
元彼・冠位十二階
私の中には元彼の冠位十二階がある。
紫は、高校の時に付き合ってた元彼。
黒は、残りの元彼全員である。
それが今日、全員黒になった。
冠位十二階の細かい色分けは各自調べて頂きたいが、一番上が紫で一番下が黒である。
紫だった彼が、今日まで紫でいられたのはお互い10代だったから。
尊むべき大切な思い出として保管されていた。
彼と出会ったのは、美大受験のために入った画塾である。
私より先に画塾に入っていた彼は、素敵なデッサンを描く人だった。
自分より絵が上手い人に初めて会った。
私が画塾に入ってしばらくした頃、はじめて帰る時間が重なり2人で駅まで帰宅した時だった。
めっちゃ好きかも!と思った。
特に理由はないけど、突然そう思った。
日々、アクリル絵の具と鉛筆の粉まみれになる彼。
誰よりもストイックな所を尊敬していたし。
作る作品も好きだった。
大好きになった。
どうにか仲良くなりたくて
LINEを交換して、画集を貸し借りしたり
お互いのおすすめの音楽を聴き合ったりしてた。
私は銀杏BOYZを勧めて、彼はサカナクションを勧めてくれた。
ただ友達として仲良くなりたくて、私はそれだけでよかった。
自分の受験まで画塾にはずっと通うことになるし、彼の受験も邪魔したくなかった。
もし彼に告白するなら、画塾を卒業する最後の日に「好きでした。」とだけ伝えてしまおう。
そう考えていたほどにスーパーピュアな片想いをしていた。
そんな決意をしていたが、2ヶ月後くらいに彼から電話で告白される。
当初の予定とは全く違ったが、私たちは高2の終わりに付き合うことになった。
夏祭りに行って、河川敷でデートをして、花火をしたりしていた。
画塾の帰り道にミスドでお喋りをして、彼の球技大会を観に行ったりもした。
お互い受験生というのもあり、恋人らしい思い出は少ない。
デートも数えられるほどしかしてない。
それでも私は、こんなにも好きなモノの話が出来る男の子と付き合えているという事が本当に嬉しかった。
彼と別れたのは、大学進学でお互い離れてしまった事、お互いの新生活に追われて、すれ違いが出来てしまった事。
空いてしまった隙間について、話し合いも出来ないほど私たちは未熟だった事にある。
思い出すだけで心がギュッとなるようなピュアな恋愛だったので
元彼冠位十二階の中で思い出のキラキラ加工相まって、彼は断トツの紫だった。
別れて12年。
殿堂入りかと思われた紫の座だった。
突然、「久しぶりに会おう!」と彼から食事に誘われた。
最後に会ったのは私の展覧会に来てくれた2年前だったが、彼との食事は別れてから一度もしていない。
彼が近くで個展を開催するらしい。
私は彼をクリエイターとして尊敬しているし、作品もすごく素敵だ。
彼と12年ぶりにちゃんと会って話をしてみたかった。
黒だったら会っていない。紫だから信頼していた。
彼が2杯目のハイボールを飲んだところで
「今彼氏はいるの?」と彼が私に会うと必ず聞いてくるセリフが飛び出た。
少し前にお別れしたんだよね、あなたは?
と聞くと
「2年前に結婚したんだよね。」
最悪の後出しである。
「じゃあこのサシ飲みはダメなのでは?」と聞いたら
「ダメかも!でも会いたかった!」
などと抜かしてた。赤に降格です。
聞かなかったらずっと黙っていたつもりか?
・・・ちょっと待って、私たち2年前も展覧会で会ったよな??
こいつ!!!!!!!!!やってんな!!!!!!!!!!
赤どころか黒です!!!!!!完全に黒!!!!!!!
と思っていたら
「銀杏BOYZ聴いたらやっぱり、耳子のこと思い出すんだよね」
みたいな事も抜かしてた。
銀杏BOYZが彼の中で私のテーマソングになっているのは光栄だし、とってもエモいエピソードに聞こえるが
既婚者が言ってるからグロい。
元彼なんて、全員黒だから別れたのだ。
他の色なら別れてない。
元彼の急な誘いには注意。
こんな初歩的な事を失念してしまうとは。
私が勝手に彼を紫にしてしまっていたからだ。
元彼冠位十二階制度の崩壊である。
これは1378年前に崩壊した制度を導入した私が悪い。
なんなら、会ってからずっと彼が標準語で喋ってくるのもなんだかムカついてきた。
「東京から来ました感」を出そうとするなよ。こっちは広島の実家も知ってるんだからな。
私は、地元の友達とは絶対に広島弁で話すと決めている。
それが仁義じゃ。Perfumeを見習え。
冠位十二階などとランク付けはやめて、元彼は全員まとめて瀬戸内海に沈めてやろう。ちょっと浅いけど。
彼と知り合って13年、付き合ってた時間は1年。
メガネを外してしまえば、付き合ってたことなんて無かったくらい遠くて短い時間しか恋人では無かった。
それでも私の中では彼は青春のかたまりだし、彼の中で私は「画塾の同級生」でも「クリエイター仲間」でもなく、いつまでも「俺の元カノ」なのだと分かった。
このサシ飲みは私が奥さんの立場なら絶対に嫌だ。
あらかじめ知っていたら絶対に2人で飲みに行かなかったです。奥さんごめんなさい。
あなたの旦那は2軒目も誘ってきました。
もちろん行ってないです。旦那はぶん殴ってもいいと思います。
別れて約12年、2人でご飯に行くことは一度もなかった。
まともに話す機会もなかった。
だから勝手に、普通に友達として会えるかと見誤った。
勝手に思い出を美しくして、勝手に彼を神格化して、信頼してしまっていた。
自分が嫌いになりそう。
昨日、彼は個展で関わっている私たちの共通の知り合いの方に、当時私達が付き合ってた事を言ったらしい。
12年の時を経て、そんなことをわざわざ言うなんて。
なんで彼の作る作品はあんなにも素敵なのに、なぜこんなにもダサいのか。
ある意味、彼は今も私の心をギュッとさせてくる。
私の青春の中であんなにキラキラに眩しかった彼が、どうしてこうなってしまったのか。どこで拗らせてしまったのか。
10代に青春がなかった人は拗らせる。といった話はよく聞くが、私と彼は眩しいくらいの時間を過ごしたはず。
こんだけ長い間「俺の元カノ」みたいな態度をとるのだから、忘れたとは言わせない。
この先、彼が拗らせたキモいおじさんになる未来があるのだろうか。
お願いだからそうならないで。
私はもう彼の頭にちいさな綿毛がついてることに気がついても、取ってあげることはない。
思い出は遠くにあるから美しい。
世界の真理にまた一つ近づいた。
おかげさまで私の婚期はまた一つ遠のいた。