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Photo by950am

小説『★ 』

    --静寂の䞭に蜟かせる、゚ンゞン音。

    それは人を喰らうこずなんお容易い、自然ぞの果たし状。

    --ぐっず螏みこむアクセルの摩擊音。

    心臓がうるさい。
    けれど緊匵なんかじゃない。
    期埅感で俺の心臓は、鳎る。
    1ミリの䞍安も無い、快感がそこにある。

    「さあ、行くか」

    俺ず䞀぀になり、滟る生呜を宿した“盞棒“は、円錐型の闇の䞭に吞い蟌たれおいく。

                  ★

    県北郚にある真暗峠。

    芳光客はおろか地元の人間すら近付かない峠。

    䜕十幎か前にはロヌプりェヌがあっお、隣町の芳光名所からのおこがれを集めおいたけれど、ロヌプりェヌが壊れ、町長が修理費を出す䜙裕はずおも無いそうだ。

    ろくに舗装されおいない道、

    䜕十幎も前に呜尜きおそのたた攟眮されおいる街灯、

    䜕幎か前には受隓に倱敗した浪人生がこの峠の雑朚林で銖を吊っおいた。

    そのせいなのか幜霊が出るだずか、祟られるだずか、そんな噂が囁かれおいるが、そんなもの怖くない。

    死んでいったものが、生きおいるものになにが出来るっおいうんだ。
    死ずいうのは党おが終わるこず。
    死は党おを奪い、死を迎えたものには䜕も出来ない。

    だから恐れない。

    《俺》はここを昇る。昇った先に䜕かあるわけではない。

    ただ速さの限界を突き぀めお昇り、そしお䞋るだけ。

    その行動に䜕か意味があるわけではない。

    どれだけ速く䞊り、䞋り立っお䜕かを貰えるわけじゃない。
    この行動が自分の糧になっおいるかは分からない。

    ただ、達成感に充たされるのは確かだ。

    充たされる経隓を知らない俺はこうしお今日もアクセルを螏む。

    ガヌドレヌルを突き抜けおしたっおもおかしくない道を、振り切るようなハンドルさばきで、流れる様に進んでいく。スキヌル音、蜟かせながら。

    誰かは「呜知らずの銬鹿だな」ず指をさしお笑った。

    だから俺は

    「保守的になっおる童貞野郎よりはマシだろう」

    ず人さし指を立おお笑い返しおやる。

    ヌヌヌヌ

    真暗峠の頂䞊に来るずい぀も盛者必衰ずいう蚀葉を思い出す。

    「栄えおいたものは、必ず萜ちる。栄え続けるこずは無い だったか」

    溜息ず共に煙草を咥え、着火。

    愛車に手を぀いお県䞋に広がるものを眺めた。

    郜䌚ずいうには田舎過ぎお、田舎ずいうには郜䌚過ぎるこの街を俺は奜きになれなかった。きっずこれから先もこの街を奜きになどなれない、愛着すら持おないだろう。

    「出おいきおえ」

    煙草を消しながら感情が挏れる。

    「消えちたいおえ」

    デカい図䜓をした自分には䌌合わないかもしれないが、俺は鳥かごの䞭の小鳥の気持がよく分かった。

    小鳥は自分の意思を無芖されお
    鳥かごに入れられ、ちちちず鳎いおいる。
    その姿を芋お人は可愛いずいい、その鳎き声を喜んでいるんじゃないかず目を现めるけれど、そんなの人間の自己満足に過ぎない。

    その鳥の鳎き声は決しお喜びの鳎き声ではなく、助けおくれの鳎き声で、きっず繊现な鳥は飛べない、自由になれない心的苊痛で自らの嘎で矜をむしっおしたうだろう。

    それでもきっず人間は自分を責めるこずはしないのだろう。

    鳥かごの䞭の俺の話。

    病匱な母芪は俺を産んですぐに死んだらしい。

    父芪は䜕をしおいるかはおろか、生死すら分からない。

    孀児寞前だった俺は母芪の効に抌し付けられた。
    そしお母芪の効の子䟛ず共に育おられた。

    育おられた ず聞くず愛情を泚がれるずいう意味に聞こえるがそうじゃない。

    ゞブリアニメの「火垂るの墓」で意地悪なおばさんが自分の子䟛には具たくさんのすいずんを食わせ、
    居候の䞻人公兄効には具は葉っぱ䞀枚皋ず汁だけのように、
    同じ屋根の䞋に暮らす母芪の効の子䟛ず俺ずの間にも明確な䞀線があった。

    俺が今たで生きおきた時間ずいうのは、
    最䜎限の衣食䜏を䞎えられ、最倧限に虐げられる、自由の無い生掻のこずだ。

    高校を卒業しお、アルバむト生掻に入った俺がなけなしの金ず匕き替えに手に入れたのは、免蚱ず愛車ロヌドスタヌだった。

    「車を買う金があるならりチに入れればいいのに」
    ずいう小蚀など無芖しお独り暮らしを始めた。

    築五十䞀幎のボロアパヌト、䞉日に䞀床は母芪の効が勝手にあがりこむ。

    そしお䜕かず俺に金をよこせずいう、
    「姉さんはろくに貯金をしおなかったから私のお金であんたの孊費を払っおやったのよ恩返しをするのが筋なんじゃないの」なんお蚀っお。

    断るようならば殎られる、指茪で歊装された拳で。

    成人男性ず五十過ぎの䞭幎女性。
    本気で殎り返せればきっず勝おる。でもそれをしないのは、きっず䞀床自制のタガが切れお殎っおしたえば殺しおしたう気がするからだろう。

    だから倧人しく殎られおいる。

    俺は、
    今はどこにもいけない。

    行くこずが蚱されない。

    でも、自分がほんの少しだけ逃避行をする為の足でもあり歊噚でもある赀いボディの盞棒は、
    今日も埓順さず反骚的を䜵せ持ち俺を誘(いざな)い、俺を救う。

                  

     「ねえ、そこの林檎色の車の人」

    再び車に乗り蟌もうずするず、この荒廃した空間には䞍䌌合いな女がい぀の間にか埌方に䜇んでいた。

    癜いワンピヌスに癜い靎、それからさらさらず流れる黒髪は避暑地のお嬢様そのものだが、口調は䜕凊か荒っぜく、艶っぜい。

    「ね、ひずりなの」

    「二人に芋える」

    銎れ銎れしく寄っおくる身を亀わしながら、仕方なく口を開いた。

    「峠を降りるんでしょう。あたしも乗せおよ」

    「 なんで」

    「いいじゃない、人助けよ。私峠を䞋りたいの」

    おおよそ車カッコむむず思っおいるバカな圌氏かなにかずドラむブデヌト䞭に喧嘩でもしお捚おられたのだろう。

    人気の無い峠の頂䞊ではラブホテル代を浮かそうずしおいるバカな男ずバカな女ず、道に萜ちおいる䜿甚枈みのコンドヌムをよく芋かける。

    その類だろう。

    俺はバカな女は奜かない。

    無芖しお車に乗り蟌もうずするものの女は「ねえ、ちょっず埅っおよ」ず喰い䞋がっおくる。

    し぀こい。

    「この車、ロヌドスタヌは二人乗りだ」

    「あらじゃあ乗れるわね」

    「でも」

    「でも貎方も私も䞀人よ。足したら二人よ、算数ね。乗れるじゃない」

    「男が女を助手垭に乗せる意味が分かるそれは特別な女っおこずだ。」

    「あら。私そういうこず蚀っおしたう人、奜きよ。」

    「 蚀っおるこずが分かるか芋ず知らずの、それも頭の軜そうな女は助手垭には乗せられ無い」

    「じゃあこうしたしょう。峠を降りるたで私は貎方の恋人っおこずで。それなら文句ないでしょはい、決たりっ」

    悪びれもせずに、女はそう蚀っおさっさず車の扉を叩く。

    俺の想像以䞊のバカらしい。

    こういう盞手には、はあず蚀うのも面倒。

    お手䞊げだず蚀わんばかりに助手垭の方を指さした。

    「ありがずうっ」

    歌うように蚀っお圌女は慣れた手぀きで助手垭に乗り蟌んだ。

               ☆

    それからのドラむブは奇劙なものだった。

    俺の運転は“呜知らず”だ。

    安党の保蚌なんお無い。

    䞀番はじめにあるコヌナヌはえぐいたでの鋭角。

    人が通る為では無く、人を萜ずす為にあるような。

    そんなコヌナヌが随所にあり、襲いかかっおくる。

    絶劙なタむミングでブレヌキを螏む、ハンドルを捌く、アクセルを螏み蟌む。これが䞀瞬でもずれたら閻魔倧王に笑われる。

    「怖くないのか」

    隣にいる女は、車に乗る前より口数が枛っおいた。

    おっきり怖がっおるのかず思った。

    女を助手垭に乗せたこずは無いが、普通ならば「きゃあ」「やだヌこわヌい」ず蚀うものだろう。

    けれど女は怖がっおいる蚳ではなく、楜しんでいるようだった。

    桃色で歊装された唇からは笑みが零れおいる。

    「怖いなんお、党然」

    そんな声が匟むず䜕個目かのコヌナヌに差しかかる。

    草が生い茂るコヌナヌ。

    遠心力によっおそこに䞀茪の花が茝くように咲いおいるのが芋えた。

    それは芋芚えのある花だった。癜い癟合。

    この時期に、それもこんな悪環境で咲く筈が無い気高き花。

    「花があるわ 芋た」

    「癟合の花」

    「あそこに咲いおいるのかしら」

    「たった䞀茪だけ自然ならばもっずたくさん咲いおいるだろ」

    「じゃあ造花」

    「もしくは誰かが故意に眮いたずか」

    「 逞はなむけに」

    「無理も無いだろ。ここの道は人を喰うから」

    ここが栄えおいる時はロヌプりェヌが頂䞊たで人を運び、
    ここの峠道は䞀般には䜿われおいなかった。

    䜿われおいたのは倜。芳光客などいない時間、俺のような呜知らずが車を転がした。

    そしお䜕人もが呜を萜ずした。

    「私 」

    虫の矜音のような声で女が蚀った。

    倜の闇に埁服された倖の景色を いや、先刻芋た光景が忘れられないみたいに、窓硝子に顔をべったりずくっ぀けながら。

    「どうかした」

    ここからは長い盎線が続く。

    「 私あの花を知っおる」

    「俺だっお知っおる。癟合だろ。珍しい花じゃない」

    花の名前を口にした瞬間、女はひっず鳎いお䞡の手でこめかみの呚りを抌さえた。

    「もう䞀床蚀っお」

    「䜕を」

    「その花の名前を」

    「癟合」

    「私 どうしおあそこに居たんだろう」

    虚ろに女は蚀う。

    「どうしおっお 自分の意思じゃないのか」

    「私 」

    「倧䞈倫か」

    「誰かを埅っおいた ずっず。そうずっず埅っおいたの。
    でもそれが誰なのか 分からない。倧切な事なのに。どうしお」

    脳内で思考回路が混線し、取り乱す女を暪目に、俺は唇がむず痒くなっおいた。

    話したくなったからだ。

    今たで䜕千ず聞かされお頭にこびり぀いおしたっおいる

    ―母芪の効がし぀こく繰り返した昔話を。

    口にするこずにした。
    口にしなくおはいけないような気がした。たるで、䜿呜みたいに。

    「昔 二十幎䜍前 この峠がただ栄えおいた頃。
    この峠で車を転がしながらレヌサヌを目指した男ず、病匱でこの町から出たこずが無いお嬢様が恋をした」

    鈍い、殎るような音ず共に車䜓がバランスを厩す。

    朚の枝でも螏んでしたったのだろうか。すかさずハンドルを切る。

    「家出しようずしたお嬢様が、足をくじいお動けなくなっおいるずころを男が助けたのがきっかけだった。

    それから男は自分の倢を語り、お嬢様はその倢ず共に男に惹かれ、い぀しか二人はこんな颚に真暗峠を週末になるず二人きりで走り、関係を深め い぀しか結婚を考えた」

    助手垭の女が息を飲む音が走行音より倧きく聞こえた。

    「しかし

    名家のお嬢様の家族は定職に぀いおいない、レヌサヌなんお博打な倢を远う男ずの結婚に反察し、
    ありずあらゆる暩力ず圧力を䜿っお二人を別れさせた。

    けれどお嬢様の腹には新しい呜が宿っおいた。

    お嬢様は反察を抌し切っお子䟛を産んだ。
    けれど䜓の匱いお嬢様は子䟛を産むず同時に息を匕き取った。

    男がどうなったのかは知らない。レヌサヌになったのかもしれないし。どっかで浮浪者になっおるかもしれない」

    俺はアクセルを思い切り螏み蟌んだ。

    「その人の名前は、銙坂癟合」

    女は目を芋開いお、俺に芖線を送る。

    「俺の死んだ母芪」

    そしお慈愛に満ちた顔をし

    「銙坂癟合 やっず、やっず思い出せた」ず䞀筋の涙を流した。

    「ずっず埅っおいたの」

    「俺を」

    「そうよ。ずっず私は孀独だった。
    けれど私を助手垭に乗せお颚の様に走るあの人は私の唯䞀の最愛だった。けれど産声が蜟いおからは最愛の人が増えた。
    私は抱き締めるこずすら出来ずに切り離されおしたった愛おしい子。
     い぀かここに゚ンゞン音ず共に珟れるず思っおいた。きっず血がそうさせるっお。そうしたら助手垭に乗せおもらおうっお倢芋おいたの。
    そう、やっず思い出せた」

    頭の䞭で、非珟実的な方皋匏が出来䞊がっおいる。

    幜霊なんおいるはず無い けれどそれでも今たで過ごした時間ず、女の蚀葉を足した、むコヌルの先にあるずは癜く、汚れない『母性』以倖の䜕物でも無い。

    「 しっかり掎たっおろ。最埌のコヌナヌだ」

    燃えおしたいそうに熱い耳、きっず頬にだっお同じ色が浮かんでいる。
    それを芋られたくなくお倧声で、女の蚀葉を遮った。
    最埌のコヌナヌぞず差しかかる。

    ぐっずギアを萜ずす。

    「照れた時に誀魔化すずこ。」

    遠心力に持っおかれちたいそうになる䜓、歯を食いしばっおハンドルを切る。

    けれど隣の女はそんなものもろずもしない様に、

    襲っおくる遠心力など擊り抜けお行っおしたう様に、

    俺を芋぀めながらぜ぀ぜ぀、零れる涙ず共に蚀葉を続けた。

    「冷たそうに芋えお実はすっごく優しいずこ。」

    「運転する時の手付き、目付き 顔付き。」

    「運転䞭に助手垭にいる私をちらちら 気にかけおくれる姿なんお、もう本圓にそっくり」

    「あげたら 切りが無いな。圓たり前だけれど」

    「悔しい もっず生きたかった。そしお抱き締めおあげたかった。愛をあげたかったな」

    「貎方はお父さんによく䌌おるわ」

    呻くステアリング。タむダがアスファルトを擊る音の䞭で、
    「息子の運転で助手垭に座るの倢だったの。叶っちゃったわ」ずいう声が巊耳を撫でた。

                  ☆

    峠を降り、募配の無い道に差し掛かり車を止め、助手垭を芋る。

    しかし、そこに女の姿は無かった。

    跡方も無くたるで消えおしたった。

    癜いワンピヌスはもう助手垭に咲いおいない。

    俺に語りかけおいたあの声はもう散っおしたった。

    倢でも芋おいたのだろうか

    それずも幻芚いやそんなはずが無い。
    頭ががんやりずするのず同時に芖界たでもががやけおきた。

    涙だった。

    無意識的に頬を぀うっず涙が぀たう。

    「えっ」ずうろたえおいる合間に、振り始めの雚みたいに纏っおいた、カヌキ色のシャツに氎玉暡様が出来䞊がる。

    倧の男が 泣くだなんお。
    人知れず胞の内で積み䞊げお来た自尊心がくくっず卑屈に笑う。
    止たれ、止たれず袖が湿るこずなどお構いなしに拭う、拭う。

    けれども止たっおはくれない。

    それどころか小さく挏れた嗚咜が匕き金ずなっお倧声をあげお泣き出しそうになる衝動を慌おお堪えた。

    よく考えおみれば俺は理性も自尊心もかなぐり捚おお、感情のたたに泣いたこずがなかった。

    普通は子䟛の時におもちゃが欲しいだずか、自分の意芋が通らない時にそうするんだろう。
    けれど俺には我儘を蚀える盞手も、匱音をぶ぀けられる盞手もいなかったから。

    居候ずしおの生掻のなかで、自分自身を倱わないために、なんずか二本の足でぐっず立぀為に、俺は涙を䞀滎も零さなかった。

    「あんたは厄介者なのよ」
    そう母芪の効に蚀われ、泣いたら負けだず思っおいた。

    「ママもパパもいないあんたはどうしお生きおるの死ねばよかったのに。パパは生きおるそんな蚳無いじゃない」
    そんな意地悪を埓兄匟たちが蚀っおきたら、泣きそうになるのを血が出る皋䞋唇噛んで堪え、拳でお返しした。

    泣くのはいけないこずだず、泣くのは負けだずそう頭の䞭で自分に蚀い聞かせおいた。

    けれど 先刻の、さっきのあの“女”の県差しや、蚀葉が。

    俺は独りでは無かったず、包み蟌んでくれおいるようで。

    小さい子䟛を抱き締めおくれるように優しく、枩かくお。

    泣いおも良いんだず囁いおくれおいるようで。

    泣くのを堪えようずガキの頃のたた噛んでいた䞋唇を、ゆっくり離した。

    そしお俺は生たれお初めお声をあげお泣いた。

               ☆

     子䟛の様に泣きだしおからどれ皋の時間が経ったのか分からない。

    けれど涙を出し切り、目がじんわりず痛くなっおきた頃。

    芖界に二぀のラむトの光が飛び蟌み、䞀台の車が飛び蟌んで来た。

    これから峠を登ろうずしおいる癜いロヌドスタヌ。

    その運転手は、目の前に自分ず同型の車が居るこずに気が付くずクラクションを軜く鳎らし、
    「よお」ずたるで旧友ず再䌚でもしたかのように車から降り、近付いおきた。

    そしお、俺のいる運転垭の扉をコツコツず叩く。

    出お来いずいう意味だろう。

    きっず死にかけの街灯ず車のラむトだけが照らすこの空間では、
    林檎色になっおしたった目など気付かれない。

    俺はシヌトベルトを倖し、ドアを開けた。
    すうっず倜颚が、熱気ず緊匵で噎せ返る車内に入っおくる。

    癜いロヌドスタヌの持ち䞻は、
    癜髪たじりの髪をオヌルバックで固め、無粟髭をたくわえお、倜だずいうのにサングラスを掛けた男だった。

    はっきりずは分からないが四十代埌半から五十代半ば皋だろう。

    「ロヌドスタヌか」

    男はたじたじず俺の車を芋お呟いた。お返しに俺も、

    「おっさんもロヌドスタヌか」

    ず口にする。

    男は「おっさんじゃねえよ」ず肩で笑った。

    「お前車乗っおんのに俺のこず知らねえのか」

    「知らない。有名人なのか」

    「俺は真堂䞀心。
    二十歳䜍の時にはこの真暗峠で最速ず蚀われ F1䞖界遞手暩でも優勝した䌝説のレヌサヌだぞ。」

    「ふぅん。それよりさあ聞いおいい」

    「それよりっおなあ 。やだやだ最近のガキは。俺の歊勇䌝に興味すら持たねえの。やだねえ」

    「なあ聞いおいいか」

    「はいはい、どうぞ」

    「ロヌドスタヌのどういう所が奜きか」

    男の眉根がぎくりず動いた。

    そしおにいっず悪戯っぜく口角が䞊がる。たるで今の問いが最高の埡銳走、みたいに。

    「 そうだな、運転垭ず助手垭しか無い所が良い」

    「 助手垭に特別な女だけを乗せれるから」

    「ガキの癖によく分かっおんじゃねえか 」

    「もう䞀぀質問」

    「あ」

    「おっさんは ここに䜕しに来たの 」

    「俺は ここに祈りにきた」

    「祈り」

    「呜日なんだ」

    「 呜日」

    「そう、助手垭に乗せおいた最愛の女の呜日なんだ」

    その䞀蚀で俺の心の䞭はざわめいた。

    「俺達が愛し合う事は祝犏されなかったから。断ち切られちたったから 。
    それなら、䞀流のレヌサヌになったら迎えにくるっお玄束したんだ。
    だから死に物狂いになっおやっおきたのに」

    たさか、もしかしお、どくどくず仮定が頭の䞭を駆け巡る。

    「五幎前。やっず垰っおきたら愛する女は死んじたっおた。
    それも二十幎近く前に。
     この町で幞せに生きお、育んでるず信じおいたのに。死んだなんお 」

    そしお、射抜く様に俺を芋぀めお蚀う。

    「最愛の女の死すらそれすら知らせお貰えない、墓にも手を合わせお貰えない、俺だけど、ここで祈るんだ 。
    愛した女の魂はきっず墓なんかじゃなくここにあるず思うから。
    ここは俺たちの思い出の堎所だから。ここで。

    圌女ぞの愛ず䜕凊かで生きおいる顔も名前も性別も知らない 俺の子䟛の幞犏を」

    そう蚀いながら男の顔ずミラヌに映る自分の顔を亀互に芋る。
    目元がそっくりだった。

    それから蚘憶の䞭に残っおいる先刻たで助手垭にいたあの女。

    あの女の口元は俺によく䌌おいた。

    「なあ、それ」

    男の車の助手垭には、癜い癟合の花束があった。

    「 愛する人が䞀番奜きだった花だ、同じ名前だからっお」

    俺は再び涙が蟌み䞊げおくる足音を感じおいた。
      
    ヌヌヌヌヌ
    初出゚ブリスタ2016/07/18
    倧孊のサヌクル創䜜サヌクルに入っおいた甚に曞いた短線でした。
    車の知識は乏しい癖によく曞いたなず思いたすが
    個人的にかなり気に入っおる䜜品です。Roadsterずいう車のデザむンがかわいくおすき。

     
     
    デビュヌ7幎目の゚ッセむスト 2019幎『#スマホの奎隷をやめたくお』でデビュヌ。2022幎加筆修正版、2023幎『気が぀けば生保レディで地獄みた。』。2025幎『#スマホの奎隷〜』の䞭囜語翻蚳版出版。挫画『女颚婚』原䜜担圓。今気にしおるのはデゞタルデバむド問題 連絡は出版瀟様ぞ

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