
「人生は一度きり」って言葉
「人生は一度きりだから!」
朝、珈琲を飲みながら、
昨夜撮り溜めをした
ドラマを見返しながらふと思った。
「ん?」
私は「人生は一度きりだから」という言葉が嫌いだ。
嫌いと言うと語弊があるかもしれない。
正確には、この言葉を聞くと何だか落ち着かなくなる。
テレビでも、本でも、インターネットでも。
学校の先生も、偉い人も、この言葉を口にする。
「人生は一度きりだから」
やりたいことをやろう。
人生は一度きりだから。
後悔しないように生きよう。
人生は一度きりだから。
挑戦しよう。
みんな当たり前のように使う。
そして、みんな当たり前のように頷く。
けれど私は、そのたびに心のどこかで首を傾げている。
「そうかなぁ」
と。
別に反論したいわけじゃない。
この言葉が好きな人を否定したいわけでもない。
ただ、私の心の中には、
すんなり入ってこないのだ。
では、私は輪廻転生を信じているのだろうか。
そう聞かれると困ってしまう。
うーん。
たぶん違う。
魂の成長とか修行とか、そういう話だろうか。
それも違う気がする。
では何なのだろう。
今朝からずっと考えているのに、自分でもよく分からない。
もしかすると私は、「人生は一度きりだから」という言葉の中にある焦りが苦手なのかもしれない。
急げ。
今しかない。
失敗するな。
後悔するな。
そんな声が聞こえてくる気がするからだろうか?
でも私は、そんなふうには思わない。
失敗したっていいじゃないか。
遠回りしたっていいじゃないか。
立ち止まる日があってもいいじゃないか。
泣きたい日があったって……。
人生は、そんなに急いで答えを出すものだろうか。
それに私は時々、不思議な感覚になることがある。
夢を見た朝だ。
夢の中で私は知らない場所を歩いている。
初めて見る景色のはずなのに懐かしい。
知らない人のはずなのに昔から知っている気がする。
もちろん夢なのだろう。
けれど、目が覚めたあとも、その感覚だけは残る。
そして思う。
人生って、本当に私たちが思っているほど単純なのだろうか。
生まれて、育って、歳を重ねて、
終わる。
もちろん現実はそうだ。
けれど心の中までは、そんな一本の線では説明できない気がする。
初めて会ったのに懐かしい人。
初めて来たのに懐かしい場所。
なぜか忘れられない夢。
説明できない感覚。
誰にでも一つや二つはあるのではないだろうか。
だから私は、「人生は一度きりだから」という言葉を聞くたびに思う。
本当にそうなのかな、と。
人生が一度きりなのかどうか、私には分からない。
分からないし、たぶんこれからも分からない。
けれど、分からないからこそ面白い。
世の中には答えが出る問いもある。
けれど答えが出ない問いもある。
私はどちらかと言えば、後者が好きだ。
答えが出ないまま考えている時間が好きだ。
今日もまた、珈琲を飲みながらそんなことを考えていた。
こんなことを考えている人は、
あまりいないのかもしれない。
我ながら朝から面倒くさいことを考えている。
気がつけば珈琲はすっかり冷めている。
結局、答えは出なかった。
でも、それもいい。
私はたぶん、「人生は一度きりだから」という言葉が嫌いなのではない。
人生をそんな一言で言い切ってしまうことに、少しだけ抵抗があるのだ。
人生はもう少し不思議で。
もう少し曖昧で。
もう少しおかしみがあって、
もう少し自由なものだと、私は思っている。
冷めてしまったコーヒーを飲みほして
新しいコーヒーを淹れた。