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ウキ下は釣り人の決意表明である。

    ミチロー

    高木流ウキフカセ釣りテクニック教則書~1

    ✿はじめに

    《フリーランスのフィッシングライター兼エディター》というのが私が背負ってきた肩書です。釣り関連の原稿書き、釣り関連の書籍や雑誌の編集作業など、を出版社の社員にはならず、フリーランスの立場でかかわってきた40年でした。
    30代から50代にかけては新しい雑誌を起ち上げたり、出版社事務所や個人事務所に居候ながら文章を書いたり、取材を引き受けて磯や堤防の上でカメラを構えたり、あるいは自分で釣具とカメラをかついであちらこちらへ釣行しながら、釣りに関するエッセイ(釣行記)を書いて雑誌に掲載したり、出版社から依頼されてMOOK本の編集作業をしたり、自分の釣り本を書いて出版したりしていました。

    単行本にまとめた原稿は今も手許にありますが、雑誌に書いた原稿はほとんど手許にありません。昔は手書きであり、ワープロのプリントアウトが主流でした。ワープロ時代になってフロッピィに記録した原稿も、居候した事務所から事務所への引っ越しなどで行方不明。かろうじて手許にあったフロッピィも読み取りできなくなったまま、どこかへ消えてしまいました。
    雑誌本体が手許にある掲載文のいくつかはスキャンしたり、スキャンした画像から文字起こししたりしましたが、それはほんの一部にすぎません。確実に手許にあるのはパソコン時代になってから、データとして保存した比較的新しいものだけです。

    以前のように長期連載原稿をどこかが単行本にして出版してくれる時代ではなくなったので、このままだと時間の流れに埋もれてこの世から消えるだけだと思い、手許に残った分だけでもテーマごとに整理して公開しようと思い立った次第です。

    一口に釣りと言ってもたくさんのジャンルがありますが、私が深くかかわってきたのは「釣り目>陸釣り亜目>ウキ釣り科>ウキフカセ釣り属」のなかのクロダイ&メジナ釣り種、ということになるでしょうか。メインフィールドは堤防と磯で、かなりマニアックな釣りです。
    ポイントは自分で決め、仕掛けは自分で工夫して作り、コマセ(寄せ餌)も自分で配合を考えながら作って撒きます。目安はどこにもなく、だれも指示してくれません。眼前にひろがる千変万化するフィールドを自分の力で攻略しなければなりません。そんな自力勝負の世界に魅了されて40年以上もたってしまいました。
    釣行や取材のたびに試し見聞きした情報を元に試行錯誤しながら身につけた私なりの「ウキフカセ釣りテクニック」の一部を、教則本ならぬ「教則書」として公開します。これはあくまでも初心者から上級者までの練習や上達をサポートする教材みたいなものですから、自由に応用してください。
    ただ、元原稿のデータが見つかった順番に公開しますから、テーマの並びは順不同です。執筆当時と時代も違いますから加筆や修正を加えた箇所もあることをお断りしておきます。 (高木道郎)

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    青森県津軽半島で釣ったマダイのウキ下は3ヒロ半だった

    全遊動釣法や沈め探り釣りが流行して以来
    ともすれば古くさい言葉とされてきたのがウキ下だ。
    ウキ下というのはいわば釣り人側の意思であり
    魚は往々にして釣り人の意思には無関心である。
    ならば、ウキ下という押しつけは無意味なのだろうか。
    釣り人はある決意を以てウキ下を設定する。
    決意をうながすのは過去のウキ下による情報である。
    見えない海中の情報を集め、蓄積し、伝達する。
    それによって海中がイメージしやすい世界になる。
    古くて新しい「ウキ下」という概念について考えてみたい。



    ✿ウキ下の設定が推理と想像を緻密に

     磯に立つ。
     堤防に立つ。
     通いなれた場所であれ、初めての場所であれ、その日のタナは実際にクロダイが釣れるまではわからないが、通いなれた場所ならおおよその水深や海底の変化、ポイントになりそうなカケアガリや沈み根、海溝の位置などは頭にインプットされているはずだ。過去にクロダイを釣ったことがある場所なら、どんな状況であればどのあたりで食ってくるかという近未来予想図もある程度は描くことができるだろう。もちろん、最初に設定するウキ下も決まっているに違いない。

     たとえはじめて竿を出す場所であっても、釣り雑誌、釣具店、船長や釣友からの情報も参考にしつつ、周辺の地形、波の崩れ具合、海底の見え具合などをヒントにおおよその水深を推理するだろう。そのつぎにすべきはウキ下の設定である。ウキ下が決まらなければ、ウキの浮力やハリスの長さを決めることができないからだ。ウキ下は仕掛け作りに欠かすことのできないイメージだとも言える。

     私たちは平面的なポイント探しを視覚による観察を基本に行い、垂直方向へのタナ探りについては推理と想像によって行う。ポイントまでの距離や風や波の影響などは目で見て判断でき、それによってウキの自重やラインの太さなどをチョイスすることができる。それに比べて海中の様子というのは観察できる範囲が限られており、私たちは推理と想像によってクロダイがどの深さにいるかを予測するしかない。

     ただ、まったくゼロからの推理は効率が悪いので、探る深さをいくつかのパターンに絞り込む。「今日はどのウキ下からはじめようか」と悩むとき、釣り人の頭のなかにはいくつかのパターンが設定されているに違いない。底を釣るか、中層を探るか、表層を狙うか。季節や水温やその日の条件などからおおまかなウキ下を選ぶが、同時にそれはクロダイを浮かせて釣るか、底層近くを深く探るか、それとも幅広く探ってみるかという釣り方の選択でもある。

     ようするに、最初に設定するウキ下は、これからどういう釣りを展開するかという目安であり、宣言でもあるわけだ。同じ釣り場であってもウキ下の設定は釣り人によってそれぞれ違う。最初から底に照準を絞って釣りをはじめる人もいれば、浅く探ってクロダイを浮かせる釣りを展開する人もいる。それはクロダイという魚に対するイメージが影響しているからにほかならない。

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    秋田県男鹿半島ではクロダイが磯際に浮いてきたことも

    ✿好奇心と警戒心がリミッターを左右する


     クロダイは石を釣れ。昔の釣り人は先輩たちからそう教わった。この場合の石とは海中の障害物のことだが、石は海底にあるため、この言葉を「クロダイは底を釣れ」と読み替える釣り人もいる。たしかにクロダイは海底近くを、起伏をトレースするように泳ぎながらイソメ、カニやエビ、貝などを漁っているイメージが強い。

     ただ、私たちはクロダイが海面まで浮上してエサを補食することを知っている。群れで移動するときなどはハエ根やカケアガリに沿って浅く泳ぐことも知っている。水族館で見るクロダイは中層や表層近くをゆったり泳いでいて、ほとんど岩陰から離れようとしないメジナとは対照的である。コマセが入っていない状態ではクロダイの遊泳層のほうがメジナよりも浅いことが多く、堤防の際を探るヘチ釣りではイガイが付着する海面下1~2mあたりが最重要ポイントになる。

     クロダイのタナ(遊泳層)は釣り人がイメージしているよりもかなり浅いのだが、なんらかのリミッターが働いて、浅く浮かないことが多いのではないだろうか。そのリミッター(抑制装置)を作動させる要因はいろいろ考えられるが、一番大きな要因はクロダイという魚の警戒心の強さかもしれない。警戒心。危機察知能力。好奇心が強いくせに臆病な性格がクロダイのタナを左右するわけだ。好奇心がクロダイのタナを浅くするプラス要因なら、警戒心はクロダイのタナを深くするマイナス要因である。

     しかしながら、クロダイの動きは自然状況によっても左右される。リミッターをゆるめる要因がサラシであり、濁りであり、潮の動き、波の状態であり、太陽光線が射し込む角度、船のエンジン音である。釣り人が撒くコマセもクロダイのタナを決定づける要因だ。

     私が通いはじめた頃の秋田県男鹿半島ではサラシに乱舞するクロダイの姿がよく目撃され、コマセを撒くとサラシのなかがギラギラ光ったということさえある。ウキ下は2ヒロ。深くても3ヒロくらいだった。まるでメジナ釣りのような感覚である。初夏には磯際に発生する小さなサラシのなかでエサを補食する大型の銀鱗さえ目撃することがあり、これはウキを海面から持ち上げた状態で食わせることが多い。条件次第ではそんなウキ下で食ってくるのがクロダイという魚の不思議である。

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    大型ではないが遠矢うきの遠矢国利氏に現認してもらった釣果

    ✿コマセで底に集めてウキ下の悩み解消


     タナが一定しづらい魚なら、縦方向のアプローチスタイルを変えればいい。たとえば、速く団子状に沈む重く粘りのあるコマセでクロダイを底に集めてしまう、というアプローチ方法がある。コマセでポイントを作り、タナを底に固定してしまうそんな釣り方を編み出したのが遠矢うきでお馴染みの遠矢国利氏だ。

     これはまさにコロンブスの卵的な発想である。ポイント探しやタナ探りはウキフカセ釣りの醍醐味であるが、ときには煩わしい厄介な部分ともなる。ならば、集魚力の高いコマセの力でポイントを限定し、タナを固定すればいいわけだ。海底が比較的フラットな場所を選んで団子状のコマセを投入し続け、クロダイを集めてしまう。
     ポイントはコマセの着底周辺であり、その潮下であり、潮下側にあるわずかな段差や斜面や岩である。分かりやすい。釣り人はもうポイント探しに迷う必要はなくなる。名づけて「ポイント釣法」。

     私自身も遠矢釣法をコピーしていた時期があり、お陰でポイント選びへの悩みは減ったが、それ以上に助かったのがウキ下に迷わずに済むという点だった。ウキを使って水深を測り、その前後にウキ下を合わせればいいだけ。潮の流れが速ければ仕掛けが斜めになる分だけウキ下を長くするし、意識的にハリス部分を海底に這わせることもあったが、基本はウキ下を水深いっぱいの底に合わせればよかった。タナを上下させるプラス要因もマイナス要因もコマセの力で封じ込めてしまう。これほど分かりやすいウキ下の設定はないだろう。

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    私のオリジナル「沈めどんぐり」は沈めてタナを探るためのウキ

    ✿魚のタナは1匹1匹違う ならばウキ下は無意味?


     もうひとつの考え方がある。それはタナを固定しない、限定しないというスタイルだ。ウキ下でタナを固定したり、ウキ止めの移動で探ろうとするから複雑になる。だったらウキ止めを外し、ウキ下という概念を取り払えばいいではないか。

     なるほど、クロダイはいつも同じタナを横移動しているわけではないのだから、一匹のクロダイのタナにウキ下が合ったとしても、別のクロダイのタナには合わないかもしれないわけである。ならば、ウキ下を限定せずにフリーで付けエサを流し込んで、その都度、タナを探るようにすればいい。そのほうが効率的かもしれない。そういう発想から生まれた釣り方が遊動幅を限定しない全遊動釣法であり、すべてのタナ(層)を探る全層釣法であり、ウキそのものを沈めてタナを探る沈め探り釣法である。

     ウキ下を底に合わせる。ウキ下を設定しない。どちらも個性的な釣り方の宣言である。そういう個性的なウキ下に対する考え方から、海底のかずかな変化にも反応する感度優先の立ちウキ、ラインがスムーズにすり抜ける大口径リングのウキが開発された。ウキ止めの考え方も釣り方によって大きく異なる。

     立ちウキを使ったポイント釣法の場合、ウキ止めは潮によって刻々と変化する水深(=ウキ下)の記録係となり、ウキ下が狂うことを防止するズレ防止係となった。3つのウキ止めを使うのが、狭い範囲でタナを寸刻みで探っていくポイント釣法の基本である。逆にウキ下を限定する必要がなくなった全遊動釣法などでは、ウキ止めはウキ止めの役割を離れて単なる目印としての機能を持たされる。ようするに、探っているタナの目安である。

     それでは、ウキ止めを動かしながらタナを大きく探るこれまでのスタイルはもう古いのだろうか。個人的には、今もウキ下という概念が持つ役割は変わっていないと思う。

    ✿ウキ下で情報量を倍増 数値化され伝達も可能に


     私たちが相手にするのは意外性の魚である。ただ、まったくその動きが計算できないわけではないし、意外性のなかに一定の法則性を見いだして計算しながらターゲットにアプローチするのが、ウキフカセ釣りという遊びのおもしろさであり、それはクロダイ相手でも同じだろうと思っている。

     ウキ下という概念は、すでに書いたように、肉眼では見えない縦方向への推理軸と言える。タナという概念との違いは、タナがあくまでも海面からの垂直長であるのに対し、ウキ下は海面を漂うウキからハリまでの斜めになびく長さ、しかも途中で屈折した長さであるという点だ。屈折を産み出すのがガン玉を含むオモリや潮流である。したがって、ウキ下設定は単にクロダイのタナの推理だけではなく、サラシや潮流による流れの変化を推理する作業が必要になるわけだ。

     それだけではない。ウキ止めを上下に動かすのは、水温の変化、濁りの有無、エサ取りの種類や動きを読み取ったうえの決意だ。全遊動スタイルでは1投1投が別の次元の勝負となることが多く、それがメリットでもあるが、ウキ下を探り、限定しながら釣るスタイルでは前の1投が今に、今の1投がつぎにつながってくれる。ウキ下というソナー(海中探査装置)が情報をつなげる役目を果たすのである。

     その情報伝達というのはその日一日のことではなく、次回の釣行にもつながり、来年の釣行にも、再来年の釣行にもつながる。ウキ下にはデータを読み取り、データを積み重ねるという機能が備わっている。そういう視点から考えると、ウキ下を海底に固定してしまうと情報量が限定され、逆にウキ下を設定しないと情報そのものがつながらないことになるだろう。
     もちろん、極めればどちらの釣りも情報の読み取りや蓄積という作業はあるわけだが、それはウキ下という概念を通した作業ほど明確ではない。多分に感覚的、経験的な世界ではないかと思う。

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    韓国でのクロダイ釣りはいろいろ勉強になった

    ✿韓国の磯で体験したウキ下の重要性とは


     ウキ下という概念は長い釣りの歴史からすると新しい。昔はオモリと糸とハリだけで海中を探っていたわけで、海中の情報はすべて糸を持つ指の感覚に託されていた。それは言葉や数字にしづらく、経験を積むことで感覚的に覚えるしかないものだった。それを独特な言葉にして伝えた内容が「秘伝」と呼ばれた。

     ところが、ウキという道具が生まれると、ウキからハリまでの長さを変えて海中の情報を得ることが可能になった。それは言葉や数字に表しやすいものだった。つまり、ここでの乗っ込みクロダイは4ヒロのウキ下で食うことが多いとか、厳寒期は20mほど遠投して竿2本のウキ下で探るといいとか、仕掛けを立てるとか、仕掛けをふかすとか、そういった具体的な技もイメージしやすくなったのである。

     だいぶ以前の話になるが、日韓で同時発売されるフィッシングビデオ撮影のために韓国を訪れたことがある。釣り人は司会も兼ねた田中釣心さん、江頭弘則さん、それに私の3名。大きな期待を込めた初日がボウズに終わっての帰り際、韓国の釣り人が大型のクロダイをストリンガーにぶら下げて船に乗り込んできた。江頭さんがすかさず通訳を介してどのくらいのウキ下で釣ったのかを訊ねた。その答えがなんとジューゴヒロ。15ヒロ? 江頭さんと私は思わず顔を見合わせたが、私たちがその数字から受け取ったメッセージは「タナが深い」というものだった。

     翌日、江頭さんは11ヒロ、私は9ヒロにウキ下を設定して釣りをはじめたが、ほぼ同時に根掛かり。何かがおかしい…さんざん悩んだ末に通訳に確認すると、当時の韓国では全遊動が主体であり、おそらく15ヒロは釣り人個人のイメージだろうとのことだった。
     すぐに仕掛けを作り直して、今度は江頭さんが4ヒロ、私が3ヒロで探りはじめ、すぐに結果が出た。それからは(初めての釣り場ということもあって)ウキ下の数字をベースにしながら、3人で情報交換しつつそれぞれ自分なりのウキ下を探ったという想い出がある。このときほどウキ下という言葉や概念の重要性を認識したことはない。

     全遊動というスタイルでは深いか浅いかといったイメージでタナをとらえるしかなく、軽い仕掛けの場合は15ヒロも送り込んだというイメージだけが優先する。ところが、実際にはそれほど深いタナではなかったし、仕掛けもそんなに入っていなかったと思う。つまり、情報の伝達が成り立たなかったわけだ。

     最近は全遊動スタイルの釣りからウキフカセ釣りに入門したという釣り人も少なくないが、そんな釣り人の海のイメージというのはけっこう漠然としているのかもしれない。そこに、ウキ止めによって限定されたウキ下という古くて新しい概念を導入してみると、と海中のイメージがちょっとクリアになる気がする。

    ✿最後に~ウキ止めを結ぶ


     最初に設定するウキ下をたとえば3ヒロにするか、4ヒロにするかは釣り人の「決意」である。決意は何らかの情報によって支えられており、今日の決意は明日の決意を促す役割を果たすだろう。

     情報を正確に詳しく読み取り、数値化して蓄積し、釣友に、あるいは別の日の自分自身に伝達しやすくする。それがウキ下のもっとも重要な役割と言えるかもしれない。

     ウキ下限定の釣りを経験したことのない釣り人は、ぜひ一度、道糸にウキ止めを結んでみてほしい。何かが変わるはずだ。

      (この項目おわり)


     
     
     
    釣り好き・カメラ好き・異界好きのブンゲイ親父です。長年、フリーランスライター兼フィッシングライターとして仕事をしてきましたが、同時に小説や詩を同人誌などに発表してきました。これまでに書いたり関わった素材からいくつか拾い集め「人生拾遺集」をつくりたいと思っています。

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