
この世界で一人ぼっちになった夜
好意を寄せている相手とLINEでメッセージのやりとりをしていたら、相手にパートナ―がいることを知る。これが最後のメッセージ送信になると分かっているのでなかなか送信ボタンを押すことができない。押してしまったらすべてが終わってしまうような気がした。
相手には全く非がないことは分かっていても、 心の中では相手を責める気持ちがわいてくる。そういう自分のことが一番嫌いだ。
残酷なことにこんな日に限って空気が澄んだ夜だったりする。自然さえも私に味方してくれないことを恨んだ。私はこの世界で一人ぼっちになってしまった。
すでに送信されたメッセージには平静を装ったどこにでもあるような言葉が並んでいた。 何かを期待していた数分前の自分がまだここにいるのが可笑しい。
身体はすこぶる重い。脳裏にかすめる極端な言葉が細胞分裂して増殖しているようだ。救いを求めるように再びLINEを開き、誰かに連絡をとろうと試みる。友だちの名前を一人ひとりスクロールしていく。気持ちを共有する相手がいないことに一層絶望感が強まってくる。本当に苦しい時には誰も側にはいないことを知った。
狭い車内の空気がどんどん薄くなって酸欠になりそうだ。外の空気を吸いたくて車の窓を少し開けて車内に空気を入れるようにした。少し呼吸ができるようになり気持ちが落ちつくと自然と涙がこぼれた。張りつめていた心がほどけていく。夜風はいつもよりやさしくてあたたかくて涙が止まらなくなった。
車のエンジンをかける。エンジン音を聞いたら日常に戻らなくてはならない。さっきまで十階建てのビルの上から地面を見下ろしていたのに、だ。
車を走らせていると、鼻歌を歌っている自分がいることに気づく。こうしていないと自分を保つことができないのかもしれない。カーラジオの音声がうるさくてよかった。夜の静けさをごまかしてくれるから、遠くへ行かなくても済むような気がした。