メインコンテンツへスキップ
見出し画像

みんなで動かない(毎週ショートショートnote)

    高田さんちのカメのムウさんは、じつは地球を守っている。
     
    それを知っているのはムウさんと、侵略に来た異星人たちだけだ。
    同居猫のココアも、生垣に鼻先を突っ込んでくる隣家のマックスも、もちろん高田さんの奥さんも知らない。
     
    今日も洗濯物がたなびくウッドデッキで甲羅干しをしながら、ムウさんは侵略者を監視している。
    異星人たちは高田さんちの庭木のふりをしているのだ。
    ムウさんは年寄りなので耳が遠いが、彼らの声はなぜか頭の中で聞こえる。
    それによると、彼らは遠い遠い星から地球侵略の斥候として送り込まれたらしい。地球人をじっと観察していても怪しまれないように、植物に擬態することにしたとか、なんとか。

    彼らは毎日、母星へ報告を送っている。それもムウさんには聞こえている。

    『本日もくだんの地球生物に反応なく、ほぼ一日中動かなかった』
    『我々の潜伏に気づいていながら、攻撃して来る気配はない』
    『とは言え、友好的な態度もない』
    『つまり何を考えているかわからない』
    『引き続き偵察を続ける』
    『なお地球人が厚手のものを洗濯すると、たいてい急に雨が降る』
     
    初夏の風に揺れる葉擦れの音を甲羅で感じながら、今日もムウさんはウッドデッキで地球を守っている。



    たらはかに(田原にか)さんの「毎週ショートショートnote」参加作品です。

    『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


     
     
    作家▷『3分間のまどろみ カプセルストーリー』Gakken電子書籍/『5分後に煌めく世界 太陽·月』ダイソー/『幻想と怪奇 不思議な本棚』新紀元社 他▷カモガワ奇想短編グランプリ大賞/「幻想と怪奇」SSコンテスト入選/坊っちゃん文学賞佳作▷ホラー同人誌「ウタ・カタ」企画▷犬好き🐾