
平日デーゲーム それは懐かしさと心地良さに包まれる
平日デーゲーム。
先週、2回裏まで進行し、雨天ノーゲームとなった試合の代替え。
12時半からプレイボールの声がかかった独立リーグ公式戦。それを見守った観客数は97名。
選手のご家族か、友人か。それとも、よほど熱狂的な富山GRNサンダーバーズと石川ミリオンスターズファンか。
いつもの定位置、三塁側出入口近くの通路から二列目にクッションマットを置き、見慣れた方々と軽く会釈を交わす。
日常から離れ、期待と興奮と夢想が入り混じる試合前のこの時間。胸が膨らみ、心の中で凛とした風が吹き抜ける。
今日は両チームとも応援団の姿はなく、ファールボールを求めて球場を走り回る少年野球の子供たちの姿もない。
だからスタンドに入ったボールは、プラスチックの緑色の椅子にボーンと大きな音を立てて打ち当たり、コロコロと誰もいない最前列席まで転がっていく。
バックネット裏でスコアを記録する選手の一人がイソイソと座席から立ち上がり、キョロキョロしながらファールボールを獲りにいく。
「あの辺りだよ。」
チームの帽子を被った観衆の親切なおじさんが、内野の奥の方を指さしながら声を掛ける。
関東に住んでいた頃、仕事が平日休みだったせいもあり、ガラガラの映画館や人影がまばらな臨海公園でのんびりと過ごすのが好きだった。
そのうちそれにも飽きて、イースタンリーグの試合に足繁く通うようになった。
横須賀、浦和、鎌ヶ谷、戸田、よみうりランド。電車を乗り継ぎ、その車中で選手名鑑を眺める時間が増えた。
中でもお気に入りは、ロッテ浦和球場。
駅前でハンバーガーとオニオンリングのセットを買い込み、球場までの道のりをゆるりゆるりと歩を進める。
球場近くのロッテ工場から漂うチョコレートの甘い匂いに包まれると、すぐにグリーンのネットが見えてくる。
浦和球場は内野席のみで、古びた木製のベンチが二つ、ポツンと置かれている。
自分はその奥に広がる芝生にシートを敷き、足を伸ばしながら選手達の一挙手一投足を眺めるのが定番で、ジンジャーエールとトマトケッチャプをたっぷりとつけたポテトと一緒に、昼下がりを味わった。
今と違い、あの頃は選手達との距離がとても近かった。
5回裏が終了しブレイクタイムに入ると、当時二軍監督だった平野 謙さんが気さくに話しかけてくれ、「あの守備、どう思った?」と普通の素人に感想を訊ねてくれた。
試合終了後、ルーキイヤーだった内川 聖一選手にユニフォームを差しだすと「ボクのサインで良いんですか?」と遠慮がちにペンを握って25番と書いてくれた。
田代 富雄さんは現役時代と変わらぬ朴訥とした雰囲気で「いつもありがとう。」と大きな分厚い手で、力強い握手をしてくれた。
平日のデーゲームは、そんな笑みの溢れた幸せな思い出ばかり。
あのイースタンリーグでもそうだったが、今日も平日の昼間は鳴り物応援が一切なし。
隣に座る妻が興奮気味に
「赤彗星(シャア)くんのミットは、凄く良い音がするね。」
と話しかけてくる。
パチーンとボールがミットに収まる乾いた音が、スタンド中を包む。
「そうだよ。シャア君は投手をノセるのが上手で、ミットの音をわざと響かせるんだよ。それにブルペンでも『ナイスボール!』と大きな声を張り上げるしね。」
しばらくすると
「(センター)松本くんと(レフト)藤井くんは、よく喋ってるね。いつもそうなの?」
と不思議そうな顔する。
「うん、風向きやバッターの打球傾向を確認しあってるしね。」
普段決して聞こえてこない、選手達の声、ベンチからの叱咤激励がスタンドまで届く。
6回裏、四番打者瀧野選手が「カーン!」と木製バットが芯に当たった時の、あの特有の音を鳴らす。
レフトスタンドへの放物線は逆転のツーランHR。

7回表、四番手としてマウンドに上がった西尾選手が「オリャー!」と投げる度に雄叫びを上げる。
今シーズン3度目となる1イニング三者連続奪三振。

8回裏、キャプテン玉生選手がまたもや「カーン!」と心地良い音を響かせ、センターの頭を超える。今日2本目となる、タイムリーツーベースヒット。

「これで三連勝だね!有給休暇を使った甲斐があったね!」
応援グッズを握りしめた妻は、もうすぐ始まるヒーローインタビューを見ようと、バックネットに急いで歩いていく。
野球の音。
一度聞いたら二度と忘れられない、あの音。
平日のデーゲームは、そんな心地良さがどこまでも続いていく。
(写真は全て筆者撮影)