メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo by___tmkyon

ぴえん充電(毎週ショートショートnote)

    ちょっと話があるの、と妻が言った。
    僕は溜め息を吐き、ダイニングチェアに腰かける。
    「明日も早いんだ。短く頼むよ」
    「気づいた?もうすぐ満杯になりそうなの」
    そう言って自分の耳に触れている。
    涙型をしたイヤリングが銀色に光っていた。
    「若い子はね、これを『ぴえん充電』って呼んでるんだって」
    本題ではない話から始める。彼女の悪い癖だ。
    「それは変だね」
    僕は少し苛ついて答える。
    イヤリングは小型の発電装置だ。怒りや悲しみで発電する。
    家族内で発生する負の感情を有効利用しよう、というコンセプトで造られたものだ。
    「充電はこっちだろ」
    僕はテーブル下の黒い箱を足先で突つく。専用の蓄電池だ。
    「イヤリングはあくまで発電装置。だから『ぴえん充電』じゃなくて
    ――『ぴえん発電』だろ」
    妻の眉間に皺が刻まれる。
    「どっちでもいいでしょ。私が言いたのは・・・・・・」
    「それに君が言いたいのは、おそらく充電じゃなくて蓄電のことだ」
    「だから、どっちでも・・・・・・」
    「そもそも充電と蓄電の違いはわかってる?」
    「もういい!」
    言葉を切ると、彼女はテーブルに一枚の白い紙を叩きつけた。
    その途端、甲高い通知音が鳴り響いた。
    『ぴえん充電』が満杯になった音だった。



    たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」参加作品です。

    『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


     
     
    作家▷『3分間のまどろみ カプセルストーリー』Gakken電子書籍/『5分後に煌めく世界 太陽·月』ダイソー/『幻想と怪奇 不思議な本棚』新紀元社 他▷カモガワ奇想短編グランプリ大賞/「幻想と怪奇」SSコンテスト入選/坊っちゃん文学賞佳作▷ホラー同人誌「ウタ・カタ」企画▷犬好き🐾