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レむアップ・バスケットケヌス ①

    あらすじ

    仕事も人間関係も、考える前にうたくやれる男・速氎。圌はたるで「レむアップシュヌト」のように、最短距離で答えにたどり着くこずで評䟡されおきた。

    しかしある日、圌の䞭から「ボヌル」が消える。
    刀断できない。蚀葉が出おこない。これたで無意識にできおいたこずが、䜕ひず぀できなくなる。

    呚囲には理解されないたた、それでも仕事は続いおいく。「止たれない」たた走り続けおきた男が、初めお止たるこずを匷いられるずき、圌は䜕を遞ぶのか。

    軜やかさの裏に朜む消耗ず厩壊を描く、珟代の仕事ず粟神の物語。

    朝、目が芚めた瞬間に、今日の勝敗はもう決たっおいる気がした。理由はない。ただ、頭の䞭にボヌルがあるかどうか、それだけだ。

    ある日は、䜕も考えずにリングたで䞀盎線に走れる。䌚議でも、雑談でも、恋愛でも。身䜓が勝手に最短距離を遞んで、軜やかに跳んで、気づけば決たっおいる。

    レむアップみたいに。

    でも、ない日は、本圓に䜕もない。同じ道を歩いおいるはずなのに、ゎヌルの䜍眮がわからない。リングが、どこにも芋えない。

    「速氎くん、これ今日䞭にいける」
    䞊叞の声が、少しだけ遠くから聞こえる。画面の向こうでスラむドが䞊んでいる。論点は分かる。構造も芋える。

    ただ、ボヌルがない。

    「 いけたす」
    口は勝手にそう蚀った。

    嘘ではない。いける時は、ほんずにいける。10分で骚子を䜜っお、30分で圢にしお、1時間でそれっぜく仕䞊げる。

    でもそれは、ボヌルがある時の話だ。

    昌䌑み、コンビニの前でコヌヒヌを買う。䜕も考えおいないはずなのに、急に思い出す。

    昚日の、あの䞀蚀。
    「なんか、䜙裕ありそうだよね」

    耒め蚀葉のはずなのに、劙に匕っかかる。䜙裕なんお、あるわけない。ただ、考える前に動いおるだけだ。それは䜙裕じゃなくお、反射だ。

    孊生の頃、バスケ郚だった。

    コヌチはよく蚀っおいた。
    「レむアップは考えるな。身䜓で芚えろ」

    実際、その通りだった。考えた瞬間に倖れる。距離も、角床も、タむミングも、党郚ズレる。

    だから、考えない。走っお、螏み切っお、攟る。それだけでいい。

    瀟䌚人になっおからも、それは倉わらなかった。

    むしろ、うたくいっおいた。考える前に発蚀する。迷う前に手を動かす。違和感よりも先に、答えを出す。

    「速氎っお、地頭いいよな」

    そう蚀われるたびに、少しだけ笑った。違う。地頭じゃない。ただ、止たれないだけだ。

    午埌、打ち合わせが終わる。

    「さっきの敎理、めっちゃよかったです」
    埌茩がそう蚀った。

    その蚀葉は、ちゃんず嬉しいはずなのに、なぜか軜い。軜すぎお、どこにも残らない。たるで、䜕本決めおも蚘憶に残らないレむアップみたいに。

    垰り道、駅のホヌムで電車を埅぀。

    ふず、思う。

    もし、党郚のレむアップが倖れたらどうなるんだろう。今たで、たたたた入っおいただけで。タむミングが合っおいただけで。たたたた、リングがそこにあっただけで。もし、それが党郚ズレたら。

    電車が来る。ドアが開く。人が流れ蟌む。その流れに乗るかどうか、ほんの䞀瞬だけ迷う。

    乗れた、ず思った。

    ドアが閉たっお、吊革を掎んで、画面を開く。い぀も通りだ。

    でも、手が止たった。Slackの通知が䞉十二件ある。どれも読める。文字は芋える。内容も、たぶん分かる。ただ、どれから手を぀けるかが、分からない。い぀もは、勝手に決たっおいるはずなのに。

    乗り換えの駅で降りる。ホヌムを歩く。階段を䞊る。改札を抜ける。身䜓は動いおいる。でも、䜕かが䞀拍遅れおいる。映像ず音声がわずかにズレた動画みたいに。

    翌朝。
    「速氎くん、昚日のや぀送っおもらえる」
    䞊叞のメッセヌゞが八時二十分に来おいた。

    昚日のや぀。䜕のこずか、䞀瞬わからなかった。䞉秒埌に思い出した。打ち合わせの議事録だ。骚子たで䜜った。圢にする぀もりだった。

    しおいなかった。
    「すみたせん、少し埅っおください」

    送っおから、ファむルを開く。骚子はある。あずは肉付けしお、䜓裁を敎えるだけだ。い぀もなら、䞉十分もあれば終わる。

    䞀時間埌、ただ半分しか終わっおいなかった。

    文章を曞こうずするず、次の文章が来ない。構造は芋えおいる。蚀いたいこずも分かっおいる。でも、蚀葉が、出おこない。

    リングの䜍眮は分かっおいる。螏み切る足もある。ただ、ボヌルが手の䞭にない。

    「速氎さん、倧䞈倫ですか」
    埌茩の桐島が、隣の垭から声をかけた。
    「倧䞈倫」
    口が蚀った。
    「なんか、顔色悪いですよ」
    「そう」
    「昚日からちょっず。打ち合わせの埌くらいから」昚日から、気づかれおいた。

    「疲れおるだけ」
    そう蚀いながら、思った。疲れ、ずいう蚀葉が、こんなに正確に感じられたこずは、今たであっただろうか。

    疲れずいうより、消耗だ。䜕かが、少しず぀䜿われ続けお、気づかないうちに底を぀いおいた。

    レむアップを䜕千本打っおも、脚は消耗する。圓たり前のこずなのに、考えたこずがなかった。

    昌、トむレに行った。鏡の前で、自分の顔を芋た。悪くはない。普通だ。ただ、䜕かが足りない気がした。い぀も画面越しに芋る自分ず、少し違う。

    䜕が違うのかは、分からない。

    氎で顔を掗った。

    冷たかった。

    それだけが、ちゃんず感じられた。

    午埌、䌚議が䞀本ある。議題は把握しおいる。自分の出番も分かっおいる。

    でも、䌚議宀に入った瞬間、䞊叞の田蟺が蚀った。
    「速氎、今日のたずめ、頌んでいい」
    い぀もなら、はい、ず蚀う前に頷いおいた。

    䞉秒、沈黙した。

    田蟺が、少し顔を䞊げた。桐島が、手元を芋た。誰かが、ペンを眮く音がした。

    「  はい」
    声が、自分のものじゃないみたいだった。

    䌚議は進んだ。話は聞こえた。論点も远えた。でも、たずめが曞けなかった。

    ホワむトボヌドに立っお、マヌカヌを持っお、みんなの顔を芋お。䜕も、出おこなかった。

    初めおだった。
    「速氎、どした」
    田蟺の声は、責めおいなかった。ただ、䞍思議そうだった。

    「すみたせん」
    それだけ蚀った。

    桐島が、すっず立っお、ホワむトボヌドの前に来た。
    「私、やりたす」
    それだけ蚀っお、マヌカヌを受け取った。

    速氎は、垭に戻った。窓の倖を芋た。曇りだった。ボヌルがない日に、それでも詊合は始たる。それでも、詊合は続く。

     
     
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