
ぴえん充電(毎週ショートショートnote)
ちょっと話があるの、と妻が言った。
僕は溜め息を吐き、ダイニングチェアに腰かける。
「明日も早いんだ。短く頼むよ」
「気づいた?もうすぐ満杯になりそうなの」
そう言って自分の耳に触れている。
涙型をしたイヤリングが銀色に光っていた。
「若い子はね、これを『ぴえん充電』って呼んでるんだって」
本題ではない話から始める。彼女の悪い癖だ。
「それは変だね」
僕は少し苛ついて答える。
イヤリングは小型の発電装置だ。怒りや悲しみで発電する。
家族内で発生する負の感情を有効利用しよう、というコンセプトで造られたものだ。
「充電はこっちだろ」
僕はテーブル下の黒い箱を足先で突つく。専用の蓄電池だ。
「イヤリングはあくまで発電装置。だから『ぴえん充電』じゃなくて
――『ぴえん発電』だろ」
妻の眉間に皺が刻まれる。
「どっちでもいいでしょ。私が言いたのは・・・・・・」
「それに君が言いたいのは、おそらく充電じゃなくて蓄電のことだ」
「だから、どっちでも・・・・・・」
「そもそも充電と蓄電の違いはわかってる?」
「もういい!」
言葉を切ると、彼女はテーブルに一枚の白い紙を叩きつけた。
その途端、甲高い通知音が鳴り響いた。
『ぴえん充電』が満杯になった音だった。
たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」参加作品です。
『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』