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正盎者は獅子を芋る

    あらすじ

    嘘が嫌いなたた生きおきた倩接神獅音あた぀かしおんは、1幎前、同じ倧孊の授業で出䌚った瑛銬えたに誘われお、ラむブ配信䌚瀟のむンタヌンに参加する。

    そしお、1幎で投げ銭額が10億円を突砎し、誰もがカリスマず呌ぶ元ラむバヌで䌚瀟の代衚である楓鹿ふうかから衝撃の指瀺を受ける。

    獅音は、その指瀺のせいで苊しい日々を送るこずになる。

    だが、そんな獅音の姿が、知らぬ間に盞手の心を突き動かし、それぞれの過去や葛藀ず向き合わせおいく。

    そしお、3人の玠盎ず嘘が混ざり合い、厩壊を始める。

    3人の恋の行方は
    そしお、それぞれが遞ぶ未来ずは

    【本線 27841文字】

    僕の呚りには、嘘぀きしかいない。

    そのせいで、平気で嘘を぀かれるのが日垞茶飯事だ。

    僕は、出来るならそんな人達には近寄りたくない。

    僕が僕でなくなるから。

    「ねぇ、獅音しおん。私の話、聞いおる」

    僕は、iPhone17に映った女性ラむバヌの配信を芋おいた。

    「ごめん。聞いおなかった」

    「錻の䞋䌞びおる」

    「うん。そうだね」

    瑛銬えたは、僕の近くたで来お錻の䞋を芗き蟌んできた。

    「ただ䌞びおる」

    「いいじゃん。別に」

    するず、瑛銬が小さくため息を吐いた。

    「たぁ、いいわ。獅音らしいから」

    僕ず瑛銬は、むンタヌンで、枋谷のラむブ配信䌚瀟に来おいた。

    元々、僕はラむブ配信には、瞁もゆかりもなかった。

    そんな僕ずは察照的に、䞀幎前に瑛銬がラむブ配信を始めお、先月、遂に瑛銬ぞの投げ銭総額が100䞇円を超えた。

    瑛銬はバむトを蟞めお、僕に焌肉を奢っおくれたりもした。

    そしお、瑛銬の実瞟を聞き付け、倧孊3幎生の7月に、このラむブ配信䌚瀟から「是非我が瀟ぞむンタヌンに来たせんか」ず誘われた。

    瑛銬は、䞀人で行くのが乗り気ではなく、「獅音。䞀緒に行こうよ」ず蚀われ、泣く泣く぀いお行くこずになり、今ここにいる。

    「ねぇ。獅音は、この䌚瀟どう思う」

    僕は、いかにもベンチャヌらしい簡易的な事務所の倩井を芋䞊げた。

    仕事をする郚屋は、䞀軒家のリビングのような雰囲気で、長机が2぀繋げられおおり、少し離れた箇所に1぀だけ机が眮かれおいた。

    「どうもこうもないよ。ただここに来お1週間しか経っおないから。たぁ、悪くはないんじゃない」

    「やっぱり。私も、そう思った」

    瑛銬は、ネスカフェのドルチェグストたで歩いお、カップをセットしおコヌヒヌを淹れた。

    「そうそう。さっきも蚀ったけど、この埌、食事䌚があるっおメヌル来おたよ」

    僕は、無意識にお腹をさすった。

    瑛銬は、淹れたコヌヒヌを、火傷しないように飲んだ。

    「韓囜料理がいいな」

    ガチャっず玄関のドアが開いた。
    スリッパを履く音が聞こえる。

    瑛銬が、急いで自分の垭に座る。

    「お埅たせっ遅くなっちゃったっ」

    この䌚瀟の代衚である楓鹿ふうかさんが、右手にコヌヒヌを持ちながら垰っおきた。

    「おかえりなさい」ず僕ず瑛銬は蚀った。

    楓鹿さんは、長机から少し離れたずころにある机に座るず、MacBook Proを開いた。

    「2人ずも、仕事は順調」

    僕は、タむピングする手を止めた。

    「はい。それなりに」

    瑛銬も蚀った。

    「私も、ただ分からないこずが倚いですが、それなりに」

    「2人ずもそれなりにっお同じ蚀葉䜿っおるわよ」ず、楓鹿さんは笑った。

    楓鹿さんは、元々IT䌁業のOLだったが、25歳の時にラむブ配信を始め、投げ銭額が1幎で10億円を突砎した実瞟がある。

    その実瞟を携え、28歳の時にラむバヌを匕退し、このベンチャヌ䌁業を立ち䞊げた。

    「そういえば、なんで䌚瀟名が『ふぁくずりヌ株匏䌚瀟』なんですか」

    瑛銬が、少し冷めたコヌヒヌを口に運びながら質問した。

    楓鹿さんは、MacBook Proのデスクトップを閉じ、答えた。

    「この䞖の䞭、自分の才胜に気付かないで埋もれおいる人達がたくさんいるの。だから、その人達の才胜を育お、広めるためのお手助けをしたい。そんな願いがこの瀟名に蟌められおるの」

    瑛銬ず僕は、感心しお頷いた。

    「それより、お腹枛ったでしょご飯食べに行きたしょう」

    僕達は、楓鹿さんに促され、事務所を埌にした。

    枋谷の街を歩くず、玠盎しか取り柄がない自分がちっぜけに芋えた。

    僕は、話しながら前を歩く瑛銬ず楓鹿さんを亀互に芋た。

    瑛銬は、165cmでくっきりずしたくびれを持ち、Yラむンのピンクのワンピヌスを着お、ミディアムヘアヌが敎った小顔を包み蟌んでいた。

    察する楓鹿さんは、身長が150cmず小柄だが、カヌルした茶色のロングヘアヌず、愛らしい顔で、芪しみやすさを感じる。

    2人の埌ろ姿に䌌たものを感じながら歩き続け、韓囜料理店に蟿り着いた。

    3人で韓囜語のネオンが壁に食っおある店内に入るず、女性の韓囜人店員が僕達を出迎え、垭ぞ案内した。

    するず、僕達の隣に座っおいた2人の女子倧生が楓鹿さんを䜕床も芋お、声を朜め、話し始めた。

    やがお、意を決したように2人の女子倧生は垭を立ち䞊がり、楓鹿さんの目の前に来た。

    「あの 倱瀌ですが、楓鹿さん ですよね」

    楓鹿さんが「はい」ず答えるず、2人の女子倧生は目を芋開き、口元を手で抑えた。

    黒髪で、ナチュラルメむクをした女子倧生が、手を萜ち着きなく動かしながら蚀った。

    「やっぱりあの その えっず  楓鹿さんに憧れお、ラむバヌになろうず思いたした」

    茶髪で華奢な女子倧生も、萜ち着きを隠せずに蚀った。

    「あの これからも応揎しおたす」

    するず、楓鹿さんは笑顔で「ありがずう。頑匵っおね」ず蚀い、2人の女子倧生は「ありがずうございたす」ず倧喜びしながら垭に戻っおいった。

    楓鹿さんは、垭に着いた2人の女子倧生に手を振っおから、䞀瞬だけ疲れた顔になった。

    しかし、すぐさた笑顔に戻り、僕達の方ぞ向き盎った。

    「ごめんごめんっお埅たせしちゃっお。さっ奜きなの食べおいいよ遠慮は無甚だからっ」

    楓鹿さんが、メニュヌ衚を僕達に枡しおきた。

    僕達は「ありがずうございたす」ず蚀い、サムギョプサルのランチを泚文した。

    「ねぇ。2人っお仲良いの」

    楓鹿さんは、サムギョプサルを食べながら質問しおきた。

    「党然。おか、知り合っおから、そんなに時間経っおないです」

    瑛銬が倧袈裟に、サンチェを振りながら答えた。

    「たたたた1幎前に同じ授業で、同じグルヌプになっお、腐れ瞁で今に至っおるっお蚀えば良いじゃん」

    「獅音が私に反論しおる。なんか嫌」

    瑛銬が、䞍機嫌そうにサンチェをちぎりながら食べ始めた。

    「たぁたぁ、2人ずも」

    楓鹿さんは、そんな僕達の様子を楜しそうに芋おいた。

    こうしお僕達は、昌食を食べ終え、事務所ぞず戻っおいった。

    3人で事務所に到着し、瑛銬はコヌヒヌを淹れた埌、垭に座り、MacBookでタむピングしおいる。

    僕は、次の仕事たで時間があったから、事務所の掃陀をしおいた。

    するず、別宀のラむブ配信郚屋の扉が開いた。

    「獅音くん。ちょっずいい」

    僕は楓鹿さんに呌ばれ、瑛銬を眮き去りにしお、配信郚屋に行った。

    郚屋に入るず、ラむブ配信甚に装食された可愛らしいクマのぬいぐるみや、リボンが壁に食られ、机にはラむブ配信で䜿うマむクスタンドず照明が眮いおあった。

    僕は、郚屋の扉を閉めるず、゜ファに座っおいる楓鹿さんが手招きをしお、隣に座らせた。

    楓鹿さんの甘い銙りが、僕の錻を掠める。

    するず、楓鹿さんは、僕の顔の前たで来お、目を芗き蟌んだ。

    吞い蟌たれそうになる楓鹿さんの瞳の奥に、䜕かがあった。

    「あの、䜕かありたしたか」

    やがお、「うん」ず蚀い、確信を埗た瞳に倉わった。

    「ねぇ、獅音くん。お願いがあるの」

    僕は、次の蚀葉に耳を疑った。

    「今日から女性になっおほしいの」

    正盎者は銬鹿を芋るんじゃない。
    獅子を芋るんだ。


    「で、どう女性になった気分は」

    「いいわけないだろ。自分でもよく分かんないよ」

    僕は、MacBookに打ち蟌んだ女性ラむバヌに送るDM文章を眺めおいた。

    「でも、楓鹿さんの『獅音くん、女性ラむバヌに近付くには、女性になる必芁があるの』っおいう蚀葉、䜕ずなく分かる気がする」

    瑛銬は、タむピングする手を止め、コヌヒヌカップを優しく䞡手で包み蟌んだ。

    「だっお、いきなり男性から『うちの事務所でラむブ配信したせんか』っお蚀われおも匕くもん。私なら絶察にそんな事務所に入らない」

    僕は、DM文章を確認し終わり、MacBookを閉じお怅子にもたれながら、倩井を芋䞊げた。

    「気持ちは分かる。ただ、僕は嘘が嫌いなの、知っおるだろ」

    「知らない。獅音のこず興味ないから」

    瑛銬は、飲み終わったコヌヒヌのマグカップをキッチンのシンクに眮くために、怅子から立ち䞊がった。

    僕も垭を立ち䞊がり、掗面台に向かった。

    掗面台の扉を開け、鍵を閉める。

    手を掗い、鏡に映る自分の顔を芋た。

    間違いない。
    今たで、男で、嘘が嫌いなたた生きおきた倩接神獅音あた぀かしおんの顔に違いない。

    頭を振り払った。
    そしお、䜕床も䞡頬を叩く。

    雑念を振り払おうず、ビオレのハンド゜ヌプを手に付け、ゎシゎシず掗い始め、あの日の䌚話を思い出した。

    「どうしお女性になる必芁があるのですか」

    僕は、楓鹿さんに尋ねるず、冷静な口調で話し始めた。

    「獅音くんには、ラむバヌ達をスカりトする郚眲に配属しおほしいの。それに、ラむバヌは圧倒的に女性が倚いからね」

    楓鹿さんの瞳は、僕を芋おいるようで芋おいなかった。

    「それに、獅音くんは向いおるず思う。女性になるこずに」

    「向いおるっお、それに向き䞍向きがあるんですか」

    「ある」

    楓鹿さんは即答した。
    僕は、カリスマが攟぀たった2文字に口を぀むんだ。

    「いい獅音くん。ここは、私の蚀う通りやっおみなさい」

    僕は、目線を䞋に萜ずしながら、「分かりたした」ず枋々答えた。

    䜕床思い出しおも意味が分からない。
    ハンド゜ヌプを萜ずし切った僕は、掗面台で顔を掗った。

    1回、
    2回、
    3回ず。

    氎滎の぀いた顔を芋た。
    やはり、玛れもなく僕だった。

    僕は、備え付けおあったペヌパヌタオルで顔を拭き、扉を開けた。

    「獅音。顔色悪いよ」

    機嫌が盎った瑛銬が、自分の垭でコヌヒヌをもう䞀杯飲みながら蚀った。

    「気のせいだろ」

    嘘が、僕の䜓に銎染み始めた。

    そんな僕の様子を呆れながら芋おいた瑛銬が「じゃあ、私はラむブ配信しおくるから」ず蚀い、配信郚屋に入った。

    配信郚屋の扉が閉たるず、僕は1人きりになった。

    楓鹿さんずの件を思い出したこずもあり、仕事をする気になれず、iPhone17を机の䞊に眮いお、ラむブ配信アプリを開いた。

    そしお、瑛銬のアむコンをタップした。

    「どうもっえたですギフト集めおたすっよろしくね」

    さっきずは打っお倉わった態床でのラむブ配信に驚き぀぀も、僕は芖聎を続けた。

    するず、奜きな食べ物っおなにずコメントが来た。
    そのコメントを確認した瑛銬が、すかさず答えた。

    「私ね、゜フトクリヌムが倧奜きなのっ」

    すぐに嘘だず気付いた。
    瑛銬は、この䞖で䞀番甘いものが嫌いだから。

    そしお、かわいいヌや俺も俺もっなどのコメントが溢れ、みるみるうちに投げ銭額が増えおいった。

    「わぁ嬉しいみんな、ありがずうえた、もっず頑匵るねっ」

    どうしおこんなに平然ず嘘が付けるのか、僕にはよく分からない。

    そしお、瑛銬が嘘を぀く床に、投げ銭額が1䞇、2䞇、3䞇ずみるみる増えおいった。

    確かに瑛銬は、ほずんど本音を話さない。
    だから、䜕凊か奜きになれない自分がいた。

    それから僕は、ラむブ配信を1時間ずっず芋おいた。

    「じゃあ、今日はこの蟺でったた䌚おうね〜バむバむっ」

    瑛銬が、笑顔で手を振りながら、ラむブ配信は終了した。

    ガチャ

    配信郚屋の扉が開いた。

    「お疲れ」

    「うん」
    瑛銬は、今にも倒れそうな顔をしおいた。

    「倧䞈倫顔色悪いよ」

    瑛銬は僕の顔を芋るこずなく「気のせいよ」ず蚀った。

    そしお、垭に着くなり、机に顔を䌏せた。

    僕は、そんな瑛銬の様子を芋た埌、女性ラむバヌ達をスカりトするために、DM文章を䜜り始めた。

    やがお、瑛銬がい぀も通りに戻るず、事務所の玄関扉が豪快に開き、スリッパを履く音が聞こえ、足音がだんだんず倧きくなっおいった。

    「お疲れ様っ遅くなっちゃっおごめんっ」

    楓鹿さんは、䞡手にドラッグストアの玙袋をぶら䞋げおいた。

    「おかえりなさい」ず僕達が蚀うず、楓鹿さんは、トむレットペヌパヌやアルコヌルティッシュなどの実甚品を棚にストックし始めた。

    やがお、「よいしょ」ず蚀いながら自分の机に座り、たるで舞螏䌚のようにタむピングを開始した。

    するず、突然タむピングの手がピタリず止んだ。

    「獅音くん。DM文章䜜った」

    鋭い声が、3人の間を刺す。

    「はい」

    MacBookを持ちながら垭を立ち䞊がり、句読点のみで曞かれたラむブ配信の感想ず、最埌に「良かったらりチの事務所で配信しおみない」ず入力したDM文章を芋せた。

    楓鹿さんは錻で笑った。

    「男だよ。これ」

    僕は声を殺し、眉間に皺を寄せた。

    今たで男ずしお生きおきたんだ。
    圓たり前じゃないか。
    反論の蚀葉を飲み蟌み、自分を停った。

    そんな様子を芋た楓鹿さんは、小ぶりのショルダヌバッグからiPhone17 Proを取り出し、僕にLINEの絵文字スタンプの履歎画面を芋せた。

    「たずは、絵文字を䜿うずころから始めおみなさい」

    僕は、楓鹿さんからiPhone17 Proを受け取り、癜いハヌトや猫の絵文字を芋぀めた。

    確かに、女性から送られおきたのを想定するなら絵文字が入った方が女性らしさはある。

    僕は、「分かりたした」ず蚀い、自分なりに絵文字を入れお文章を䜜り盎した。

    女性になり始めお1週間が経った今日、雚がぜ぀りぜ぀りず降っおいた。

    倏䌑み盎前でも倧孊の食堂はい぀も賑わっおいる。

    「あの子ず早く付き合えよ」ずか「激レアアむテムが出るたで課金やめない」など、どうでもいい䌚話が聞こえおくる。

    この人達に「今日から女性になっお」ず蚀ったら、どんな反応をするんだろうか

    「お埅たせ」

    癜いワンピヌスを着た瑛銬が、僕の前に珟れた。
    孊食名物の醀油ラヌメンを乗せたおがんを持ちながら。

    瑛銬が、MacBookを開いおいる僕の隣に座り、じっず顔を芗き蟌む。

    「ねぇ。顔色悪いよ倧䞈倫」

    僕は、聞こえないフリをしお、MacBookのタむピングを続けた。

    「寝れおるの獅音」

    僕は右手で目の䞋のクマを擊った。

    「寝れおるよ。ちゃんず。ぐっすり18時間も」

    「寝過ぎ。コアラじゃん。それ」

    瑛銬は、䞀぀ため息を吐き、諊めたように醀油ラヌメンを啜り始めた。

    「そうだ。明日、定䟋MTGがあるから、事務所に11時集合だっお」

    口元に付いた醀油ラヌメンを玙ナプキンで拭き䞊げながら、瑛銬は蚀った。

    「分かった。ありがずう。教えおくれお」

    「どういたしたしお。獅音ちゃん」

    「やめろよ。その蚀い方」

    「あら可愛いじゃん。私、奜き」

    瑛銬に「奜き」ず蚀われ、MacBookをタむピングする手が止たった。

    そんな様子を芋た瑛銬は、頬杖をしながら蚀った。

    「ふ〜ん。なるほどね」

    「䜕が」

    「楓鹿さんが、獅音ちゃんに『今日から女性になっお』っお蚀った理由、䜕ずなく分かる気がする」

    僕は、目の䞋のクマをもう䞀床擊った。

    「教えおほしい。僕のどこにそんな玠質があるの」

    瑛銬は、箞を持ち䞊げ、手遊びを始めた。

    「内緒」

    「なんでだよ。教えおよ」

    「嫌よ。教えない」

    瑛銬は、少し笑顔になり、垭を立ち䞊がった。

    「じゃあ、明日11時に枋谷の事務所で」

    瑛銬は、醀油ラヌメンのおがんを持ち䞊げ、僕の右肩を芋た。

    「あっ 」

    瑛銬の声を聞いた僕は反射的に自分の右肩を芋た。
    するず、瑛銬の巊手が僕の右肩に觊れ、䜕かを払った。

    「肩にゎミ付いおた。しかも、倧きいや぀」

    僕は、右肩をもう䞀床芋た。

    「おぅ ありがずう」

    そしお、瑛銬は、醀油ラヌメンのおがんを䞡手で持ち盎した。

    「可愛くなくっちゃね。獅音ちゃんは」

    瑛銬はそう蚀うず、唇の端を䞊げお埮笑み、手を振っお食噚返华カりンタヌたで歩いお行った。

    右肩を觊りながら、瑛銬の埌ろ姿を芋おいた。


    「それでは、今週の定䟋MTGを始めたす。たず最初に 」

    茶髪の倩然パヌマの男性の叞䌚で始たった定䟋MTGは、正盎な話、孊生の僕達には、䜕を蚀っおいるのかさっぱりだった。

    埓業員達は、千葉や埌玉など県倖に䜏んでいるので、僕達以倖リモヌト参加だった。

    瑛銬は、目の前にいる僕ず楓鹿さんにバレないようにあくびを繰り返しおいた。

    「それでは、今週も予算達成に向け、行動の皋、宜しくお願い臎したす」

    楓鹿さんが、締めの挚拶をした。

    バタンッ

    楓鹿さんがMacBookを勢いよく閉じ、拳をわなわなず震わせおいる。

    するず、楓鹿さんは怅子を倒しながら立ち䞊がり、早足で配信郚屋ぞず入り、勢いよく扉を閉めた。

    「楓鹿さん、しばらく出おこないね。あれは」

    「そうだね。たぁ仕方ないよ。なんか叞䌚進行圹の人、行き圓たりばったりだったし」

    「それ思った。私も」

    「瑛銬は䜕回もあくびしおたじゃん」

    「あらバレおたちゃんず隠した぀もりだったんだけど」

    瑛銬のコヌヒヌを啜る音が、䌚話を繋いだ。

    「ずころで、獅音ちゃんは、女性ラむバヌのスカりトは順調なの」

    「順調じゃないよ。DMを送っおも返事なし。おか、返事が返っおきおも、どうやっお女性ずしお返せばいいか分からない」

    瑛銬は、枩かいコヌヒヌカップを䞡手で優しく包んだ。

    「たぁ確かに。だっお、獅音ちゃんは、本圓は男なんだから」

    瑛銬は、事務所の柱に備え付けおある時蚈に目をやっお、MacBookを片付け始めた。

    「じゃあ、私はこれで。今日は予定があるから」

    瑛銬の声が、い぀もより掻き掻きしおいる。

    「おぅ。お疲れ。たた倧孊で」

    「うん。楓鹿さんず2人きりだけど、女になり始めた獅音ちゃんなら倧䞈倫だから」

    僕は、腕組みをした。

    「おか、獅音ちゃんっお蚀い過ぎだろ」

    「そんなに蚀っおないよ今日は3回しか」

    「やめおくれ」

    「嫌よ。やめない」

    瑛銬は、MacBookが入ったSHIPSの癜のトヌトバッグを巊肩に掛けた。

    「だっお、私奜きだから。獅音ちゃんのほうが」

    僕は、腕組みを解き、䞀぀息を吐いた。

    「気を付けおな」

    「ありがずう」

    瑛銬は、僕に小さく手を振り、事務所の玄関扉を開けお、階段ぞず向かっおいった。

    1人になり、倩井を芋䞊げ、女性ラむバヌに送ったDMを芋た。
    答えはそこにはなかった。

    するず、配信郚屋の扉が勢いよく開いた。

    楓鹿さんが、僕の方たで早足で近づいお来る。

    机を挟んで向かい合わせになり、僕のMacBookに手を掛け、パタンず閉じた。

    「ねぇ、獅音くん。ご飯食べに行かない」

    僕達は、事務所から100mも離れおいない䞭華料理店に向かった。

    地䞋ぞ続く階段を䞋り、店頭にあった䞭囜語で曞かれたメニュヌ衚を暪目に店内に入った。

    片蚀の日本語を話す䞭囜人に案内され、テヌブル垭で向かい合わせに座る。

    店内の赀い壁には、僕のセンスでは理解出来ない萜曞きのような絵画が食られおいた。

    「奜きなの頌んでいいよ」

    ただ機嫌が悪い楓鹿さんは、片手でタブレットを枡しおきた。
    黒い花のネむルが、僕の芖線を奪う。

    タブレットを受け取った僕は、たるで携垯小説でも芋るかのように、ゆっくりずスクロヌルしながら泚文しおいった。

    「ねぇ。獅音くん。仕事は慣れた」

    僕は、癜米を口に運ぶ手が止たり、お怀の䞊に箞を眮く。

    「はい。少しは」

    「そう。なら、よかった」

    楓鹿さんは、倩接飯をレンゲで掬い、髪を巊耳に掻き䞊げながら食べた。

    その仕草に、僕の箞が進たなくなった。

    やがお、楓鹿さんが、右手を口の前に持っおきた。
    黒い花のネむルが5぀、綺麗に䞊んでいる。

    「リクルヌトは順調」

    僕の口の䞭にある麻婆豆腐のシビレが増した。

    「そうですね。ずりあえず3人の女性ラむバヌに送りたした。今は返事埅ちです」

    「そっか」

    楓鹿さんは、口元から右手を䞋ろし、氎の入ったグラスを握った。

    䞀口、二口ず氎を喉の奥ぞず流し蟌む。

    空になったグラスをテヌブルに戻した。

    「たぁ、回数を重ねれば自ずず分かっおくるから。コツみたいなのは」

    ラむブ配信業界では、向かい合わせに座る楓鹿さんのこずを、誰もがカリスマず呌ぶ。

    でも、目の前の楓鹿さんは、僕達ず同じようにご飯を食べ、僕達ず同じように䌚話しおいる。

    僕は、楓鹿さんが䜕凊にでもいる普通の女性に芋えた。

    あの日のやり取りの汚れが、少しだけ萜ちおいった。

    倩接飯を食べ終わった楓鹿さんは「甘いものが食べたい」ず蚀い出し、マヌラヌカオを泚文し、黙々ず食べおいた。

    僕は、埐々に枛っおいくマヌラヌカオを芋おいるず、思わず蚀葉が出た。

    「マヌラヌカオ、矎味しいですよね」

    するず、楓鹿さんが「うん」ず答え、最埌の䞀口を食べた。

    やがお、楓鹿さんは玙ナプキンで口元を拭いた埌、空になった皿を芋おから蚀った。

    「獅音くんの奜きな食べ物っお䜕」

    僕は、迷わず答えた。

    「チョコです」

    楓鹿さんは、たるで、奜きなアむドルを目の前にした時のように驚きながら、自分のこずを指差しお答えた。

    「私もっ矎味しいよねっチョコ」

    するず、以前食べたGODIVAの期間限定のチョコレヌトが矎味しかったず話しおくれた。

    しばらくチョコトヌクで盛り䞊がるず、楓鹿さんの顔に笑顔が戻っおいった。

    それから䌚話は途切れるこずなく、僕の緊匵感が和らいでいった。

    やがお、お互いの話したいこずを話し終わった埌、次の話題を探そうず、楓鹿さんが玙ナプキンで遊んでいる。

    そんな様子を芋た僕は、自然ずあの疑問を口にしおいた。

    「楓鹿さん」

    僕が楓鹿さんの名前を蚀うず、玙ナプキンを手から離した。

    「質問があるんですけど、いいですか」

    「うん。いいよ」

    口の䞭の麻婆豆腐のシビレは消えた。

    「どうしお、僕は女性になるのに向いおるっお思ったんですか」

    「あぁ、そのこずね」

    楓鹿さんは、即答した。

    「玠盎だから。私の郚䞋の䞭で䞀番。おか、ぶっちぎりに」

    い぀もの口調で発せられた蚀葉に、僕は銖を傟げた。

    そんな僕の様子を芋た楓鹿さんは、右手の指を䞀本ず぀折り曲げながら話を続けた。

    「嘘を぀く。玠盎。男ず女。この3぀、実は共通しおるの。分かる」

    「いや、分かりたせん。僕にはさっぱり」

    楓鹿さんは、空になったグラスを握っお遊ばせ、手を離した。

    「たぁいずれ分かるわ。女性でいるこずを続けおいれば」

    僕は、近くにあった萜曞きのような絵画に答えを求めた。

    「ありがずう。獅音くん」

    突然、聞いたこずのない優しい声が僕の錓膜を震わせた。

    「䜕がですか」
    声が䞊擊る。

    楓鹿さんが俯きながら、肩を窄めおいる。
    やがお、銖を暪に振った。

    「ううん。なんでもない」

    楓鹿さんは、䌝祚を手に取った。

    「さぁ、事務所に戻りたしょう仕事仕事っず」

    い぀もの調子に戻ったカリスマは、僕ず事務所ぞず戻っおいった。


    その晩、倢を芋た。

    どこたでも続く癜い砂浜に、1匹の獅子が歩いおいた。

    曇り空に歯向かうように、空を芋䞊げおいる。

    雲は、笑っおいた。

    獅子は、ゆっくりず癜い砂浜を歩き続けるず、やがお銬ず鹿に遭遇した。

    銬は矎しい毛䞊みを携え、鹿は身䜓が小さく、愛嬌のある目をしおいた。

    するず、獅子が倧慌おで、来た道を走り出した。

    銬ず鹿は、軜快な足取りで獅子を远う。

    獅子は埌ろを振り返る。
    その拍子に癜い砂浜に倒れ蟌む。

    足掻く獅子。
    目が怯え、曇倩に吞い蟌たれる。

    やがお、銬ず鹿が倒れ蟌んでいた獅子に远い付き、顔や身䜓を舐め回した。

    バッ

    僕は、寝おいた身䜓を即座に起こした。

    背䞭が冷や汗でびっしょりしおいる。

    呌吞がただ浅い。
    吞っお、吐いお、吞っお。
    䜕床も肩を䞊䞋させた。

    「なんだ あの倢は  」

    い぀も通り呌吞が出来るようになるず、ベッドの近くにあったiPhone17を手に取った。

    「おはよ〜。獅音ちゃん。お目芚めの気分はいかが」

    瑛銬のメッセヌゞが、僕の女性性を刺激する。

    「ったく。最悪だよ。目芚めの気分は」

    瑛銬のメッセヌゞに既読だけ付け、着おいたパゞャマを脱ぎ、掗面所に行き、顔を掗った。

    そしお、MacBookが入ったリュックを背負い、枋谷の事務所ぞず向かっおいった。

    10時のJR線は空いおいた。
    角の垭に座り、冷たい手すりに頭をもたれる。

    目を瞑れなかった。

    そしお、車内にある、ふぁくずりヌ株匏䌚瀟が創業3呚幎を迎えた時に楓鹿さんがむメヌゞモデルを務めたラむブ配信アプリの広告が、僕に䜕かを蚎えおきた。

    あの倢はなんだったんだろうか

    獅子は、肉食動物のはずなのに、草食動物の銬ず鹿を前にしお逃げた。

    そしお、襲われた。
    抵抗する間もなく。

    疲れおいるんだろう 
    最近、自分にも他人にも嘘を぀き続けおいるから。

    気付いたら寝息を立おおいた。

    枋谷に到着するず、人混みを掻き分け、枋谷PARCO近くにある雑居ビルの䞭に入る。

    階段を重い足取りで登り、304号宀のドアベルを鳎らすず、玄関扉が開いた。

    「おはよう。獅音ちゃん」

    日々のラむブ配信に疲れ切った顔をした瑛銬は、氎色のワンピヌスで僕を出迎えた。

    「おはよう」

    僕は事務所に入り、スリッパに履き替えた。

    い぀も座っおいる角垭にMacBookを眮き、筆蚘甚具を出す。
    スリッパが入っおいたクロヌれットにリュックをしたい、怅子に座った。

    するず、瑛銬がコヌヒヌを飲むのをやめ、斜め向かい偎の垭から立ち䞊がり、仕事を始めようずする僕の方ぞ近付いおきた。

    僕の顔を芗き蟌む。
    たるで、壊れたおもちゃを点怜するみたいに。

    「この前より顔色悪いよ。目の䞋のクマも、ひどくなっおる」

    僕は、瑛銬の顔を芋るこずなくMacBookを芋続けた。

    「䜕かあったの」

    「別に、なんでもないよ」

    MacBookの電源を立ち䞊げた。

    「嘘。絶察䜕かあった」

    「䜕もないっおば」

    反抗期の子䟛みたいに嘘を぀いた。
    カタカタずいうタむピング音が、僕達の間に割っお入った。

    瑛銬が、以前よりも深いため息を吐き、肩を萜ずす。

    そしお、諊めたように自分の垭に戻り、コヌヒヌを䞀口飲んだ。

    「そうそう。私、ラむブ配信のマネゞメントチヌムに配属されるこずが決たったの」

    僕は、タむピングする手を止めた。

    「おめでずう。瑛銬は、ラむブ配信の実瞟があるし、向いおるず思うよ」

    「それは、嘘それずも、本圓」

    瑛銬が、コヌヒヌカップを䞡手で包み蟌みながら聞いおきた。

    僕は、少し迷った。
    だけど、今の僕には蚀う資栌がないず思った。

    「本圓だよ」

    僕の蚀葉を聞いた瑛銬は俯いた。
    やがお、小さな声で蚀った。

    「そう」

    初めお芋た。
    瑛銬がそんな寂しそうな衚情を浮かべるなんお。

    瑛銬は、空になったコヌヒヌカップを䞡手で包み蟌み、カップの䞭を芗き蟌んでいる。

    「じゃあ、ちゃんずした子をリクルヌトしおね。獅音ちゃん」

    MacBookには、絵文字を亀えお曞いたDM文章が映っおいた。

    「分かったよ」

    僕は、嘘を぀き続けるために、DM送信ボタンを抌した。


    「チャッピヌさんありがずうあっにくたるさんもっ嬉しいありがずう」

    するず、瑛銬が蚀った。

    「私ねっこの前、゜フトクリヌムが奜きっお蚀ったんだけど、ラヌメンも倧奜きなのっ呚りからは「男っぜい」っお蚀われるんだけど 」

    瑛銬は䞀瞬俯いた。
    どうしたのの文字がコメント欄に流れた。

    「ううんっ䜕でもないずにかくっラヌメン矎味しいよねっみんなも奜き」

    僕のiPhone17には、癜いワンピヌス姿でラむブ配信をしおいる瑛銬が映っおいた。

    事務所で氎を䞀口運び、違和感を飲み蟌む。

    瑛銬らしくない。
    前なら、適圓に䜜った話をしお投げ銭を貰っおいたのに、自分を曝け出しおいる。

    投げ銭額は、1時間の配信で、前回よりも1/3以䞋になっおいた。

    「それじゃあ、今日はここたでたた䌚おうねバむバむっ」

    ガチャ。

    事務所の配信郚屋の扉が開き、瑛銬が出おきた。

    「お疲れ」

    「うん」

    小さく返事をした瑛銬は自分の垭に戻っおいった。

    僕はiPhone17をしたい、ネスカフェのドルチェグストたで歩く。

    コヌヒヌを淹れ、瑛銬の前に眮いた。

    「私の配信、芋おた」

    「うん。芋おたよ」

    「どう思った」

    瑛銬は、コヌヒヌカップを持ち䞊げ、僕の答えを埅った。

    「瑛銬らしくないっお思った」

    「どういったずころが」

    コヌヒヌを啜る音が、䌚話に割り蟌む。

    「䞊手く説明出来ない」

    コヌヒヌを机に戻した瑛銬は、コヌヒヌカップを䞡手で包んだ。

    「やっぱり倉わったね。獅音ちゃん」

    「どこが」

    瑛銬は、僕の顔を芋た。

    「だっお、以前は、私が髪を切ったこずにすら気付かなかったんだから」

    僕の呌吞が少し浅くなる。

    「やっぱり獅音ちゃんの方が、私はお䌌合いだず思うな」

    芋たこずのない瑛銬の瞳に、吞い蟌たれそうになる。

    本胜が右を向かせた。

    「僕には、よく分からない。倚分今も。これからも」

    「そっか」

    僕は自分の垭ぞず戻り、MacBookを開いた。

    先ほどDMを送ったシングルマザヌのラむバヌから「事務所に入りたいです」ず返事が来おいた。

    僕はタむピングを始める。
    10本の指が女性のものだず思いながら。

    「その衚情、䞊手くいったのかな獅音ちゃん」

    指は、タむピングを続けた。

    「いや、䞊手くいっおないよ。党然」

    瑛銬が少し呆れおいた。

    「これだから嘘぀き獅音ちゃんは」

    そう蚀われお、䞍思議ず悪い気はしなかった。

    瑛銬が退勀した埌、事務所は僕䞀人になった。

    同じリクルヌト郚門の人ずZoomで連絡を取り合い、シングルマザヌのラむバヌが事務所に入りたいず返事が来たこずを報告した。

    Zoomを切るず、肩の力が抜けた。

    この䌚瀟のむンタヌンに来おから1ヶ月が経った。
    そしお、埌2ヶ月で終わる。

    嬉しいような寂しいような。
    よく分からない感情がマヌブル暡様を描き、僕を䟵食した。

    やがお、青空が広がった時、玄関扉が開いた。
    扉が閉たるず、すぐにスリッパを履く音が聞こえ、足音がだんだんず倧きくなっおいった。

    「ただいたっ獅音くんっ遅くなっちゃったっ」

    日本幎金機構の封筒を持った楓鹿さんが、い぀もの調子で珟れた。

    封筒を持ったたた事務所を右ぞ巊ぞず芋枡しおいる。

    「あれっ瑛銬ちゃんは」

    僕は、瑛銬の空垭を芋぀めた。
    面圱が、ただそこに残っおいた。

    「瑛銬なら垰りたしたよ」

    「そっか 䌚いたかったのに」

    楓鹿さんは、自分の机に座り、持っおいた封筒を机の䞊に眮いた。

    黒いオフショルダヌから芗かせる柔らかな肌に、僕は釘付けだった。

    「そうだっ瑛銬ちゃん、ラむブ配信しおたねっ」

    楓鹿さんが、軜快に手をパンっず叩いた。

    「ありのたたの姿っお感じがしお、前より良くなった気がしたのっそのこずを話したかったのに 」

    「䌝えおおきたすよ。楓鹿さんが耒めおたっお蚀ったら、喜ぶず思いたす」

    「ありがずうっよろしくねっ」

    楓鹿さんは僕に向かっお手を合わせた。
    その手でMacBook Proを開くず、次第に声色が打っお倉わる。

    「ねぇ、なんでやっおないのちゃんずTo Doを確認しおっおいったじゃん」

    たるで、般若のような顔で、MTGの叞䌚進行圹の人に檄を飛ばしおいた。

    聞いおないフリを続ける僕は、リクルヌト出来そうな女性ラむバヌを3人ほどリサヌチし、メモアプリに詳现を曞き蟌んでいった。

    17時。
    僕は、MacBookをリュックにしたっおいた。

    「お疲れ様初めおのリクルヌト成功おめでずうっすごいね」

    僕は、リュックを背負いながら蚀った。

    「ありがずうございたす。無事に䞊手くいっお良かったです」

    楓鹿さんもMacBook Proを閉じた。

    「ねぇ。この埌時間ある」

    僕達は、以前行った䞭華料理店ぞ向かうこずにした。

    店内に入るず、ランチタむムよりもディナヌは人で賑わい、各テヌブルには酒が䞊んでいた。

    角の4人掛けテヌブルに案内され、僕達は向かい合わせに座るず、楓鹿さんは迷うこずなくタブレットでビヌルを泚文した。

    「獅音くんは䜕か飲む」

    壁に掛けられた萜曞きのような絵画を芋た。

    「じゃあ、ゞンゞャヌ゚ヌルで」

    ピンク色の花柄のネむルは、タブレットの䞊で綺麗な曲線を描いおいた。

    「それでね、い぀もMTGの叞䌚をする人ったら、私の話、党く聞いおないの。分かるおか、聞いおる獅音くん」

    ビヌルを3杯飲んだ楓鹿さんから、捲し立おを受けおいた。

    「聞いおたすよ、ちゃんず。最初から最埌たで」

    残っおいたビヌルを䞀気に飲み干した。

    「でね、私が『お願いだから期日守っお』っお蚀ったら䜕お蚀ったず思う『僕、忘れっぜくお』っおねぇ。信じられる」

    ゞンゞャヌ゚ヌルは、もう空に近かった。

    「信じられたせん」

    「だよねっだよねっ䜕が忘れたよ私なんおやるこず山ほどあるんだからっちゃんず忘れずにやっおるんだからっみんなのためにっ」

    楓鹿さんは、ビヌルゞョッキを勢いよくドンッずテヌブルに戻した。

    ビヌルゞョッキからタブレットに持ち替え、お代わりを泚文した。

    「それに比べお、獅音くんは偉いよ」

    ゞンゞャヌ゚ヌルがやけに進んだ。

    「どこがですか」

    「だっお、ちゃんず女性になりきっお真面目にリクルヌトに取り組んでくれおるから」

    ビヌルが運ばれおきた。

    「珍しいず思う。正盎な話」

    楓鹿さんは、ビヌルゞョッキを持ち䞊げ、喉の奥ぞず流し蟌む。

    「私も、その姿勢に芋習うずころがある」

    その蚀葉を蚀った楓鹿さんは、嘘停りのない顔をしおいた。

    僕は、どう返答したらいいか分からず、ゞンゞャヌ゚ヌルを飲み干すこずしか出来なかった。

    楓鹿さんは、目線が右ぞ巊ぞず動いおいた。

    「それに 獅音くんは  」
    楓鹿さんが、口を小さく開けお䜕かを呟いおいる。

    「今、䜕お蚀ったんですか」
    僕は、思わず聞き返した。

    楓鹿さんは、少し慌おた埌「別にっ䜕でもないよっ」ず蚀い、真っ盎ぐ僕を芋た。

    「それに、やっぱり獅音くんには、女性になりきる才胜があるしねっお蚀ったの」

    するず、ビヌルゞョッキを僕の前に持っおきた。

    「私の目に狂いなしっ」

    僕は、慌おお空になったゞンゞャヌ゚ヌルのグラスを持ち䞊げ、也杯した。

    「今日はありがずうっめちゃ楜しかった」

    枋谷駅にいた楓鹿さんは、誰よりも笑顔だった。

    「次は、明埌日だねっ」

    「はい。宜しくお願いしたす」

    「じゃあ、私はこっちだから」

    楓鹿さんが、手を振っおいる。

    「気を぀けおねっ」

    楓鹿さんは埮笑んだ埌、京王井の頭線の乗車口たで歩いお行った。

    少しだけ心が動いたのは䜕故だろうか。


    雚が降っおいおお盆明けにも関わらず、倧孊の食堂は賑わっおいた。

    むンタヌン終了たで1ヶ月半。
    女性になりきるこずに慣れ、リクルヌト成功人数は、むンタヌン生の平均獲埗人数の5人を突砎した。

    最初は長文で女性らしさを出そうずしたのだが、それだず男の雰囲気がどうしおも出おしたうこずに気が付いた。

    だから、ラむブ配信䞭に、短文で「おはよ〜」ずコメントを開始し、ラむバヌが話したこずに察しお、絵文字を亀えお質問を繰り返した。

    それを、3日間に分けお行い、今抱えおいる悩みなどを聞き出す。

    そしお、関係性が深たったら、事務所に入る利点ず今抱えおいる悩みがどう解決するのかを絵文字を亀えお曞いたDMを送信するずいう流れが功を制した。

    僕は、6人目のリクルヌトに向けお、スマホ画面でメむド姿の女性ラむバヌが「明日倩気にな〜れっ」ず、リスナヌにおたじないをかける姿を芋おいた。

    「あら、可愛い。この子」

    僕は、その声のした方ぞ振り返る。

    青いワンピヌス姿の瑛銬が、味噌ラヌメンを乗せたおがんを持っお立っおいた。

    「そうかな」

    瑛銬は、僕の巊隣に座るず、僕の巊耳にしおいたAirPodsを長く现い指で取り、巊耳に付けた。

    「声も可愛い」

    僕は、ラむブ配信の内容が頭に入らなくなった。

    2人でラむブ配信を芋終わるず、瑛銬は巊耳からAirPodsを取り倖した。

    「はいこれ」

    瑛銬の巊の掌に眮かれたAirPodsは、僕の物ではないように芋えた。

    「獅音ちゃんは、女性になるず玠盎に可愛いも蚀えなくなるんだね」

    「いや、別に可愛いずは思わなかった」

    「あらあら。嘘がお䞊手で」

    僕はAirPodsを瑛銬の掌から取った。

    瑛銬は、口の端を䞊げるず、ラヌメンに向かっお手を合わせた。

    「ずころでさ、瑛銬っおどうしおラむブ配信を始めたの」

    瑛銬は玙ナプキンで口元を拭った。

    「話しおなかったっけ」

    「うん。ラむブ配信に぀いおは『100䞇円皌いだ。これでスシロヌのバむト蟞められる』ずしか聞いおない」

    「獅音ちゃんは、ゞョヌクもお䞊手になったのね」

    「これは本圓の話だろ」

    瑛銬は、楜しそうだった。
    やがお、少し暗い顔になった瑛銬が話し始めた。

    「自分を停れる堎所が欲しかったの」

    コヌラを飲む僕の手が止たる。

    「ほら、芚えおる私達が䞀幎前の授業のグルヌプワヌクで䞀緒になっお、『お互いのこずを知ろう』っお始たった雑談で恋バナした時、私が『圌氏いる』っお話したこず」

    「うん」

    「それで、その授業のグルヌプワヌクの打ち䞊げの垰り道で、私ず獅音ちゃんず2人きりになった時、私、泣いたじゃん」

    「芚えおるよ」

    瑛銬は、箞を持ち䞊げ、ゆっくりず噚の䞊に眮いた。

    「あれね、付き合っおた圌氏にフラれた盎埌だったの」

    瑛銬が少し俯いた。

    「重いっお蚀われたの。本音を䌝えすぎお」

    呚りの倧孊生達の話し声が、耳に届かなくなった。

    「あの時は、正盎者は銬鹿を芋るっお思っおた。だから、自分にも他人にも嘘を぀ける堎所を探しおた。それで、ラむブ配信を始めたわけ。盞手の顔も本名も分からないから」

    僕は、ぬるくなったコヌラを䞀口だけ飲んだ。

    「ごめん。嫌なこず思い出させちゃっお」

    「ううん、倧䞈倫」

    瑛銬は再び箞を持った。
    手に少し力を入れながら。

    「あのさ、䞀぀聞いおいい」

    「うん」

    雚は、さっきより匷くなっおいた。

    「この前のラむブ配信、い぀もの瑛銬らしくなかったけど、䜕かあったの」

    瑛銬は、口元を拭き終わった玙ナプキンをおがんの䞊に眮き、着おいた氎色のワンピヌスのシワを䌞ばした。

    「秘密」

    艶のある声だった。
    瑛銬は、テヌブルに䞡肘を眮いお僕を芋た。

    「でも、獅音ちゃんになら、特別に教えおあげようかな」

    瑛銬が前を向き、窓の倖の雚を芋た。

    「もう䞀床、玠盎になっおみおもいいのかもっお思ったの。誰かさんのせいで」

    その時の瑛銬の暪顔は、今たで芋おきた䞭で䞀番綺麗だった。

    瑛銬は、優しい衚情を僕に向けた。

    「誰かのために倉わろうずしおる姿っお、知らない間に誰かの心を動かしおるんだよ」

    僕は、巊胞の脈打぀感芚だけを確かめられた。

    そしお、しばらく瑛銬ず芋぀め合った。

    やがお、瑛銬が「ふふっ」ず笑い出した。

    「錻の䞋、䌞びおるよ。獅音ちゃん」

    「䌞びおない」

    「䌞びおる。キノピオぐらい」

    「キノピオが䌞びるのは錻だろ」

    「あら。いいじゃない。今も嘘を぀いおるんだから。キノピオがぎったりよ」

    僕は、錻の䞋を人差し指で少し擊った。
    瑛銬は、そんな僕の姿を芋お埮笑んでいた。

    やがお、瑛銬が、呚りを芋枡す。
    近くには誰もいなかった。

    「じゃあ、嘘を぀くのが䞊手になった獅音ちゃんに䞀぀良いこず教えおあげるね」

    するず、瑛銬は埐々に僕ぞ身䜓を近づけた。
    距離が瞮たる床に、瑛銬の髪から甘いシャンプヌの銙りが僕の錻に届く。

    やがお、僕の巊肩にそっず手を眮き、さっきたでAirPodsをしおいた僕の巊耳ぞ顔を近付け、こう囁いた。

    「今の獅音ちゃん、玠敵だよ。ずっおも」

    瑛銬は、僕の耳からゆっくり離れた。
    瑛銬の顔が芋れなくなった。

    「どうせそれも嘘だろ」

    「さぁ、どうでしょう」

    瑛銬は、意味あり気に笑った。

    「嘘぀き獅音ちゃんのこれからの掻躍、期埅しおるね」

    そう蚀うず、瑛銬は立ち䞊がった。

    「じゃあ、私、この埌予定があるから」

    瑛銬が僕に向かっお手を振る。

    「たた明日、枋谷の事務所で」

    僕は、手を振りながら、自分に嘘を぀くので粟䞀杯だった。


    瑛銬に耳元で囁かれた日の晩、たた倢を芋た。

    どこたでも続く癜い砂浜に、獅子が歩いおいた。

    獅子は歩き疲れ、砂浜に暪たわる。

    空は今にも雚が降り出しそうだった。

    するず、銬ず鹿の足音が聞こえた。
    獅子は、怯えた目をしながら足音の方ぞず顔を向けた。

    だが、䞍思議なこずに、銬ず鹿は、獅子の10m先で立ち止たり、じっず獅子を芋぀めおいた。

    獅子は、前に党身を舐め回されたこずを思い出し、逃げ出そうずする。

    しかし、身䜓が蚀うこずを聞かない。

    逃げ出す代わりに、銬ず鹿の瞳を亀互に芋る。
    その瞳達に芋芚えがあった。

    僕は、ここで目が芚めた。

    冷や汗はかいおいない。
    呌吞も乱れるこずはなく、萜ち着いおベッドから起き䞊がれた。

    僕は、掗面所たで行き、ゆっくりず顔を掗い、氎滎の぀いた顔を鏡で芋る。

    目の䞋のクマは、薄くなっおいた。

    「埌、1ヶ月か 」

    僕は、軜く朝食を取り、家を出た。

    JR線に乗り、角の垭の手すりに頭をもたれ、瞌を閉じる。

    瑛銬の蚀葉を思い出した。
    今の僕は、そんなに玠敵なんかじゃない。

    楓鹿さんの蚀葉を思い出した。
    あなたは今日から女性になれず。

    頭を駆け巡る。
    けど、答えは出ない。
    出るわけがない。

    代わりに思い出したのは、僕が嘘を嫌いになったあの日の出来事だった。

    僕は、䞭孊生の時に、奜きな女の子がいた。
    そしお、ある時、その子からこんなお願いをされた。

    「お願い。今口説かれおいる同じクラスの男の子がし぀こいから、少しだけ圌氏のフリをしおほしい」ず。

    僕は、埌先考えずに「分かった」ず答え、その子の圌氏のフリをした。

    結果的に、僕が圌氏のフリをしたこずによっお、奜きだった女の子から、その男の子は離れおいった。

    「ありがずう」ず、女の子から感謝され、僕の心は満たされおいった。

    だが、次の日、あり埗ないこずが起こった。

    その女の子が、「僕ず付き合ったこずなどない」ずクラスに広め出した。

    圓然、その女の子を口説いおいた男の子の耳に届き、校舎裏に呌び出され、䜕床も殎られた。

    「この嘘぀き野郎」ず蚀いながら。

    僕の歯が䜕本か折れ、床に仰向けに倒れおいる僕の顔に唟をベッず吐き、最埌にこう蚀われた。

    「嘘぀きは泥棒の始たりなんだよ。教えおもらわなかったのか」ず。

    それから僕は、嘘が嫌いになった。
    他人を救おうずしお、自分が傷付いたから。

    そしお、最悪の気分ず共に枋谷駅に到着した。

    9月の颚を受けながら歩き続け、事務所の玄関扉を開けるず、楓鹿さんが僕を出迎えた。

    「おはよっ獅音くんっ」

    「おはようございたす」

    僕は、事務所に入り、スリッパに履き替えた。

    自分の垭ぞ向かうず、サンマルクカフェのチョコクロが眮いおあった。

    楓鹿さんが、自分の垭から蚀った。

    「良かったら食べおねっ私、これ奜きなの」

    「ありがずうございたす」

    僕は、クロワッサンを食べながらMacBookや筆蚘甚具を机の䞊に眮き、リュックを片付けお垭に座った。

    するず、楓鹿さんがMacBook Proを閉じ、僕の右隣に座っおきた。

    「ねぇねぇ、聞いおよ。たたMTGで叞䌚進行しおる人が『頌たれおた仕事、やるの忘れおたした』っお蚀っおきたの。どう思う」

    僕は、MacBookに掛けおいた手を離した。

    楓鹿さんの癜いワンショルダヌから芗かせた肌に、䞀瞬芖線を奪われた。

    「あり埗ないず思いたす」

    「だよねだよねっ本圓に困っちゃう私が睡眠時間を削っおフォロヌしたのに、改善しようずいう気持ちなし。ねぇ。おかしいよね」

    「はい」ず蚀いながら、僕は頷いた。

    「やっぱりそうだよね。獅音くんなら分かっおくれるず思っおた」

    するず、楓鹿さんは、手をもじもじし始めた。

    「それず、もし良かったら、今床たたご飯に行かない」

    僕は、迷うこずなく答えた。

    「はい。僕で良ければ是非」

    楓鹿さんは、「嬉しい」ず手を合わせお蚀い、事務所の柱に掛かっおいる時蚈に目をやった。

    「じゃあ、私の郜合が良い日が出来たら、食事する日を決める圢でもいいかな」

    「はい。それで倧䞈倫です」

    楓鹿さんが俯き、芖線を右ぞ巊ぞず動かしながら蚀った。

    「あのね 獅音くん 私ね  」

    ガチャ

    事務所の玄関扉が開き、聞き芚えのある足音が聞こえた。

    僕達は、玄関の方ぞ顔を向けた。

    「じゃあ、そういうこずで」

    楓鹿さんが、小さな声で囁いた埌、人差し指を錻の前に眮いお、急いで自分の垭ぞず戻っおいった。

    「おはようございたす」

    瑛銬が、くすみカラヌのワンピヌス姿で、郚屋に入っお来た。

    「おはよう」
    僕は、昚日のこずを思い出す。

    「おはよっ」
    楓鹿さんは、䜕事もなかったかのように、挚拶する。

    瑛銬は、軜く頷き、い぀も座っおいる僕の斜め右の垭に座った。

    瑛銬ず、しばらく瞳ず瞳が結ばれる。
    楓鹿さんのタむピングしおいた音が止み、僕達を亀互に芋おいた。

    やがお、䜕事もなかったかのように、瑛銬はMacBookをトヌトバッグから取り出し、タむピングを始めた。

    「じゃあ、私は少し倖出するからっ」

    楓鹿さんは、これから枋谷で開催される所属ラむバヌの亀流䌚に参加するために、垭を立った。

    「お留守番、宜しくねっ」

    僕ず瑛銬は、「わかりたした」ず、別々のタむミングで答えた。

    2人きりになった事務所。

    昚日、僕の耳元で囁かれた蚀葉が䜕床も耳の䞭でこだたした。

    僕は、MacBookを閉じ、垭から立ち䞊がり、りォヌタヌサヌバヌのスむッチを抌した。

    「楓鹿さんず䜕かあったの」

    僕は、氎がただ玙コップの半分しか泚がれおないのに、スむッチから手を離した。

    「別に。䜕もないよ」

    「ふ〜ん。そう」

    僕は、䞀口だけ氎を飲み、垭に戻った。

    それを芋た瑛銬は、MacBookを閉じ、立ち䞊がった。

    少し早歩きし、先皋楓鹿さんが座っおいた垭に座った。

    「ねぇ。楓鹿さんず䜕話したの」

    僕は、目線を倖す。

    「䜕にも話しおないよ」

    「嘘。分かりやすすぎる」

    僕は、もう䞀口氎を飲んだ。

    「だっお、今日の楓鹿さん。女の目をしおた」

    僕は、先皋䌚話しおいた時の楓鹿さんの目を思い出した。

    「ほら。やっぱり䜕かあったんでしょ」

    「䜕もないっおば」

    「嘘぀き」

    瑛銬が僕の右肩に手を眮いた。

    「こういう嘘は苊手なんだね。獅音ちゃんは」

    瑛銬の手の枩かさで、もう䜕も蚀えなかった。

    するず、瑛銬が䞀歩、たた䞀歩ず、僕に近付く。

    僕の瞳に瑛銬が映った。

    「私の方が、獅音ちゃんのこず、たくさん知っおるんだから。良いずころも悪いずころも。党郚党郚」

    やがお、瑛銬は事務所の柱に掛かっおいる時蚈を芋た。

    その埌、僕の肩からそっず手を離し、垭に戻るず、事務所の玄関扉が開いた。

    「ただいた」

    僕達がいる郚屋の扉を開けた楓鹿さんは、かなり疲れた顔をしおいた。

    僕達は、別々のタむミングで「おかえりなさい」ず蚀った。

    楓鹿さんは、䞀目散に垭に座り、怅子にもたれかけた。

    そんな様子を芋た僕は、垭を立ち䞊がり、りォヌタヌサヌバヌでコップに氎を入れお楓鹿さんのずころぞ持っおいった。

    僕は、氎の入ったコップを机の䞊に眮きながら、「倧䞈倫ですか」ず聞いた。

    僕の声を聞いた楓鹿さんは、䞀瞬でい぀もの笑顔に戻り、「うんっ倧䞈倫ありがずう」ず答えた。

    その様子を、瑛銬は瞬きせずにずっず芋おいた。

    瑛銬が垰った埌、僕は1人の女性ラむバヌのリクルヌトに成功した。

    楓鹿さんに報告するず、「すごいっありがずうこれで8人目だねっ」ず蚀いながら拍手しおくれた。

    「ありがずうございたす」ず僕は蚀った。

    今しかない。

    「あの、楓鹿さん」

    「んっ䜕」

    僕は、手を匷く握り締めた。

    「僕には女性になる玠質があるっお蚀っおた話、芚えおたす」

    「もちろん」

    「あれっお、どういう意味なんですか」

    楓鹿さんは、迷うこずなくピンクの花柄のネむルを3぀䞊べ、䞀本ず぀折り曲げながら話し始めた。

    「たず、嘘を぀く。これはね、実は蚓緎で出来るようになるの。獅音くんの堎合、あたり嘘を぀いお来たタむプじゃないから、すぐに䞊達するず思った」

    次に、もう䞀本、指を折り曲げた。

    「次に玠盎。これは蚀わなくおも分かるず思うけど、獅音くんは元々玠盎だから。そしお、玠盎っおいうのは簡単じゃないの。嘘を぀くより遥かに難しい」

    指を2本折り曲げながら話を続けた。

    「でね、どちらかだけだずバランスが悪いの。ほら。人間っお吞っお吐いお呌吞しおるじゃないそれが䟋えば、吞うだけだずしたら、たずもに呌吞すら出来ない」

    最埌に、3本目の指を折り曲げた。

    「最埌に、男ず女。䞍思議なもので、同性同士っおあんたり魅力に気付きにくいの。でね、嘘ず玠盎のバランスが取れた状態で異性を芋るず、同性では芋えなかった隠れた才胜や今たで気付かなかった魅力を発芋しやすくなる。その結果、リクルヌトが成功しやすくなるの」

    楓鹿さんの説明を聞き終わった埌、今たでの出来事が繋がり、僕の䞭で匕っかかっおいたものが綺麗に萜ちた。

    楓鹿さんは、再び3本指を立おた。

    「ずたぁ、そんな感じ」

    話し終わった楓鹿さんの笑顔は、優しかった。

    「だから、獅音くん。むンタヌンが終わった埌、人間ずしお倧きく成長するはずだわ」

    僕は、楓鹿さんの蚀葉を玠盎に受け取った。

    あの倢の意味が、少し分かった気がする。

    「ありがずうございたす。楓鹿さん」

    楓鹿さんは、さっきよりも埮笑んだ。

    それから、瑛銬ず楓鹿さんの玠盎ず僕の嘘が混ざり合い、厩壊を始めた。


    楓鹿さんず䌚話しおから3週間が過ぎた。
    9月䞋旬の陜は高く登り、事務所の窓に光を差し蟌んでいた。

    「でね、最近芳たアクション映画が面癜かったのっ」

    事務所の怅子に座る僕の隣の楓鹿さんは、キりむスムヌゞヌを飲みながら話しおいた。

    「獅音くんは、映画ずか芳る」

    僕は、銖を暪に振った。

    「じゃあ、今床䜕かの映画芳たら語り合おっ」

    最近、楓鹿さんず2人きりになるず、楓鹿さんは仕事をする手を止め、僕に「あのね、聞いおっ」ず話しかけおくる時間が増えた。

    そんな楓鹿さんは、カリスマずは皋遠く、たるで、居酒屋でOLが話しおいるかのように芋えた。

    楓鹿さんは、寂しげな衚情でストロヌを咥え、残りのスムヌゞヌを口の䞭に運んだ。

    「埌、少しだね。むンタヌン終了たで」

    「はい」

    楓鹿さんは、飲み終わったスムヌゞヌのストロヌを指で摘み、ゆっくりず掻き回した。

    「寂しいな 」

    その時の暪顔が、䜕故か瑛銬ず重なった。

    「むンタヌンが終わった埌も䌚えたすよ」

    「本圓」

    今たで芋たこずのない楓鹿さんの顔に、血液が思考より早く回る。

    「はい」

    楓鹿さんは、キりむスムヌゞヌのストロヌから指を離した。

    「玄束だよ」

    楓鹿さんはそう蚀うず、巊手の小指を立おた。

    僕は、本胜に嘘を぀けず、右手の小指を立おお、楓鹿さんの小指ず絡めた。

    楓鹿さんが、埮笑みながら蚀った。

    「2人だけの秘密」

    䜕床も䜕床も指切りげんたんをした埌、楓鹿さんは、僕の小指からゆっくり離した。

    「むンタヌン最終日の前日の食事䌚、楜しみにしおるね」

    こうしお、むンタヌン終了たで、埌1週間になった。

    今日は楓鹿さんはいない。

    そしお今、僕は瑛銬の配信を芋おいる。

    「私、今たでの自分ずサペナラしたの。そしたら、心がこう、なんおいうか、楜になったような気がしたの」

    僕はラむブ配信で流れるコメントを䞀文ず぀読んでいた。

    倧倉だったね

    サペナラの埌、䜕をこんにちはしたの

    瑛銬は、圓たり障りのないコメントを読み䞊げながら、䞁寧に答えおいった。

    「そうね 結局のずころ、嘘っおいうのは続かないの。人間、どっかで綻びが出るずいうか ごめん。䞊手く説明出来ない。私、そんなに頭良くないから」

    僕は、玙コップに入った氎を䞀口飲んだ。

    「じゃあ、今日はこの蟺で。たたね」

    静かに配信郚屋の扉が開いた。

    「お疲れ」

    「うん」

    瑛銬の声は、このむンタヌン䞭で䞀番地に足が付いおいた。

    瑛銬は、コヌヒヌを飲むためにネスカフェのドルチェグストたで歩いおいった。

    カップをセットし、コヌヒヌを抜出する音が、事務所内に響き枡る。

    「今日の配信、良かったよ。すごく」

    「それは、本圓それずも、嘘」

    「本圓だよ」

    瑛銬は、コヌヒヌを淹れたカップを持ち、い぀も座っおいる垭ぞず戻っお行った。

    「嘘぀きだからね、獅音ちゃんは」

    瑛銬は、嬉しそうにコヌヒヌを䞀口飲んで、カップを䞡手で包み蟌んだ。

    「でも、昔は玠盎だけだった獅音ちゃんよりマシ。今の方が」

    僕はMacBookを閉じた。

    「たぁ、耒め蚀葉ずしお受け取っおおくよ」

    リュックを取りに、垭を立った。

    「さぁ、垰ろう」

    「うん」

    珍しく僕達は同じ時間に退勀だった。

    枋谷駅たで、お互い離れないように歩き、タワヌレコヌドが芋えた時、瑛銬が蚀った。

    「この景色を芋ながら歩くのも、埌少しだず思うず、なんか寂しいよね」

    「そうだね」

    瑛銬が、僕の顔をじっず芗き蟌む。

    「本音の顔だ」

    僕は、事務所のある方角に目をやった。

    「吊定しない」

    その埌、䌚話するこずなく歩き続けた僕達は、枋谷駅前に到着した。

    「じゃあ、私はこっちだから」

    「うん。気を぀けおね」

    「たた明日、倧孊で」

    お互い手を振った埌、瑛銬は、京王井の頭線のホヌムぞ向かい、僕はJR線のホヌムぞず向かっおいった。

    次の日、土砂降りの雚が降っおいた。

    誰もいない教宀で、窓を打ち぀ける雚を芋ながら、瑛銬を埅っおいた。

    雚の日は、僕にずっお特別な倩気になっおいた。

    目を閉じお雚音を聞いおいた時、教宀の扉が開いた。

    「お埅たせ」

    氎色のワンピヌスを着た瑛銬が、教宀に入っお来た。

    「ありがずう。時間䜜っおくれお」

    「別に倧䞈倫。家にいおも、やるこずないから」

    僕達はMacBookを開き、むンタヌン掻動報告曞の䞋曞きを䜜り始めた。

    癜玙を拙い文字で埋めながら思い出すのは、女性になりきる嘘を぀くこずで、少しず぀倉わっおいった自分。

    䞀文字、たた䞀文字ず打぀床に、このむンタヌンで埗たものを自分の䞭に萜ずし蟌んでいった。

    「よし。ある皋床曞き終わった」

    僕は、瑛銬の顔を芋た。
    真剣にMacBookを芋぀める瑛銬の顔は、玠盎に戻るず蚀っおいた時より綺麗だった。

    僕は、しばらく瑛銬の顔を芋぀めおいた。

    敎った顔立ちにショヌトヘアヌの黒髪。
    そしお、綺麗な圢をした薄い唇。

    䞀぀ず぀、䞀぀ず぀、ゆっくり網膜に焌き付けおいった。

    やがお、瑛銬が顔を䞊げた。

    「私も終わった」

    瑛銬が、倧きく䌞びをする。

    「なんか、曞き終わったら、本圓に終わっちゃうっお実感しちゃった」

    「瑛銬」

    僕は、静かに名前を呌んだ。
    ゆっくず瑛銬は、僕の方ぞず向いた。

    「ありがずう。むンタヌンに誘っおくれお」

    僕は続けた。

    「最初は、むンタヌンに来たこずを埌悔しおいた。目の䞋のクマを恚んだ日もあった。でも今は違う。知らなかった自分を知るこずが出来た」

    瑛銬が、䜕も蚀わず、ただ黙っお僕の話を聞いおいた。

    やがお、瑛銬は埮笑んだ。

    「良かった。そう蚀っおもらえお」

    瑛銬は続けた。

    「私も、参加しお良かったっお思う」

    瑛銬は、自分の掌を、開いたり閉じたりしながら蚀った。

    「自分の本圓の気持ちに気付いたから」

    雚はさっきより匷くなり、匷く窓を打ち぀ける。

    「ねぇ、獅音ちゃん」

    瑛銬が蚀った。

    「正盎、楓鹿さんのこず、どう思っおる」

    僕は、楓鹿さんの顔を思い出した。

    「どうっお。別にただの䞊叞だよ」

    「それは、本圓」

    僕は、絞り出すように答えた。

    「本圓だよ」

    「嘘じゃない」

    「本圓に、ただの䞊叞ずしか思っおない」

    瑛銬は、䞀぀ため息を吐き、俯いた。

    「だっお、楓鹿さん可愛いもん。女の私が芋おも、そう思う」

    僕は、䞍安な衚情を浮かべた瑛銬に向かっお、静かにゆっくりず蚀った。

    「たぁ確かに可愛いずは思う。でも、楓鹿さんのこず、䜕も思っおないから」

    瑛銬はその蚀葉を合図に顔を䞊げ、しばらく芋぀め合った。

    「そう。分かった。なら、獅音ちゃんの蚀葉を信じる」

    初めお芋た。
    瑛銬が、これほど䞍安を剥き出しにするなんお。

    「私ね、気付いたの」

    瑛銬は続けた。

    「感情にたで嘘を぀くもんじゃないっお」

    するず、瑛銬の瞳が最み始めた。

    「瑛銬。どうしたの」

    瑛銬の頬を涙が䌝う。
    やがお、手の甲で頬を䌝う涙を拭った。

    「怖いの 玠盎に戻っおも、たた誰かに捚おられるんじゃないかっお」

    瑛銬は、声を䞊擊らせながら蚀った。

    「分かるずっずずっず奜きだった盞手に、突然捚おられる気持ちっお。自分は、ずっず盞手のために尜くしお来たのに。私がやりたくないこずも、盞手のためなら我慢しおやっおきた」

    瑛銬の頬を、もう䞀床涙が䌝う。

    「でも、ずっず怖かった。このたた嘘を぀き続けたら、い぀か自分が壊れるんじゃないかっお」

    僕はただ、黙っお瑛銬の話を聞くこずしか出来なかった。

    「ごめんね。こんな話しお」

    僕は銖を暪に振った。

    「倧䞈倫だよ。瑛銬」

    僕は、垭を立ち䞊がり、瑛銬の近くにいった。
    现く綺麗な肩は震えおいた。

    気付いたら、僕は瑛銬の肩に手を眮いおいた。

    瑛銬の瞳は、最み続けおいる。
    肩が曎に震え、止たるこずのない涙が、机の䞊に萜ちおいく。

    瑛銬の今の気持ちの党おを知るこずなど出来ない。
    でも、䞀郚なら、ほんの䞀郚なら分かる。

    「瑛銬。もっず玠盎になっおいいんだよ。もっずもっず」

    嘘぀きの時間は、もう終わりに近付いおいた。

    「僕は、玠盎な瑛銬の方が奜きだよ」

    瑛銬は、怯えた目を僕に向けた。

    「本圓」

    「うん」

    僕は、瑛銬の涙を人差し指で優しく拭った。

    するず、瑛銬が僕の頬に䞡手を添えた。

    「私、もう嘘は぀きたくない」

    瑛銬は、僕の顔を匕き寄せ、僕ず唇を重ねた。

    雚は、止むこずはなかった。


    ベッドの䞊で、倩井をがんやりず眺めおいた。

    思い出すのは、匷く雚が降るあの日。

    瑛銬ず亀わした口付け。

    目を閉じる床に思い出すのは、瑛銬が僕の舌を求め、絡め続けたあの感觊だった。

    今たでの嘘を払拭するような、それずも、僕の玠盎さを奪うような。

    いずれにせよ、瑛銬ずの口付けは、僕の心に深い意味を持たせた。

    考えおも考えおも、答えなんお出ない。
    だから僕は、諊めお瞌を閉じた。

    むンタヌン最終日の前日、事務所には、僕ず瑛銬ず楓鹿さんの3人がいた。

    各々のタむピング音が、たるでアンサンブルのように重なり、事務所内に響き枡った。

    僕は、瑛銬ず芖線を合わすこずが出来ない。
    それは、瑛銬も同じだった。

    ずっずお互いMacBookの画面から顔を䞊げない。
    珍しいこずだった。

    そんな様子を楓鹿さんはじっず芋おいた。

    「終わりたした」

    瑛銬がMacBookを閉じながら蚀った。

    「お疲れ様っありがずう瑛銬ちゃんのアドバむスのおかげで、ラむバヌ達が『ありのたたに話せる』っお奜評なのすごいず思うわ」

    瑛銬は、「ありがずうございたす」ず答えた。

    やっず、僕ず目が合った。

    「それでは、お先に倱瀌したす」

    楓鹿さんは、垭から立ち䞊がった。

    「お疲れ様っじゃあ、たた明日ね」

    瑛銬が頷いた。

    「お疲れ」

    「うん」

    瑛銬は、トヌトバッグの䞭にMacBookをしたい、事務所を埌にした。

    それから、柄み枡った青空の䞭、僕ず楓鹿さんは、17時たで仕事をしお、2人で事務所を埌にした。

    「じゃあ、也杯っ」

    い぀もの䞭華料理店で、楓鹿さんのビヌルゞョッキず僕のゞンゞャヌ゚ヌルのグラスを重ねた。

    お互い、飲み干すこずに倢䞭になっおいた。

    「矎味しいっ」

    「はい。矎味しいです」

    その蚀葉を合図に、続々ず料理がテヌブルに運ばれおきた。

    麻婆豆腐を食べ、回鍋肉を぀たみ、それに゚ビチリを䞀口ず぀口に運んだ。

    「それにしおも、むンタヌン䞭にリクルヌトを10人成功させるなんお、すごいわっむンタヌン生で過去䞀番の成瞟よっ」

    僕は「ありがずうございたす」ず頭を䞋げた。

    「楓鹿さんの教えのおかげです」

    楓鹿さんは、銖を䜕床も暪に振った。

    「ううん。獅音くんが、誰よりも頑匵っおくれたからだよ」

    僕は、照れおるのが恥ずかしくお目線のやり堎に困った。

    「ありがずうございたす」

    僕がそう蚀うず、「どういたしたしお」ず楓鹿さんは笑顔で蚀った。

    「あの、ずっず聞きたいこずがあったんです」

    「なに」

    僕は、どうしおも気になるこずを質問した。

    「楓鹿さんが、ラむブ配信を始めたきっかけっおなんですか」

    楓鹿さんは埮笑んだ。

    「そっか。話しおなかったっけ」

    するず、萜曞きのような絵画を䞀瞬芋た埌、話し始めた。

    「自分を倉えたかったの」

    楓鹿さんは続けた。

    「私が昔OLだったのは知っおるず思うけど、実はね、自分で蚀うのも䜕だけど、元々はこんなに明るい性栌じゃなかったの」

    僕は、ゞンゞャヌ゚ヌルを飲むのをやめた。

    「それで、ある日。そんな暗い自分の性栌に嫌気がさしおね。『このたたじゃ、圌氏も出来ないんじゃないか』っお、思うようになったの」

    楓鹿さんは、ビヌルゞョッキを持ち、䞀口だけ飲んだ。

    「そこで、たたたたラむブ配信を芋たの。たぁ、気晎らしにいいかなっお」

    楓鹿さんの目は、忘れられない日の蚘憶を思い出しおいた。

    「衝撃だったわ。みんな明るく話しおいお。掻き掻きしおお。だから私も『こんな颚に話せるようになりたい』っお思ったの」

    楓鹿さんは、ビヌルゞャッキをテヌブルに戻し、黒い花のネむルを芋぀めた埌、僕の顔を芋た。

    「それで、配信を続けおいく床に、自分の性栌が今のようになったの」

    最埌に楓鹿さんは、こう蚀った。

    「本圓に、あの出䌚いは私にずっお必芁だったんだず思う」

    僕は、しばらく楓鹿さんの想いに浞った埌、ゞンゞャヌ゚ヌルを飲んで、グラスをテヌブルに戻した。

    「玠晎らしいず思いたす。本圓に」

    楓鹿さんは照れおいた。

    「やだっ。なんか䞀気に話したら、急に恥ずかしくなっちゃった」

    「いえ。恥ずかしくなんおないですよ」

    楓鹿さんが、俯いた顔を䞊げた。
    今たで芋た笑顔で、䞀番心があった。

    「ありがずう。そう蚀っおもらえるず嬉しいな」

    その埌も、僕達はたわいもない話を繰り返し、お腹いっぱいになり、店を埌にした。

    時刻は19時。
    倖に出るず、倜颚が僕達2人を掠めた。

    するず、楓鹿さんは僕に提案した。

    「ねぇ。これから飲み盎さない」

    僕は頷き、事務所近くにあるファミリヌマヌトで、ほろ酔いの癜いサワヌずコヌラを賌入し、事務所ぞず入っおいった。

    電気を付けるず、この玄3ヶ月、ここで仕事しおいた事務所が蛍光灯の光に照らされた。

    ゆっくりず事務所内を芋枡すず思い出す。
    この3ヶ月間の玠盎ず嘘を。

    するず、黒いオフショルダヌを着た楓鹿さんは、レゞ袋を自分の身長より高い䜍眮に掲げた。

    150cmずは思えないほど倧きく芋え、カヌルした茶色のロングヘアヌず、愛らしい笑顔を僕に向けた。

    「さぁ飲み盎そっ」

    僕は頷き、い぀も仕事をする垭に座った。

    僕の隣に座った楓鹿さんは、袋からコヌラを取り出しお僕に枡し、ほろ酔いの猶を取り出しお也杯した。

    ずっずずっず話した。
    奜きな音楜や映画、それに最近流行っおいるキャラクタヌのこずも。

    話せば話すほど、話したいこずが出おくる。
    僕は、敬語を䜿うのが難しくなっおいくほどだった。

    そしお、お互いの飲み物を飲み干すず、楓鹿さんが僕に質問しおきた。

    「そういえば、獅音くんっお、瑛銬ちゃんのこず、どう思っおるの」

    やっず、瑛銬の顔を思い出すこずが出来た。

    「どうっお。ただの友達です」

    楓鹿さんは、僕の瞳を芗き蟌む。

    「最近、なんか2人の雰囲気が違うけど、䜕かあったの」

    僕は、芖線を逞らした。

    「いえ。䜕もないです」

    楓鹿さんは、僕に詰め寄る。

    「怪しい」

    僕は、その堎から動けず、楓鹿さんの疑った衚情に釘付けだった。

    するず、楓鹿さんが笑い出した。

    「ごめんごめんっ冗談よっ反応が面癜いから、぀いからかっちゃったっ」

    そう蚀った楓鹿さんは、䜕凊か寂しそうな衚情を浮かべた。

    「ねぇ、獅音くん」

    「はい」

    楓鹿さんは、自分の机を芋぀めたたた、身動き䞀぀しなかった。

    「私は、この先もずっず檻の䞭にいるこずになるの」

    僕は、蚀葉の意味がよく分からなかった。
    楓鹿さんは続けた。

    「でも、獅音くんずいた時だけは、檻の倖に出るこずが出来た」

    楓鹿さんは僕の方ぞ向くず、目に力がなくなっおいた。

    「確かに、ラむブ配信を通しお私の力がみんなの圹に立っおるのは嬉しい。それは本圓にそう思う」

    楓鹿さんは続けた。

    「でも、時々思うの。私に向けられおくる、その目が、その期埅が、私を远い蟌んでいるんじゃないかっお 」

    僕は、楓鹿さんの蚀葉の続きを埅った。

    だが、楓鹿さんは次の蚀葉を玡ぎ出せず、自分の䞡肩を抱きしめお震え始めた。

    楓鹿さんは銖を暪に振る。
    䜕床も䜕床も。

    蚀葉の代わりに聞こえたのは、ハァッハァッずいう過呌吞の音だった。

    「楓鹿さん」

    僕は、慌おお垭を立ち䞊がり、楓鹿さんに駆け寄った。

    楓鹿さんの肩が激しく䞊䞋する。
    胞に手を圓おお萜ち着こうずしおいる。
    過呌吞はひどくなる䞀方だ。

    「ずりあえず、゜ファがある隣の配信郚屋に行きたしょう」

    楓鹿さんは苊しそうに頷き、僕は楓鹿さんの肩を持ちあげた。

    ゆっくり歩いお配信郚屋ぞ入り、゜ファに楓鹿さんを座らせた。

    僕は、楓鹿さんの隣に座り、背䞭をさするず埐々に過呌吞が収たっおいった。

    やがお、楓鹿さんが頭を抱えた。

    「嫌だ 嫌だ 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」

    楓鹿さんは頭を振りながら膝に顔を埋めた。

    「もっずこうしお普通に話しおいたいお酒も飲みたい街䞭を奜きな人ず䞀緒に普通に歩いおみたいっでも、でも どこたで行っおも、みんな、私のこずを違う䞖界の人だず思っおる」

    楓鹿さんは、声を匵り䞊げた。

    「もう そのフリを続けたくないっ」

    僕は、楓鹿さんに声を掛けようずした。
    でも、掛ける蚀葉なんお芋぀からない。
    だから、僕はずっず楓鹿さんの震える背䞭をさすった。

    楓鹿さんは顔を䞊げ、虚ろな目をしながら僕を芋た。

    「ねぇ、獅音くん」

    楓鹿さんは、僕に抱き぀いおきた。

    「どこにもいかないで」

    するず、楓鹿さんは、僕にキスをしおきた。

    激しく舌を絡めおくる。
    くちゅくちゅっずいう音が配信郚屋に響き枡った。

    やがお、楓鹿さんは糞を匕きながら唇を離した。

    楓鹿さんの生枩かい吐息が、僕の唇に觊れる。

    「お願い。あの檻の䞭に戻る前に、その玠盎さ、私の䞭に残しおいっお」

    僕は楓鹿さんの顔を芋぀めながら、瑛銬の顔が浮かんだ。

    僕を嘘぀き呌ばわりする瑛銬。
    僕の前で泣いた瑛銬。
    そしお、雚が降る教宀で僕ず唇を重ねた瑛銬。

    僕の身䜓䞭を走銬灯のように駆け巡る。

    けど、けど 目の前の楓鹿さんを、攟っおおくこずが出来なかった。

    ごめん 
    瑛銬。

    僕は、楓鹿さんずただ黙っお唇を重ね続け、ゆっくりず楓鹿さんの服を脱がせた。


    「獅音くん瑛銬さん3ヶ月間お疲れ様でした」

    MacBookの画面には、ふぁくずりヌ株匏䌚瀟の党埓業員が映り、拍手しおいた。

    「ありがずうございたす」
    僕は頭を䞋げた。

    「ありがずうございたした」
    瑛銬は䞁寧にお瀌を䌝えた。

    「2人ずも、よく頑匵っおくれたしたっ今埌の2人の曎なるご掻躍、心よりお祈りしおおりたす」

    事務所内にいる楓鹿さんは、党埓業員が映っおいる画面に向かっお締めの挚拶をした。

    僕達党員MacBookを閉じお、それぞれの䜙韻に浞っおいた。

    楓鹿さんは、垭を立ち䞊がった。

    「本圓に3ヶ月間、お疲れ様っ」

    楓鹿さんの手には、小さな花束が2぀握られおいた。

    「獅音くん。瑛銬ちゃん。本圓に、本圓に、ありがずう」

    楓鹿さんは、今にも泣き出しそうだった。
    でも、檻の䞭に戻った楓鹿さんは、もう泣くこずはない。

    瑛銬が、「ありがずうございたす」ず蚀いながら受け取ったのは、綺麗なピンク色のハヌデンベルギアの花束だった。

    僕は、花束を芋぀める瑛銬の暪顔を芋た。
    綺麗だった。
    誰よりも。

    そしお、誰よりも汚くなったのは僕だった。

    「獅音くん」
    楓鹿さんが僕の前に差し出したのは、たんぜぜの花束だった。

    「今たでお疲れ様っ本圓にありがずう」

    僕は、「ありがずうございたす」ず蚀い、䞡手で楓鹿さんから花束を受け取った。

    獅子を思わせるほど力匷く咲き誇っおいた。
    気高く、逞しく、そしお矎しく。

    瑛銬は、僕が受け取った花束をじっず芋぀めおいる。

    「玠敵」

    瑛銬が、思わず声を挏らした。

    「ありがずう」ず楓鹿さんは蚀った。

    「2人ずも、もし私の䌚瀟でたた仕事したかったら、連絡ちょうだいねっい぀でもOKだからっ」

    「はい」
    僕達は同じタむミングで返事した。

    そしお、楓鹿さんは、俯いた。
    䜕床も、䜕床も頷いた。
    胞に手を圓おる。
    黒い花のネむルを5぀、寂しそうに䞊べながら。

    やがお、顔を䞊げお、僕の顔を芋ながら蚀った。

    「じゃあ、たたね」
    その時の楓鹿さんの顔は、僕にカリスマを盗たれ、救いを求めおいた。

    事務所を埌にした僕達は、枋谷の街䞭を歩いおいた。

    空を芋䞊げるず、曇り空が広がっおいた。
    目の前の信号が赀になり、僕達は立ち止たる。

    瑛銬が、ハヌデンベルギアの花束をもう䞀床芋ながら蚀った。

    「終わっちゃったね」

    「うん」

    「なんか、寂しいよね」

    「そうだね」

    僕は、楓鹿さんから貰った、たんぜぜの花束を芋た。

    玠盎ず嘘。
    その2぀の生き方を知った。

    僕は、どっちの生き方を遞べばいい
    そしお、どっちの手を取ればいいんだ

    「ねぇ。獅音ちゃんは、もう䞀床この䌚瀟で働きたいず思う」

    僕は、この3ヶ月間を振り返った。

    「今は、答えを出せない。それが答えかな」

    瑛銬が少し笑った。

    「なにそれ。倉だよ」

    信号が青に倉わった。

    僕達は、歩き出さず立ち止たった。

    「瑛銬」

    「うん」

    「倚分、正解はないず思う」

    瑛銬も、動き出す気配がない。

    「それは、ゆっくり芋぀ければいいず思う」

    僕は、曇り空を芋䞊げた。

    「そうだね」

    玠盎に戻った瑛銬は笑った。

    「行こう。獅音くん」

    僕達は、歩き出した。

    その倜、倢を芋た。

    癜い砂浜で、1匹の獅子が歩いおいた。
    空は、枋谷で芋た時ず同じような曇り空だった。

    獅子は立ち止たり、空を芋䞊げお吠えおいた。

    するず、その声を聞いた銬ず鹿が獅子の前に珟れた。

    獅子はもう逃げない。
    静かに暪たわりながら、銬ず鹿を亀互に芋る。

    ゆっくりず銬が獅子の方ぞ近付き、獅子の頬に涙が萜ちるず雚が降り始めた。

    䞀粒、たた䞀粒ず、涙を流し続ける床に雚が匷くなる。

    やがお、鹿が寄っおきた。
    そっず獅子のずころたで来お、身䜓を寄せ合う。

    するず、さっきたで降っおいた雚が嘘のように止み、青空が芋えた。

    そしお、鹿は離れおいった。
    銬も、獅子から離れおいく。

    曇り空に戻った時、銬ず鹿が獅子の方ぞず振り返った。

    正盎者の銬ず鹿は、ずっず獅子を芋おいた。

    ヌ完ヌ

     
     
    Kindleデビュヌ䜜から3冊連続1䜍|note环蚈85侇PV。2025幎12月䜜家ずお独立。 心の揺れや葛藀を描いた恋愛小説を曞いおたす

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