだ。
私の人生の特等席は、誰かに譲るための場所じゃない。
迷いながら、間違えながら、自分の心と対話を続ける私のための席。
答えにたどり着くのは、まだずっと先かもしれない。
けれど、メニューを閉じる私の手には、あの日にはなかった確かな体温が宿っている。
今日選んだこの一皿が、私の新しい始まりだ。
不器用な歩みの途中で見つけた、小さな自分の声を抱きしめて。
私は私の足で、明日へと歩き出す。