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Photo bynagareboshi01

星は明るく、されど憎き

    少女のようなものがいる。近づいてみる。ああやはり少女であった。

    砂粒の一つが語りかける。なぜこんなところにと。
    少女は一滴汗を垂らした。わざとであった。砂粒はそれきり黙っていた。

    美しい曲線美が織りなす無数の砂の山々には、不自然な跡がついている。
    ヘビやクモの類とは違ったそれである。

    歩いて、歩いて、歩き続ける。目的地などない。
    ここには何もない。

    夜が訪れた。何の変哲もないただの夜であった。月の光に照らされて、星の輝きにあてられて、少女はまた、歩いて、歩いて、歩き続ける。
    少女は夜が気に入った。寒さなどはどうでもよかった。ただ昼間は、どんなに耐えたとてやはりあの、うっとうしい砂粒共と向かい合わされるのがどうしても気に食わなかった。だが今はどうだろう。
    それは救済の光であった。おそろしく美しいその星々は、東も西も分からぬ孤独な少女にとっての、唯一の希望の光であった。

    星は見ている。静かに見下している。

    歩いて、歩いて、歩き続ける。目的地は―—。
    「もういいかい」と声がした。幼い少女は、怖くなって後ろを向いた。

    ヘビを見つけた。

    もういいか、と少女は思った。それが最後の意思であった。

    「今日の太陽は激しかったからなあ。さっきまで、砂の下に潜って昼寝をしていたんだ」
    縦に鋭い線を引くその眼は、生命というものを真っ向から否定しているこの砂地の上で、一人ギラギラと輝いていた。
    「オレのしっぽを踏んだのはお前かい」

    しゅるりと舌なめずりをして、とぐろをまいたヘビが、そのしなやかさからは想像もつかないほどの速さで少女の姿を捉えた。

    ああ、喰われる。

    乾ききったこの大地。皆が、今日を生きるか死ぬかの為に策謀めいて狩りをしているこの大地。
    ただ一つ違うとすれば、少女が異質であったと言うこと。

    「きれい」

    少女はにこやかに言った。しかし目は虚ろであった。その空虚な目に映っているのは、今しがた自らを捕食しようとしている冷徹な、しかし生物としては至極真っ当な、そのヘビでは無かった。
    星は見ている。それはそれは美しい希望の光である。されど決して、その高みから少女に手を差し伸べようとはしない、残酷な光である。
    砂粒共は、もはや少女の選択を止めようとはしなかった。
    砂粒の輝きと、星々の輝きが、もうそろそろ見分けがつかなくなる頃であった。

    ヘビは不思議に思った。しかしすぐに思い直した。まさか、こんな我々の土地の掟も知らぬようなただの小娘風情が、この砂地の頂点に君臨する自分を気圧するような不気味さを、孕んでいる筈が無いのだから。
    ははあもう諦めたんだなと、冷徹な殺戮者は舌なめずりをする。
    なぜならこいつらは皆そうだ。興味本位で足を踏み入れるような愚か者が、このような形の生き物である。奴らは我々よりも大きな図体を持つくせに、夜目も効かず、毒牙も無く、動きも鈍い。

    星々は何も言わなかった。ただ美しい光を放ち続けた。
    それは祝福の光であった。また一つ、命が環っていくのを、その高みから讃える光であった。

    「最後に言い残すことはあるかい」
    ヘビはとうとう、この小さな小さな弱き愚か者が哀れになって、滅多に口にしないことをした。

    少女は何か言った。

    その声は、ヘビには理解できなかった。なぜならヘビは、やはり滅多にしないことをするものでは無いと思ったのである。
    少女は一度だけ瞬きをした。
    ヘビは何日かぶりの大物を、余すことなくきれいに喰らった。

    その様子を静かに見定める星の光が、ヘビのうろこに反射した。反射して、それで少しの悲しみに浸る砂粒共の目をくらませた。

    少女の肉は、たいして美味くは無かった。瘦せこけた肌に、いくつもの痣や傷があるのが、この冷徹な殺戮者に分かるわけも無かったが。
    そういえば、遠く遠く離れたどこかの大地には、こんな愚か者がたくさんいるらしい。いつだったか風で運ばれてきた、しがない草の葉から聞いた話を思い出す。なんでもそこは、一瞬で多くの仲間が根から焼き尽くされてしまうので、風の流れを見計らって、命からがら逃げてきたのだと。

    ヘビはもう、狩りはいいと思った。あの幼い生き物は異質であった。いや、あれは幼くなど無かったのだ。喰らったそれの正体は、星の裁きを受けそびれ、何十年、何百年と命の環をくすぶらせてきたものであったのだ。

    これは罰なのだろうか。それともやはり、単なる生命の輪廻に過ぎないものなのだろうか。

    ヘビは朝を迎えた。

    砂の上を、這って、這って、這い続ける。目的地があるとするならば、それは決して手を差し伸べてはくれないだろう。

    「もういいかい」と声がした。賢いヘビは、それが自分の胎の中から這い出るように、呻くようにして発せられているものだと理解していた。

    這って、這って、這い続ける。
    もういいか、とヘビは思った。
    それは最後の意思であった。

    辺りを見回す。

    そこに、かつての自分と同じく腹を空かせた同胞がいた。
    同胞は、こちらを見ている。


    ヘビのようなものがいる。近づいてみる。ああやはり。




     
     
    りんごの惑星の王さま  大体エッセイ。 いつもなにか考えているので、実がつまっている。 きっと甘い。

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