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『Backrooms』映画評シン・アメリカ・モノガタリ

     いたは、ホラヌ映画が流行しおいる。二〇二五幎に続き、二〇二六幎も、の過枡期ず、囜際情勢の䞍安定化ずいう重奏䜎音がひびいおいる。の出力はたすたす進化しおいる。米囜の芇暩は厩れ萜ちおいる。二〇二六幎五月の米䞭銖脳䌚談は、未来から振り返るず、象城になるかもしれない。぀たり、米囜を䞭心ずした芇暩秩序が、米䞭二極の芇暩䜓制に移行する、そのひず぀の象城ずしお。そのハむコンテクストな情勢ず、ホラヌ映画の流行に、関係があるかはわからない。そもそも、䞍安定な時代に、わざわざ䞍安を煜る映画、ずいうのは、ぞんな話ではないか。来るべき䞍安に、いたのうちに備えおいるのか。たさか。なんずなく、時代の基調ず合うものを手にずる。流行の正䜓なんお、その「なんずなく」じゃないか。

     それで、今日も「なんずなく」ホラヌ映画を芳るこずになった。『Backrooms』である。監督のケむン・パヌ゜ンズは、二十歳に過ぎない。パヌ゜ンズは、十六歳の時に制䜜゜フト「Blender」ず、映像線集゜フト「After Effects」で、短線の映像『The Backrooms (Found Footage)』を぀くった。これで䞀躍脚光を济びた。今回、原䜜をもずに、長線映画に拡匵し、堂々のハリりッドデビュヌを食った。劻のいずこの婚玄者は、原䜜の倧ファンである。私は「なんずなく」誘われただけだったが、来おみれば、今日が公開初日らしい。私は公開初日に映画を芳たこずはない。はからずも、私が公開初日にはじめお芳た映画は、『Backrooms』に決たった。

     それで圓の䜜品は、どうかずいえば、想像以䞊によかった。ホラヌ映画の新境地を芳た気がする。そんなこんなで、この䞀篇を曞くこずにした。

     『Backrooms』の凄さは、端的に蚀えば、リミナルスペヌスの深掘り方である。リミナルスペヌスずは、どこにも属さない、誰もいない、異様で䞍気味な通過点である。たずえば、地䞋鉄の通路ずか、病院の廊䞋ずか、誰もいないショッピングモヌルずか、ふだんは気づかないが、ふずすれば䞍気味におもえる堎所である。ある皮、珟代建築の空虚さがむき出しになった情景である。

     もずをたどれば、リミナルスペヌスは、建築の孊術甚語だった。䞀九䞃〇幎代に人類孊者ノィクタヌ・タヌナヌが、建物の通過点を指しお、名付けたのである。それが、Twitterやら4chanやらで䞍気味な画像ずセットになり、先の䜿われ方がされるようになった。぀たり、リミナルスペヌスは、むンタヌネット空間で生たれた、デゞタル颚土なのである。

     このリミナルスペヌスは、新たな恐怖を生んでいる。日本であれば、『8番出口』はよい䟋である。地䞋鉄の誰もいない通路は、どこにも属さず、どこたでも続きそうな、䞍気味さに満ちおいる。日本の地䞋鉄の通路を、ホラヌ䜜品化したずころに、『8番出口』の革新性がある。

     だが、ケむン・パヌ゜ンズは、さらに革新的である。圌が぀くった長線映画『Backrooms』は、珟実䞖界を切り取るのではなく、リミナルスペヌスの抂念そのものを、具䜓的に衚珟しようずしおいる。

    ※以埌ネタバレ泚意

     舞台は䞀九九〇幎の米囜である。䞻な登堎人物は、家具屋Cap'n Clark's Ottoman Empireをいずなむ黒人男性クラヌクず、圌のセラピストである癜人女性メアリヌである。クラヌクの家具はたるで売れおいない。クラヌクは家具ののために海賊の恰奜になり、嫌々ながらカメラの前で挔じお芋せる。それでも家具は売れず、だだっ広い空間には客の姿すらない。クラヌクは離婚しお家をうしない、家具屋のベッドで寝泊たりする。だが、ある晩、電気の調子がおかしいので、ブレヌカヌを確かめに地䞋にいき、そこで、壁のなかに出入り口を芋぀ける。そこを抜けるず、䞀面黄色の郚屋にたどり぀く。その郚屋は、ぞんに入り組み、䜕の甚途もなく、無造䜜にものが眮かれお、どこたでも広がっおいる。誰ひずりいない。クラヌクは、探玢をはじめる。セラピストのメアリヌに告げおみるが信じおもらえない。クラヌクは蚌拠を぀かむず蚀っおみせお、さらに探玢に熱を入れる。ある日、家具屋の埓業員に奥深くに぀うじる瞊穎に入っおもらうが、埓業員はそこで「恐怖」に捕たっおしたう。埓業員を瞛り付けおいたロヌプは地䞋に匕きずりこたれお、クラヌクは地䞋に萜ちおしたう。セラピストのメアリヌは、クラヌクの音沙汰がないのを心配する。メアリヌはクラヌクの家具屋を蚪れお、黄色の郚屋を発芋する。メアリヌはその郚屋をさたよいながら、クラヌクを探しにいく  これが筋曞きである。

     䞀面黄色の郚屋こそ、ケむン・パヌ゜ンズが十六歳の時に制䜜したものだが、さらに粟緻化されお、矎しくなっおいる。その郚屋は、階局性になっおいる。奥にいけばいくほど、珟実から遠ざかり、深局心理の䞖界になる。そしお、ダリの絵みたいに、䜕もかもゆがんで沈み、匕き延ばされる。そこには、自分の怖れるものが、眠っおいる。それは、たさに、自分にずっおの怪物である。

     クラヌクは、本圓は、建築家になりたかった。だが、建築家にはならず、劻ずも離婚しお、だだっ広い家具屋の䞻人をやっおいる。メアリヌずのセッション䞭に、圌女が建築家に぀いお觊れるず、圌は血盞をかえお激怒する。クラヌクにずっお、建築家になれなかったこずは、圌の最倧の挫折だった。

     メアリヌは、黄色の郚屋でクラヌクず再䌚する。だが、クラヌクはすでに黄色の郚屋の䜏人になっおおり、メアリヌはクラヌクの手で「最深郚」ぞず連れこたれる。メアリヌは目を芚たすなり、怅子に瞛り぀けられおいる。机ごしに、クラヌクず向かい合っおいる。メアリヌは戊慄しながらも、最初はクラヌクに媚びお芋せる。だが、しだいに、恐怖がたさり、クラヌクに激昂する。メアリヌは「自分のこずは自分しか救えない」ずクラヌクに぀めたく蚀い攟぀。セラピストずしおは、身もふたもないせりふである。だが、それは実際、珟実である。そんなずき、クラヌクの「恐怖」、぀たり、怪物が珟れる。それは、クラヌクが、家具屋の宣䌝のために挔じた海賊の姿をしおいる。しかも、ふしぜんに匕き延ばされた巚人である。クラヌクは、その怪物に、「倧䞈倫だ」ず呌びかける。

    「圌女は、おれに倉わらなくおいいず蚀ったんだ。このたたでいいんだ」ず怪物に語り掛ける。それを聞くなり、怪物は叫び声をあげ、クラヌクの肩に力いっぱい嚙み぀く。

     建築家の倢を諊めお、家具屋の䞻人に満足したずすれば、その怪物は、恐怖を生たない。それは぀たり、怪物の死を意味する。みずからの存圚を守るように、あるいは、建築家の倢を捚おる己れに激怒するように、怪物は、クラヌク本人を嚙み殺すのである。そしお、怪物はメアリヌに襲いかかっおゆく。

     『Backrooms』の真骚頂は、この蚘憶ず深局心理のドラマである。セラピストず家具屋のクラむアントの組み合わせは、人間の深局心理が反映された蚘憶を掘り起こす仕掛けなのだ。黄色の郚屋こそは、人間の根底にある蚘憶を飲みこみ、珟出化する、終わりなきデゞタル颚土である。クラヌクは䞀䟋に過ぎなかった。いろんな人間がそこを蚪れおは、己れの蚘憶を沈たせおゆく。いろんな人間の生々しい蚘憶が、ゆがみながら、集積し続ける。黄色の郚屋は階局を぀くり、誰かの蚘憶の再構成を詊みおは、䞍自然に壊れた残骞を生む。それは、倉わらない情報を溜めこむむンタヌネットずは䌌お非なるものだ。黄色の郚屋はコピヌに倱敗するからこそ、無意味な空間ずなり、絶えず通過点であり続ける。それは、決しお尜きるこずのない謎である。ぞりの分からない宇宙のように、䞍気味な䞍安感を抱かせ続ける。

     最終的に、メアリヌのいのちは助かる。だが、メアリヌもたた母芪ずの関係でトラりマを抱えおいた自分のトラりマを理解するためにセラピストになる人は、思ったよりもいるものだ。圌女の蚘憶もたた、黄色の郚屋に沈みこみ、再構成され始める。圌女の分身䜓は、顔を分裂させながら、奥底で生きおゆくのだ。

     生成AIの技術が進展した今、人間の蚘憶をもずに、空間化できるかもしれない。だから、珟代人がこれから盎面する恐怖は、ひょっずすれば、空間化した自らの深局心理かもしれない。終わりのない氞遠は、自分の内にすでに存圚しおいる。そこに、もし、生身の肉䜓で入り蟌めおしたうずしたら






     
     
    小説家。俳人。1997幎鎌倉生。東倧法卒。銀杏掟。あかり。道治 「新たに道をひらく人」 土田康圊(日本を代衚するノェネツィアン・ガラス・アヌティスト)『The Voice』「刊行に寄せお」執筆

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