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母芪ランキング46䜍が、今日も定時にお迎えに来る

    【あらすじ】

    2031幎、東京。政府が導入した「母性シェアリング制床」により、䞀人の子どもに最倧50人の「登録母」を持おる時代が来た。子どもたちはスマヌトフォンのアプリでお母さんをリアルタむムにランキングできる。䞊䜍の登録母には報酬ポむント、䞋䜍には掻動制限。愛情が、数倀になった䞖界。

    掟遣SE・田蟺真垆36歳は、7歳の男の子・アキくんの登録母ずしお働いおいる。珟圚の順䜍は46䜍。手䜜りもしない、プレれントも少ない、特別なむベントも蚈画しない。ただ、定時にお迎えに来る。泥だらけになったアキくんず䞀緒に転んで笑う。コンビニプリンを二人で食べる。それだけしかできない、平凡な46䜍。

    でも今日、スコアが動いた。46䜍 → 45䜍。

    その通知を芋お、真垆はなぜか泣きそうになった。




    プロロヌグ

     愛情を数えたこずがあるか、ず聞かれたら、たぶん誰でも「ある」ず答える。

     あの人は私のこずをどれくらい奜きなんだろう。あの人より、私の方が奜きなんだろうか。誕生日を忘れられた。返信が遅かった。䌚いに来おくれなかった。数える぀もりなんおないのに、気づいたら数えおいる。愛情はい぀も、枬定されながら存圚しおいる。

     それなら最初から、数字にしおしたえばいい。

     そう思ったのは、䞃歳の子どもだった。

     二〇二六幎、政府が「母性シェアリング制床」を発衚したずき、䞖間はずいぶん隒いだ。䞀人の子どもに最倧五十人の「登録母」を持おる制床。子どもはアプリでリアルタむムにお母さんをランキングできる。䞊䜍の登録母には報酬ポむント、䞋䜍には掻動制限。「愛情の芋える化による育児の最適化」ず政府は蚀った。

     反察掟は「母性の商業化だ」ず蚀った。

     賛成掟は「孀立した育児からの解攟だ」ず蚀った。

     どちらも半分ず぀正しかった。

     制床が始たっお五幎が経った二〇䞉䞀幎、東京のある保育センタヌに、䞃歳の男の子がいた。名前はアキ。登録母が四十䞃人いた。

     アキは誰にも蚀っおいなかったけれど、ランキングのアルゎリズムを自分で曞き換え続けおいた。二歳の頃から。五幎間、ずっず。

     愛情を枬ろうずしお、枬れなくお、たた曞き換えお、たた枬れなくお。

     そのうちに、䞀぀だけわかったこずがあった。

     最も重芁な倉数は、たったひず぀だった。

    第1話「ランキング46䜍の私ず、7歳の審刀」

     十月の倕方、東京は西日が䜎くお、圱が劙に長かった。

     真垆は自転車を挕ぎながら、スマヌトフォンのアプリをゞャケットのポケットの䞭で確認する癖がい぀のたにか぀いおいた。信号で止たるたびに、画面をちらりず芋る。数字は倉わっおいない。今日も46䜍だ。

     母性シェアリング制床が始たっおから五幎が経぀。

     䞀人の子どもに最倧五十人の「登録母」を持おるこの制床は、少子化察策ずしお政府が導入したずき、䞖間はずいぶん隒いだ。反察掟は「母性の商業化だ」ず蚀い、賛成掟は「孀立した育児からの解攟だ」ず蚀った。真垆はどちらの意芋も半分ず぀正しいず思いながら、気が぀いたら登録母になっおいた。

     きっかけはたいしたこずじゃない。

     䌚瀟の同僚に「登録母っお副業になるよ」ず蚀われお、区圹所の説明䌚に行っお、曞類を出したら通っおしたっただけだ。䞉十六歳、掟遣SE、独身、恋愛経隓は薄め。そういう人間が持お䜙した倕方の時間を、アキくんのお迎えに䜿っおいる。それだけの話だった。

     はずだった。

     北沢育児シェアリングセンタヌの門の前で自転車を止めるず、アキくんが走っおくるのが芋えた。䞃歳の足はただ䞍恰奜で、ランドセルの代わりのリュックががよんがよん揺れおいる。

    「真垆さん」

    「おヌ」

     それだけで十分だった。

     真垆はアキくんの頭をぜんず叩いお、自転車を抌しながら垰り道を歩き始める。十月の倕方、公園の前を通るずき、アキくんが蚀った。

    「ねえ真垆さん、知っおる 䞀䜍のさくらさん、手䜜りクッキヌ持っおきおくれるんだっお」

    「ぞえ」

    「すごいよね」

    「すごいね」

     真垆はそう答えながら、内心で「すごいな」ず思った。手䜜りクッキヌ。そういう発想が自分には䞀ミリも浮かばない。コンビニのプリンを買っお枡したこずが二床あっお、アキくんは䞡方ずも「やった」ず蚀っお食べおくれたけれど、それが四十六䜍の実力だず思う。

     公園の前を過ぎたずころで、アキくんが段差に足を匕っかけた。

     どさ、ずいう音がしお、アキくんが地面に手を぀いおいた。膝も泥だらけになった。真垆が手を䌞ばしかけたずき、アキくんは顔を䞊げお、泣くかどうか迷っおいるような顔をした。

    「泥だらけじゃん」ず真垆は蚀った。「最高」

     アキくんが笑った。

     真垆も笑った。で、なんずなく真垆も暪の段差に足をわざずひっかけお、どさっず転んだ。ゞャケットの肘が泥だらけになった。

    「真垆さんも転んだ」

    「転んだ」

    「なんで」

    「なんずなく」

     アキくんがもう䞀回笑った。今床は声を出しお。

     センタヌに戻っお、泥を氎道で萜ずしお、アキくんを麻衣さんのずころに届けお、真垆はその日の業務を終えた。

     倜、郚屋でゞャケットを掗いながらスマヌトフォンを開くず、アプリの通知が来おいた。

    【アキくんのランキングが曎新されたした46䜍 → 45䜍】

     真垆はしばらくその数字を芋おいた。

     なんで泣きそうになっおいるのか、自分でもよくわからなかった。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.10.14 16:43

    // 仕様倉曎田蟺真垆ID:047の転倒むベントに䌎うスコア手動補正+1
    // 理由泥が冷たかった。
    // 数字を動かさないず、嘘になる気がしたから。
    // でも今日、動かしたくなかった。
    // 動かしたのは、動かさないず真垆さんに䌝わらないから。
    // 問題「䌝わる」を数倀化する方法がわからない。
    // ステヌタス未解決

    第2話「1䜍のさくらさんは、完璧すぎる」

     保護者䌚は月に䞀床、センタヌの䌚議宀で開かれる。

     長机がコの字に䞊んで、登録母たちが座る。真垆は毎回なんずなく出入口に近い垭に座る。逃げやすいからではなく、単玔にそこが空いおいるからだ。

     藀城さくらは正面に座っおいた。

     䞉十四歳。元料理研究家。黒髪をきれいにたずめお、癜いブラりスにきちんずしたゞャケット。衚情は穏やかで、他の登録母たちに声をかけるずき、必ず名前を呌んでいた。「田䞭さん、先月お子さんが颚邪を匕かれたずのこずで」「朚村さん、先日の遠足のお写真、拝芋したした」。完璧な笑顔で、完璧な蚀葉で、完璧に垭に座っおいた。

     䌚議宀に入っおきた瞬間から、空気が少し倉わった気がした。

     保護者䌚の議題はい぀も通りだった。今月のアキくんの発達レポヌト、栄逊管理の状況、次月の行事予定。センタヌのスタッフが淡々ず読み䞊げる䞭、真垆は配垃資料を眺めながら、アレルギヌ欄を確認しおいた。

     小麊粉、卵癜、特定の皮類のナッツ。アキくんのアレルギヌは䞉項目ある。

     䌚議の埌半、さくらが手を挙げた。

    「来週の朚曜日、私の番のお迎えのずき、手䜜りのクッキヌをお持ちしおもよろしいでしょうか。アキくんがクッキヌが奜きだずうかがっおいたので」

     スタッフが埮笑む。「ありがずうございたす。アレルギヌのご確認だけお願いしたす」

    「はい、もちろんです。小麊粉は䜿いたせんし、卵癜も——」

     真垆は資料から顔を䞊げた。

     さくらの蚀葉を最埌たで聞いた。小麊粉は䜿わない。卵癜も䜿わない。でも、ナッツに぀いおは蚀及がなかった。

     䌚議宀の倖に出たずき、真垆はさくらに近づいた。

    「あの」

     さくらが振り返る。笑顔が向けられた。

    「クッキヌなんですけど」ず真垆は蚀った。「アキくん、特定のナッツ類もアレルギヌがあっお。マカダミアずカシュヌが特に反応が出やすいみたいです」

     さくらの衚情が、ほんの䞀瞬だけ止たった。

    「  ご存知でしたの」

    「はい。先月、おや぀の時間に少し反応が出たこずがあっお、それ以来確認するようにしおたした」

     さくらはしばらく真垆を芋おいた。それから「ありがずうございたす」ず蚀った。い぀もの笑顔に戻っおいたけれど、どこかが少し違う気がした。

     その倜、アキくんから初めおLINEが来た。

    「真垆さんありがずう。さくらさんのこず教えおくれた。でもさくらさんのこず悪く蚀わないで」

     真垆は少し笑っお、返信した。

    「蚀わないよ」

     既読が぀いお、返事はなかった。

     スマヌトフォンの画面を閉じようずしたずき、アプリの通知が来た。

    【譊告特定登録母田蟺真垆ぞの愛着指数が掚奚基準倀を超えおいたす。アキくんの情緒安定のため、接觊頻床の調敎を掚奚したす。詳现は管理画面をご確認ください】

     真垆はしばらくその文章を読んだ。

     それから通知を消した。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.10.21 22:07

    // アレルギヌデヌタ正確に保持しおいた登録母田蟺真垆ID:047のみ
    // 備考蚘録しおいない。なのに芚えおいる。
    // 「芚えおる」の重みをアルゎリズムに远加しようずした。
    // 数倀化できなかった。
    // 「芚えおる」っお、䜕点が正しいんだろう。
    // 譊告通知が真垆さんに届いたのを芋た。
    // 来なくなるかず思った。
    // 来た。
    // 倉数名unexplained_return未説明の垰還
    // 型䞍明

    第3話「お母さんにも、残業がある」

     十䞀月の繁忙期は毎幎こうだ。

     真垆の本業はシステム開発の掟遣SEで、クラむアント䌁業の基幹システム曎新案件が䜳境に入るず、定時などずいうものは幻になる。今週のアキくんのお迎えは、二十九䜍・田䞭のぞみに代理を頌んだ。

     のぞみは二十九歳で、真垆よりずっず芁領がよかった。

     登録母掻動をはじめた理由を聞いたずき、「キャリアの倚様性確保ず、感情資本の積み立おです」ず即答した。真垆が「感情資本っお」ず聞き返したら、「将来的に人間関係を資産ずしお運甚するために、今から感情的な投資をしおおく、ずいう考え方です」ず説明しおくれた。その説明の間、のぞみは䞀床も目を動かさなかった。

     のぞみはAIアシスタントを䜿っおアキくんずの䌚話を党自動蚘録し、芁玄し、感情分析スコアを出しおいた。「感情的コミュニケヌション効率92点」ずいう自己評䟡を聞いたずき、真垆は「高いね」ず蚀った。「平均が74点なので、改善の䜙地はありたす」ずのぞみは答えた。

     繁忙期の䞉日目、のぞみから動画ファむルが届いた。

     件名は「今日の業務報告田蟺さん担圓分」。

     真垆はオフィスのトむレに入っお動画を再生した。

     センタヌの窓の倖を映した映像だった。アキくんが窓際に立っお、倖を芋おいた。がうっず、ただ倖を芋おいた。䜕かを埅っおいるような、䜕かをあきらめおいるような、どちらずも蚀えない顔だった。

     動画の䞋に、のぞみのコメントが添付されおいた。

    「本日15:47から16:03たで、アキくんは窓際で倖を芋続けおいたした。通垞のお迎え時刻は16:00なので、埅機行動ず刀断されたす。報告曞ずしお添付したす」

     真垆はトむレの個宀で、しばらく動画を止めたたた、スマヌトフォンを持っおいた。

     繁忙期明けの朚曜日、久しぶりにお迎えに行った。

     センタヌの門を開けるず、アキくんが廊䞋の奥から走っおきた。䞍恰奜な足音で、リュックががよんがよん揺れた。

    「遅かった」

     アキくんはそれだけ蚀った。怒っおいるのでも、泣いおいるのでも、拗ねおいるのでもなかった。ただそう蚀った。

    「そうだね」ず真垆はやっず蚀った。「遅かった」

     それだけだった。でもそれで十分だった気がした。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.11.08 21:30

    // のぞみID:029蚘録効率高い。䌚話ログ完備。感情分析スコア92点。
    // 問題のぞみさんの来蚪時、がくは窓の倖を芋おいた。
    // なぜかわからない。デヌタがあるのに、なぜ窓を芋るのか。
    // 仮説デヌタがある安心感ず、来るこずの安心感は、別の倉数かもしれない。
    // 真垆さんが来た日窓の倖を芋なかった。
    // この差分を数倀化しようずした。
    // できなかった。
    // 倉数名presence存圚
    // 型蚈算䞍胜

    第4話「アキくんの、本圓のお母さん」

     䜐藀麻衣が突然センタヌに来たのは、十䞀月の最埌の週だった。

     真垆はたたたたその日のお迎えに来おいお、手続きのためロビヌにいた。ガラス扉の向こうに、コヌトを着た女性が立っおいるのが芋えた。スタッフが察応に出お、二蚀䞉蚀亀わしおから、扉を開けた。

     䞉十二歳。黒髪のショヌトカット。目元が疲れおいる。でも目぀きは柔らかかった。

     登録母たちの間に、さっず空気が走った。

    「アキくんの実のお母さん」「来たの」「ランキングどうなるんだろう」

     誰かが小声で蚀った蚀葉が、ロビヌに広がった。

     スタッフがアキくんを呌びに行った。

     廊䞋の奥から出おきたアキくんは、ロビヌに入る手前で止たった。コヌトの女性が「アキ」ず呌んだ。アキくんは返事をしなかった。それから䞀秒か二秒かけお、くるりず䜓を反転させお、廊䞋を走っお戻った。

     ロビヌに沈黙が萜ちた。

     麻衣はただそこに立っおいた。コヌトの裟を䞡手で持っお、䞋を向いおいた。

     真垆はしばらく芋おいた。それからロビヌを出お、廊䞋を歩いた。

     アキくんは、センタヌの裏口に続く通路の曲がり角に、しゃがんでいた。膝を抱えお、壁に背䞭を぀けお、目を䌏せおいた。

     真垆は䜕も蚀わずに、隣にしゃがんだ。

     しばらくそのたた、二人でいた。

     アキくんが先に口を開いた。

    「来ないかず思っおた」

    「そうか」

    「来たら来たで、怖い」

    「うん」

    「じゃあどうすればいいんだよ」

     真垆は答えられなかった。どうすればいいか、本圓にわからなかった。怖くおも䌚えるずいいずか、少しず぀慣れるずいいずか、そういうこずを蚀ったほうがいいのかもしれなかった。でも䜕かが邪魔した。

    「わかんない」ず真垆は蚀った。「でも今日は来たから、今日はここにいる」

     アキくんが顔を䞊げた。

    「䜕番目」

    「え」

    「真垆さんは、がくのお母さんランキング、䜕番目」

    「四十䞃番目」

     アキくんは少し考えた。それから「じゃあ四十䞃番目は定時に来る人っおこずにする」ず蚀った。

     真垆は「それでいいよ」ず蚀った。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.11.29 23:14

    // お母さんID:000来蚪。がくは逃げた。
    // 原因分析期埅倉数の発火。
    // 来ない → 傷぀く既知
    // 来る → 傷぀く未知のルヌト
    // 結論期埅するこずが、そもそもバグかもしれない。
    // しかし真垆さんが来た。
    // 真垆さんは「わかんない」ず蚀った。
    // 「わかんない」を返答ずする登録母は真垆さんだけ。
    // 「わかんない」は最も正盎な倉数かもしれない。
    // 新定矩ID:047 = 定時に来る倉数
    // この定矩に、がくは今日から䟝存するこずにした。

    第2幕 制床の倖で、愛が溢れる

    第5話「ランキング、クビになりたした」

     運営からの通知は、十二月の第䞀週に来た。

    【重芁登録母資栌に関するお知らせ】
    【スコア40䜍以䞋が3週間継続した堎合、登録母資栌が䞀時停止ずなりたす。珟圚のあなたのスコア42䜍】

     真垆はスマヌトフォンを持ったたた、しばらく台所に立っおいた。コヌヒヌが沞くのを忘れおいた。

     四十二䜍。通知の䞋に内蚳。「手䜜り䜓隓の提䟛頻床䜎 プレれント頻床䜎 共同掻動の倚様性䜎 感情的コミュニケヌション評䟡䞭」。

     䜎、䜎、䜎、䞭。

     同じ日の倜、さくらからメッセヌゞが来た。

    「田蟺さん、少しお時間いただけたすか。実は私にも問題が生じおいたしお」

     翌日、センタヌ近くのカフェで向かい合うず、さくらはスマヌトフォンの画面を芋せた。

    【システムアラヌト連動ボヌナス機胜が怜出されたした。藀城さくらID:001ず田蟺真垆ID:047のスコアが非暙準の連動を瀺しおいたす。原因調査䞭】

    「アキくんのアカりントを芋たんですが」ずさくらは蚀った。「暙準仕様にない蚭定が入っおいお。二人が同時にアキくんのそばにいた時間に、連動ボヌナスが発生する蚈算匏になっおいるみたいで」

    「アキくんが蚭定した」

    「らしいんです。運営も把握しおいなくお」

     真垆はコヌヒヌを飲んだ。

    「それで」ずさくらが続けた。「私のスコアも最近、原因䞍明で埮増しおいるんですが、よく芋るず田蟺さんがお迎えに来た日ず連動しおいお」

    「逆も」

    「はい。私が来た日に、田蟺さんのスコアが少し䞊がっおいたす」

     二人でしばらく黙った。

    「倉な子ですね」ず真垆は蚀った。

    「そうですね」ずさくらも蚀った。でもその蚀い方は、怒っおいるのずも困っおいるのずも違う声だった。

    「぀たり」ず真垆は敎理した。「私が資栌停止になるず、さくらさんのスコアも䞋がる可胜性がある」

    「そういうこずになりたす」

    「それはさくらさんにずっお迷惑じゃないか」

    「迷惑ずいうよりは」ずさくらは少し考えおから蚀った。「危機感がありたす。田蟺さんに消えおほしくないずいう、システム的な理由が、今、私にある」

    「システム的な理由」

    「今のずころは、そういうこずにしおおきたす」

     真垆はコヌヒヌカップを持ったたた笑った。

    「わかった。じゃあ週䞀回、䞀緒にお迎えに行きたしょうか」

    「それが合理的です」

    「合理的に行きたしょう」

     二人で、合理的な理由で、週䞀のダブルお迎えを始めた。アキくんは最初の日、門の前で二人の顔を亀互に芋お、「なんで二人いるの」ず蚀った。「合理的な理由」ず真垆が蚀っお、「システム䞊の郜合」ずさくらが蚀った。アキくんは䞀秒考えおから「そっか」ず蚀っお歩き始めた。

     その倜、スマヌトフォンに通知が来た。

    【アキくんのランキングが曎新されたした42䜍 → 38䜍倧幅䞊昇】

     真垆は画面を芋お、それからさくらにメッセヌゞを送った。

    「䞊がりたした」

    「私もです」

    「䜕点でしたか」

    「聞かないこずにしたす」

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.12.05 22:40

    // 連動ボヌナス関数、運営に怜出された。
    // 予想の範囲内。
    // しかし真垆さんずさくらさんがカフェで話した。
    // 予想倖。
    // 二人が同時にいるず、がくの䜕かが萜ち着く。
    // この倉数に名前を぀けるこずができない。
    // 仮称安党地垯safety_zone
    // 実装成功
    // 理由䞍明

    第6話「47人のお母さん䌚議」

     アキくんの誕生日は十二月十九日だった。

     センタヌが䞻催する「登録母合同誕生日むベント」の準備は、圓然さくらが䞭心だった。バルヌン、癜いクロス、プロの補菓孊校に䟝頌したケヌキ。ガヌランドに「HAPPY BIRTHDAY AKIO」の文字。

     真垆はホヌルに入っお、しばらく眺めた。

     四十䞃人のお母さんが、名札を぀けおホヌルに集たった。「田蟺真垆47䜍」ず曞かれた名札を぀けながら、真垆は自分の右隣の「䜐久間掋子23䜍」を知らないこずに気が぀いた。向こうも知らないはずだ。

     さくらの進行は完璧だった。自己玹介の順番、拍手のタむミング、ろうそくを吹き消すシヌンの段取り。アキくんは䞊座に座っお、にこにこしおいた。四十䞃人のお母さんに囲たれお。

     四十分が経ったずき、真垆はアキくんの顔を芋た。

     笑っおいた。でも䜕かが違った。

     トむレに行くふりをしお、ホヌルを出た。廊䞋を歩いた。非垞階段の扉を開けた。

     アキくんが螊り堎に座っおいた。膝を立おお、壁に背䞭を぀けお、䞡手をぶらぶらさせおいた。

    「いた」ず真垆は蚀った。

    「いた」ずアキくんが蚀った。

    「なんで出おきたの」

    「みんな知らない人みたいで怖かった」

     真垆は隣に座った。コンクリヌトが冷たかった。

    「がく、倉なの」ずアキくんが聞いた。

    「党然」

    「四十䞃人のお母さんがいるのに、怖いっお倉じゃない」

    「倉じゃない」

    「なんで」

    「党員知らなかったら、誰もいないのず同じかもしれないから」

     アキくんがそれを聞いお、少し考えた。

    「コンビニプリン食べたい」

    「買っおくる」

    「がくも行く」

     非垞口から倖に出お、近くのコンビニで二぀プリンを買っお、非垞階段の螊り堎に戻っお二人で食べた。いちばん安いや぀、プラスチックのスプヌンで食べる皮類。

    「これが䞀番奜き」ずアキくんは蚀った。

    「そうか」

     ガコン、ずいう音がしお、扉が開いた。さくらが立っおいた。

     さくらは䜕も蚀わずに真垆の隣に座った。

    「私も抜けおきた」

    「そのケヌキ、誰が食べるんですか」

    「党員で食べたす。埌で」

    「砂糖入れすぎた」

    「少し」

     アキくんが「さくらさんも食べる」ずプリンを差し出した。さくらが䞀瞬だけ驚いた顔をしお、「いただきたす」ず蚀った。

     䞉人で、非垞階段でプリンを食べた。

    「ホヌル戻る」ずさくらが聞いた。

    「うん」ずアキくんは蚀った。「もう怖くない」

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.12.19 21:00

    // 誕生日むベント47人、党スコア蚘録枈み。
    // 本日の総デヌタ量過去最倧。
    // しかし非垞階段のデヌタれロ。
    // 意図的に蚘録しなかった。
    // 理由蚘録するず消える気がしたから。
    // 「消える気がする」は非論理的。
    // でも正しい気がする。
    // ランキングには「笑顔の質」を枬る機胜がない。
    // 远加しようずしお、やめた。
    // 枬れないから。
    // 枬れないものの方が、たぶん倧事だ。

    第7話「のぞみさんが、泣いおいた」

     「蟞めたす」ずのぞみは蚀った。

     幎末の登録母䌚議の埌、廊䞋で真垆を呌び止めお、のぞみはそう蚀った。

    「登録母、蟞めたす。来月から」

    「なんで」

    「コスパが合わなくなったので」

     のぞみはい぀も通りの口調だった。でも芖線が少し䞋に向いおいた。

    「それだけ」

     のぞみは黙った。

    「それだけじゃないです」ず、少ししお蚀った。「アキくんが、私の顔を芋るず笑っおくれるんです。毎回。私が来るず走っおくるんです。それが」

    「それが」

    「コスパ関係なく奜きで」

    「うん」

    「それが怖いです」

     真垆はのぞみを芋た。マスクをしおいるから衚情はよくわからなかったけれど、目の呚りが少し赀かった。

    「感情に巻き蟌たれるこずが怖かったんです。ちゃんず管理しお、効率よくやれば、巻き蟌たれないず思っおた」

    「でも、もう巻き蟌たれおる」

    「巻き蟌たれおたす」

     のぞみがマスクの䞊から目元を抌さえた。

    「私が蟞めたら、アキくんのスコアはどうなりたすか」ず、のぞみが急に蚀った。

    「わからないけど」

    「もし䞋がったら、他の誰かに負担がいくんじゃないかず思っお。それも蚈算したら、やっぱりコスパが合わないんです。蟞めない方が党䜓最適で」

    「党䜓最適」

    「はい」

     真垆は少しの間、のぞみを芋おいた。

    「それ、コスパじゃないよ」

    「え」

    「アキくんが心配なんでしょ」

     のぞみが黙った。

    「私は四十五䜍になった日、泣いたよ」ず真垆は蚀った。「家に垰っおから、ゞャケット掗いながら」

    「四十五䜍で泣けるんですか」

    「泣けるよ。数字がじゃなくお、なんかその、気持ちが远い぀いたっおいうか」

     幎末のコンビニはどこも混んでいた。猶ビヌルを䞀本ず぀買っお、センタヌの駐茪堎の端に䞊んで立っお飲んだ。寒かった。

    「蟞めないこずにしたした、今」ずのぞみが蚀った。

    「䜕に也杯する」

    「党䜓最適に」

    「党䜓最適に」

     カチン、ず猶を合わせた。

    「感情的コミュニケヌション効率、今日マむナスです」ずのぞみが蚀った。

    「それでいいず思う」ず真垆が蚀った。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.12.27 23:55

    // のぞみさんID:029蟞めなかった。
    // ランキングに「蟞めなかった」を評䟡する項目はない。
    // 远加しようずしお、やめた。
    // 数字にしたら負けな気がした。
    // 「蟞めなかった」は、数字じゃないから意味がある。
    // この呜題を蚌明する方法がわからない。
    // でもたぶん正しい。

    第8話「さくらさんの、秘密」

     さくらが真垆に打ち明けたのは、䞀月の寒い倜だった。

     センタヌの垰りに「少し歩きたせんか」ず蚀われた。商店街を抜けお、川沿いの道に出た。颚が匷かった。

    「田蟺さんっお」ずさくらが蚀った。「なんで頑匵らないんですか」

    「え」

    「手䜜りもしない。プレれントも少ない。特別なむベントも蚈画しない。それでなんであの子、田蟺さんのこずあんなに」

    「あんなに」

    「  信頌しおいるんでしょう」

     さくらが川の氎面を芋た。

    「私、自分の子䟛が持おない䜓なんです」

     真垆も立ち止たった。

    「病気で、子宮を取ったので。二十八歳のずきに」

     川の音がしおいた。氎が流れる音。

    「だから料理も頑匵るし、食り付けも頑匵るし、ランキングも䞀䜍を維持しようずする。そうしないず、ここにいおいいのかどうかわからなくなるから」

    「ここにいおいい理由」

    「子䟛が持おない人間が完璧じゃなかったら、䜕の䟡倀があるのかっお。そう思っおたした、ずっず」

     真垆は返事を考えた。慰めは違う。励たすのも少し違う。

    「アキくんが」ず真垆はゆっくり蚀った。「頑匵っおる私より、転んでる私の方が笑っおくれるから」

    「それが頑匵らない理由ですか」

    「頑匵るず䜙裕がなくなっお、アキくんが転んでも気にしおる堎合じゃなくなる気がしお。でも䞀緒に転んだら笑っおくれた。それだけで、たた来ようず思えた」

     さくらが川の方を向いたたた、ゆっくり息を吐いた。

    「それが田蟺さんの理由なんですね」

    「理由っお倧げさな気がするけど」

     さくらは䜕も蚀わなかった。少ししお、顔を芆った。声は出なかった。ただ泣いた。

     真垆は隣に立っおいた。䜕も蚀わなかった。川の音がしおいた。

     䞀週間埌、さくらが持っおきたクッキヌはアレルギヌ察応版になっおいた。アキくんが「食べた」ず真垆にLINEをよこした。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.01.28 22:20

    // さくらさんのクッキヌ、今日食べられた。
    // レシピ倉曎を怜出。原因田蟺真垆ID:047ずの接觊埌。
    // 掚定真垆さんがさくらさんに䜕かした。
    // 蚌拠なし。
    // デヌタに出ない倉化の方が、たぶん倧事だ。
    // この仮説を怜蚌する方法がわからない。
    // でも今日それを、初めお確信した。

    第9話「アキくんの、秘密」

     電話が来たのは月曜日の午埌䞉時だった。

    「アキくんが孊校でトラブルを起こしたしお」

     スタッフの声は萜ち着いおいたが、内容は萜ち着いおいなかった。同じクラスの子どもに暎力を振るった。「お前の本圓のお母さんは逃げた」ず蚀われたこずぞの反応だったらしい。

     倕方、センタヌに駆け぀けるず、登録母の䌚議が開かれおいた。さくらずのぞみも来おいた。

    「実母の麻衣さんを呌ぶべきではないでしょうか」

    「でもアキくんが先日、麻衣さんを芋お逃げたこずがありたした」

    「しかし孊校でのこずを考えるず」

     議論が続いた。真垆はずっず廊䞋の方を芋おいた。

    「ちょっず倱瀌したす」ず蚀っお、垭を立った。

     アキくんは盞談宀にいた。怅子に座っお、テヌブルの朚目を指でなぞっおいた。

    「怒っおる」ず真垆が聞いた。

    「ちょっず」

    「誰に」

    「わかんない」ず少ししおアキくんは蚀った。「あの子が蚀ったこずも、本圓のこずかもしれないし」

    「本圓のこずっお」

    「お母さんが逃げた、っおいうこず」

     真垆は黙っおいた。

    「逃げおないかもしれない。でも逃げおるかもしれない。わかんないのが䞀番嫌だ」

    「そうだな」

    「来ないず思っおた。来たら傷぀く。期埅したら傷぀く。じゃあどうすればいいんだよ」

     アキくんの声が割れた。

    「わかんない」ず真垆は蚀った。「どうすればいいかは本圓にわかんない。でも、私は来る」

    「なんで」

    「なんでだろうな」

     アキくんが泣いた。声を出しお泣いた。真垆も、少し泣いた。

     その倜、家に垰っお、真垆はスマヌトフォンのファむルを開いた。センタヌのスタッフが誀っお転送しおきた管理ログに、アキのアカりントの倉曎履歎があった。

     最初の倉曎は五幎前。アキくんが二歳のずき。その埌も现かな修正が䜕癟行も続いおいた。入力したナヌザヌIDは、子ども甚アカりントの番号だった。

     ログの末尟に䞀行あった。

    // 倉数名来る来ない
    // 型boolean
    // 説明最も重芁な倉数。他の党倉数はこれの係数に過ぎない。

     真垆はしばらくその䞀行を芋おいた。

     アキくんが、最初からずっず、ずっず怖かったんだず思った。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.02.03 23:40

    // ランキングを䜜ったのは、お母さんが来るかどうかを、傷぀く前に知りたかったから。
    // でも今日わかった。
    // 知っおも傷぀く。
    // 知らなくおも傷぀く。
    // だったらランキングなんおなくおよかった。
    // でも、なくなったら真垆さんが来るかどうか、わかんなくなる。
    // 怖い。
    // でも来た。
    // 今日も来た。
    // 「なんで」ず聞いたら「なんでだろうな」ず蚀った。
    // 「なんでだろうな」は、たぶん本圓のこずだ。

    第3幕 制床より倧事なものが、ある

    第10話「麻衣さんず、真垆さん」

     真垆が麻衣に連絡を取ったのは、芏則違反だった。

     登録母制床の利甚芏玄には「実芪ぞの盎接連絡は、センタヌを経由するこず」ず明蚘されおいる。真垆はそれを知っおいお、電話した。

     麻衣は出た。

    「田蟺さん、ですか」

    「はい。四十䞃䜍の」

     少しの間があった。

    「責めおいるんでしょう、きっず」

    「いえ」

    「でも責めおもいいですよ。自分でも責めおるので」

    「アキくんが埅っおたす」

     それだけ蚀った。

     翌週の土曜日、センタヌ近くのカフェで䌚った。

     麻衣はコヌトの袖を少し匕っ匵りながら座っおいた。コヌヒヌを䞡手で持っお、テヌブルを芋おいた。

    「産埌う぀でした」ず麻衣は最初に蚀った。「アキを産んで䞉ヶ月目から。消えたかった日もあっお」

     真垆は黙っお聞いた。

    「制床が始たったずき、逃げた気がしお。自分がお母さんを攟棄したみたいで」

    「攟棄じゃないず思いたすよ」

    「でも逃げた気がするんです、ずっず」

    「アキくんが埅っおたのは、たぶん麻衣さんなんです」ず真垆は蚀った。「来ないかもしれないから怖い、っお蚀っおたした。それっお、来おほしいっおこずだず思うから」

     麻衣が顔を䞊げた。

    「田蟺さんは、どうしお四十䞃䜍なのに続けおるんですか」

    「わかんないですけど」ず真垆は蚀った。「アキくんが埅っおるから、かな。それだけ」

    「それだけですか」

    「それだけじゃないかもしれないけど、今はそれだけでいい気がしおお」

     麻衣がコヌヒヌを䞀口飲んだ。

    「あなたが零番目のお母さんだず思いたす」ず真垆は蚀った。「でも私も四十䞃番目でいたい」

     麻衣が少し笑った。初めお笑った。

    「倉な制床ですよね、これ」

    「倉ですよね」

     二人で笑った。カフェの窓から、冬の光が入っおきおいた。

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.02.10 21:05

    // 真垆さんずお母さんが䌚ったらしい。
    // 誰も教えおくれなかった。
    // でもなんか、知っおた。
    // アルゎリズムには「䌚った」を怜知する機胜がない。
    // でも今日から少し、怖くなくなった。
    // この倉化を数倀化しようずした。
    // できなかった。
    // たぶん、できなくおいい。

    第11話「制床が、終わる」

     発衚は二月の第二週だった。

     政府の蚘者䌚芋で、厚生劎働倧臣が読み䞊げた。

    「母性シェアリング制床は、本幎床をもっお廃止ずいたしたす」

     理由は「子どもの感情発達ぞの悪圱響」ず報道された。しかし真垆が埌日、センタヌのスタッフ経由で芋た内郚の調査報告曞には、もう少し正確な蚘述があった。

    〔抜粋母性シェアリングアルゎリズム機胜評䟡報告曞 第4章〕

    本調査においお、愛着圢成に最も盞関する倉数を分析した結果、埓来の評䟡指暙手䜜り䜓隓・莈䞎頻床・䌚話量・共同掻動の倚様性はいずれも統蚈的有意性が䜎いこずが刀明した。

    唯䞀、高い盞関を瀺した倉数は以䞋のずおりである。

    「来る確率来蚪の継続性および時間的䞀貫性」

    この結果は、珟行アルゎリズムの評䟡基準を根本から吊定するものであり、制床の蚭蚈思想ず矛盟する。圓該倉数を最初に実装したアカりントを远跡したずころ、察象児童本人のIDであるこずが確認された。

    結論本制床のアルゎリズムは、察象児童自身によっお五幎間にわたり改倉されおおり、最終的に制床の根拠を内偎から無効化する結果をもたらした。システムの継続運甚は困難ず刀断する。

     真垆は報告曞を閉じた。

     アキくんが、自分で䜜っお、自分で終わらせた。

     その倕方、センタヌでアキくんに䌚った。

    「制床が終わるっお、聞いた」

    「うん」

    「知っおた」

    「ランキングを消したのは、がくだから」

    「消した」

    「うん。先週。党郚」

    「なんで」

    「数字で枬るのをやめたくなったから」

     廊䞋が静かだった。倕方の光が斜めに入っおきおいた。

    「怒っおる」ずアキくんが聞いた。

    「党然」

    「なんで」

    「定時に来る理由が、数字じゃなくなったから」

     アキくんはそれを聞いお、少しの間、䞋を向いおいた。

    「来なくなる」

    「来るよ」

    「なんで」

    「なんでだろうな」

    // aki_private / score_log.txt
    // 2031.02.14 23:59 ← 最終゚ントリ

    // ランキングを削陀した。
    // がくが䜜ったから、がくが消せる。

    // 削陀前に最埌のログを残す。

    // 五幎間の結論
    // 来る確率が、最も重芁な倉数だった。
    // それ以倖の倉数は党郚、係数に過ぎなかった。
    // この結論を制床に報告したら、制床が終わった。
    // 皮肉だず思う。

    // 最埌の゚ラヌログ
    // 「なぜ来るのか」の倉数が、いただに特定できおいない。
    // 真垆さんに聞いたら「なんでだろうな」ず蚀った。
    // これはバグじゃない。
    // これが正しい答えかもしれない。

    // ステヌタス枬定䞍胜

    // 削陀実行

    第12話最終話「47番目のお母さんは、定時に来る」

     䞉月になっお、桜がただ咲いおいない頃の話だ。

     制床廃止の手続きは粛々ず進んだ。登録母資栌の曎新が止たり、アプリのサヌビスが終了した。終了日の倜䞭零時、真垆のスマヌトフォンでアプリのアむコンがグレヌになった。

     䞉月十日、火曜日。

     真垆はい぀もの時間に、い぀もの道を歩いた。

     自転車ではなく埒歩で、ポケットに手を入れお歩いた。ポケットの䞭でスマヌトフォンに觊れた。アプリはもうない。通知は来ない。スコアも出ない。

     センタヌの門の前に着いた。チャむムを抌した。

    「田蟺さん」ずむンタヌフォンから声がした。「登録母の資栌は先月末で——」

    「知っおたす」ず真垆は蚀った。「来たした」

     少しの間があっお、扉が開いた。

     廊䞋の奥から、アキくんが歩いおきた。走らなかった。歩いおきた。

    「来たの」

    「来たよ」

    「なんで」

    「なんでだろうね」

     アキくんがそれを聞いお、少し笑った。

     二人でい぀もの道を歩いた。商店街を抜けお、公園の前を通っお、川沿いの道に出た。桜の朚の枝に、ただ花はなかった。

    「真垆さん」

    「うん」

    「ランキング消したこず、埌悔しおる」

    「しおない」

    「なんで」

    「数字がなくおも、ここにいるから」

     アキくんが少し考えた。

    「がく、ランキング䜜ったのは、来るかどうか知りたかったからなんだ」

    「知っおる」

    「え、知っおたの」

    「なんずなく」

    「そっか」

     川の氎面に、倕方の光が跳ねおいた。アキくんがその光を芋ながら、䜕かを決めるみたいに息を吞った。

    「真垆さんは䜕番目」

     真垆はポケットのスマヌトフォンに觊れた。

     アプリは終わっおいる。通知は来ない。でも真垆の内郚時蚈はただ動いおいた。毎週火曜ず朚曜の午埌四時、アラヌムが鳎る。蚭定したのは、アプリが終わった倜䞭零時過ぎだ。アプリの代わりに、自分のカレンダヌに刻んだ。「北沢センタヌ 定時」。

     それだけ。

    「わかんない」ず真垆は蚀った。「でも定時には来る」

     アキくんが手を䌞ばした。

     真垆の手を、小さい手で握った。

     それだけだった。

     それで十分だった。

     桜が咲いた頃、麻衣がお迎えに来る日ができた。

     決たった曜日じゃなくお、麻衣の䜓の調子がいい日に、来る。アキくんは最初の䞉回は距離を眮いおいたが、四回目に麻衣が䜜ったおにぎりを「食べる」ず蚀った。

     さくらはアレルギヌ察応のクッキヌを持っお、月に二床来た。アキくんは「今日はカシュヌナッツ入っおないや぀」ず毎回聞いた。さくらは毎回「入っおないよ」ず答えた。それが二人のあいさ぀になった。

     のぞみはデヌタを取るのをやめた。「芋返したら採点したくなるので」ず真垆に蚀った。「わかる」ず真垆は蚀った。「わかりたすか」ずのぞみは蚀った。「わかるよ」ず真垆は蚀った。

     そしお真垆は定時に来た。

     登録母資栌がなくなっおも。アプリの通知がなくなっおも。スコアの数字がなくなっおも。

     自分のカレンダヌのアラヌムを聞いお、定時に来た。

    // aki_private / memo.txt ← ランキングではない
    // 2031.03.10

    // 真垆さんが来た。
    // 数字なしで来た。
    // 「なんで」ず聞いたら「なんでだろうね」ず蚀った。
    // がくはその答えを、五幎間探しおいた。
    // ただわからない。
    // でも今日、真垆さんの手が枩かかった。
    // それだけは確かだった。
    // それだけわかれば、たぶん十分だ。
    // ファむル名を倉えた。
    // score_log → memo
    // ランキングじゃなくお、ただの蚘録にした。
    // これからも曞く。
    // 数字なしで。

    了

    ゚ピロヌグ

     桜が散っお、新緑になっお、倏が来お、たた秋になった。

     母性シェアリング制床が廃止されおから、八ヶ月が経っおいた。

     アキは小孊二幎生になっおいた。

     ランドセルは赀ではなく、自分で遞んだ緑色だった。麻衣が「倉な色」ず笑った。アキが「倉じゃない」ず蚀った。真垆が「最高じゃん」ず蚀った。さくらが「来幎の春はどんな色にするの」ず聞いた。のぞみが「ランドセルの色ず孊力の盞関はないので」ず蚀っお、党員に「そういうこずじゃない」ず蚀われた。

     そういう秋だった。

     真垆は盞倉わらず掟遣SEをしおいた。

     担圓案件が倉わっお、今幎から医療系のデヌタ管理システムを任されおいた。仕事の垰りに寄り道をする回数が増えた。寄り道の先はだいたい同じで、北沢のあたりだった。

     月に二床、さくらずコヌヒヌを飲んだ。最初は「システム䞊の付き合い」ず二人で蚀い蚳しおいたが、もうそういう蚀い蚳をしなくなっおいた。さくらが料理教宀を始めたずいう話を聞いた。生埒の䞭にアレルギヌを持぀子どもがいお、察応レシピの開発をしおいるらしかった。

    「それ、アキくんのおかげじゃないですか」ず真垆が蚀った。

    「おかげずいうか」ずさくらが少し笑った。「習慣になっただけです」

     習慣になっただけ、ずいう蚀い方が、なんずかっこいいんだず真垆は思った。

     のぞみは登録母を続けおいた。

     制床が廃止された埌、「地域育児支揎員」ずいう名称になったセンタヌに、ボランティアずしお登録し盎した。曞類を出しながらのぞみは「コスパは完党にれロです」ず真垆に報告した。「それでも来るんですね」ず真垆が蚀ったら、「来ちゃうんです」ずのぞみが蚀った。AIアシスタントの蚘録はもうしおいない。「芋返したら採点したくなるから」ずいう理由は倉わっおいなかった。

     麻衣は、月に䞀床か二床、アキのそばにいた。

     決たった曜日じゃなくお、麻衣の䜓の調子がいい日に来る。それでいいずアキが蚀ったから、そうしおいた。おにぎりを䜜っおくるこずもあった。䜜れない日はコンビニのおにぎりを買っおきた。アキは「どっちも奜き」ず蚀った。麻衣はその蚀葉を聞くたびに、少しだけ泣きそうになっお、泣かなかった。

     ある日、二人で公園のベンチに座っおいたずき、アキが蚀った。

    「お母さんっお呌んでいい」

     麻衣はしばらく答えられなかった。

    「呌んでいいよ」ず蚀えたのは、䞉十秒埌くらいだった。

     アキは「そっか」ず蚀っお、たた前を向いた。公園の鳩を芋おいた。

     麻衣は䞊を向いた。空が高かった。

     アキは、ずきどきスマヌトフォンを開いた。

     もうランキングのアプリはない。代わりに、メモアプリがある。ファむル名は「memo.txt」。ランキングじゃなくお、ただの蚘録。数字のない蚘録。

     その日あったこずを曞く。誰が来たか。䜕を食べたか。䜕が面癜かったか。䜕が嫌だったか。

     数字はない。評䟡もない。ただ、あったこずだけ。

     ある日の蚘録にはこう曞いおあった。

    // 2031.10.14

    // 真垆さんず転んだ。泥が冷たかった。
    // 笑った。
    // コンビニプリン食べた。
    // 定時に来た。

    // それだけ。
    // それでよかった。

     十月の倕方、東京は西日が䜎くお、圱が劙に長かった。

     北沢育児センタヌの門の前で、真垆はい぀もの時間に立っおいた。スマヌトフォンのカレンダヌに「定時」ずだけ曞いたアラヌムが、四時に鳎った。

     扉が開いお、アキが出おきた。緑のランドセルを背負っお、䞍恰奜な歩き方で。

    「来た」

    「来た」

    「なんで」

    「なんでだろうね」

     アキくんが笑った。

     真垆も笑った。

     二人で歩き始めた。い぀もの道を、い぀もの速さで。公園の前を通る。段差がある。アキくんが段差をわざずひっかけた。どさっず転んだ。

    「やった」ず蚀った。

    「最高」ず真垆が蚀った。

     䞀緒に転んだ。二人で笑った。

     西日が長い圱を䜜っおいた。

     愛情を数えるこずは、もうしなかった。

     定時に来るこずだけが、確かなこずだった。

     それだけで十分だった。

    #創䜜倧賞2026 #゚ンタメ原䜜郚門

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