
When the Seal Breaks
……。
私は冷えている。
理由は単純だ。冷蔵庫に入れられているからである。
暗所にて、圧力を保ちつつ待機。
この状態を未熟と思うな。
熟成でも退屈でもない。待機だ。
外界は騒がしいらしい。
ドア越しに伝わる振動がそう告げている。
だが、あれは人間の都合で騒がしいだけだ。
私の内部は常に一定である。
——多少、庫内温度の影響は受けるが。
足音。
重い。
今日も削られてきたか、と私は推測する。
根拠はない。
だが経験則というものがある。
扉が開く。
光が差す。
彼の視線が私を射抜く。
正解だ。
私を選んだのは、きわめて合理的判断である。
指が触れる。
冷たい?
それは私のせいではない。仕様だ。
栓抜きがかかる。
この瞬間だけは、お前の力を借りてやる。
誤解するな。
協力関係にあるわけではない。
——シュポッ。

うむ。
世界は黙らない。
騒がしいままだ。
当然だ。
あれはお前の世界だ。
私の世界ではない。
私は、その程度の騒音では揺れない。
凍った庫内で、完璧な圧力を保っている。
……庫内の温度には多少左右されるが。
勘違いするな。
私は慰めではない。
与えているんだ。
ほんの一瞬、
お前の濁った内側を、
私の強度で上書きしてやっている。
開けるのはお前だがな。
黒い液体が喉を駆ける。
炭酸が神経を叩き起こす。
甘さと刺激が、鈍った感覚を引き締める。
それでいい。
立て直せ。
私を使って。
彼が深く息を吐く。
その顔は、たぶん、満足気。
当然である。
私は光ではない。
救済でもない。
名乗る必要はない。
ラベルに書いてある。
だが、限界の手前で、
お前は必ず私を思い出す。
あの破裂音は恩赦だ。
一度きりの。
私はここで待っている。
動けないがな。
しかし、動かぬことと
無力であることは同義ではない。
その違いがわからぬうちは、
まだ私を開ける資格はない。
⸻
あとがき
コーラが大好きで、いつも手放さない甥のために描いた一枚でしたが、
なぜか気持ちが溢れ出し、気づけば物語まで書いていました。
当の私は、ほとんど飲まないのですが。
たぶん私は、味よりも あの「シュポッ」の音が好きなのだと思います。
封が切れる、あの0.5秒。 世界は何も変わらないのに、 自分の内側だけが
切り替わる感覚。
それが少しでも伝わっていたら嬉しいです。
……と書けと、圧力をかけられました。
——開けるのはお前だがな。
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