
【創作童話】健太、チュールン王国に行く
健太は小学二年生。
夏休み、長野のおばさんの家に、ひとりで何日も泊まりに行くことになった。リンゴ畑の中にあるおばさんの家は、長い縁側とたたみの部屋がいくつもあって、古いけれど立派な家だ。
おばさんはおかあさんの妹で、家族でリンゴを作っている。おばさんの家には健太のおじいさんとおばあさんがいるけれど、この家にはもうひとり、よっぱらいのじいちゃんがいた。おばさんのおじいさんだから、健太のひいじいちゃんだ。

じいちゃんは、夕方が近くなると、毎日決まって縁側に座り、頭のてっぺんまで赤くして、コップでお酒を飲んでいる。健太が横を通ろうとすると、じいちゃんはギロリとにらんで、それからフォッフォッフォッと笑うのだ。怖くて健太は近寄れなかった。
「お酒さえ飲まなきゃ、まだまだ頼りになるのにね」
おばさんがそう言って、ため息をついて畑に出ていくのを、健太は何度か目撃した。
リンゴ畑に続く庭のはしっこには、大きな納屋がたっていた。いつも入口が閉まっていて、窓も高いところに小さいのがひとつあるだけだ。
(何が入ってるんだろう)
健太はずっと気になっていた。
それは、お昼ご飯を食べ終わり、いとこのトモくんが幼稚園のおとまり会に出かけたあとのことだった。
健太がラムネをかみながら庭でセミを探していると、突然納屋の入り口がガタリと開いて、よっぱらいのじいちゃんが出てきたのだ。
じいちゃんはなんだかごきげんで、フラアリ、フラアリ歩いていく。健太はゴクリとつばを飲みこんだ。
(じいちゃんが戸を閉め忘れてる! 中に入るなら今だ!)

うしろのカキの木の枝で、ミンミンゼミが鳴きだした。心臓がドキドキ鳴って爆発しそう。
その時だ。
「ねずみにかみ殺されるぞ!」
健太は飛び上がってふりかえった。じいちゃんがこっちをにらんで立っている。じいちゃんはフラアリもどってくると、ケンタの目の前で納屋の戸をガラガラと閉めた。
「じいちゃん、中に何が入ってるの?」
勇気をふりしぼり、健太はきいた。じいちゃんはニヤリと笑った。
「お宝だ」
そう言って、じいちゃんは鼻歌なんかを歌いながら、リンゴ畑に消えていった。
(お宝ってなんだろう・・・)
青い空に白いかべ。
健太はこぶしをギュッとにぎりしめた。
「よーし! 見つけてやるぞ」
健太は静かに戸を開けて、すばやく納屋に入りこんだ。中はひんやりとして、そのうえちょっとかび臭い。
暗やみに目がなれてくると、いろんなものが見えてきた。大きなバイクや冷蔵庫。古いタンスの上には、ガラスケースに入った人形がおいてあって、首をかしげて笑っている。かべを見ると、大きな刃がついた長い棒や、くさりのたれさがる鋭いカマがひっかけてあった。
健太は背中をゾクゾクさせた。まるで忍者の武器みたいだ。
つまずかないように気をつけて、ずっと奥に進んでいくと、どこからか、いいにおいがしてきた。柱の横に大きなビンがおいてある。健太は鼻をヒクヒクさせた。どうやらにおいのもとはそれらしい。
健太はビンに近づいて、ホットケーキくらいの大きさの丸いふたをひねってみた。固くしまってなかなか動かない。両手を使って思いっきり回し、健太はようやくふたを開けた。
「うおおお」
モワリと立ちのぼるフルーツみたいないい香り。
「おいしそう。なんかのジュースかなあ」
そおっと指をつっこんで、ちょぴりなめてみた。
「あまーい!」
トロトロでやさしい味がする! あんまりおいしくって、健太の頭はクラクラした。
「そうか! じいちゃんの言ってたお宝って、きっとこのことだ!」
棚の上に、小さなカップがおいてある。
「じいちゃん、悪いけどいただくぞ!」
健太はカップをビンの中につっこむと、お宝ジュースをいっぱいにすくって、一気にゴクゴク飲んでしまった。
「うーん、なんていいお味! 甘くてとってもフルーティー!」
健太はうっとりして座りこんだ。
「こんなおいしいもの、ひとりじめして飲んでるなんて、じいちゃん、やっぱり性格わるいなあ」
幸せいっぱいの健太が、もう一ぱいおかわりしようと立ち上がったその時だ。
「どうする? まだこどもだよ」
どこかで誰かがささやいた。健太は足もとを見て、ギョッとした。
ネズミがいる!

ネコみたいに大きい白いネズミと茶色のネズミが、並んで健太を見上げているのだ。
「ねえきみ、早くお逃げなさい!」
白ネズミがたしかに口を動かしているのを見て、健太はびっくり。カップをにぎったまますっかり固まってしまった。ネズミを見るのだって初めてなのに、人間の言葉までしゃべっている。
「そうだな。今日のところは見逃してやろう」
あたりをキョロキョロ見回しながら、今度は茶色ネズミが話し出す。
(うそだろう? いったいこれってどういうこと?)
ピーピピピピー!
突然、鋭い笛の音が、納屋の暗やみをひきさいた。思わず耳を押さえると
「こぉらー人間! 何をしているー!」
恐ろしいどなり声とともに、目の前に、熊みたいな巨大ネズミが現れたのだ。

「チュールン王国の第一の宝ルンルンスイを盗むとは、ふてえやつだ。生きて帰れると思うなよー」
耳までさけた大きな口から、長い牙がのぞいている。健太の体はカチンカチンに凍りついた。
「ご、ごめんなさい! 知らなかったんだよ」
「あやまっても、もう遅いわ。覚悟しろ!」
巨大ネズミは、鋭いつめを光らせて、健太にズンと近づいた。
「お待ちください!」
白ネズミが手を上げた。
「国王はこのところ、あまりお元気ではないようす。どうでし
ょう。この子を連れて行って、何かおもしろい事でもさせてみ
たら。殺すのはそれからでも遅くありません」
巨大ネズミはちょっと考えて「ふん。それもいいかもしれん」と鼻で笑うと、健太のえりくびをつかまえて、首から下げた笛を鳴らした。
ピーピピピピー!
「出発!」
健太はそのままズルズルと、納屋のすみまで引きずられていった。そこには健太がスッポリ入りそうな大きなつぼが置いてある。
巨大ネズミにいきなり抱えられ、健太はその中にふり落とされた。
「うわあー」
それは底なしのつぼだった!まっ暗な穴をすべり落ちる。まるで真夜中のジェットコースター。
「たすけてー!」
ようやく明かりが見えてきた。健太は穴からストンと飛び出して、地面にしりもちをついた。
「痛ててて・・・」
おしりをおさえて立ち上がると、そこは不思議なあなぐらの町だった。目の前には古ぼけたアーチがたっていて
《ようこそチュールン王国へ》と書いてある。
道の両わきには、色とりどりの大きなきのこが育っていた。かさの下のヒダヒダが、チカチカと赤や緑にあやしく光っている。
ずっと向こうに、岩の天井をぶち割って降りてくる、太い根っこが見えてきた。さきっぽは地面にズボッとささっている。
よく見ると、その根っこにはとびらがついていて、道はそこに続いていた。

巨大ネズミは根っこのとびらをドカッとあけると、中に健太をつき飛ばした。
「とっとと登れ!」
根っこの中はぽっかりと空っぽで、上からうす明りがもれてくる。どうやらあそこにも町があるらしい。
登れって言われたって、二階の屋根くらいはありそうだ。高いところの苦手な健太はブルブルと首を振った。
「ふん。それならそれでけっこうだ。おまえの命はここまでよ」
巨大ネズミは舌なめずりをして、ニタリと笑う。健太はあわてて根っこのかべに飛びついた。足がふるえてうまく力が入らない。おまけに根っこはツルツルすべる。すると、健太の手がニュルリと動くかたまりをつかんだ。おそるおそる手のひらを開いた健太は、おもわず悲鳴をあげた。
「ミミズだあー!」
一匹や二匹なら健太だって騒ぎやしない。だけど、今、健太の手のひらは、何十匹もからみあった、ミミズだんごをつかんでいる。
「うわあ!」
ミミズだんごを振り落として下を見ると、大口を開けた巨大ネズミの真っ暗なトンネルみたいなのどを、だんごがヌルリと落ちていく。足をすべらせたら最後、あっという間にやつの胃袋に直行だ。健太は必死ではい上がり、とうとう上の町の地面を踏んだ。
「ふん。よく登れたもんだ」
巨大ネズミはおもしろくなさそうに、鼻を鳴らした。
休むまもなく健太は歩かされ、今度は行く手に深い谷が現れた。丸太が一本、はるか向こうの崖っぷちまでかけてある。健太はひざをガクガクさせた。落ちたら絶対命はない。
巨大ネズミが命令する。
「とっとと進め」
行くしかない! 巨大ネズミに食べられるくらいなら、落ちて死んだほうがまだましだ。
健太は勇気をふりしぼり、丸太の上に一歩足を踏み出した。谷底からヒューヒュー風が吹き上げて、健太の体をグラグラゆらす。健太はおもわず下を見た。
深い深い谷底の、あちらこちらに散らばる白いかけら。
もしかすると、ここから落ちた、気の毒な人間の骨かもしれない!
とたんにクラクラ目が回り、健太はとうとう真ん中くらいでへたりこんでしまった。
「ぐわっはっは! この弱虫め。そんなやつは、とっとと落ちろ!」
巨大ネズミは腹をゆらして笑い、なんと、足で丸太をグラグラ動かしはじめた。
「うわー! やめてくれー!」
ガイコツなんかになりたくない!
健太は丸太にしがみつくと、いも虫みたいにはっていき、ようやく向こう側にたどり着いた。白ネズミと茶色ネズミが健太の背中をさすってくれた。
健太は後ろをふり向いた。巨大ネズミが丸太の上を、きどったステップで渡ってくる。

その時健太はひらめいた。
「おまえが落ちろ! お返しだ!」
健太はむんずと丸太をつかみ、グラグラと力いっぱい動かした。
「うおっとっと」
巨大ネズミはバランスをくずし、クルリと丸太から滑り落ちた。
「やったー!」と声を上げた瞬間、健太は死ぬほど後悔した。
太いしっぽでブラーリぶら下がる巨大ネズミ。
逆さまになりながら腕組みをして、目は、らんらんと怒りに赤く燃えている。
(しまった! あいつ、ねずみだった!)
その通り、巨大ネズミは四つの足でスルスル丸太をわたってきて、あっというまに健太の前に、二本足で立ち上がった。
「むわっはっは。ゆかいゆかい。人間ごときがおれさまにたてつこうとしやがるとはな。まったく甘く見られたもんだ」
巨大ネズミは大笑いして健太をにらむ。それから健太のむなぐらをつかみあげ、舌なめずりをして、毛むくじゃらの顔を近づけてきた。臭いよだれがタラリとたれさがる。健太はふるえあがって目をつむった。
(うわあ、だれか助けてー!)
「おまえほどおれさまを怒らせた人間は初めてだ。なあに、ごちそうは、待てば待つほどうまくなる。こりゃあ楽しみだわい」.
健太はヘトヘトで、もう泣き出したい気分だった。
(まいったなあ。納屋になんか入るんじゃなかった)
健太はガックリ肩を落とした。
(ぼく、これからどうなるんだろう。やっぱりあいつに食べられちゃうのかなあ)
黒い地下水の川をわたり、光るコケのトンネルをぬけて、いったいどのくらい歩いたのだろう。健太はとうとうチュールン王国の宮殿に着いた。
大岩をくりぬいて作られたらしい宮殿は、柱や床もピカピカで、なかなか立派なものだった。巨大ネズミは健太を大広間に連れて行くと、ピーピピピピー! と笛を吹いて、腰を深くかがめた。
「チュールン国王、おもしろいものを連れてまいりました。われらの宝ルンルンスイを飲みやがった大悪党でございます」
するとスルスルとカーテンが上がり、豪華なベッドに横たわる金色のネズミが現れたのだ。

「チュールン国王、バンザーイ!」
いつのまにか健太のうしろには、兵隊ネズミたちがズラリとそろい、いっせいに声を合わせてバンザイしている。
チュールン国王は、いかにもだるそうに起き上がると、健太をチラリと見て言った。
「ところでおまえ、踊りは踊れるか?」
「お、踊り? ええっと・・・」
急にそんなことをいわれたって、健太はおそろしくって動けない。
「では、歌は?」
「う、歌は、ええっと・・・」
チュールン国王は深いため息をつくと、悲しげに健太を見つめた。そして静かにこう告げたのだ。
「死刑にせよ」
「チュチュー! 死刑だ、死刑だ、チュケーにしろ!」
兵隊ネズミたちは歓声を上げて、口ぐちに叫ぶ。
ピーピピピピー!
巨大ネズミが迫ってきた。絶体絶命ってきっとこのことだ。
「おとうさん、おかあさん、さようなら!」
おもわず目を閉じたそのとき、健太はズボンのポケットに何か入っているのに気がついた。
(そうだ!)
健太がポケットからひっぱり出したもの、それは食べかけのラムネの袋。それも果汁入りのスペシャルなやつ!
「ま、待って! これを王様にあげるよ。すっごくおいしいぼくの・・・そう! 宝なんだ!」
健太が袋を高くかかげると、甘いラムネの香りが広間中にただよった。
ネズミたちの間にどよめきが起こる。巨大ネズミは健太の手からラムネをひったくって、チュールン国王の前に差し出した。
「ほお、これはめずらしい。だれか、あれを持て!」
すると奥の部屋から召し使いネズミが金のお盆になにかを乗せて、ありがたそうに運んできた。それはきれいな布に大事そうに包まれた、銀ぶちのメガネだった。
チュールン国王はすました顔をしてメガネをかけると、ラムネをしげしげと眺めてひと粒口に入れた。
「おおお! なんとすばらしき香り。甘くてすっぱい魔法の味よ! ルンルンスイに勝るとも劣らん」
チュールン国王はうっとりと目を閉じた。そして突然スックと立ち上がり、おごそかに言い放ったのだ。
「これを、チュールン王国第二の宝とする!」
「チュウウウー!」
ネズミたちはいっせいに拍手をしてよろこんだ。
それから大騒ぎで祭りが始まって、あっという間に宮殿の前に、いろんな屋台が出そろった。

コウロギ入りのたこ焼きじゃなくて、コウロギ焼き。ミミズの焼きそば、じゃなくて焼きミミズ。ドングリのボコボコ入った歯の折れそうなクレープ屋。
「新鮮、新鮮、トレタテだよ!」
声を張り上げるのは、ふとっちょのおばさんネズミだ。見ると、食べかけのおにぎりや、ハムのきれはし、かどのくだけたビスケットや、ケーキの生クリームがちょっぴりついたところなんかが、台の上にきれいに並んでいる。
ビンゴも大人気で、一等は高級レストランキッチン一泊つきのお食事券だ。
みこしがくりだし、子ネズミがひいてまわる。きれいに飾られたみこしだけど、なんだかちょっとおかしくないか? サンタクロースやトナカイがついていて、これじゃまるでクリスマスだ。みこしの中をのぞいてみたら、おもちゃのヒーロー仮面が座っていた。健太はおもわず吹き出した。
(あれはきっとトモくんの人形だ。おもちゃをすぐ失くすって、おばさん怒ってたけど、みんなネズミにとられてたんだ!)
とうとう音楽隊も加わって、とにかく祭りは最高潮。巨大ネズミはよっぱらって笛をピーピー吹きまくり、チュールン国王はお妃ネズミとダンスに夢中。どうやら健太のことなんて、すっかり忘れてしまったらしい。
その時だ。
「今のうちです! こちらにおいで。逃げるのです」
さっきの白ネズミがそばにきて、そっと健太にささやいた。白ネズミは岩のかげに走っていくと、手招きをして健太を呼んでいる。そこにはぽっかりと横穴があいていた。
「ここをまっすぐ登っていくと、納屋の裏手に出られます。さあ早くお行きなさい」
「ありがとう、白ネズミ!」
健太はすばやく横穴に飛び込んで、必死に上へ登っていった。
祭りの音がだんだん小さくなって、やがて聞こえなくなったころ、ようやく健太は地面からひょっこり顔を出した。
そこは本当に納屋の裏だった。
青空とまっ白なモクモクの入道雲。緑の実をいっぱいつけたリンゴ畑の木の下を、健太の髪をそっとゆらして、夏の風が渡っていった。
健太はうっすら目を開けた。いつのまにか部屋の中にいた。
おばさんが顔を出し「健ちゃん、起きたのね」と言って、グラスに入った水をくれた。
「リンゴ畑で寝てたんだって。じいちゃんが運んでくれたのよ」
「じいちゃんが?」
おばさんは顔をしかめてうなずいた。
「もうびっくりして、裏のクリニックの先生に来てもらったんだよ。眠ってるだけだって笑われたんだけど、おばさん心配したんだから。気分はどう?」
「平気だよ。まだちょっと眠いけど」
おばさんは大きなため息をついた。
「健太、もしかして納屋の中のウメ酒、飲んだりしてない? おばさん、ちゃんと言っとけばよかったわ」
「ウメシュー? うーん、ルンルンスイなら飲んだけど」
「ルンルンスイ?」
「おばさん、ぼくさ、巨大ネズミに捕まって、チュールン王国に連れて行かれたんだ!」
「チュールン王国? なに? 夢の話?」
「フォッフォッフォ!」
縁側からじいちゃんの笑い声が聞こえてくる。
「ゆ・夢・・・?」
おばさんは呆れた顔をして、笑いながら部屋を出ていった。
(なんだあ、みんな夢だったのか・・・)
健太はがっかりして布団にまた寝転んだ。
しばらくすると、縁側からよっぱらいのじいちゃんが入ってきた。いつものコップ酒と、ピンク色のカキ氷アイスを持っている。
健太はヒエッと緊張して、あわてて眠ったふりをした。
じいちゃんは、かまわずふとんの横にあぐらをかいて座りこんだ。そして、あいかわらずの赤い顔で健太をのぞきこむと、健太の耳元でこう言ったのだ。
「健太、なにをおいてきた?」
「え!」
健太はバチッと目をあけてじいちゃんを見た。じいちゃんの目は真剣だ。
「なにを渡して逃げてきた?」
健太は胸をドキドキさせながら、ズボンのポケットをさわってみた。ポケットは空っぽだ。
「ラ、ラムネ」
「フォッフォッフォ!」
じいちゃんがのけぞって笑った。
「そりゃあいいもん持っとったなあ。おれはちょっと前、銀ぶちのメガネを取られたよ。健太くらいの頃にはおもちゃの笛もな。ピーっとよく鳴るやつだった」
健太は目玉が飛び出しそうなくらい、じいちゃんを見つめた。じいちゃんは細い目をキラッと光らせて、ニヤリと笑う。
「じいちゃん!」
健太はおもわず飛び起きた。
「白ネズミは元気だったか?」
「うん。逃げ道を教えてくれたんだ」
じいちゃんはうれしそうに赤い顔で笑った。
「ネコに食われそうなのを、助けてやったことがある」
それからふたりで顔を見合わせて大笑いだ。健太はいっきに元気になった。
(だけど、ちょっとまてよ。よっぱらいのじいちゃんは、あそこを本当に渡れたのかなあ)
健太はちょっときいてみた。
「じいちゃん、丸太橋はこわくなかった?」
するとじいちゃんは
「なにを言うか! 根っこだってなんだってスルスルと軽いもんだ。これさえあればな」とコップ酒を持ち上げて、胸を張って答えたのだ。
(おおお!)
健太は感動した。
(じいちゃんは、ただのよっぱらいじゃなかったんだ。ぼくのじいちゃんは、最強のよっぱらいだ!)
「じいちゃん! 今度はいっしょに行ってみようよ」
すると、じいちゃんは急に怖い顔になり、健太をギロリとにらみつけた。
「健太、おまえはもう行けんよ」
「ええ? なんで?」
「ルンルンスイを飲んだだろ?」
健太はおそるおそる「うん」と答えた。じいちゃんはゆっくりうなずいた。
「だからあの国に行けたんだ。だがな、健太。子どもには、ルンルンスイは、本当は飲んじゃあならん魔法の水だ」
健太は驚いた。
「甘くてうまかっただろうよ。それがネズミどものワナなんだ。二度目で必ず眠っちまう。気がついたころには、まんまとやつらの腹の中というわけだ」
健太は巨大ネズミの顔を思い出し、ゾクっと震えてじいちゃんを見た。
「一度でも行けたんだ。おまえもおれも運がいい」
健太は大きくため息をついた。食べられるのは絶対いやだ。
(うーん、それなら・・・)
眉を寄せて考えて、突然健太はひらめいた!
「じゃあさ、じいちゃん! ぼくがおとなになったら一緒に行こうよ! いいものいっぱい持ってさ!」
フォッフォッフォ!
じいちゃんは大口を開けてまた笑った。
「しかたがねえ! 健太が大人になるまでがんばるとするか!」
縁側からフンワリ涼しい風が入ってきた。イチゴ味のカキ氷アイスが冷たくておいしい。
外はもううす暗く、リンゴ畑の向こうからカナカナゼミの大合唱が聞こえてきた。晩ごはんのいいにおい。健太のおなかがグーと鳴った。
じいちゃんの家には、きっとまだまだ秘密がある!
健太は胸をそっとワクワクさせた。健太が家に帰る日まで、まだ一週間もあるのだ。

おわり